百魂刀~前世~
義経と弁慶の転生者が過去の因縁より、
現世にて百魂刀を集める旅に出た。
私が義経と初めて会ったあの日、私は今まで生きてきた全てを捨てました。
私が残れば、今回の件と同じような事件が繰り返される。
しかも、後九十九回は必ず起きる。
私は義経と旅に出ました。
言われた通り、私達の旅には奇妙な事件が付きまとい起きた。
「刀を返せ…」
私が前世で奪った百魂刀を奪い返すために現れた転生者達と奪い合いをする。
義経に守られながら…
そんな日常を繰り返していた時、私は転生者の刀によって、
「えっ?」
斬られたのでした。
深く沈むような世界に私は落ちていく。
これが死?
私は死ぬのね…
「ハッ!」
私は気付くと、宙に浮いた状態だった。
これって幽霊になったの?
違う…
私は見ていた。
過去に起きたもう一つの私の人生を…
『百魂刀…前世』
その頃、時は平安時代末。
町では奇怪な事件が話題になっていた。
夜な夜な現れる通り魔事件の話題が?
通り魔は腕の立つ剣豪で、「五条大橋」と呼ばれる橋に現れた剣豪を倒しては、その者達の持つ刀を奪っていた。
噂は広まり、通り魔を討伐しようと名のある剣豪は腕試しと勝負に出ては返り討ちにあう。
その日も剣豪達が橋に押し寄せ挑むが、全て斬り伏せた。そして奪った刀を通り魔は選別して、いらない刀は橋から捨てる。
通り魔は、
「一本か…」
これで通り魔は九十九本の刀を手にした。実際には倍の千本近く狩っていたけれど、必要としていない刀は捨てられていた。そこに?
「主よ?次は私の相手をしてはくれまいか?」
その者は橋の上に身軽に立って、笛を吹く若者。
『私の名は牛若丸』
通り魔はその美しき女性に見間違う若者を見て答える。
「命を粗末にするな?お前のような男か女か分からぬ者に何が出来るか?さもなければ早死にするぞ?」
「ふふふ」
「何が可笑しい?」
牛若丸は答える。
「お前とて女ではないか?数々の剣豪を倒した通り魔が、まさか女子とは思わなかったぞ?武蔵坊弁慶!」
武蔵坊弁慶?
しかも武蔵坊弁慶が女子?
影より現れた弁慶は間違いなく女子で、その顔は険しい顔をした私だった。
私が…弁慶?
「私が斬る者は特別な者のみ」
「特別な者?なら、私は貴女の特別になりたいですね」
「何を馬鹿な事を?ただの浮世離れした遊び人か?」
弁慶が義経を無視し後ろを向こうとした時、義経から強い殺気が放たれ、本能的に弁慶は刀を抜いた!
「馬鹿な?まさか達人…いや?それ以上の力を感じる?」
「達人か?どうだろうな?長く山にこもり、天狗に鍛えて貰ったからな?今の自分の力量は解らないから、誉め言葉と受け止めておきますよ?」
すると弁慶は刀を横一閃に斬ると、橋の柱が両断されて倒れる。牛若丸は足場を無くしたけれど、軽い身のこなしで飛び上がると弁慶の前に着地する。
「少しは本気になれるかい?」
「………」
牛若丸と弁慶は刀を交えた。最初は手加減するつもりの弁慶も次第に義経の強さに本気を出していく。
「馬鹿な?本当に人間か?」
「人間だよ。貴女も人間でしょ?」
「………」
答えない弁慶に興味を抱く牛若丸は、
「なら、私が勝ったら貴女の事を教えていただきますよ!」
瞬間、牛若丸の動きが閃光の如き動きで、弁慶を押し込み刀を跳ね上げた。
「私の勝ちのようだね?弁慶さん?」
「クッ!」
これが前世での私と彼との出会い?
この牛若丸こそ、後の義経さんであり、そして、武蔵坊弁慶が私の前世だって言うの?
嘘?
だって武蔵坊弁慶って?あのごっつい?
イメージが何か違い過ぎませんか?
その日を境に、武蔵坊弁慶であった私と義経は主従関係を結び、共に行動する事になる。
「弁慶よ?お前は何のために刀狩りを?」
その問いに、
「義経様。私は人間ではありません。私は…」
かつて、刀剣一族と呼ばれし一族で、刀の精霊。つまり妖怪だと言う。普段は人として生活しているが、死を間際にすると魂は剣へと変貌して跡に受け継がれるのだと説明する。
その一族がある日、襲われた。
敵は己の血を刀にする人間擬きの化け物。
当時、刀剣一族の首領であった弁慶の祖父は、その者と一騎討ちの後に勝利した。
しかし…
刀剣一族は交えた剣を吸収する能力があり、祖父は敵の血を能力を吸収してしまった。
その後、新たな惨劇が起きた。祖父は奪った血の魔力に自我を奪われ、同族を襲い始めた。そして襲われた者達も血の力を得て狂い始める。
そして狂った同族は各地に散って、斬る悦びに身を任せ人を襲うようになる。
「だから唯一生き残った私が、一族の私が同族を斬らなければならなかったの!」
既に弁慶は九十九本の刀を収集していた。
残り一本の刀を探すべく京の都にて、辻斬り紛いな事をして、噂を耳にした同族を呼び寄せていた。
が、結局見付からなかった。
現れたのは義経?
「なら、俺と共に行こう?俺といれば必ず、その一刀を見つけ出せるはずだ!」
「根拠は?」
「それは俺が運が良いからだよ?あはは!」
義経様と弁慶の長い戦いが始まった。
弁慶は女でありながら、その腕は達人の男も敵わぬ剣豪。やがて男勝りから、噂が噂を呼んで大柄の大男と広まった。
それから歴史の上を歩み始める。
そして、遂に最後の一刀が二人の前に現れた。
それが、まさかの人物。
源頼朝!
その人物は義経様の兄であり、当時の権力者!
でも刀剣一族でもない頼朝様が何故?
それは頼朝様が私と同じ能力を持っていたから。
私が何故、仲間の刀を奪ったのにも関わらず自我を奪われずにいられるのか?
それは魂の中に特殊な結界があるから。
それは最後に自我が残っていた祖父が私に施した術法。
カミシニの血を私の心臓にのみ流し入れ、特殊な結界を作ったの。
「一族を…す…救っ…て、おくれ…弁慶…せめて魂だけでも…」
この結界に私は散って狂人化した刀剣一族を狩っては、手に入れた半魂の刀を我が身に封じたの。
しかし頼朝様も同じ能力を手に入れた理由は?
狂った後の祖父は里を去り、辿り着いた場所は頼朝様の城。
そこで無数の兵士に斬られながら、
祖父が我が身を守る防衛本能で、頼朝様の中に私と同じ結界を作り、自分自身を封じたの。
ただ、問題が起きる。
頼朝様が祖父の精神を逆に奪い、記憶を知り、己の力としたの。
そして邪魔になる者の存在を知る。
それが弟であった源義経様だった。
義経様は頼朝様の政策の罠にかかり、謀叛者として追われる事になる。
それから私と義経様の逃亡生活が始まったの。
追っ手に追われ、数々の危機を逃れて奥州にまで辿り着いた。
しかし、そこで敵勢に押し込まれた。
傷付いた義経様を守るため、私は一人敵勢の前に薙刀を振るい出た。
「義経様は私が守ります!」
私の身体から無数の刀が現れては武器とし、斬りかかる兵士達を返り討ちにする。兵士達は私の姿を『化け物』と畏怖した。
気付くと斬られた無数の兵士の骸の上で、血塗れになって私は立っていた。
そこに?
上空より雨のように矢が降り落ち、刀で打ち落としていた私も力尽き、私はそこで…
最期まで義経様を守るべく立ったまま死んだ。
後に義経様は、奥方様と我が子を手にかけて自殺したと語り残された。
でも、真相は違う。
私が死んだとされるあの日、義経様は私の元に駆け付ける。
「義経様…後はお願い致します…」
そして私は自らの魂から一本の刀を抜くと、手渡す。
「弁慶!死ぬなぁー!俺はお前にまだ!」
だけど、私は義経様の言葉を最後まで聞く事なく力尽きたのでした。
そして残された義経様は、単身、頼朝様のもとへと向かう。
義経様は頼朝様の前に現れると、頼朝様は義経様が来るのを見抜いていたかのように待ち構えていた。
「義経…弁慶はどうした?」
「彼女は死んだよ…あんたのせいだ!」
「違う。弁慶は私のモノになるべきだった。それを貴様が!」
「何をヌケヌケと!」
「妻と子を残して来た男の台詞ではないな?今頃、お前の妻子には追っ手を向かわせておるぞ?」
「妻も子も…全て話して来た。私の我が儘を聞いて…命を投げ捨て私を送り出してくれた…」
「ふふふ。結局、貴様は何者も守れぬ。何をも成し遂げられぬのだ!」
「そうかもしれんな?だが、唯一…成し遂げねばならない事がある」
「それは?」
義経様は私から渡された刀を抜くと、
「頼朝!お前を斬る事だぁー!!」
義経様と頼朝様は刀を交わせ、互いに斬り合う。
そして互いに互いの心臓を貫いた時、義経様は叫ぶ。
「弁慶ぃー!!」
直後、義経様の刀から閃光が放たれると同時に、頼朝様から黒い影が飛び出して義経様の刀に封じ込められたのでした。
義経様の手にしていた刀は私が死して誕生した魂の刀だったの。
その能力は斬った刀の能力を封印する魔剣。
そして義経様も力尽き、息耐え、魂共に消える。
これが歴史の真相。
後に影が抜けた頼朝様は記憶を失い、その後は善政を行ったらしい。
そして、今の世に再び転生した私に惹き付けられるかのように、私が奪った百本の刀の残魂も同じく転生して今の世に甦ったの。
全ての記憶が甦った時、私は意識を取り戻す?
私の魂は今、夢世界に捕らわれていたの!
私は身体を拘束され、動けなかった。そして目の前には刀を持った者が私に刀を向けていた。
あの刀は?
「百魂刀・夢」
あの刀は夢を操る魔剣!私はあの刀で斬られて悪夢を?前世の記憶を見せられていたの?
そして、刀を持った者が私に言う。
「全てを思い出して死ぬが良い!弁慶!」
男が刀を私に降り下ろしたその直後!私が突然煙に包まれて消えたの?
「えっ?」
気付くと私は見知らぬ高校生に抱き抱えられて助けられていたの。
「あ、貴方は…誰?」
彼は答える。
「私かい?私は夢世界を操る夢術師・聖徳太子さ!」
えっ?
直後、夢世界がうねりをあげる。そして百魂刀・夢を持つ男が突然苦しみ出して消滅すると同時に、私は現世に引き戻された。
「私は?」
目覚めると義経が私を抱き締めて涙ぐむ。
「良かった…もうどうしたら良いか…俺…」
「義経が助けて?」
すると義経の後ろに学ランの…夢に現れた彼が立っていたの。
「彼が助けてくれたんだ」
「貴方は…確か?」
「そう。夢世界の夢術師・聖徳太子の転生者さ?君達と同じ転生者だよ!」
転生者?
私達以外にもいたの?
そして私と義経は同じく過去の宿命の旅をしていた太子君に総本山って異能力や転生者の集まる組織がある事を知り、そこにいけば私達の旅を助けてくれるはずだと教えて貰った。
それから私と義経は…
総本山に身を寄せる事になったの。
次回予告
百魂刀を探し続ける旅の終幕
そして、新たな戦いの先に?