唯我蓮華~意志を継ぐ者達~
捲簾の最期の記憶
その記憶を見た八怪と沙悟浄は?
私は法子。
救世観世音の中で八怪と沙悟浄は、今は亡き捲簾さんの記憶からその最期を見たの。
「け、捲簾・・・お前は最期まで戦っていたんらな・・・」
八怪は別れた時の捲簾さんの内心。
そして新たな人生と思いを知り涙していた。
沙悟浄も捲簾さんが自分の父親だったと知り、亡きお母さんの事も垣間見えて同じく涙する。
「私をこの地に誘ってくれたのは私のお父さんだったんですね・・・」
捲簾さんは自らの魂をエネルギーに変えてノアの方舟を動かし、並行世界にいた沙悟浄を私達がめぐり逢えるようこの世界へと送り届けてくれた。
全て捲簾さんが導いてくれたの。
「ふふふ。何かと思えば記憶の逆流が起きていたようだな?」
捲簾覇蛇もまた捲簾さんの最期の記憶を見ていた。
「私の中に寄生したお前達をいつまでも居座らせるつもりはないのでな?消えて貰うぞ!」
直後、八怪と沙悟浄は重圧に圧し潰される。
「うぐぅううう!」
「うわぁあああ!」
観世音菩薩の力を手に入れた捲簾覇蛇の力は二人を苦しめさせる。
そしてそれは外にいる私と鉄扇ちゃんも同じだったの。
「絶対に負けないんだからぁー!」
と、その時私達は感じたの。
「あ、あっ!あっ!あっ!」
その感覚に鉄扇ちゃんは涙が溢れ出す。
だって、私達は気付いたの。
私達が戦っている救世観世音の中から感じる二つの別の魂の気配を!
それは八怪と、沙悟浄なのよね?
「河童ちゃんがいるのが分かるわ!河童ちゃんは生きてる!」
「そうね!そして私達の目の前にいる奴を何とかすれば御対面出来るから、もう踏ん張りよ!」
「うん!法子!」
私と鉄扇ちゃんは奮起する。
そしてその思いは中にいる八怪と沙悟浄にも伝わっていた。
私達の思いは繋がり力となるのよ。
「うらぁああああ!」
「うぉおおおおお!」
八怪と沙悟浄が雄叫びをあげて立ち上がる。
「オラ達の捲簾の魂をお前のような薄汚れた奴に好きにさせていられねぇらよ!」
「私のお父さんを返して貰います!」
直後、二人の瞳が金色に光り輝く。
「その力は私にも有る事を忘れたのかぁー!」
荒ぶる捲簾覇蛇の金色の波動に二人は耐えながらその魂を燃え上がらせる。
拮抗する力は徐々に傾き始めたの。
「ば、馬鹿な?私の力が消えかけているだと?何故だ?くそぉ!くそぉおお!どうなってやがる?」
そして捲簾覇蛇の姿が蛇神である蝕王覇蛇の姿に変わっていく。
三者の金色の力はその中心で塊となり、人型へと変わっていったの?
「!!」
八怪も沙悟浄の目の前に現れた光の主に驚きつつも涙が溢れ出していた。
その姿は二人が知る捲簾さんだったから。
「二人共・・・久しく思うよ」
そして捲簾さんは自分の魂を奪い自由にしていた蝕王覇蛇に向かって睨むと、
「好き放題してくれたようだが、私の大切な友を傷付けたお前に慈悲はかけるつもりはない」
掌から放たれた金色の光が、
「はぁああ!?」
蝕王覇蛇の魂を何の抵抗もさせずに消滅させたの。
二人は目の前に現れた捲簾に震えながら問う、
「ほ、本当に・・・け、捲簾なんらか?」
「遮那。本当に貴方には苦労かけましたね?そして本当に立派になりました。私は貴方の今まで生きて来た時をずっと見ていましたよ。貴方にはもう私が伝える事は何もありません。それだけ遮那、いえ?八怪は私が誇れるほど成長したと自信をもって言えます」
八怪は更に溢れ出す涙を拭い捲簾を見つめる。
そしてもう一人。
「ほ、本当に私の・・・お父さんなのですか?」
初めて見る父親に沙悟浄は動揺していた。
けれど心が魂が初めて見る捲簾さんが父親なのだと、真実だと教えてくれた。
「大きくなりましたね。沙悟浄。私は貴方に何もしてあげれませんでした。それでも貴方はサラの望む心優しく育ってくれました」
沙悟浄も溢れる涙を流したまま捲簾を見つめる。
二人は気付いていた。
捲簾との一時の邂逅は別れなのだと。
この肉体は沙悟浄の器。
捲簾さんの魂は既に失われている。
目の前にいる捲簾さんはノアの方舟に残っていた残留思念が沙悟浄の魂の中に溶け込んでいた状態。
いつ消えてもおかしくない。
「捲簾!捲簾も蘇られるんらよな?オラ達には捲簾が必要ら!もっと教わる事は沢山あるんら!だからもう一度奇跡を見せて欲しいら!」
「会ったばかりでもうお別れなんて嫌です!お父さん!消えないでください!」
二人の願いは叶わないと分かっている。
それでも口に出さなきゃいられなかった。
すると捲簾さんは二人に答えたの。
「私は永く生き過ぎました。人として神として、そして河童としてね。そして君達二人と再びめぐり会う事が出来て思い残す事は何もありません」
二人は胸が苦しくなった。
「私の人生はここで終わります。けれど私の意志は貴方達に受け継がれました。そしてこの先、私の力が必要になった時、私の力と意志はもう一人の友に預けさせて貰いました。信じられる友に」
「えっ!?」
すると二人の目の前に立っていた捲簾さんの姿が別の若者の姿へと変わっていく。
「!!」
八怪と沙悟浄の前に崩れるように倒れる若者は二人の知る武神の姿だった。
二郎真君さん!
そして私と鉄扇ちゃんが戦っていた救世観世音の身体が苦しみながら光に覆われながら姿が変わっていき、私達の目の前には八怪と沙悟浄が現れたの。
鉄扇ちゃんは沙悟浄に抱き着き、私は意識のない二郎真君さんを抱えた八怪に向かって、
「お帰りなさい。そして沙悟浄の事、ありがとう」
と告げたの。
そして私達を見下ろす光が昇っていく。
「後は頼みましたよ」
捲簾さんの魂は光となって消えて逝く。
すると目の前に別の光が降りて来て重なり合う。
「サラ・・・待たせましたね。今から君のもとに逝きます」
時を越えた捲簾さんの戦いは終わった。
そして、
捲簾さんの意志は繋がれたの。
彼ら三人だけでなく、
この私達にも!
そんなこんな。
次回予告
蝕王覇蛇が倒された事はつまり、覇王が再び世に出る事だった。
法子達はついに!
そして最後の戦士は今・・・
次回話は新展開の神話編に突入するため、過去へ現地視察?
するためちょっと遅れます。
※今回の唯我蓮華編は「唯我蓮華~破壊神と呼ばれた少年~」の後日談
さらに「転生記」や今シリーズに登場したフォン(小角)と果心居士、蚩尤の物語の伏線回収でした。




