女子小学生の大変な思い出?
サキュバスとインキュバスの悪魔に手も足も出なかった法子。
そんな彼女を救ったのは、父親だった。
う~ん?
あれ?
ここは何処?
そこは私の部屋のベッドの上だった。
え~と、確か?
私はぼんやりと昨日の記憶を辿ってみる。
確か…
はっ!
そこで私は悪魔達に殺されかけたのを思いだす。
そして、その危機を助けてくれたのが…
お父さん?
助かったんだ?私?
そこで安堵した私は再びベッドにうつ伏せになって枕に顔を埋める。
まだ奪われた霊気を回復出来ていないせいか?身体が重くだるい。
好都合に今日は休みで私は二度寝する事に決めた。
はぁ…
私は悔し涙を浮かべる。
そして再び眠りの中へ…
夢を見ていた。
それは私がまだ小学六年になって間もなくの頃の夢。
その頃の私は周りから気持ち悪がられていた。
それでなくても当時の私の家はお寺で、墓地に囲まれていた。更に私には他の人が見えないモノが見えていたり、触れたり話したり出来ていた。そんな私を周りは気味悪く思うのは至極当然で、その頃の私はその意味も理解出来ないほど幼かった。
幼いって子供だから当たり前?
違う…それには理由もあったの。私は産まれてから10歳までの記憶が全く無く、自我を持ったのが10歳後だったからなの。
理由は詳しくは解らないけど、お父さんからは事故で記憶喪失になったと告げられた。だから、お父さんは私を他の子供達に追い付くように懸命に育ててくれた。その甲斐があって、私は今は何も不自由なく生活出来るの…
でも、やはり不思議な能力は周りからは忌み嫌われるから、隠し通さないといけないのだけど。
そんな私が小学校を卒業する少し前に、あの出来事が起きたんだ…
当時、私のいた小学校で生徒が消息不明になる事件が起きた。
警察が何度か学校に調べに来たけど、何も掴めずに迷宮入りになった。
でも、噂は広まる?
少し前に転任した女教師が来てから事件が起きたの。当然、警察も尾行したり調べたけど何も突き止められなかった。だけど、行方不明の子供達は皆、その女教師と何かしら接点があったり、話をしていたのが目撃された後に消息を消した。
そして何より…
私は幼いながらも、この事件の裏に鬼の気を感じ取っていたのよ。
あの女教師が鬼が変化しているのかも?
私は疑る。
僅かに感じるのよ?
私の感知力が、あの先生から鬼の気配を!
私は女先生を探る。
名前はゆかり先生。歳は34歳、明るく美人で可愛い感じの美術の先生。生徒達からも人気はあった。
好都合に私の担任でもあった。
そして放課後、生徒達は帰宅した中で、私は教室のロッカーに隠れてやり過ごす。
今日はゆかり先生が遅番で学校に残る日。ゆかり先生が犯人ならきっと今日何かしら起きるはず!
私は息を潜めていた。
ゆかり先生はいつまでも帰らなかった。先生って職業は噂以上に過酷みたい。
山のように積まれたプリントに採点をし、他の業務の書類やら、本当にいつ帰って寝てるのかしら?
私も次第にうとうとしてしまい、気付くと眠りこけてしまった。
気付くと、私は教室が騒がしい事に気付く?
そこにはいないはずのクラスメイトの生徒達がパジャマ姿で席に座っていた。
何が起きたの?今、何時?もしかして朝まで寝てた?
違う。窓ガラスから見える外は暗く、時計は深夜の1時だった。そして電気も点けずに生徒達は「おはようございます。さようなら。おはようございます。さようなら」を念仏のように唱えていたの。
私は隠れていたロッカーから出ると、クラスメイトの肩を掴み揺さぶる。しかし正気はなく、一点を見つめて「おはようございます。さようなら」と念仏を唱えて止まらなかった。これはもしかして何者かによって操られているの?
その時、私は背後から気配を感じた。手遅れだった。私は口を塞がれて押し倒された。もがく私の視界に映るその相手は間違いなくゆかり先生だった。
やっぱり犯人はゆかり先生だったのね?
しかし?
先生は私を引きずるように引っ張ると、押し込むように再びロッカーの中へと閉じ込める?
そして外から、「絶対に出て来たらダメよ?」と言って外から何かで塞がれた。
出られない?
私はロッカーを蹴って破ろうとしたけど、止めた。
直後、廊下の外から異様な陰の気を感じたから!
私は息を潜めて隙間から外を見る。教室は変わらずに生徒達が例の台詞を繰り返していた。そこに教室の扉が突然開いたの!
そこから感じる淀んだ空気と圧迫感。間違いなく邪悪な力を持ったナニかがいる?行方不明の犯人で、今も生徒達を操る人外のナニかが現れた?
私は恐る恐る覗くと、そこには一人の生徒がいた。
その子には見覚えがあった。
確か、私とは別に周りから無視され、虐めが原因で登校拒否になった生徒だった。私は無視はされていたけど、幼少より護身術をお父さんに教わっていたために直接手を出される虐めはなかったのだけど、あの子は影で色々されてたって噂に聞いた…
もしかして?
私の予想通りなら、あの子が鬼の気配の正体?虐めから閉め切った部屋に閉じ籠り、恨みや怒り、悲しみや殺意といった陰の気を充満させ、鬼を生んだのかもしれない…
でも、じゃあ?ゆかり先生は何でここに来たの?
「あはは…おはよう?そして、さようなら~」
虐めに合っていた子は繰り返し呟く。
すると負の感情が私の中に入ってくる?
これは、あの子の記憶?
朝、起きて…「おはよう」が辛かった。
「おはよう」は地獄の1日が始まりを告げる言葉だった。
苦難が始まる。
それは虐げられた陰湿な虐め…力も頼る事も出来ない自分に、心を閉ざし、身も心も傷付き耐え続ける毎日が始まる。
逃げた!
手段はあった。不登校になって部屋から出なくなり、もう誰にも虐げられなくなった。だけど味わった負の感情はいつまでも心に残り苦しめた。
何処にも逃げ場はないのか?そう感じた時に唱えたのが…
「さようなら」
それは別れの挨拶。
この地獄からの解放!
自殺…
これでもうこの苦しみから逃げられると感じた時に、別の感情が過る。どうして自分だけこんな地獄を味わらなければならないのか?
それは負の感情が部屋に籠り、それは自然に出来た結界の磁場が発生し、意思を持った念となった。
鬼を生んだのだ!
鬼の意思は死を選んだ少年の魂に入りこみ宿る。
最初は少年に力を与えた。その力は遠く離れた物を部屋にいても見れるようになった。そして自分を虐めた連中の一人を見付けた時に鬼の感情は爆発した。
友人と遊んでいた少年を見付けると、「ゆ~る~さ~な…ぃ…」そして再び別れの言葉を唱えた。
「さようなら…」
直後、帰宅中の少年の頭上より影が落下して来たかと思うと、少年は一瞬で姿が消えたのだ。まるで神隠しのように、消えた。
部屋にいた少年は笑みを見せると、心の傷が一つ消えた事に快楽を得る。
そして、また一人、一人と自分を虐めた少年達を消していった。
そんなある日、自分の家に新たに転任し、担任になった先生が家庭訪問に来た。
ゆかり先生だった。
しかし、少年は先生に会わずに部屋から出なかった。ゆかり先生は毎週のように通っていた。
そんな時に、ゆかり先生は気付く。インターホンから母親の返答がいつも同じ事に?「子供は会いません。さようなら」と?
まるでレコーダーに残された台詞を繰り返す返答のみだった。そして気付く。少年の家の鍵が開いている事に?いけないと解ってはいたが、ゆかり先生は恐る恐る家の扉を開けてしまう。
「!!」
家のドアを開くと中は血にまみれていた。そこには遺体らしき肉片が二体分転がっていた。大きさから見て少年の両親だろう。
恐怖で声が出せないゆかり先生は、その日は逃げるように帰った。
だけど、その日よりゆかり先生は悪夢に襲われる。
「邪魔をするな!」と繰り返す夢が続いた…
さもないとお前も殺すと?
だけど、ゆかり先生は少年を虐めていたクラスの少年達に会いに行ったのだ?
命が危ないと知らせるために!
そして少年はゆかり先生に秘密を知られて動く。
ゆかり先生に忠告された生徒は直ぐに鬼と化した少年に殺された。
自分を虐めていた者達を全員殺した少年は復讐を終えた。
これで終わりかと思われたが、
少年の殺意は止まらなかった。
それは自分自身を苦しめた者を全員殺してやると!
直線虐めた者達。
自分自身を救ってくれなかった両親。
更に、見て見ぬふりをしていた傍観者[クラスメート]達に殺意を向けたのだ。
・・・と、そこで私は我に返った。
閉じ込められたロッカーの中で私は見ていた。
少年は操ったクラスメート達を席につかせる。
教壇に立った少年は皆を前にして、
「お前達も同罪だよ」
少年が巨大化していき、その姿が化け物へと?
鬼の姿へと変わっていく。
そして教室に新たな人物が入って来た。それは前任の先生だった。前任の先生は鬱病で退職したって聞いていた。
鬼と化した少年は言う。
「何度も何度も先生には助けてって言ったんだ…それなのに…それなのに…笑い事のように、面倒くさがって相手にしてくれなかった…虐めを揉み消した…」
怒りがこみ上がった時に、鬼は前任の先生の頭を掴み潰した。そしてもぎ取った頭を喰らった。噛み砕く音が響く。それが合図になって我に返ったクラスメートが現状を見て悲鳴をあげ泣き叫び始めた。
騒然となった教室から生徒達は逃げられなかった。
教室が鬼の結界に閉ざされているから…もあるが、恐怖で動けなかったのだ。
このまま無抵抗に食い殺されてしまうのか?
その時、生徒を庇うように、鬼の目の前にゆかり先生がモップを構えて立ちはだかったのだ??
「お願い!もう止めて!」
それは無謀な行為…
殺される行為…
それでも、ゆかり先生は恐怖を乗り越え、鬼の前に姿を現して、生徒達を守ろうと飛び出したのだ。
ゆかり先生を前に鬼となった少年は答える。
「お前はいなかった…関係ないから殺さない…つもりだったけど…邪魔をするなら…殺すよ?」
鬼が腕を払うと、ゆかり先生は殴られて黒板に叩き付けられる。額に出血し、朦朧としながらも、ゆかり先生は再び生徒達を守るために前に出る。
「絶対に死なせない!もう…二度と!!」
二度と?
今度は、ゆかり先生の感情が私の中に流れ込むように伝わって来た?
これは、ゆかり先生の記憶?
私の視界に浮かぶゆかり先生は高校生くらいだった?
先生は若く可愛らしく、優等生。友人達からも守られる…そんな生徒だった。だけど反動はあった。その時の先生は裏で…男達をとっかえひっかえしていた。
同級生、先輩、担任の先生、社会人まで…
優等生。学力優秀。その純粋そうな美貌とは裏腹に、肉体関係でストレス発散にしていた。
誰にもバレずに…
そんな時、学校の廊下で、すれ違い様に怒鳴りつけられる?
「テメェの身体がどうなろうと構わねぇがよ!失ったもんの気持ちを、少しは感じて見ろよ!」
周りの女子友達は意味も解らず唖然として、味方になって慰めてくれた。
だけど、その意味を彼女だけは「まさか?」と過った。
バレるはずない?
その時、ゆかり先生はオロシテイタ。
遊びの男関係で作った子供を!
相手の男から多めに金だけ受け取り誰知れずに一人で。
まさか?関係を持った男がばらした?
または何処かで見られた?
もしかしたら昨日病院で?
隠れてそんな事をしている女の子は他にもいた。だから、もしそれが理由だろうと誰かにとやかく言われる筋合いはない。しかも名前も知らない同級生の男子に!
それでも不安になって口止めしたくて、その同級生を探した。意外と有名人だった。その彼は髪を金髪にした…つまり私とは全く接点のない不良。だけど、周りからの評価は良かったようだった。
とにかく私の事を知っているなら、口止めしなくては!お金?もしかしたら身体を要求されるかも?そう思っていたけど…
彼は連休を境に学校を不登校になって、それから二度と来なくなった。
安心した。
その後、卒業し、大学に入っても私は変わらなかった。そして本気で好きになった彼と婚約し結婚する事になった時、安泰で幸せな生活を夢見た。
だけど、今までのツケが来た。
私は子供が出来ない。何度もおろしていた事で妊娠出来ないと産婦人科で告げられた。
それが原因で、子供を熱望していた婚約者と別れた…
だけど、そのショックより私は子供が二度と出来ないショックに苦しんだ。
出来て当然だと思っていた。
必要ない時に出来た時には邪魔だとも思っていた。
いらないと!
なのに…なのに…
後悔がのし掛かる。
そして過るのは、あの同級生の彼の台詞。
「テメェの身体がどうなろうと構わねぇがよ!失ったもんの気持ちを、少しは感じて見ろよ!」
その時になって初めて彼の言葉を繰り返し思った。
「私は…今まで自分の子供を殺していた…何度も…何度も…何も感じずに…」
それから私は働いていた一流企業を辞めて、大学を入り直し、小学生の教師になる事を目指した。
教師を目指した理由は…
私みたいな馬鹿で幼い考えで人生を狂わさないように導くため…私のような馬鹿な失敗を、これから人生を歩む子供達に歩ませたくなかったから…
そして、私は小学校の担任になれた。もし私に子供が出来ていたら、このくらいの歳になっていたかと思うと…どうしても守りたいと思った。
これが先生の記憶?
私は先生の記憶を見て熱い気持ちになった。
「例え、相手が…鬼であろうと!」
だが、鬼を前にしてゆかり先生は足が震える。
人外を相手にしても、後ろで泣き叫ぶ子供達を守るために勇気を出す。
いや?ゆかり先生が守ろうとしていたのは、後ろにいる生徒だけじゃなかった。
「お願い…貴方が辛かった時に…何も出来なくて!大人も、友達も…何も出来なくて…だけど、皆も怖かったの…」
「………」
「大丈夫。貴方の怒りは私が背負ってあげるわ?私が慰めてあげる…だから、もう他の子達は許してあげてちょうだい?」
両手を差し出したゆかり先生は慈愛に満ちていた。
「…私ね?これでも人を殺してるのよ?…しかも自分の赤ちゃんを…三回…だから、貴方と同じ…だから、もう終わりにしてあげて…お願い…優君」
優君とは、この虐められていた子の名前…
だけど、無謀過ぎる!
このままじゃ、本当に殺されてしまう!
ゆかり先生は、この鬼と化した子と一緒に死ぬつもりなの?
やはり私が出なくちゃ!
私は教わったばかりの霊気の集中をする。霊気を集中させて、力に変える。そしたら、爆発的な力が出るんだよね?私は瞼を綴じて掌を合わせて意識を集中させる。全身の力の流れを一点に意識させるのよ?
その瞬間、瞼を綴じているのに熱い光が見えたの?
同時に両掌を差し出した直後、桁ましい音を立てて私を閉じ込めていたロッカーの扉が弾け飛んだ。
私が飛び出した事に鬼とゆかり先生が驚く。
私は手にした箒を鬼に向けると、
「先生!離れて?鬼と化した彼には、もうどんな言葉も通用しないわ!」
すると鬼はロッカーから現れた私を見て唸る。
「お前は…確か?そうだ…お前はボクと同じく…虐めにあって…無視されていた奴だな?お前の事は見逃してやろうと思ったが…仕方ない。お前も邪魔するなら食らってやるぞ!!」
強力な妖気が発せられると、その気圧で他のクラスメートは一人一人気を失っていく。ゆかり先生だけは気を張っていたために立ち眩むように膝をついた状態で意識を保てていた。
「法子さん!逃げてー!」
だが、鬼は飛び上がると私に向かって襲い掛かって来た。私は本能的に飛びのくと、私のいた場所は轟音を立てて爪痕が残った。
「ん?逃げた?お前、何だ?何で逃げれた?」
私は足早に移動すると、黒板の近くに向かってチョークを手にして掴むと、倒れているゆかり先生を庇うようにして狙いをつける。
「チョーク連弾!」
私はチョークに霊気を籠めて鬼に向かって投げると、チョークは鬼に直撃して砕けた。
あ…やっぱりチョークに籠めた霊気が足りてないの?
まだ未熟なの?
そもそも初挑戦だし?
鬼は私とゆかり先生に向かって、ゆっくりと近付いて来る。
「法子さん?貴女?」
鬼を前にして怯える事もなく勇敢に戦う私を、ゆかり先生は驚いていた。そして思い出す。職員室で他の先生達が私の噂話をしていたのを。
「あの子、幽霊が見えるって噂されていたけど…本当だったの?」
私は先生を庇うように鬼を前にして勇む。
「君が虐められて鬼になる気持ちは…私も少しは解る。だけど、それで化け物になってどうするの?それに復讐した後はどうするの?気が本当に晴れるの?」
私の問いかけに鬼になった少年は答える。
「復讐の後?それは…」
鬼は問いに答える。
「先ずは…僕を虐めた奴らを殺す…そしたら?そしたら、そうだ!そいつ達を育てた親を殺して、その後は身近な奴らとか、関係した奴らも殺して、!そしてそして…皆、皆、殺すんだぁああ!そうすれば、皆、僕の気持ちが解る・・それが、僕の復習なんだ!」
もう、見境がなかった。
その答えに、ゆかり先生は涙ぐむ。
もうどうしようもない絶望。
もう救う事が出来ないなんて…
私とゆかり先生に鬼が口を開けて迫る。
私は箒で鬼の攻撃を受けとめたが、力負けして箒がへし折れ私は尻もちをついた。
ヤバい!!
もう私にはこの鬼に抗う手段がないの?
「あっ…」
その時、ゆかり先生が私を庇うように抱きしめる。
鬼の爪が影となって迫った時、
「すんません?授業参観に来たんだけど、ちょい良いっすか?」
飄々と三階建ての校舎の窓から、一人の中年男性が現れたの。
その姿はお坊さん?
うんうん、それは間違いなく私のよく知るお父さんでした。
お坊さんがお父さん?
そんなこんな。
次回予告
危機一髪の法子の前に現れたのは、お坊さん?お父さん?
でも、お父さん大丈夫なのですか?
※余談・・・今回の物語を前作の伏線として覚えている読者様がいたら、本当に有難うございます。