いざ澠池城へ!雷を呼ぶ打神鞭の最後??
妓楼の集まる国、高蘭英の澠池城。
姜子牙は単身、殴りこんでみようとしているが?
私は姜子牙 (きょうしが)だよ
私は妓楼本殿にある澠池城へと向かっていた。
その場所にはカミシニの中でも第二仙血、或いは第三仙血しか入る事を許されない特別な場所であった。その者達は先程私が入った部屋から生き残って出られた者達。
女を使い誘い込んだカミシニが死ねばその場で養分となるが、そうでなく生き残る程の強者や能力者は主の居る特別な間へと案内されるのだ。
つまり私らは選別されていたのだ。
興味本位の者や、殺されかけて頭に来た者、罠にかかった連中を逆に吸収して己の力と望む者と様々であるが、此処から先は修羅場なのは間違いない。
そして私も同じく部屋に入って来た別の女のカミシニに案内されて、澠池城へと向かっていたのだ。
「のぉ?その澠池城の主とはどのような者だ?よほど自信があってわざわざ私らを招き入れるのだろ?それにお前たちはどうして従っておるのだ?」
案内する女は部屋で私を誘惑した女と違い笑顔を見せるだけで無言だった。
恐らく意思のない傀儡なのだろうな。配下になるカミシニの中には上位種のカミシニに従う主従関係を結ぶ者とは別に、人形に己の血を分けて動く兵として操る者も見た事があった。
しかし、この地の人形を全て操るのだから並大抵ではあるまい。
すると案内する傀儡の女が立ち止まり、一人で先に向かえと告げられた。
「さて、帰り道は無さそうだし先に向かうしかあるまいな」
私は通路を出ると広間があり、そこには何人かのカミシニ達が既に私と同じく案内されてその場で待ちぼうけしていた。
更に私の後からも数人来て、合わせて八人ほどか?
同時にこの場におる連中から発する異様な雰囲気から、恐らくは第二?第三仙血並みのカミシニである事が分かる。
正直、これまでに私が倒してきたカミシニは良くて第二仙血レベルだった。
第三仙血と言えば、あの姫伯邑考と同等の化け物であるからして今の私に勝てるかどうかは疑わしい。
それでも私がこの地に来た理由はカミシニを狩り、少しでも力のあるカミシニを忌眼の力に取り込む事であった。
確かに下級を倒していくのは時間もかかるし、数が多過ぎる。
それに比べて第二から第三仙血のカミシニを倒す事さえ出来れば、その力を得られる。
カミシニには主従の契りってのがあるらしく、上位種のカミシニには下級のカミシニは従属する特性があるのだ。つまり私が何とかしてでも第三仙血以上のカミシニを倒せれば、従属する下級のカミシニを生かすも殺すも私の手の内となるのだ。
「賭けのつもりだったが…」
今、この澠池城には少なくとも第三仙血のカミシニが二体、三体以上はおるはず。
もし一体でも倒せれば御の字。
そいつの力を忌眼に取り込み手に入れ他の第三仙血を倒し、ソイツの力をも上乗せしてもう一体を倒せば良いのだからな。計算上だと・・・もし今の私で手に余るのであれば、逃げて逃げて同士討ちでもさせて漁夫の利を得る魂胆なのだ。
そのために敢えて私はこの澠池城へと参ったわけなのだが・・・
正直、この集まった連中から手頃な第三仙血がどいつなのかサッパリ見分け付かないのだ。
下手に強い奴と交えればミイラ取りがミイラになってしまう。
「とにかく作戦立てて来たのは良いが、少々不味い状況だぞ」
後ろを見ると入ってきた扉の上から血が垂れ落ちて凝固し逃げ場を塞いだ。
そして目の前には八つの扉が開かれていたのだ。
「なるほどな〜考える事は同じと言うわけか?ここの主は私と同じ策を用いて我らを集めたわけか」
つまり自分を狙いに来て集めたカミシニ連中を同士討ちさせ、まとめて始末する魂胆なのだ。
ずる賢い奴め!
すると集められた我々に向けて女の声が響き渡る。
「よくぞ参った愚かな者共よ」
この声はこの妓楼の主・高蘭英だな?
「お前達は今より目の前に分かれた扉を通り私のもとへ来るが良い。その間、辿り着く間にお前達は殺し合うだろうがな。最後に生き残った者へのご褒美としてこの私が直接相手をしてやる。さぁ?急ぐがよいぞ?」
高蘭英の提案に集められたカミシニ達は怒り出す。
「ふざけるな!お前が此処へ来て相手しろ!この俺を誰だと思っている!その首はこの俺が貰うぞ!女ぁ!」
「ならば仕方あるまい」
すると目の前の扉が閉まり始める。
「ぬっ!?」
嫌な予感がした。
私は咄嗟に駆け出すと、同じく嫌な予感を感じ取った他のカミシニ達も同時に飛び出して扉に向かって滑り込む。
残されたのは二体のカミシニだった。
「何だと言うのだ?慌てて女の指図に従う情けない連中だ」
「全くだ!俺達はお前が此処へ来るまで待たせて貰うぞ!」
と粋がるカミシニ達は気付いた。
自分達のいた広間の空間が狭くなり、そして逃げ場が失われた事に。
「だ、出せ!ここから出せぇー!」
「くそぉ!う、うぎゃあああ!」
二人のカミシニは壁に押し潰され、あっけなく息絶えたのだった。
この澠池城が高蘭英の血で出来ている。
その意思一つでこの澠池城全てが入り込んだ私らを殺す監獄要塞なのだ。
さて、私の当初の目的はと・・・
「この妓楼に入ったのは私含めて八人おった。そこで、さっき二体喰われたようだから残るは五体だな?」
一番の策は同士討ちの最中に間から入ってぶっ倒すのが手っ取り早い。
無理なら弱い奴から順に仕留めていき、奴らの力を吸収しながら力を蓄え、最後には一網打尽にする。どちらにしても、この迷宮のような妓楼の中で何者と出会すかだな。
扉を出てから壁から天井、床から装飾品まで真っ赤な一本通路が続き、その後は階段を上がったり、下がったり、行ったり来たりしていた。
「私らの疲労を目的としておるのだな?何処までも曲者なのだ。高蘭英ってカミシニは・・・」
通路の途中で部屋らしきものはあったが、まるで中から閉じられているように入れず、恐らく破壊しようと試みても困難であろうな。それこそ体力を奪われてしまい高蘭英の狙い通りになるだけ。
山道を何十週も駆け回って修行した私だ。そう容易く疲労しないと思っておったが、何だ?息切れしてきたぞ?
「!!」
そこで私は道半ばで倒れているカミシニを見つけたのだ。
恐らく先に進んでいた奴だろうが、身体が萎れておる?
まるで干からびたミイラのようだ。
「何処までも策士な。力の弱い者は、この中に居るだけで力を奪われてしまうのだな。長居は禁物って事か。辿り着いた時にヘバッていたらどうしようもない」
しかしこの妓楼迷宮をどうやって抜ける?
すると枝分かれした通路があり、左右と前方に迷う。
「この時のための運試しっと」
私は懐から棒を取り出すと地面に置いて倒れた方へと向かう事にした。
「あっ!」
すると前方からカミシニの男と目があったのだ。
しまった。出会してしまった。
戦うか?逃げるか?それとも?
「見つけたぞ?狩らせて貰おうか」
ソイツは手から血の結晶を凝縮させて私に向けて投げつけて来たのだ。
「うぉっと!」
私は躱しながら後退し、全速力で逆方向へと逃げたのだ。
「逃がすかよぉー!」
ソイツは抱きしめるように両脇に指を突き刺すと、血が噴き出して凝固する。
すると噴き出した血が新たな腕へと変わる。そして新たにニ本で、合わせて六本の腕を使い、
「待てよ〜喰わせろ〜」
壁や床、天井を虫のように足場にして、逃げる私に向かって追いついて来た。
私は逃げながら推測する。
「奴は第二仙血か?それとも他に能力を隠し持っておるのか?」
あの新たな腕は血を構成したのだろう。
カミシニは血を操り、自在に動かす事は可能。
更には凝縮して硬めたり、柔らかくしたり自由自在なのだ。
また怪我や失われた腕や手足を自らの血を使い治癒や再生も行われる。
その自在に操る能力と再生能力と組み合わせる事で、新たな四肢を増やす事など第二仙血能力者なら造作ないであろうな。そして迫るカミシニに対して私は振り向くと、懐に隠し持っていた棒状の武器を取り出したのだ。
「今の私に使えるだろうか」
この武器は大上狼君に与えられた唯一の武器であった。
仙気を込める事により破壊力を増し、持ち主の特性で五行の属性を形にする宝貝なのだ。
名を打神鞭と言う。
「いっちょカマしますか!」
私は足を止めると、振り向き様に打神鞭を振るうと、凄まじい勢いで鞭は音速を超えて迫るカミシニに直撃した。
「やったか?」
が、私の振るった打神鞭は直撃と同時に跳ね返されると、鞭の先端を掴んだカミシニが力任せに引っ張る。
「うぉっとおおお!」
私は身体ごと強い力で引っ張られ、カミシニの直前にまで迫ると、大口を開けたカミシニは勝利を確信した。
「油断大敵だよ!」
私は身を翻してカミシニの顔面に足蹴りしたのだ。
「おろ?」
しかしカミシニは顔面を蹴られたりはしたが、平然と笑みを見せたのだ。
「今、何かしたかぁ〜?」
「これからするんだよ!」
私は打神鞭に力を込めると、私の神気を吸収して雷が発生したのだ。
「これでもくらうのだぁー!」
雷撃がカミシニの全身を襲う。
「うぎゃあああ!」
悲鳴をあげたカミシニであったが、その身体を直撃する雷が徐々に消えていく。
「ふはは。お前、カミシニではないのか?ただの人間ではないだろうが、この俺には何も通じないぞ?多少驚いたが、今からお前を喰らってやるぞ!イヒヒ」
「マジか?」
まさか打神鞭が効かないなんて、全く使えんじゃないか?
「ならば仕方あるまいな。諦めるしかあるまい」
「そうだ!諦めて喰われろぉ!」
雷撃が消えたと同時にカミシニの奴は私に向かって飛びかかるように六本の腕を持って掴みかかって来た。
「勘違いするな?諦めると言ったのはこの使い物にならぬ打神鞭のことよ」
「何!?」
その時、この場の雰囲気が変わる。
その異変に飛び掛かって来たカミシニは警戒するように私から距離を取るように後方へと逃れたのだ。
「な、何か変だぞ?お前?な、何でお前から突然カミシニの臭いがするのだ?」
同時に私は右目を見開くと、その銀色に光り輝く眼から異様な力が解放された。
「忌眼解放」
私は打神鞭に忌眼の力を込める。
「今日までお前らカミシニを始末するためにこの使い物にならない打神鞭を使わずに剣や弓矢を使っていたのだよ。その理由はな?この忌眼の力を武器に注ぐと必ずして使い終えた後に消滅しちゃうのだ。だから大上狼君から貰い受けた打神鞭を粗末にしたら悪いと思って今日まで使わなかったが、カミシニ相手に戦うために価値なければ宝の持ち腐れだからな」
私は忌眼の力を打神鞭に注ぎ込んだ時、この通路一帯に異様な音が響く。
「な、何だ?この音は?」
壁や天井、床から弾けるような音が響き渡り、カミシニを囲むように接近する。
そして逃げ場が完全に失われた時、
「封神血壊」
私の目の前にいたカミシニの全身が強い衝撃によって四方八方から攻撃された。
「うぎゃあえあはえあ!」
雷が走り悶え苦しみながらカミシニは私を指さして言った。
「お、お前は、お前は誰だぁー!?」
私は冥土の土産に答えてやる。
「こう見えても私はこう見えても私は!お前たちカミシニを終わらすために現れたようだぞ」
全身に雷が走り、そのカミシニの身体は蒸発しながら掌サイズの結晶と化して、私の忌眼の中へと吸収されたのだ。
「封神完了」
同時に私は一体のカミシニを始末出来たわけだが、手にした打神鞭の事を思うと胸が痛んだ。
「ん?はて?」
しかし握られた打神鞭は私の力を注がれたのに消滅してなかったのだ。
「おぉおお!」
私は感激して胸踊った。
この打神鞭は私の忌眼の力を使っても破壊しないのだな?
「こんな事なら最初から使って置けば良かったぞ」
その時、背後から嫌な気配を感じた。
「うっ」
振り返った時、私を見ているカミシニが立っていた。
「興味深いな。人か?人がカミシニを倒したと?ふふふ。ここの主が狙いであったが、お前にも興味が湧いたぞ?」
私は本能的に気付いた。
今、目の前に現れたカミシニは姫伯邑考と同等の力を感じるぞ?
間違いなく第三仙血に間違いない。
そんなわけで、私の戦いは始まったばかりであった。
次回予告
姜子牙の侵入した澠池城。
しかし敵は高蘭英だけではなかった。
法子「ねぇ~?私達の出番どうなったのよ~?」




