仙界門攻防戦争!~後編~
聞仲率いる軍と仙界の戦争
勝ち残るはどちらか?
仙界と人間界の戦争。
カミシニの能力を持つ人智を超えた者達の覇権をかけた戦闘が繰り広げられていた。
仙界の軍師である太白金星が決め手として使ったのが金剛魔王と呼ばれる巨人兵であったが、新生殷国軍の全権を任された総大将である聞仲の登場により戦況は覆されたかに思われた。
そこに太白金星すら予測出来ない自軍の最終兵器が現れた。
金剛魔王の残骸に腰掛ける玉面乙女なる娘に、聞仲は嘗て感じた嫌な気配と類似していて警戒する。
「あの邪悪の根源であった妲己と似た気配。だが別者。何故、あの娘から感じるのか?」
「妾は玉面乙女。お前から王たる資質を感じるぞ?妾はお前が欲しい」
「ふん!感じるにお前は妖仙か?この俺の前に現れた事は命を落とす理由としては申し分なかろう」
「なら降りて来て話そうか」
すると聞仲はその手に握られた金鞭を振るい打ち込むと、玉面乙女の身体が無数の打撃に細切れになってしまった。
「ぬぅ?」
しかし聞仲は手応えの無さに違和感を抱くと、目の前に血球が集まって来て形を再構成して玉面乙女が復活した。
「手癖の悪い奴め」
「!!」
それは再生力?とは異なる。
玉面乙女は聞仲の金鞭がその身に触れる前に身体を液状にして分離し、直接攻撃を受けずに躱したのだ。
「奇っ怪な!しかし、お前のその瞳!やはり妲己と同じ忌眼か!!」
「忌眼の以前の初心者の事など知らないわ。それに私こそ真の忌眼所持者なのだから」
「その瞳は災いを招く!決して生かして置くわけにはいかん!」
聞仲は金鞭を振り上げ、強烈な打撃を振り下ろす。
「砂埃が舞うだけよ。無駄よ無駄!妾には攻撃は通用しないのよ。そしてお前のような強き力を持つ仙血者を捕食すれば妾は更に高みを見られるのよ」
玉面乙女の身体から発汗するかのように血が噴き出して足下から広がっていく。
「良かろう。この聞仲が直接お前を始末してやろう。黒麒麟、待っていよ!」
すると乗騎していた黒麒麟から飛び降りた聞仲の身体から鮮血の雷が放電する。
「雷血を纏うこの俺には何者も近寄る事は出来ぬ」
「あら?奇遇ね?妾にもお前は指一つ触れる事は叶わないわ。オホホホ」
二人の第五仙血の戦いに、戦場は荒れ狂い、他の者達も近寄せずにいた。
「次元が違い過ぎる」
二人の存在に畏怖する呂洞賓は、隣で身体を震わせていた鍾離権の異変に気付く。
「ど、どうしたのだ?鍾離権」
「お、俺の身体が変だ!身体が、うわぁあああ!」
呂洞賓の隣にいた鍾離権の身体が宙に浮き、今、まさに渦中の真ん中へと強い力で引き込まれていったのだ。
「俺の手を掴めぇー!」
「うわぁああああ!」
一体、何が?
すると聞仲が先に踏み込み飛び込もうとした時、玉面乙女はニヤリと笑いながら答える。
「お前の相手は妾ではないわ。あの者が相手になろう」
「なぬ?」
すると背後から鍾離権が二人の間に吸い込まれるように引き寄せられ、そして聞仲の前に落下した。
「ぐぅぅ、お、俺は?ここは?」
見上げた先に聞仲が自分を見下ろしていた。
その圧倒的な存在感に恐怖で動けずにいると、
「お前は八仙の鍾離権か?剣技に長けた神仙と耳にしたが、無粋な。この俺の邪魔をするなら先に始末する」
「お、俺は」
自らの意思とは関係なく呼び寄せられ、意味が分からないまま殺される?
「お前は妾の代わりに手足となって聞仲と戦うために呼んだのよ」
「何だと?」
その時、鍾離権は胸を貫かれて血流が速まり鼓動が異常に高鳴る。
同時に激痛と悪寒、押し寄せる恐怖が身を焦がしたのだ。
「うがぁあ、あぁあああ!!」
身体が膨れ上がり、充血する瞳。
そして牙が剥き出しになった鍾離権は聞仲を睨みつけると、その手から噴き出す血が剣へと代わり握られた。
「せ、せい、王ぼ、サマのために、お、オマエ、斬る!ウガァアア!」
飛び出すと同時に振り下ろされた斬撃は聞仲の金鞭を弾き返して大地を両断しながら戦場を割ったのだ。その力は正に第四?第五仙血の持つ力と同等の威力を持ち兼ねていた。
しかし同時にそれは・・・
「愚かな。命を削り、一時的に力を引き上げたに過ぎぬ。その命、いつまで保つかな」
聞仲は金鞭に雷撃を乗せて振るい攻め込むと、暴走した鍾離権は剣で鞭の軌道を躱して弾き返し、間合いに飛び込む。
「がぁあああああああ!」
間合いからの一閃を紙一重で躱した聞仲は金鞭を超高速に振るい、鍾離権の身体が無残にも切り裂かれた。
「何よ?もう少し頑張りなさい」
玉面乙女は更に濃厚なカミシニの血を鍾離権の遺体に注ぎ込むと、分断した身体が引き寄せられて元通りになる。
そして更なる強さを湧き出させて立ち上がり再び聞仲に斬りかかる。
その動きはもう異常!
踏み込む力が強過ぎて足の筋や健が切れたにもかかわらず、再生と共に振り払う剣が異様な変形しながら聞仲の身体に初めて傷を負わす。
「ぐぅうう!」
その勇ましいとは言い難い戦いぶりを見ていた呂洞賓は放心状態でいた。
友であり、師でもあった鍾離権の見ていられない豹変ぶり。剣術とは言い難い力任せの異形な剣には、哀れで涙が溢れる。
何のために磨いた腕なのか?
こんな戦い方は鍾離権の意ではない。
「あぁああ!止めてくれ!鍾離権が死んでしまう。剣士として刺し違えるのは覚悟であっても、あのような戦い方で死ぬのは鍾離権の望む死ではない!止めてくれ」
しかし聞仲と豹変した鍾離権の攻防から発する間合いに入り込めば、ひとたまりもない。徐々に広がる間合いに戦っていた者達も戦いの手を止めて後退しながら距離を取っていく。
「妲己と似たあの女!戦士の命を道具として使ったか!武士の情けだ。鍾離権、まともな状態でお前の剣と戦ってみたかったぞ!今、楽にしてやろう」
聞仲の金鞭が伸びて剣へと変化すると、その神速の如き一閃で間合いに入り込み、斬り伏せた。
鍾離権の身体は斬られた箇所から崩壊して消滅していく。
「あら?アレではもう使い物にはならないわ。オホホホ」
すると玉面乙女はその場から一瞬で移動して、西王母と太白金星の真横に現れると何も言わずに自分の部屋に戻っていく。その姿に西王母も太白金星も何も言えずに黙って見ていた。
同時に聞仲の一撃が天地を分けるほどの地震を起こし爆風が起きたのだ。
「逃したか」
しかし勝利した聞仲も手負いだった。
その場に崩れるように倒れると、黒麒麟が人型へと姿を変えて抱き抱える。
「我が主。むちゃしすぎです。お休みください」
そして戦場から離脱すると、同時に聞仲の軍は戦争を止め引き返して行く。
これにて人間界と仙界での戦いは互いに牽制しつつも、一端落ち着いたのだった。
次回予告
戦争は一時休戦状態になった。
しかし動きはあった。
法子「玉面乙女・・・許せないわね」
姜子牙「あの~私の出番はまだですか?」




