切り札を掴め!悲劇が生んだ一欠片の希望!
金色の魔眼の解放と二郎真君を取り込み更なる力を得た捲簾覇蛇は、
新たに救世観世音へとなった。
私は法子。
救世観世音は二郎真君さんを取り込み、更に金色の魔眼までも覚醒してしまったの。
その上万が一倒せたとしても覇王が再び世に蘇る。
最早、何者も手出しが出来ない。
それでも八怪は一人諦めてはいなかった。
「ぐぅらあああ!」
八怪は釘鈀を竜巻のように振り回し、雷撃の如く叩き付け、豪雨のように止まない攻撃はまるで嵐!
それでも救世観世音は全ての攻撃を寄せ付けない。
「無駄だよ!無駄!今の私には最早いっぺんの隙はない。だからそろそろ消えなさい!」
「!!」
差し出された掌は八怪の見上げる眼前に止められる。
閃光が八怪を飲み込み吹き飛ばすと柱に陥没し衝突する。
全身を血だらけになりながら吐血し落下する。
それでも、
「う、うぐ!」
八怪は立ち上がる。
そしてポケットの中に入っているモノを握ったの。
その中にあるものとは?
私達は戦いに出る前に捲簾覇蛇から沙悟浄の身体を取り戻す手段を錬体魔王さんに相談していた。
そこで錬体魔王さんも自らの存在自体が捲簾覇蛇と同質の状態ではないかと推測した上で、研究して貰っていたの。錬体魔王さんは過去に死を体験した際に妖恐ティラノって化け物に魂を寄生した。
それは魂の錬金術であり不死の実験として完成したと言うの。
「自らの魂を対象の魂に強制的に融合させて己の意識下に置く。これが成功したならば間違いなく不死に最も近づける」
錬体魔王さんは先にこの実験で成功させていた素体がいた。
弱小の鳥妖怪を実験に繰り返し、その素体は自らの魂を別の身体に寄生する事に成功させた。
その妖怪は後に錬体魔王さんのもとから逃げ出して器を変え姿を変え続けて名を変えて三百年前は七十二体いた魔王にまで昇格したらしく、今は九頭駙馬と言う妖怪で未だに生存してるとか。
ん?ソレって金禅子の手下にいなかった?
だからこそ錬体魔王さんは自らの身体を実験に使い捲簾覇蛇攻略の術を作り出していたの。
そして出来上がったのが・・・
「分魂札」
八怪は自分の胸にも札を貼り付けていた。
そして手にした分魂札を救世観世音の胸に貼り付ける事が私達から託された任務。
けれどそれは簡単じゃない事は百も承知。
無防備に貼り付けられやしないし、眠っている?または気絶させて貼り付けるしかない。
そこでまた必要になるのが八怪の胸に貼り付けた札。
もし貼り付ける事に成功したのなら八怪の魂はお互いに貼り付けられた札の作用で救世観世音の中へと吸収される。そうすれば後は精神世界で沙悟浄の魂から救世観世音の魂を剥がすのよ。
この札の効果は魂を一度分解させる。
そして沙悟浄のみ魂を錬成して再構築する特殊な札なんだって。
この札こそ切り札なの!
「何があっても仕事はこなすらよ!」
八怪は押し込まれる圧に耐えながら震える足に力を込めて立ち上がっていく。
そして何より八怪は誰よりも強い思いがあった。
自分を見下ろして妖しく笑む捲簾大将さんの姿。
「・・・・・・」
まるであの時と被る。
けれど今回はあの時とは違う。
あの時?あの時とは?
かつて八怪が遮那と呼ばれた転生前、何者かの陰謀で追われる身となっていた。
そこで追手として現れたのが捲簾大将。
遮那を育て導いていた恩師。
しかしその時の捲簾大将は何者かによって洗脳されていたの。
そうとも知らず遮那は捲簾大将に裏切られたと思い対決したの。
そして二人は天界軍が放った破壊兵器により二人は閃光に飲み込まれ消滅した。
その死の間際、遮那が思う事は捲簾大将を信じられなかった自分自身への怒りと後悔。
だからこそ再び転生して相見える今、八怪に出来る事は?
「捲簾はこの世界を大切にしていた。ありとあらゆる全てに慈しみをもっていた。そんな捲簾の姿で世界を壊すような真似はさせないら!蛇神なんかに自由にさせてたまるらかぁー!」
八怪の魂が感情に強く反応する。
そして芯から沸き上がる力が発現したの。
黒き前髪が揺れる中より見え隠れする八怪の瞳は神々しく金色に光り輝いたの。
「金色の魔眼」
その奇跡の力は八怪の傷付いた身体を包みこむと傷が徐々に塞がり消えていく。
コレって再生の能力?
「うぉらあああああ!」
雄叫びと共に八怪は全身を金色に纏われ上空で見下ろす救世観世音に向かって突っ込む。
「それ以上近寄せん!」
救世観世音もまた金色の魔眼が発動して互いの力が衝突したの。
これはもう最強の盾と矛!
けれど、その力の均衡は第三の力によって崩されようとしていたの。
それは私を倒して先に向かっていた鉄扇ちゃん!
救世観世音と八怪の衝突に向かって鉄扇ちゃんが割り込み突っ込んでいた!
けれど、その矛先は八怪に向かってだったの。
「お願いだから邪魔しないでぇー!」
完全に無防備だった。
鉄扇ちゃんの羅刹の手刀が八怪の腹部を貫く。
「うグッ!」
八怪は鉄扇ちゃんの接近に気付いた時、払い除ける事は出来たかもしれない。
けれどもし払い除けたなら、二人の金色の力の渦に飲み込まれて鉄扇ちゃんの身が危うかった。
だからこそ八怪は自分が貫かれる事を覚悟してでも鉄扇ちゃんを守り、貫かれたの。
「ふははははは!まさか飼っていたお前が役に立つとは思わなかったぞ!」
その惨劇に救世観世音は高笑いし、そして金色の波動を籠めた掌を向ける。
「共々、消えよ!」
救世観世音は自分の身を守ったはずの鉄扇ちゃんごと八怪目掛けて消滅の破壊波を放とうとしたその時、その場に私も脳震盪を起こしつつ頭を支えながら駆けつけた所だった。
そして次に目の前で起きた悲劇に対してを叫んでいた。
「い、いゃああああ!」
何が起きたって?
八怪と鉄扇ちゃんに向けて消滅の破壊光線が放たれようとしたその時、救世観世音の背後に飛び出して来た人影が見えたの。
その人影は救世観世音に向かって無謀にも手にした分魂札を突き出して貼り付けようとした。
その気配に気付いた救世観世音はその行為が自分自身を苦しめると本能的に気付き、八怪と鉄扇ちゃんに放つために籠めた破壊の波動の軌道を変えてその人影に向けて放った。
「!!」
直撃した金色の破壊波はその存在を私達の目の前で消滅させていく。
そして八怪と鉄扇ちゃんも自分達を救った者の姿が消えていく事に気付いたの。
「う、嘘?なんで?なんでよ・・・」
放心状態になる鉄扇ちゃんは涙が溢れ出す。
二人を助け身代わりになったのは・・・
は、白骨乙女さんだった。
消え逝く中で鉄扇ちゃんは白骨乙女さんの魂の声を聞き取っていた。
「今度は私があんたの命を救うわ・・・だからその命は自分が幸せになるために使いなよ」
その言葉を最期に白骨乙女さんは消滅したの。
すると消え逝く白骨乙女さんの身体から噴き出すように妖恐ティラノが飛び出して来て救世観世音に向かって噛み付き押さえ付ける。
「離れろぉ!?この異形の化け物!!」
完全に救世観世音は隙を付かれた。
逆上し手に籠めた金色の手刀で恐竜の頭を幾度と貫き、そして破壊波を内部から暴発させて粉々にしてしまう。それは錬体魔王さんの死を意味したの。
そんな衝撃の惨劇の中で鉄扇ちゃんの前に一枚の札が舞いながら飛んで来て手に掴む。
その札は白骨乙女さんが消滅する前に投げた分魂札だったの。
「どうして私のために命を張ってんのよぉー!」
鉄扇ちゃんの押さえ付けて来た感情が友人と思えた白骨乙女さんの死で爆発した。
「うわぁああああ!」
鉄扇ちゃんは本能的に飛び出していた。
そして飛んで来た札を手に取り掴むと同時に救世観世音に向かって突進していたの。
「ハァハァ。やはり裏切るか?ならお前も小賢しい下等種共々消し去ってやろう!」
鉄扇ちゃんに向けられた金色の破壊波が放たれ、直撃したその時!
その破壊波は鉄扇ちゃんから解放された力によって拡散し、延命城に降っていき破壊していく。
「馬鹿な?何故私の金色の力が通用せんのだ!?」
が、しかし目の前にまで鉄扇ちゃんの接近を許してしまい、同時に気づく。
鉄扇ちゃんの瞳が自分の魔眼と同じく金色に光り輝いている事に!
その動きは救世観世音の防御を貫き、そして突き出したのは白骨乙女さんが残した切り札だった。
「お、おのれ!まさか私に触れ・・・くっ、うぬぅうあああああ!」
貼り付いた札は救世観世音の胸元で閃光を放った。
「後は任せるらよ」
すると黒い影が吸い込まれるかのように救世観世音の中へと消えていったの。
悲劇が生んだ一欠片の希望。
私は白骨乙女さんと錬体魔王さんの最期を目の当たりにして、止めどなく溢れ出る涙を気力で拭うと再び戦うために立ち上がったの。
私達に今出来る事は泣く事じゃないのだから。
そんなこんな。
次回予告
八怪は沙悟浄を取り戻せるのか?
そして法子と鉄扇の前にはまだ救世観世音が残っていた。




