神仙になれる果実?
姜子牙は大上狼君の下で修行する事になった。
大上狼君が何故、姜子牙を?
そして姜子牙とは何者なのか?
うぉっとっと!
私は姜子牙だよ。
私は大上狼君なる妖仙の下で仙術の修行をさせられておるのだ。
場所は蓬莱山。
最初から崖から突き落とされ、溺れさせられ、落下する氷石を躱しながら全速力で走らされたり。それはもう尋常ならざる修行と言う名の拷問だった。
確かに崖から突き落とされた時に私の中で特別な力が目覚めたのは分かる。
しかし限度ってものがあるだろ?
身体能力だけでなく、数千もの巻物から仙術の知識も覚えさせられ、質問に答えられないと顔面をぶん殴られる仕打ちを受け、毎日毎日枕を涙で濡らした。
もしかして死んだ方が楽だった?
そう思える程の生き地獄。
そんなある日、人が神仙になるための手段なる巻き物を読み続けていて、もっと楽に極められる一文を見つけたのだ。
それは仙界の樹木に実る果物を食すれば、簡単に人は神仙になれると言うのだ。
「この蓬莱山は仙界と言っておったよな?この山で果物探せば楽じゃないか!つまりこの裏技に早く気付けと言うのも修行の一部だったのだな」
そこで私は蓬莱山でも一番高い山に登った。
何せ、この桃源郷の麓は既にカミシニの障気で枯れ果て、果物なんて何一つ残ってはいなかったから。
「山頂にさえ登ればもしやしたら」
私は山頂を目指した。
山を越えて谷を越えて、これはこれで足腰が鍛えられる。
そして何時間かかったのか?
雲を抜ける山脈を登りきった所に樹木があり、果物らしきのが実っていた。
「やったよ〜腹減ったよ」
この地に来て、口にする物と言えば大上狼君が何処からか持って来る魚や小動物の肉だった。
果物なんて久しぶりの贅沢に私は駆け寄るように腕を伸ばした。
「えっ!?」
直後、足下から凍てつく冷気が樹木ごと覆っていき、氷の中に閉じ込めたのだ。
「まさか大上狼君か?」
振り向くと大上狼君が険しい顔で私を見ていたのだ。
「何するんだよ?後少しで神仙になれたと言うのに!それが、あんたの望みなのだろ?」
「愚か者。お前には人のまま占術を学ばす。このような仙果に頼ればお前がこれから戦う者達にとっては格好の餌になるだけだ」
「へっ?」
大上狼君は言った。
神の天敵であるカミシニ相手に戦うには神力は逆に足を引っ張り、力を奪われてしまう。
その為には人の身で戦う必要があると。
心技体を極め、カミシニを封神する。
「でもさ?たとえ鍛えても化け物のような強さを持つカミシニ相手に人の身では限界あるのでは?」
すると大上狼君は私に言った。
「その為にお前にはカミシニ共をも喰らう力を与えた。既にお前は人であって人ではない」
「???」
それは崖に落とされた時に覚醒した力であった。
確かに強靭的な身体能力と湧き上がる力が噴き出したのを覚えている。
アレは一体何だったのか?
「!!」
その時だった。
辺りから異様な音が響き渡り、その音は徐々に近付いて来ていたのだ。
「何事ですか?」
すると大上狼君は嫌そうな顔をして答えた。
「どうやらこの蓬莱山も見つけられたようだ。敵が罠にかかったようだ」
「敵ってカミシニ?」
カミシニには気配ってものがない。
だから山の至る場所に罠をかけて、潜入した事を分かるようにしていたらしい。
しかも真っ直ぐにこちらへ迫っていたのだ。
「どうして奴らは私達の居場所が分かるのですか?」
「奴らは気を探る事は出来ないが、超人離れした視覚と嗅覚がある。それにお前と同じく仙術を体得していれば千里眼が使えるはずだ。侵入者は間違いなく私達の位置を把握し、近付いて来るだろう。迎え討つしかあるまい」
「そ、そんな〜??」
まさかの実戦なのか?
まだ修行半ばだぞ?
すると山を飛び越えて迫る人影が近付いて来て、私達の前に現れたのだ。
「どうやら俺の嗅覚は誤りではなかったようだな。神族の臭いに誘われて来てみれば妖怪の類いだったか?それよりもお前の腰にあるのは!」
そのカミシニは大上狼君を指差し、いや?その腰にさげた剣を見て言った。
「その剣は北斗七星剣ではないか?何故だ?それはお前のような妖怪が所持出来るモノではないぞ!」
「この剣を知るお前は何者だ?」
カミシニの男は名乗る。
「我が名は姫伯邑考。その王剣は俺にこそ相応しい」
すると姫伯邑考は掌から垂れた血液が凝固し剣へと変化すると、私と大上狼君に向かって斬り払って来たのだ。
「どひょ〜!?」
斬撃は大木を斬り裂きながら迫り、寸前で飛び退くように躱せた。
危なかった〜
けれど嫌々ながらの修行のせいか?
「カミシニ、しかも上位種か?」
大上狼君の見立てに姫伯邑考は笑みを見せて答える。
「我々の中では第三鮮血と呼ばれている。しかし俺はさらなる高みを目指している。俺こそが真の王なのだからな!」
姫伯邑考は飛び出すと私ではなく大上狼君に斬りかかる。
恐らく私は眼中にないのだろう。
「絶対氷壁!」
大上狼君が腕をあげると冷気が広がり、氷壁が地面から盛り上がるようにして姫伯邑考の道を塞ぎ邪魔をする。
「小賢しい!」
しかし姫伯邑考の魔性の血の剣は神力を無効化する能力を持つ。両断される氷結に突き進む中で、その動きが止まった。
「ぬっ?」
「神力は確かにお前達カミシニには通用はせん。しかし神力を込めない単なる氷壁はお前達カミシニにとって純粋な壁に過ぎぬであろう?」
カミシニが無効に出来るのは神力。
又は神力を込めた能力のみ。
それ以外は自然現象に過ぎない。
炎に当たれば熱く感じるし、氷は冷たい、雷は痺れる道理。
と、言ってもカミシニの強化した肉体は再生力含め人間のソレを超越しているため、殺傷力としては物足りない。
しかし極限の冷気は姫伯邑考の身体を凍てつかせ動きを麻痺らせた。
「俺は二度と屈しない。それが奴であろうと神であろうとな!」
奴?奴とは?
その時、姫伯邑考の身体が蒸発するように血蒸気が噴き出し、その力が更に高まり高熱が冷気を氷壁を溶かしていく。
「ふぅあああ!」
振り払った剣が氷壁を斬り裂き、大上狼君の身体を捕らえる。
「大狼狼君!!」
心配して叫ぶ私に大上狼君は冷たく答える。
「ピィピィ煩い。気が散る」
「えっ!?」
すると大上狼君は抜き出した剣で姫伯邑考の魔性の剣を受け止めていたのだ。カミシニの剣は神剣をも無効化すると言われているが、確かにその剣は受け止めていた。
「天界が誇る七星の剣。王のみが持つ事を許された至宝!たとえカミシニの魔性の血であろうと浄化する」
大上狼君は七星剣を振り払うと姫伯邑考は飛び退く。
「カミシニが神を狩る側だと?この私がお前達カミシニを狩る側だと何故思わなかった?お前こそ狼の牙に狩られる獲物だ」
今、私の目の前で大上狼君がその力を見せる。
マジにたまったもんじゃねぇ〜
次回予告
大上狼君と襲撃して来た姫伯邑考との戦い。
姜子牙はそこで何を見る?
法子「何を見せてくれるか楽しみにしているわ!」




