阿修羅、仮面再び!
光と闇の戦い、
阿修羅は闇の中へと落ちていた。
僕は阿修羅
光の使徒であるはずのウルスラグナの暴挙。
それは光も闇も関係なかった。
話は遡ることアナーヒターがズルワーン神殿の奥にあった扉を開いた時の事。
「えっ?」
開かれた扉から何者かが出て来たのだ。
そして油断していたアナーヒターは何の抵抗も出来ずに腹部に剣が突き刺された。
大量の出血の上に倒れるアナーヒターは出て来た者が何者か分からないまま意識が遠退いていく。
アナーヒターを殺害した者は神殿の中で何かを探していた。
探すと言っても恐らくは何でも願いが叶うと言われるズルワーンの秘宝で間違いないだろう。
しかし、その侵入者もまた攻撃を受けたのだ。
突如視界が闇に飲み込まれて落下するような感覚を味わった侵入者は一気にズルワーンの神殿から離れた場所へと弾き飛ばされた。
「クッ!邪魔を!」
それは闇の神殿より転移術を使ったアンラ・マンユの仕業だった。
「流石はこの時間軸の最高神だな。なら、この世界のボクに力を借りさせて貰おうか」
謎の侵入者は光と闇の使徒の戦場を見回し、勇猛果敢に戦っていた光の使徒を見付ける。
「いたぁ〜!」
その光の使徒の名は中級神ヤザタのウルスラグナだった。
侵入者はウルスラグナも能力を見極める。
「あの者から感じる力は勝利祈願か?絶対に負けないって強い意思が力を与えるようだな?面白い。本当にボク好みの僕だよ!」
本当に意味が分からない言葉を発する侵入者は遠く離れて戦っているウルスラグナに向けて自分の両指を合わせて標的にすると、
「その器!貰い受ける!」
侵入者の正体は意思のある魂であった。
その魂は光の矢となり、ウルスラグナの胸に突き刺さった。
「えっ?」
何が起きたか理解出来なかった。
気付いたら胸に光の矢が突き刺さり、身体の自由が奪われたのだから。
「オマエはもう直、命を落とす事になっている。ならばこの身体は不要だろ?だからボクが貰う!君の拒否権はない」
「うっ、うわぁあああ!」
言葉の意味を理解し青褪めて抵抗する間もなく意識が奪われた。
「やはりこの器は馴染むな。これで僕は神に転生出来たわけだ。後は潜在能力を引き上げて僕の力をフルに使えるようにするかな」
すると身体が光り輝きウルスマグナの持つ身体能力を飛躍的に引き上げられ、さらに特殊能力までもが力を増していく。
「勝利への強い意思が力となる能力に、このボクの持つ最高の幸運が合わされば何者も敵にあらず」
その力は驚異的だった。
光と闇の最高神である七大天使と六大悪魔を戦闘不能にしたのだから。
ウルスラグナの強化した能力に相乗された全方面への破壊攻撃。これは自分自身をも巻き添えにする程の禁断奥義であったが、それを可能にしたのが本来持つ絶対幸縁運の魔眼と呼ばれる金色の魔眼。
その能力は自分に降りかかる全ての厄災を理をもって排除する。
つまり誰も攻撃が当てられない万能能力。本来なら自分自身をも巻き込む攻撃をその能力で、降り注ぐ破壊の雷撃の雨を無防備に歩いて見せたのだ。
その頃、僕は闇の帝王たるアンラ・マンユの攻撃を受けていた。
僕は闇の中で怒りや悲しみ、憎悪といった負の感情に圧し潰されている。
アンラ・マンユは僕の持つ力の根源が負の力にあると見抜き、仲間に引き込むつもりなのか?
しかし闇の誘いは僕を捉えていた。
間違いなく僕はこの負の力が源になっている。
それは何故かは分からない。
何故なら僕は記憶を失っているから。
僕が黄風魔王との戦いで見せた切り札の「無念無想の仮面」は、僕の魂を引き換えに強力な力を引き出す。その副作用は記憶の消失。
言わば破滅の力。
黄風魔王との戦いでは法子達を巻き添えにしないようにその力を抑え込んでいたから軽度で済んだ。
だから今の僕は法子達と出会った前の記憶は残ってはいない。
かろうじて三百年前に孫悟空が僕の消滅から身を呈して生かしてくれた事が残っているくらい。
恐らく僕は過去にその力を使い全ての記憶を失っているのだろう。
それでも「法子を守る」と言う事だけが魂に刻み込まれていて、その想いに従っているんだ。
恐らく法子は僕にとって大切な存在なのだろう。
理由は分からない。
恐らくは失った記憶が残した願望。
彼女を守る事が僕の生きる意義なのだと。
だから僕はこんな所で死んでたまるかぁ!
しかし僕が闇の帝王であるアンラ・マンユを倒す為には、「無念無想の仮面」を使うしかない。
けれど今、この力を使えば僕は法子の事を忘れてしまうかもしれない。
孫悟空、八怪、沙悟浄、玉龍。
短い間だけど共に法子を守るために旅をした仲間。
全てを忘れてしまう。
闇の憎悪の炎で魂は焼かれ、自我を無くす可能性もある。
もう自分が何者か分からなくなる。
「フフフ。もう少しのようだな。ならば」
そんな僕の思考を読み取ってか、アンラ・マンユはこの神殿で起きた惨劇を僕に見せたのだ。
「!!」
突如、僕の脳に伝わって来た映像。
それは僕達と別行動を取って先に神殿の奥へと向かったアナーヒターの姿だった。
迷宮のような神殿をアナーヒターは自らの察知直感能力を駆使して進む。
「この先に何かあるわね」
瞼を綴じて意識を集中させる。
手にした黄金の杖が光を指していく。
その方向へ進んだ彼女は見付けたのだ。
この神殿の最下層の謎の扉を。
そして彼女は神殿の奥まで辿り着いた。
アナーヒターは最初扉を開ける事を躊躇したが、この戦争を早急に終わらすためにも扉に手をかけた。
扉は簡単に開き隙間から光が差す。
その時、アナーヒターは自分に起きた状況を把握すると同時に、
「えっ?」
腹部から背にかけて貫く剣を見る。
意識したと同時に内部より激痛が走り痛みを麻痺させるために脳が活動を止めようとする。
「ゾクッ!!」
それは死を意味していた。
薄れていく思考が自らに起きた状況を知らせる。
開かれた扉から何者かが現れ躊躇なく自分を剣で突き刺したのだと。
そして自分はもう助からないのだと。
力が入らず膝が崩れ落ち倒れる。
「あっあぁぁ」
僕はアナーヒターの死の直前を見せられた。
見せられたアナーヒターの顔が被る。
倒れていく姿が被る。
力無く魂が消えていく姿が被る。
法子と!!!!!!
僕は法子が目の前で殺されたイメージが頭の中を繰り返し繰り返し廻る。
アナーヒターが法子が、アナーヒターが法子が!
「うっ、うぅうううわぁああああ!」
絶叫と共に僕の魂が破裂するかのように力を暴発させたのだ。
そして手には黒き炎の仮面が掴まれていた。
ゆっくりと顔に仮面を嵌める。
「無念無想の仮面」
僕の魂は後先など考えていない。
力を根こそぎ排出するかのように神気を解放させた。
漆黒の闇の神気を!
その解放は黄風魔王との戦いの比ではなかった。
自身の肉体を崩壊させるほど。
炎の仮面。
皮膚は漆黒の身体に鮮血のような紋様が全身を覆い、四本の腕から伸びる爪。
そして醸し出す殺気。
異形の姿。
闘神阿修羅!
僕の戦いは終わらない。
次回予告
阿修羅の魂を削る戦い、しかしもし生き残れたとしても?




