唯我蓮華~捲簾~
果心居士の暴挙を止められるのか?
捲簾の最後の戦い。
私は捲簾
私は中国遺跡の方舟の解析中、果心居士が死者の魂をエネルギーに変換する禁忌を犯して強行した。
既に方舟は起動し、しかも未だ遺跡には大陸を暗雲立ち込める程の悪霊が遺跡に集まって来ている。
その上、蚩尤なる化け物を異次元から出現させた。
果心居士は暴れる蚩尤を放置し、安全な場所に移って方舟を起動させるつもりなのだ。
当然、今のこの状況を放って置くつもりなのだから関係ない。
この場から去ろうとする果心居士を追えば、蚩尤と遺跡を埋め尽くす悪霊を野放しにする事になる。
しかしノアの方舟を使われてしまえば二度と私はあの世界に戻れないだろう。
私の選択は一方のみ。
「この状況を放ってはおけません!」
私の決断に果心居士は答える。
「お前の性格からそうすると思っていた。お前も過去に戻りたいと言っていたが、私とはその重みが違うのだ!決意の為に犠牲を被る覚悟がないからだ」
そう言い残し方舟と共に消えた。
一人遺跡に残った私は蚩尤と悪霊を止めなければならなかった。
「で、どうやるつもりですか?河童さん?」
「あっ?」
そうだった。
蚩尤と共に異次元から現れたのはもう一人いた。
人間の僧侶?
「私の名は捲簾。貴方は何者ですか?先程、沙悟浄と口に出していましたが知り合いなのですか?」
「私はフォンと言います。沙悟浄さんは私の恩人です」
恩人?沙悟浄が?
彼は私のいた世界のさらに数百年後から来た。
そして沙悟浄はその時代にいた。
つまり?
「沙悟浄はあの世界に渡れたと言うのか?」
私は全て理解した。
その為に私はやるべき事をしなければならない。
私は今から目の前の脅威、蚩尤と悪霊が遺跡から出ないようにする事。
そして果心居士を追う!
「どうやら私の知る沙悟浄さんとお知りあいでしたか?そして今は緊急事態てな事ですね?」
「フォンさん。私に力を貸してはくれませんか?今からこの遺跡を封印致します」
「この遺跡を封印?そんな事が出来るのですか?」
「出来るか出来ないかではなく、やらねばならない。それだけですよ」
「!!」
フォンさんは笑みを見せて頷くと、
「私に出来る事は言ってください。微力ながら助力させていただきます」
「お願いします!」
作戦は遺跡の装置を使い結界を張り、蚩尤ともども全ての悪霊を遺跡に閉じ込めること。
正直、今の私達に出来るのはそれくらい。
いずれ、他の誰かに遺跡の事は任せるしかない。
「では、行きます!」
フォンさんは印を結ぶと悪霊目掛けて結界を張る。
同時に私は蚩尤に邪魔されずに果心居士によってこの遺跡に施された悪霊を引き寄せる仕掛けを止めに向かった。しかし私の接近に気付いた蚩尤が襲いかかって来たのだ。
「うごぉおおおおおお!」
六つの腕から繰り出される弓矢、大剣に大鎌、盾に矛と大斧。私は紙一重で躱しながら蚩尤の背後にある遺跡の装置を目指す。
力任せに見えるが恐らく元は手練に違いない?
私の身体に傷が増えていく。
今の私の、河童の私では力不足。
「うぐぅわあああ!」
私は大斧を受け止め弾き飛ばされてしまった。
桁違いの相手に早くもピンチになる。
このままでは殺されてしまう。
何も出来ないまま。
何も叶わないまま。
サラと沙悟浄を残したまま。
その時、私は自分自身の過去が走馬燈のように廻っていた。
かつて人間だった時、五人の仲間達と百年の戦いを生き残った記憶。
神としての新たな人生で捲簾として生きた事。
二郎真君や楊善との友情。
そして遮那と過ごした時。
そして私の生きて来た長い時の意味は未来に起こる新たな戦いに備えるためだった。
運命に導かれし友を集め、再び救世主のもとで共に戦うための!
「そうですね。例え私が死んだとしても繋がなければならない。友に未来を!遮那に!沙悟浄に!」
今から私が行おうとしているのは、私にとっての禁術であり、そして・・・
私はサラの顔を思い出して瞼を綴る。
「サラ、ごめんよ。こんな私のために今まで有り難う。沙悟浄の事を頼みます」
私は印を結び唱えた。
「オン・アロリキヤ・ソワカ」
それは観世音菩薩真言。
「転生変化唯我独尊!」
直後、私の身体から神々しい力が閃光となって身を包み、そして光の中より強力な神気を解放させた。
そして光の中より現れた私の姿は、
私の神としての姿。
河童の前に転生した捲簾の姿だった。
「観世音菩薩・捲簾!」
その力を目の当たりにしたフォンさんは目の前に現れた神の姿に驚愕していた。
「河童が神に?とんでもない事だ」
私は転生前の私に戻っていた。
何故?今まで行わなかったのか?
この変化には私にとって命取りであった。
この転生変化は理を無視した逆行変化。
その応用の術で私は遮那を無理矢理豚の妖怪に転生させ、この私もその反動で河童に転生した。
しかし今の私の魂は偶然拾ったに過ぎない。
だから魂の定着が不安定で力に制限があるのです。
無理に力を解放させれば私の魂は耐えられずに分解して消滅する。
それは転生変化をしたとしても同じ事。
私はこの観世音菩薩の力で留められていた魂は失われる。
これは覚悟だった。
「この姿でいられるのも一時の間」
けれど今の私には出来ない事はない。
「この金色の力で!」
私の瞳が魔眼で光り輝いた時、この遺跡を覆う。
そんな私に襲い掛かって来た蚩尤。
「邪魔はさせません!」
私から放たれた閃光が蚩尤を寄せ付けない。
そこにフォンさんが飛び込む。
「蚩尤は私が引き受けます!」
「分かりました!」
フォンさんは印を結ぶと、その影から二体の妖怪が飛び出して来て蚩尤に襲いかかる。
「金角、銀角!」
金角と銀角と呼ばれる妖怪が冷気を放ち蚩尤の足下を凍らせて動きを止めてくれたその時、私は飛び込み遺跡の奥の石版に掌を合わせる。
すると悪霊を引き寄せていた遺跡の作動が止まる。
「今だ!」
私は遺跡自体の持つ結界に自分の力を同調させ作動させたのだ。
「フォンさん!私の手を掴んでください」
「は、はい!」
フォンさんは金角と銀角を再び影に収めると差し出した私の手を掴む。
同時に私は遺跡の外に向けて、
「無瞬間移動」
遺跡の外に飛び出したのだ。
空中に浮遊する私にしがみつくフォンさんは崩壊していく遺跡を見下ろしながら、
「あの遺跡はどうなるのでしょうか?」
「恐らく、数百年先に再び開かれるでしょう」
「そうですか。そうですよね。なら私が貴方の結界を見守りましょう」
「すみません。今の私にはあの遺跡を一時的に封じる事で精一杯でした」
そしてまだ遺跡の外には目的場所を失い暗雲のように漂い飛び回る悪霊が残っていた。
「このまま放っては置けませんね」
私は印を結び念を籠め発した。
「漂う魂よ!鎮まりなさい」
遺跡の上空から私を中心に光が広がっていく。
暗雲の隙間に光明が差し、障気が浄化していった。
数百万、数千万の悪霊の魂が天に召されていく。
その行いにフォンさんは無意識に拝んでいた。
そして遺跡全土が地割れと共に再び地中へと沈んでいき再び跡形もなく消えていた。
残るは・・・
私は果心居士を追おうとした時、
「私もお連れください!必ずお役に立ちますゆえ!」
私は頷くと、フォンさんを連れて瞬間移動した。
私とフォンさんが移動した場所は海上の空中だった。
「孔雀印・浮遊霊気」
フォンさんは自力で浮遊していた。
「貴方、特殊な力をお持ちなのですね?」
「恐れ入ります」
そして私達の視線の先には逃げていたのに先回りされて驚く果心居士が見えていた。
「まさか先回りしたと言うのか?そこまでして私の邪魔をしたいようだな!ならば私の手で始末してやるぞぉー!」
理を操作出来る果心居士の能力にして私に出来る事。
「魔眼・未来視野」
私の金色の魔眼は果心居士の選択する何千何万通りの未来を同じく見通し、そして逃げ場を奪う。
「ば、馬鹿な!?私の選択する未来が消えていく?有り得ん!」
そして選択肢を失った果心居士は私の放たれた霊気砲に吹き飛ばされたのだ。
「果心居士よ!もう諦めるのです!」
そして浄化の光を照らすとノアの方舟にエネルギーとされた悪霊の魂が浄化されて消えていく。
「そ、そんな・・・私の希望が!」
膝を付き、愕然となる果心居士は涙を流していた。
喪失感は怒りの怨みの念となり、
その現況となった私に突進して来る。
「終わりにしましょう」
私は掌を果心居士に向けたその時、
「!!」
突如、私の力が急激に抜けていき、そして身体が透け始める。
まるで存在が消えるかのように。
「捲簾さん!」
心配するフォンは意を決して掌に気を籠めると、金の錫杖が出現して向かって来る果心居士に迎え討つ。
「キサマ!邪魔をするなぁー!」
鬼気迫る果心居士にフォンさんは錫杖に力を籠める。
お互いが衝突するその直後!
「!!」
二人の間の空間が歪んだのだ。
これは?
「ま、まさかお前もノアの血統なの・・・か?」
「何を言っとるか分からん!」
そして二人は共に弾かれるように空間の歪みに飲み込まれてその場から消えてしまったのである。
「二人は何処へ?」
しかし心配する時間は私には残されてはいなかった。
私はもう消えるタイムリミットが迫っていたから。
「サラ・・・沙悟浄、戻れなくてすみません」
私は最後の力を振り絞り、目の前に残っていたノアの方舟に掌を置き、そして光となって消えた。
その頃、日本に残されたサラと沙悟浄は狂気となった人間達に捕らえられていた。
そして河童達の前に生贄として差し出されていたのです。
「この親子はお前達にやる!だからもう我々人間の領地に入って来ないでくれ!」
河童の首領も人間との争いは意に反していたため、サラと沙悟浄を手に入れると了承した。
「我々、河童と人間族との抗戦はこれで終わりとしよう」
そして戦争の終結とともに、サラと沙悟浄を皆の前で生贄として首を落とす事になったのだ。
「お願いします!沙悟浄だけは助けてください!この子はまだ赤子。何の罪もありません!お願い致します!私は喜んでこの命を捧げますから!」
泣いて懇願するサラに河童の一人が槍を突きつける。
母の死に赤子の沙悟浄は泣き叫ぶなかで、胸を貫かれながらも沙悟浄を庇うサラは涙を流しながら抱きしめて優しく言葉をかける。
「ごめんなさい・・・沙悟浄、私は貴方の成長を見届ける事が出来ないの。だけど、お願い。貴方は優しい子に育って欲しい・・・生きて」
そして力尽きサラは命を落とした。
それでも怒りに荒ぶる河童達は赤子である沙悟浄すら許すつもりはなかった。
サラの身体を貫いた槍を抜き、沙悟浄を刺そうとする。
その時、突如一帯を閃光が覆う。
「!!」
河童達の目を眩ます光が天から差し込まれたのだ。
そして光の神が降りて来て、沙悟浄を守る。
突然の出来事に河童達は恐怖におののき、頭の皿を庇いながら拝むようにしてひれ伏す。
「赤子は殺しません!お願いします!お助けください!お助けください!」
すると悪意を持った河童は全て石化し、または干乾びて倒れていく。
また懇願し沙悟浄への殺意を失った河童達は生き延びれたのだった。
それから数年の時が経った。
沙悟浄は成長していた。
沙悟浄は過去に自分に起きた事は覚えてはいなかった。
周りの河童達はその後も沙悟浄を殺そうとはしなかったが、村から外れた場所に小屋を建てる事を許して構う事もなく生かせる事にした。
親も頼りになる者もいないまま。
そんな時、夢を見たのです。
「めざめるのです。時が来ました。旅立ちの時が」
その声は懐かしくも感じたが誰か分からなかった。
不思議な夢。
その夢に背中を押されるように沙悟浄は河童の里を離れ、旅立ったのです。
目指すは何故か海の遥か向こうの異国。
「さて~旅立ちの第一歩ですよ~」
無謀にもイカダで海を渡り。
沈んで海に溺れ流された。
「あれ?私、死んじゃうのですか〜??」
そして意識なく沙悟浄が沈んだ先にあったのは?
あのノアの方舟だった。
沙悟浄は光に包まれ方舟の中に入ると、神々しい光が方舟を起動させた。
それは私が最後に施した思い。
私は自分の残った魂をノアの方舟に流しエネルギーにしたのです。
既に消えかけていた私の魂は時間はかかったけれど、ノアの方舟を動かした。
そして沙悟浄は時を渡り、並行世界へと飛ばせたのです。
これが全ての経緯。
そして沙悟浄は旅の中で出逢った。
遮那であった八戒、そして孫悟空と阿修羅。
数奇な運命の絆で結ばれた友。
彼らは運命はまた彼女を守るために戦うのだろう。
神を導きし救世主と共に!
次回予告
捲簾の過去を知った八怪と沙悟浄。
しかしその前には捲簾覇蛇が残っていた。




