唯我蓮華~河童包囲網~
捲簾と人間の娘サラとの間に産まれた赤子
その赤子は名付けられた。
沙悟浄と
私は捲簾。
私は神であった力を全て失い、元いた世界に戻るすべも尽きた時、自分の役目がもう終わってしまったのだと諦めかけていた。
しかし人間の妻との間に産まれた我が子が、
私が探し求めていた友の転生者だと気付いてしまったのだ。
私にはまだ役目が残っている。
諦めてはいられない。
私の子を私いた世界へと届けなければならない。
遮那のいる世界へ!
そして他の友のいる世界へ!
導きし救世主を守る為に・・・
私は再び研究を始めた。
時と世界を越えるための研究に没頭する。
そんな私を何も言わずに支えてくれる妻に感謝しながら。
しかし私達の目の前に良からぬ動きがあったのをその時の私は気付いてはいなかった。
私と同族の河童達が人間の娘と恋仲になり、そして子を授かった事に憤怒していたのだ。
河童の私はこの地の族長の一人息子だったため、族長は他の地の族長の娘と計略結婚させるつもりでいたから。だから人間の妻は邪魔なのだ。
「息子を連れ戻せ!」
河童達は私と妻子を引き離そうと河童達を差し向けていた。
しかし・・・事は良からぬ方向へと起きてしまったのである。
私達へ差し向けた者達が惨殺されたのだ。
それはもう反逆罪。
例え我が子とて一族殺しは許せる事ではない。
ついに私を引き戻すのではなく討ち取るように命じられたのである。
しかし分からない事があった。
河童達を殺したのは私ではなかったからだ。
他部族の大河童の族長が集い、腕利きの河童の戦士を貸し出した。
それは恩を着せて、一人息子を殺した後はこの地を横取りするつもりで。
南の河童戦士は力持ち
西の河童戦士は武器使い
北の河童戦士は念力使い
東の河童戦士は仮面を付けた札使いだった。
それは突然の襲撃だった。
私達家族の住処はたちどころに数百の河童達に囲まれ、一斉に襲われた。
「居らんぞ!奴は何処ぞ!?」
しかし私はただならぬ殺気に気付き妻子を連れて既に逃げ出していた。
それでも河童の包囲網は全国各地に広がっていた。
私達家族の逃亡の日々が始まったのだ。
「私にはやらねばならぬ使命があると言うのに」
何も言わないが、人間である妻と赤子の沙悟浄にはこの逃亡の生活は心身ともに辛いに決まっている。
「私は貴方と沙悟浄がいれば幸せです」
私はサラの肩を抱き寄せて誓う。
妻も子も必ず私が守りきってみせると!
しかし私には神であった力を失っている。
かつての自分なら数千数百万の河童達を軽々と一掃出来ただろう。
しかし今の私は・・・
「ガハハ!俺は南の岸砕坊と申す。お前を倒して俺は手に入れる!」
「手に入れる?何を?」
「佐賀の姫君をな!だからお前には死んでもらう」
佐賀の姫君とは私と結婚させられるはずだった河童の姫君だった。
そして私を殺した者が代わりに姫君を手に入れられるのだそうだ。
「うぉうりゃああ!」
岸砕坊は目の前にあった岩石を持ち上げ投げ付ける。
何て怪力だろう。
しかし私は軽々と躱して避けると今度は大木を引き抜き、私に向けて振り回して来た。
例え神力は失われようと残された知識とセンスは今の河童の身体でも使える。
振り回される大木を躱しながら私は掌に妖気を集中させた。
「今の私でもこのくらいなら使えます」
それは水術の奥義。
「河童の川流れぇー!」
「えっ?あ、うゎあああああ!」
掌から噴き出した濁流が岸砕坊を飲み込み飛ばしたのだった。
河童の川流れとは濁流に妖気を混ぜた水術で、その水流に飲み込まれると力を吸い出され濁流の中に分散して無力化してしまう。
私は気を失っている岸砕坊を大木に縛り付け、その場から離れた。
たとえ追手としても殺生をするつもりはなかったから。
しかし?事の発端となった私達家族に差し向けた河童達を殺した者は何者なのだろうか?
とにかく何処か遠くへ逃げなければならない。
問題は沢山ある。
この世界は人間が多く、妖怪は身を潜めていた。
私も変化の術で人に紛れて渡り歩く。
次の村への一本道を妻子を連れていた私達に、
「!!」
私はすれ違いざまに毒針が飛んで来た事に気付いて背負っていた袋を広げて毒針を包めて落とす。
「よく防ぎましたね?私は西の翁計牙と申す」
西の河童戦士は武器使いのようだった。
手にした鎌を振り回して私に間合いを取ろうとする。
私は背に妻と子を庇いながら凌ぎきる。
「きぃええエイ!」
翁計牙は鎌を投げつけると、その刃は分裂して二つになって向かって来た。
「安心なさい。お前達は必ず守りきります」
私は腰の枝に妖気を籠めると水が枝を覆いながら伸びていき剣のように代わる。
「!!」
私の水気を纏う剣は翁計牙の鎌を両断すると、その隙に飛び込み翁計牙の喉元に剣を軽く押し当てる。
「私は殺生は望みません。このまま見逃してはくれませんか?」
「そんな事をすれば私は仲間に殺されてしまう!」
「そうですよね。なら!」
私は水剣を翁計牙の口の中に押し込んだのだ。
「ウゴっ!ごごご!」
翁計牙は大量の水を飲み込み気を失った。
私は剣を水に戻して強引に飲ませたのだ。
しかも即効の睡眠薬を混ぜて。
これで私達は二つ目の難所を抜けたのだ。
しかし私達が逃げ着ける場所があるのか?
あるのです。
私達が向かっているのは異国。
今、私達がいるこの小さき国は日本と呼ばれ、海を越えたその先に目的の中国という大陸があるのだ。
そこまで辿り着ければ日本妖怪の河童達も追っては来られないはず。
さらに私のいた時間軸、並行世界は中国に似た世界だと分かり、この日本国よりも中国の方が手立てがあるかもしれないと思ったから。
だからこそ海を渡る必要があった。
しかし浜辺には既に河童達が武器を手に待ち構えていた。
それにしてもこの国の河童の連帯力は厄介で仕方ない。
「あ、貴方!」
「!!」
隠れていたはずのサラと沙悟浄が宙に浮かんだ状態で宙吊りになっていたのだ。
「これは念動力か?」
念の力で金縛りにして物を動かす。
似た事は気を使い、物を動かしたり、金縛りも出来たが、今私達にかけられているのは意思の力を形にした能力なのだ。
「掴まえたよ〜。北の子修与坊とは僕の事だよ。貴方を殺せば好きな物を何でもくれるんだって。だから死んでよ?ねっ?」
その河童はまだ童だった。
けれどその念動力の強さにより北の大河童に養子にされて力の象徴として使われていたという。
「そうはいかないです。君に殺されるわけにはいかないのでね?」
けれど私も容易くはありません。
「せぇい!」
私は妖気を高めて金縛りを解いたのです。
そして子修与坊の念力に同調させるかのように気を放つと、子修与坊の念力は消えてサラと沙悟浄が自由になる。
「嘘?僕の念力が効かないなんて?」
私は頭上に気を籠めると閃光の如く皿が発光して飛び散り子修与坊の目を眩ませた。
「河童閃光手裏剣」
「ま、眩しぃ!?」
直後、子修与坊の背後に現れた私が当て身を与えて気絶をさせたのだ。
「大丈夫か?二人とも?」
「はい。貴方!」
後は海岸で待ち構える河童達を何とかすれば、後は海に出て中国に向かうだけ。
が、しかし?何て事だ?
海岸に待ち伏せていた武装していた河童達が全員血を流して息絶えていたのだ。
そしてその中心に一人立っていたのが?
東の地の用心棒。
仮面を付けた札使いだった。
「そこに居るのだろう?俺の目的のため、お前が必要だ。黙って着いて来て貰うぞ」
その者を見て察していた。
その姿は幻惑にて河童の姿に見せていたが、河童ではないな?
奴は人か?
しかも仙術を体得した!
私が必要とは、この者は一体何者なのだろうか?
次回予告
謎の仙術を使う者の正体とは?
物語は絡み合っていく。




