仙界門攻防戦争!~前編~
姜子牙の戦いは、まだカミシニ達との戦いの末端に過ぎなかった。
この仙界門では今、カミシニ同士の戦争が繰り広げられていた。
仙界と人間界を隔てる門。
そこで今、互いの勢力が覇権をかけて度重なる戦争が行われていた。
仙界を統治する西王母。
西王母の側近として太白金星が指揮を取り、サクヤ龍王と八仙を将軍として配置し、カミシニ化した数万の仙人、獣仙を軍兵として防衛している。
対するは人間界を統べ、新たに新生殷国を建国させた紂王の側近である聞仲が大軍を率いて陣地取っていた。
互いに幾度と交戦するもその均衡は変わらなかったが、ついに聞仲が総攻撃を仕掛けたのだ。
「時は来た。我達の武勇が西王母を降し、紂王様に勝利を捧げるぞ!」
聞仲の配下達は数万を誇る人形?
黄巾力士と呼ばれる宝貝にカミシニの血を分け与えた傀儡の軍勢だった。
痛みも恐怖もない動く兵隊に対して、仙界軍は押され始める。
「我らが突破口を開こうか」
「そうですね」
すると仙界から二人の将軍が戦場のど真ん中に剣を片手に突き進む。
その剣の一閃は恐れ退く仙界の兵を一撃の下に消滅させていった。
二人の斬撃は戦場の空気を変えた。
まさに無双の如き一騎当千の将軍とは、余元と、その弟子の余化であった。
剣技に長けたこの二人は正しく第三仙血の猛者であった。
「鬼神の如き噂に聞く武人。しかし我らも既に対策は任せている」
太白金星はこの余元と余化が現れた時の為に準備させていた者達がいた。
荒れる戦場に静かな風が吹く。
まるで通り過ぎる二つの疾風が傀儡兵の進軍を通り過ぎると、その身体は両断されて崩れるようにその身が滅びていく。
その疾風が狭った時、余元と余化はその手に持つ化血神刀を振り下ろして受け止める。凄まじい衝撃が走ると、その場には姿を現した二人の神仙が現れたのだ。
八仙の鍾離権と弟子の呂洞賓。
仙剣に長けた武神でもある二人は余元と余化対策として前以て待機していたのだ。
「我らの剣技と合間見よう」
「呂洞賓、油断は大敵だぞ」
「二度と油断はしない。あの敗北から俺は己を見直したのだ!」
「それは私も同じだ」
鍾離権と呂洞賓は先に敗北した記憶を思い出す。
牛角魔王と万聖龍王なる剣士との戦いでの敗北から、二人からは油断はなかった。
鍾離権は余元と、呂洞賓は余化と、その剣技が戦場を震撼させた。
その時、別方向から戦場が騒ぎ立つ。
聞仲軍から新たな動きがあった。
突如湧き出た濁流が仙界軍の動きを止め、更に別方向から炎柱が地面から噴き出して道を塞いだのだ。さらに突如現れた巨鼠が仙界の兵士を踏み潰していく。
その中央に剣を手に「カッカッカッ!」と笑いながら向かって来る仙界の兵を斬り伏せる者。
彼らは聞仲が軍を任せる将軍であった。
青雲剣を持つ長男の魔礼青
炎柱が噴き出した中を混元傘を持って移動する次男の魔礼紅
琵琶を奏で濁流を操る三男の魔礼海
花狐貂と呼ばれる巨大な白鼠を操る末男の魔礼寿。
彼らは魔家四将と呼ばれた。
その実力は第三仙血。
新たな戦力に太白金星もまた目の前に置かれた盤に駒を動かす。
すると魔家四将の進軍が止まったのだ。
突如、巨大な壁が出現して道を塞ぐと、魔礼寿の操る花狐貂が壁に衝突して轟音が響き渡る。更に地面から植物が伸び上がると、魔礼海の濁流が植物に吸い上げられた。これは八仙の曹国舅と藍采和の術であった。
さらに炎柱を噴き出させていた魔礼紅の背後から八仙の紅一点である何仙姑が何処ともなく出現して斬りかかると、魔礼青には八仙のリーダーである鉄拐李 (てっかいり)が現れ対峙していた。
「カッカ!お前が八仙の鉄拐李 (てっかいり)か?この俺がその首を貰うぞ」
「そっくりそのまま返そう。魔礼青よ!お前の首を貰い受ける」
二人は視界から消えるほどの動きで衝突していた。
だが、八仙にはまだ張果老と韓湘子が残っていた。
第三仙血の数では勝っていたのだ。
「僕達がこのまま聞仲を討つのだね」
「二人がかりなら聞仲とて討てよう。先ずは私が奴に人泡吹かせよう」
張果老はマントを翻すと無数の蝙蝠が飛び出して上空から軍の本隊にて指揮していた聞仲を見つけると、一斉に襲いかからせる。
「!!」
だが、蝙蝠達は別の闇に覆われて消えたのだ。
その闇の中から四人の人影が現れると、張果老と韓湘子に狙いを定める。
「うははは!久方ぶりの戦場に腕がなるぞ!俺の名は王魔!四聖の王魔だぁー」
と、派手な登場の王魔と楊森、高友乾、李興覇。
彼らは新たに聞仲が仲間に迎え入れた第三仙血の猛者達であった。
これにて完全に数に差が出た時、王魔に向かって遠隔から斬撃が繰り出された。
すると戦場の中心に紅色の甲冑を纏った女戦士が現れたのだ。
サクヤ龍王
その実力は未来を見る未来視の能力と、龍神界でも伝説級の剣技を持つ。
お互いの手駒が揃った時、西王母が太白金星に問いていた。
「お前はサクヤ龍王と同じく未来が見えるのか?お前が先に伝えた展開通りではないか?」
「戦場での戦いでは相手の手駒を全て出し切らせ、大将を表舞台に出させる事。後は戦場をよりかき乱して聞仲を叩く」
すると西王母は掌を広げると、その上に乗せた金剛石に念を込める。
「戦場に波紋を広げて来い」
金剛石はカミシニの血を吸い上げると鮮血に染まり、空中高く飛び去る。
そして戦場中心に落下すると、ゴトゴトと動き出して増殖しながら形を変えていく。
その姿は鉱物(金剛石)の魔神。
巨大化したその魔神は起き上がると同時に聞仲軍の傀儡の兵を踏み潰していく。
恐怖を感じない傀儡の兵団は魔神を囲み矢を射り、剣を突きつけるがビクともしない。
その身体は正に金剛石。
虫を踏み潰すように蹴散らしていく。
「甦りし金剛魔王よ!私の駒として働くが良い」
金剛魔王とは、今から三百年程前に地上界を統べていた大魔王の名であった。
しかし当時、地上界制覇を目指した美猴王率いる水廉胴闘賊団の進撃により敗れ去ったのだが、西王母により死の世界よりカミシニの力を授けられ甦ったのだ。
しかし、この金剛魔王は他の甦った魔王とは異なり、その意思を奪われた傀儡の大魔王であった。
突如、現れた巨人兵に聞仲軍の第三仙血の将軍達は八仙に阻まれ、抵抗出来る者が残ってはいなかった。それだけではない。この金剛魔王は第三仙血を上回る第四仙血の化け物であった。
西王母が仙界を一夜にして支配出来たのも、この真・金剛魔王の一方的な力によるものと言っても過言ではなかった。
金剛魔王の出現に戦局は完全に仙界軍に傾き始める。
中央を前進する金剛魔王を止める術はなく、そのまま聞仲の本部隊へと突き進むかに思われた。
しかし戦場に残る者達は上空を見上げ、その異変に気付き始めた。
暗雲が立ち込め、鮮血の雷が鳴り響き、その中心に獣に跨り見える人影。
その者、黒麒麟を乗騎とし、その手に握られた金色の鞭を持ちし武人。
そして眉間の瞼が開かれた時、第三の眼が開く。
直後!!
閃光の如き真紅の雷が天から地を裂き、金剛魔王の進行を止めた。
「ついに表舞台に現れたな?聞仲よ。あの者さえ落とせば、この戦争は我らが勝利に間違いあるまい」
太白金星の読みは全て計略通り。
「金剛魔王よ!聞仲をその手で握り潰すが良い」
上空の聞仲に向かって腕を伸ばす金剛魔王に、聞仲は静かに呟く。
「傀儡如きが俺をどうこう出来ると思うな!」
振り下ろした金鞭から放たれた雷撃が金剛魔王の身体を打撃し、その身体が一撃のもと崩壊しながら崩れ落ちる。
その圧倒的な力に太白金星は舌唇を噛む。
見誤っていたのだ。
「まさかと思ってはいたが、聞仲よ!あ奴は第四仙血、いや?第五仙血だと言うのか!信じられん」
カミシニの力を手に入れた者達は進化し続ける。
その上異種に一番近い存在が、今、目の前に現れた。
敵軍の大将として!
「よもやカミシニの王の器を持っていて何故に紂王に仕えるのだ?少なからず奴を止めるすべは今の我等には非ず」
太白金星が落胆したその時、
「妾、あの者と遊びたい」
「ぬっ!?」
その声は若い娘の声であった。
太白金星は声がするまで、その者がその場に現れた事に気付かなかった。
いや、何故、その者は現れたのか?
その者は先に覚醒を早めた事で再び眠りつき、暫く目覚める事はないと思われていた。
考えられる事は一つ。
「王たる資質を持つカミシニの存在にいても立ってもいられずに目覚めたか」
すると娘はその場から消えると同時に、粉々になった金剛魔王の残骸に座り、降りて来るように上空の聞仲を誘ったのだ。
「妾と遊ぼうではないか?」
その娘、仙界の切り札。
「まさかお前は妲己?ち、違う!貴様は何者だ?」
聞仲もまた警戒するこの娘とは?
「妾は玉面、玉面乙女よ」
今、戦場に二つの嵐が巻き起ころうとしていた。
次回予告
聞仲の前に現れた玉面乙女は何を起こそうとしているのか?
両軍の勝者は?
法子「あれ?物語いつのまにか進んでない?それに私の見知った連中もいるわ?」




