軍駝覇蛇と法子の逃避行??
法子の前に現れたのは金吒を手にかけた軍駝覇蛇だった。
え〜私は法子よ?
私は軍駝覇蛇の後を着いて行きながら覇王の城から脱出を試みていたの。
けど何故?何故この軍駝覇蛇は私を逃してくれようとしているの?何か私、弱味とか握っていたかしら?思い当たる節が全くないわ。
「ねぇ?ちょっとさ〜?どうして私を助けてくれようとしているの?ねぇ?」
軍駝覇蛇は厳しい顔で私を無視して先を進む。
まさか!?
「この私を連れ出してイケナイ事しようと考えているんじゃないでしょうねー!?」
私の問いに軍駝覇蛇は立ち止まると、私を見る。
「な、何よ!なにか文句あるの??」
そして呟く。
「似ても似つかないな」
と、溜息を付かれたの?
えっ?何よ?その落胆した顔は?
「てか誰と私が似てないですって?」
私が声を荒げると軍駝覇蛇が顔を近付ける。
えっ!?
そして突然口を塞がれてしまったの。
あ、手でよ?手ね?
すると通路の先から蛇神兵がぞろぞろと見えて、曲がり通路を通り過ぎて行った。
「離してよ!」
私は離れると、もう蛇神兵の気配がない事を確かめた後に軍駝覇蛇を睨む。
「この領地は白蛇の巫女の目が行き渡っている。城を出て白蛇の巫女の結界を出るまでは静かにしていろ!良いな?」
「でもアンタなら力づくで何とか出来るんじゃないの?分かるわよ!アンタ、めちゃくちゃ強いって」
「そう俺を持ち上げるな。今、この覇王の城内には覇王の他に白蛇の巫女、そして新たに配下になった真蛇が二人。そいつらを纏めて相手出来る自信はないのでな?」
覇王と白蛇の巫女の他にこの軍駝覇蛇が不安視するような蛇神が他に二人もいるってこと?
少し話を遡るわね?
そこは覇王の玉座。
覇王の前には贅沢な料理に大量の酒が並べられ、覇王は喰らい飲み干していく。
その隣には白蛇の巫女が酒を注ぎ足している。
「俺は今飢えている。俺を奮わす猛者はどれほど残っている?」
覇王の問いに白蛇の巫女が答える。
「正直、この地上にはもう覇王様を満足出来る者はおりません。こうなれば天界の王である帝釈天、そして四天王達を倒してしまえば実質覇王様が世界の頂点に君臨と言って良いでしょう」
「お前の目は節穴か?」
「それはどう言う意味でしょうか?覇王様?」
「まだまだこの地上でも楽しめると俺の本能が告げている。近々俺の前に現れるだろう」
「そんな、ありえません!」
信じられない覇王の言葉に白蛇の巫女の脳裏に浮かんだのは救世主の存在だった。
それに白蛇の巫女も焦りを感じていたの。
最強を誇る覇蛇達が既に半数以上地上の者達に返り討ちにあっている事実。
そして真蛇王マダム(エキドナ)が討伐されたと言う信じ難い報告。
そのマダムが産み出した新たな真蛇王デルピュネの誕生とともに消された事実。
この地上界で今、何が起きていると言うのか?
「何が起ころうと覇王様には私がいる」
そう決意すると同時に、新たな蛇神が覇王と対になって酒を覇王から頂戴していたの。
牛帝覇蛇
殺された牛角魔王さんの中に眠っていた旧祖の蛇神の血を呼び覚まし、覇王の血に忠誠を誓い新たな幹部となっていたの。
その実力は覇蛇を上回る真蛇級の蛇神。
忠誠と共に覇王の血を得て真蛇王エキドナやデルピュネをも凌駕する力を手に入れていた。
恐らく覇王も認める。
認めるとは時が来た時に覇王と刃を交わす事を許されていると言う事。
そもそも覇蛇は覚醒すると真蛇と化す。
そして真蛇は覇王の候補であって、現覇王と合間見る事を許され、勝者が再びエデンの力を手に入れる事が出来るらしいの。そして現覇王は戦闘狂で配下に敢えて覇蛇の力を与えて、自分と戦うように命じているとか。全く何を考えているのかしら?馬鹿なの?
そこで死者の牛角魔王さんを蛇神として再生させて戦士として育てているとか。
自分と命の削り合える好敵手として。
そして近頃、新たな蛇神が異国より現れたようなの。夜刀神と名乗るその蛇神は覇王の居城に殴り込みを仕掛け、覇王の前に現れ対峙した。
しかし両者は争わず覇王が差し出した酒を夜刀神は受け取り、飲み交わしたと言うの。
まだ時ではないと。
そして夜刀神は取り敢えず覇王の所で世話になると同時に、今は地上の強者を根絶やしにするため配下の夜刀神の戦士を引き連れては地上の猛者を葬りに向かっているの。
で、残る蛇神は既にエキドナ同様真蛇の力を持つマダラがいるようだけど、その消息は白蛇の巫女ですら見付ける事が出来ないとか。
そんな時に入って来た真蛇のエキドナとデルピュネが何者かに討伐されたとの情報。
つまりそれは蛇神以外にも覇王を脅かす猛者がまだ地上に残っているという証拠だった。
騒がしくなった覇王の居城で、白蛇の巫女は覇王の趣味を奪う事になってでも邪魔になり得ると思われる全ての不安要素を始末するように動き出したと言うの。
でっ?
そのリストの中には私も入っているって?
「えっ?私もなの?」
その動きを先に知り得た軍駝覇蛇が先回りして私を牢獄から脱出させたと言うの。
「そこよそこ!どうしてアンタが私を助ける理由があるのよ?私と接点なんてないじゃない?」
けれど黙ったまま何も教えてくれなかった。
何か企んでいるのかしら?
それとも他に?
「ぷにゃ!」
すると突然軍駝覇蛇が私の顔前に腕を伸ばして歩くのを止められて私の鼻が少し短くなったの。
「痛い~馬鹿ぁ!何するのよ?」
「静かにしろ!追手だ!」
「えっ!?」
それは私が逃げた事に気付いた白蛇の巫女が追手を差し向けていたの。
しかもその追手が白蛇の巫女直属の配下で白蛇法師と呼ばれている七人の暗殺部隊。
その実力は魔導覇蛇の九蛇や、エキドナの配下の大蛇王と同等と思われる実力がある。
「奴等を始末しないと脱出は不可能だろうな」
「でもアンタなら出来なくないのでしょ?」
「どうだかな?」
曖昧な答えに私は不安がる。
「えっ?嘘?」
何よ?この状況は〜!
軍駝覇蛇は私の手を掴み抱きかかえると、
その状態で蛇神城の正面から突っ走る。
「きゃあああ!きゃあ!きゃあ!」
その動きに気付いた白蛇法師達が集まって来て、その杖から蛇気を放って攻撃して来たの。
「軍駝覇蛇殿?何のつもりでしょうか?直ちにその人間の娘を捨ててお戻りください」
軍駝覇蛇は白蛇法師の説得を無視して走り去る。
この地点で反逆者として判断されると上空が暗雲に覆われ、私達に向かって雷撃が振り落とされる。
「きゃああああ!」
私は抱き抱えながら雷撃の中を振り回される。
「ちょっとちょっと!離さないでよ〜落とさないでよ〜絶対に怪我一つさせないでよ〜」
そして私を抱きかかえながら飛び上がると蛇神城を覆う城壁を飛び越えて外へと飛び出す。
そして城壁から落下しながら私は宙を飛び回り追って来る白蛇法師達を見たの。
「このまま逃してはくれないみたいね?」
「何をするつもりだ?」
「こうするのよ!」
私は軍駝覇蛇の首に掛かっている数珠を取り上げ霊気を籠めると、寸前にまで迫る白蛇法師に向かって放り投げたの。
「閃光炸裂目潰し弾!」
つまりそれは名の如く目潰し。
閃光を放ち炸裂した術は白蛇法師の視覚を奪い私達を見失わせたの。
「勝手に使わせて貰ったわよ?」
「別に構わん」
そして蛇神城から遠く離れた場所まで移動した所で軍駝覇蛇は私を下ろすと、一息つく。
「あ〜目が回る〜!頭がガンガンする〜!扱いが雑ぅ〜!」
文句ばかり言う私に軍駝覇蛇は一息付く代わりに溜息をつく。
「本当に騒がしい娘だな?お前は」
「何よ?文句ある?」
「あの娘とはえらい違いだ」
「えっ?」
また?誰と比べられたの?私?
その時、突如私達は鳥肌が立つ。
私達を囲むように空間が幾つも歪み始め、中から白蛇法師が現れたの。
「うそ!私達の居場所を感知されてるんじゃ?」
「その通り。奴等からは逃げられない。奴等は探知に長けている。逃げ隠れしても無駄なら、やる事は一つ!」
「えっ?知ってたの?なら何処まで行っても逃げられないの?意味なかったの?」
「いや?そうでもないさ」
「えっ?」
すると軍駝覇蛇はニヤリと笑い戦う仕草をみせる?
「まさか戦うつもりじゃ?」
目の前には白蛇法師が七人集まっていた。
そして最後に白蛇の巫女が現れたの。
「軍駝覇蛇、どういうつもりかしら?大人しくその人間を私に差し出しなさい」
白蛇の巫女に対して軍駝覇蛇は答える。
「お前の指図に従う必要はない。俺は自由にやらせて貰う事を条件に覇王に従っていただけだ」
軍駝覇蛇は他の覇蛇とは扱いが違っていた。
他の覇蛇が己の血の覚醒のために討伐を率先して動いていたのにも関わらず軍駝覇蛇は蛇神兵の強化のため訓練を行っていた。
そのため蛇神城から外に出る事はあまりなかった。
唯一討伐に出たのは魔導覇蛇の討伐。
今まで手にかけたのは九蛇の一体と、理由は分からないけれど個人的な理由で金吒さん。
覇王に特別扱いされていて、自分の命令は効かない軍駝覇蛇に対して白蛇の巫女が面白く思っていなかったのは嫉妬でもあった。
「その人間を逃したって理由でお前を始末する理由には十分だわ。その人間の娘もろとも私が始末します」
すると白蛇の巫女の姿が白い蛇の鎧に覆われる。
鎧を纏った白蛇の巫女は白蛇王と呼ばれていた。
しかし軍駝覇蛇は笑みを見せて答えたの。
「どさくさに紛れにこの娘を殺そうとしたお前も罪だとは思うがな?まぁ良い。お前を覇王から引き離せた事で始末しやすくなった」
えっ?何それ?まさか私は囮に使われたの?
白蛇の巫女を覇王から引き離すための?
あ〜もう、私の見せ場無いじゃない!
そんなこんな。
次回予告
軍駝覇蛇と法子は白蛇王から逃れられるのか?
※325話の続き




