甦りし太上狼君の切り札!
金角児と銀角児が消えた場所に現れたのは?
それは新たな神?
不死の妖輝覇蛇。
天界の宝具七星剣ですら倒せなかった。
そして金角児と同じく銀角児もその手にかかり、殺されたはずだった。
しかし妖輝覇蛇の放たれた妖気は突如現れた何者かに打ち消されたのだ。
何者?
その姿は成人した大人?
銀髪に交じる金髪。
その額には金と銀の角に、尖った獣の耳。
発する気は神気と妖気が混ざり合う神妖気だった。
神狼の獣神!
その者は自身の姿に思考を廻らした。
「全て思い出した」
思い出した?何を?何者?
そして予測も出来る。
成人した姿ではあるが、この神狼の獣神は金角児か銀角児なのではないかと?
しかし、どっちなのか?
その疑問に妖輝覇蛇は問う。
「そこの二枚目さん?あんた何者よ?さっきの金色と銀色の坊やの連れか何かかしら?」
神狼の獣神は静かに答える。
「俺は金角児であって銀角児だった者」
あの妖気の濁流の中で銀角児は金角児の声を聞いた。
その話の内容は驚くべき事。
嘗て天界から落ちて来た神の赤子は一つの魂から分かれた姿だったと言う事。
そして分かれた魂は金角児となり銀角児となり個別の双子の妖怪となった。
その事を分かれた時の右脳左脳の微妙な違いから金角児は薄々気付いていたのである。
けれど気付いていたが何もしなかった。
今のままで良いと思っていたから。
だがそうも言ってられなくなった。
目の前に現れた妖輝覇蛇の襲撃に手も足も出ない。
だがもし本来の姿へと戻れたら?
可能性はゼロから僅かに一へと変動するかもしれないと金角児は敢えて単身で妖輝覇蛇に挑み、殺された。しかし殺された事には意味があった。
金角児が死んだ事でその魂は銀角児と重なり合い、分かれていた魂は再び一つへと戻る必要があったからだ。だから金角児は銀角児を先に向かわせ自分は妖輝覇蛇の足止めしたのである。
それが双子でも弟を守るために出来る兄としての思いから。
「つまり合体したって事かしら?」
「合体?そうではない。俺は本来の在るべき姿へと戻ったに過ぎない。お、俺は?俺の名は・・・太上老君・・・」
まだ曖昧な記憶を探り自身が何者かを告げる。
太上老君
確かに天界に存在する最高神に太上老君なる神はいた。しかし数百年前の大戦で戦死したとされている。あの美猴王が妖怪軍を率いて天界に戦争を起こした時、天界の防衛の要として編成されたのは二郎真君、楊善、太公望、太白金星と太上老君であった。
太上老君は妖魔王の獅駝王とも一騎討ちを繰り広げていたのだが、突如現れた阿修羅の暴走に巻き込まれて姿を消してしまったと。
太上老君は金角児と銀角児が一つとなる際、流れ込んで来た記憶はより鮮明になる。
「ち、違う・・・」
太上老君は確かに殺されていた。
美猴王率いる妖怪達の進軍で獅駝王との戦いの最中、予想以上の力を持つ獅駝王に殴り飛ばされてしまった。しかしそれは面倒くさがりな性格ゆえ、戦場に間に合ったナタクに後を任せるためであった。
「若い連中は若い連中に任せるとしようかのぉ~」
飛ばされた場所は天界の宝物庫だった。
太上老君は敢えてこの場所に飛ばされ、この中を物色していたのである。
この太上老君は大のお宝好きで噂名高いこの宝物庫の主が留守の間にどさくさ紛れに入り込みたかったから。けれど決して盗みとかではない。
自分の集めた財宝と比べたかっただけ。
しかしそこで予想外の何かを目撃してしまった。
「これは何じゃ??このような物で何をしようと言うのじゃ!これは禁忌の・・・」
その時、背後に迫る気配に気付き警戒した。
「お主の仕業か?」
太上老君はその正体を知っていた。
「お主、このような玩具で何をするつもりじゃ?コレは説明せんでも分かる。この天界!いや、この世界を覆す禁忌の装置じゃろ!」
しかし口論の末、二人は戦った。
最高神でもある太上老君をも脅かす力を持った者は手にした剣を振り下ろし、ついには太上老君を頭上から一刀両断にしたのだ。
しかし天界の神殿から落下し息絶える最中、太上老君は残った意識で己に術をかけたのだ。
「分魂転生術」
それは己の両断された肉体と魂を転生させる術。
落下する肉体は形を変えて赤子の姿となって地上へと落ちていく。
やがて赤子は成長し、力を蓄えて再び天界に戻って復讐するつもりだった。
しかし予想外の出来事が起きた。
地上に落ちた二つの赤子が地上の妖怪である金角と銀角に運悪く食べられてしまったから。
それが理由で復活が遅れた。
記憶も曖昧になり、目的を忘れていた。
しかし今、全てを思い出したのだ。
「今の俺は過去の太上老君ではない。復讐を糧に妖怪の力をも取り込んだ新たな神!大上狼君」
大上狼君?
特異的な新たな神が出現したのだ。
しかし今は!
「私の相手をしてくれるかしら?」
不死の妖輝覇蛇が目の前にいるのだから。
「まだこの力に慣れてはいない。先ずはお前を狩り殺す!」
大上狼君は掌を向けると吹雪が吹き荒れ妖輝覇蛇を押し退ける。さらに鋭利な氷柱が貫き風穴が空いた。氷結能力では恐らく天界でも地上でも最上級の能力者で間違いなかった。
「本当に攻撃が通用しないのか確かめさせて貰うぞ?」
「出来るかしら?貴方に?」
すると大上狼君の身体から神妖気が冷気を帯びて広がりながら地面を凍結させていく。
「絶対零度・氷結世界」
そして妖輝覇蛇の身動きを止めた。
「・・・」
今、この地で動ける者は大上狼君のみ。
勝敗は付いたのか?
「絶対零度の凍結された世界では生きとし生ける者全てが時を止める」
が、しかし大上狼君の作り出した氷の世界に亀裂が入り割れるように消え去った。
「う〜ん。白面世界って素敵だと思うのだけど、ちょっと飽きちゃったわ」
すると今度は妖輝覇蛇の妖気が一帯を覆う。
そのオドオドした障気が大上狼君の身体に蛇のように絡み付き、今度は逆に拘束する。
「この俺を束縛する事は何者も許さん!」
全身から発する神力が蛇気を祓い消す。
そして間合いに入り込むとその爪が斬撃の如く幾度と妖輝覇蛇を斬り裂くけれど残像か幻のように手応えがなかった。
「残念ね?私には何者も手は出せないわ?私こそ何者にも束縛されない自由の存在なのだから!」
そして放たれた障気が鋭利な槍のように大上狼君の身体を串刺しにする。
「あら?凄いわね?」
串刺した障気すら凍てつき突き刺さる寸前で粉々になって消えていた。けれど全ては防ぐ事は出来なかった。脇腹から血が垂れていたのである。
「ペロッ」
大上狼君は自らの血を手に取り舐める。
「俺の高貴な血を流させた事は万死にあたいする」
「だ〜か〜ら?まだ分からないの?時間の無駄って?貴方には私を殺せない。私は貴方を殺せる。これが答えであって全てなんだって!アハハハ!」
「そうか?お前はこの地に俺を来させた地点で詰んでいるんだぞ?」
「あはは!何?気でも狂ったかしら?」
すると大上狼君の手には縄が握られていた。
「まさかそれで私を縛れるとでも思っているの?馬鹿じゃない?私は実体を持たないのだから無理よ~」
「なら試してみようか!」
大上狼君は手にした縄を振り回すと神々しく光り輝き、そして呼んだの。
「妖輝覇蛇よ!」
「な〜に?」
ソレは儀式だった。
名前を呼んで返事する。
名前を呼び返事すると瓢箪に吸い込み閉じ込める宝具があった。
この宝具幌金縄も使い方は同じ。
ただし名を呼んで返事をした者を吸い込むのではなく縛り付けて拘束する宝具なのだと。
幌金縄は返事をした妖輝覇蛇に向かって伸びて行くと、その存在に絡みついたのだ。
「な?何よ?これ?」
縛り付けて拘束する宝具と説明したが、本当に必要な能力は別にある。
幌金縄に縛られると能力を封じられる。
妖輝覇蛇の封じられた能力は存在消失の能力。
この存在消失の特殊能力が全ての攻撃を無効にした不死の能力の秘密だった。
しかし幌金縄によって能力を消され不死能力までも無効にしたのだ。
「お前はもう逃げる事は出来んぞ?この狼の牙の獲物になった地点で終わっている」
「何を馬鹿な事を!だったら私の力を味合わせてあげるから!」
ただし消せる能力はどんな能力でも一つのみと限定されている。
幌金縄に拘束されている妖輝覇蛇が封じられている能力は存在消失の特殊能力だけで、本来持つ覇蛇としての桁外れな力までは消してはいなかった。
噴き出すように溢れ出す妖輝覇蛇の蛇気が一帯を覆い尽くし逃げ場を無くす。
「さぁー!死んじゃいなさい!」
妖輝覇蛇の蛇気は凝縮し大爆発を起こそうとしていた。
その中心にいる大上狼君諸共消し去るつもりなのだ。
「無駄な足掻き。詰んでいると言っただろ?」
大上狼君は剣を構えていた。
その剣は宝具七星剣。
「七つの星にその身を焦がせ」
振り払われた剣から放たれた七つの光は星の砕けるような威力で妖輝覇蛇の身体に消える。
そして振り向く大上狼君は呟いた。
「復讐の前に先ずは覇王とやらを狩り消す」
同時に、
「あ、いやぁああああ!」
妖輝覇蛇は星に飲み込まれ消滅したのだった。
しかし太上狼君は敵か?
それとも?
そして物語は進みだす。
次回予告
再び物語は法子へと変わる。
※太上老君については、
天上天下美猴王伝説 にて語られています。




