蛇神伝承編! 「どうしたい?」
それは蛇神伝承。
その中で起きた物語
私は法子。
私は今、軍駝覇蛇の人間だった記憶を見ていたの。
記憶の世界では蛇神に目を付けられた村の巫女様が生贄に選ばれてしまったの。
ただ巫女は特別な存在で、その命を守るために魔物をお金で始末する退魔師を雇っていた。
しかもその退魔師がどうやら私達が戦っている覇蛇達の人間だった過去の姿みたいなの。
「そんなの有りなの?」
で、私は好奇心もあってその記憶をもう少し見ている事にした。
村の長の条件を了承したのは四人。
恐らく蝕王覇蛇と喰殖覇蛇の前世の二人、それに薬師の男と大盾を背負った男。
兄弟の名は兄の無冠と弟の執心。
薬師の名は薬膳、大盾の男は頑鋼と言うみたい。
そして蛇神討伐に不参加して外に出て行ったのが二人。
女装の男の名は香梁、そして軍駝覇蛇の前世だと思う彼が螺旋。
彼らは蛇神とは別の生を送っていた。
その夜は先の戦いに向けて情報を得て確認した後、宴を開の続きをして酒を飲んでいた。
「巫女様!お止めください!化け物は連中に任せて巫女様はお隠れにおなりください!」
その者は村の戦士だった。
「姫の代わりに俺が戦います!見事、あの化け物を倒してみせましょう!」
「与那、貴方の気持ちは有難いですが、私が戦わなければあの脅威は滅する事は出来ないのです」
「それでも貴方は生きて貰わねばなりません!」
すると与那は巫女の肩を掴み壁に押し付ける。
「与那?何を?離しなさい!」
「そのために貴女を事が済むまで隠させていただきます。付いて来て貰おうか?」
「何を馬鹿な事を?」
そう言って手首を掴み連れ去ったの。
って?何?この状況?
「離して!離しなさい!与那!」
「貴女は俺が手に入れる!だから死なせない!言う事を聞け!貴女を手に入れ俺がこの村を!この土地、この国を手に入れるのだ!」
この与那って男は巫女を自分のモノにして、巫女の名の下にこの村を拠点にして勢力を広め国を支配する目的なの?そんな事が?
出来るようなの。
この巫女様は村を拠点に広がる人間の国々の王が現れては、国の先行きのお告げを聞きに来ていた。一国の王が自ら足を運んでまで。巫女を手に入れ、思いのままに従わせようと出来たはずなのにしなかったのは巫女を敬い、崇め、畏怖していたから。
そんな巫女様を手に入れられれば周辺の国を手に入れる事も容易い。
主導権を裏から握る事も。
そして与那は村から離れた洞穴の中へと巫女連れ去り、祠のある牢に閉じ込めようとする。
「お前達、良いな?他言無用だぞ?」
「お任せください。与那様」
与那は村の警備をしていた隊長で、直属の部下に巫女の見張りを命じていたの。
「与那!このような真似をしても何も変わりません!魔物討伐には既に私がその場にいると告げられているのですから!」
「あはは!いくら巫女の予言でもこの祠には誰も助けは来ませんよ?そして俺が命じなければ出す事も許さない!良いか?あんたは俺の所有物だ!」
「与那」
その時、背後から物音がしたの?
誰も入って来るはずのない洞穴に。
「その巫女は俺達の雇い主だ。勝手な真似をしないで貰おうか?」
その声の主は螺旋、そしてその背後にニヤニヤ笑いながら壁に寄りかかって見ている香梁だった。
「お前ら?何のつもりだ?外の見張りはどうした?」
「見張り?入り口で寝かして来たが?」
「何だと?お前達二人は魔物へ臆病風に吹かれ逃げたのではないのか?邪魔立てする事は許さんぞ!」
「そうか?なら勝手にするが良い。ただし俺達はその巫女さんを連れ帰る。俺達を止められるものならやってみろ!」
「あ〜ら?私も働くの〜?螺旋」
「暇だろ?」
「はいはい〜」
与那は部下達に命じて螺旋と香梁を襲わせる。
しかし二人の強さは圧倒的だった。
そして螺旋が与那の首を掴み締め上げる。
「このまま殺しても良いんだぜ?」
「は、離せ!止めろ!止めてくれ!」
命乞いする与那に螺旋が冷酷な目をしたその時、
「離してやってください。殺生は許しません」
巫女が止めたの。
「良いのかい?このまま放って置けば、また害になるかもしれんぞ?」
「構いません。それに私は」
「?」
螺旋は与那を離して逃してやると、巫女に近付く。
そして刀で廊の檻を破壊した。
「心変わりした。魔物討伐に手を貸してやっても良いぞ?ただしお前の返答次第だ」
「!!」
その後、巫女様は一人で湖のある場所にいたの。
そして思い出していた。
せっかく心変わりしたと思われていた螺旋は巫女様から離れて村を出て行ったの。
あ、あれ?
戻って来たんじゃないの?
そう。あの時、螺旋は巫女様に問いかけたのは?
「お前の覚悟を聞かせて貰おう」
その返答は、
「この私の命を使ってでも、あの魔物は必ず野放しにはさせません!それが私の役目なのですから!」
覚悟と決意は本物だった。
しかし螺旋は気に食わないと立ち去って行ったの。
何が悪かったと言うの?
何が気に食わなかったと言うの?
何か文句あるの?
もしかして思わせぶりだったの?
結局、巫女様は一人で村に戻るしかなかった。
湖を見て思う事は、来たるべき決戦日。
「私の命は魔物を倒すためにあるのよ。父上様も母上様もその為に私を育ててくれた。厄災を祓うのが巫女の役目。この国を守る事が私の生きる意味」
そう口に出して言い聞かせていたの。
けれど脳裏に過ったのは螺旋の捨て台詞だった。
「死にたきゃ勝手に死ね!」
その言葉を思い出す巫女様は立ち止まると、
「死んでたまるもんですか!誰が好き好んで死にたいと思うの?馬鹿じゃないの?私だって生きたいわよ!生きて生きて、思いっきり楽しく自分の人生を送りたいわよ!」
えっ?何?み、巫女様?
それは巫女様の本音だった。
てか巫女様?何か他人事に思えないわね?
てかてか友達になれそうだわ。
時代こそ違えど、それはまだ十代の女の子の内心から出た言葉。
魂の叫び。
涙を流しながら湖に向かって叫ぶ。
生きたいと思う当たり前の欲求だったの。
巫女様は息を切らせながら発散した後、
「けれど私がやらなきゃ、私の大切な皆が死んじゃうから。私には守れる力があるの。だから力を持って産まれた者の義務なのよ」
そう呟いた時、何処からか声が響く?
「あははは!ようやく本音を漏らしたようだな?巫女様よ?それがお前の魂の叫びだな?」
「えっ?」
振り向くとそこに立ち去ったはずの螺旋がいたの。
「お前、去ったのではないの?」
「そうするつもりだったさ。お前がいつまでも死にたがっていたからな?だが、改めて聞くぞ?お前はどうしたい?」
その問いに巫女様は笑みを見せて答えたの。
「私は死にたくない!だから絶対に生きて戻るわ!だからお願い?生き残るために貴方の力を貸してくれますか?」
すると螺旋は膝を付いて答える。
「巫女さん、あんたが生を望むなら俺はあんたを死なせない。俺がお前を生きて帰してやる」
どうやら螺旋は巫女様を試していたようなの。
生きる気が無いなら助ける意味がない。
だから生きたいと言葉に出して願うなら、力を貸そうと・・・て、つまり素直じゃないのね?
けれど悪い奴じゃないかも。
そんな二人の会話を離れた場所で木陰に寄りかかりながら聞いていたのは香梁だった。
「ほ〜んと!素直じゃないんだから〜嫉妬しちゃわよ。マジマジに。けれど仕方ないわよね?あの巫女さん、螺旋の死んだお姉さんにそっくりだから」
えっ?
螺旋と香梁は同郷から来た退魔師だったの。
両親は猟師で、住んでいた村が魔物に襲われた時に殺された。
混乱の中で螺旋の姉は幼い二人を大箱に閉じ込め「何があっても声を出しては駄目」と最期に言い残し、自分が囮になって魔物を引き付け襲われても声一つ出さず二人を助けた。
涙と声を押し殺し恐怖と悲しみの中で螺旋と香梁は助かったの。
そのトラウマから魔物に対して復讐するために、力を磨き、魔物を狩り続けた。
「生きるために戦う」
だからこそ村の為に犠牲になろうとしている巫女が死んだ姉と被り、その想いを聞いた上で生きたいと望む言葉を引き出したかったの。
そして運命の日が迫る。
そんなこんな。
次回予告
ついにヤマタノオロチが現れる。
巫女は?退魔師の運命は?




