魔導覇蛇の奥の手と手?
覇王を相手に魔導覇蛇の奥の手が発動する。
私は法子
私は覇王と魔導覇蛇との戦いを傍観するしかなかったの。
その格違いの戦いに。
「とんでもないわ、マジに」
蛇神の城が肉体を持ち巨大な化け物へと姿を変えたの。
魔導覇蛇はこの蛇神城にはより強力な蛇神を生み出すために必要な邪悪な魂が充満している特別な貯蔵庫と言っても良いの。それを全て一体の巨大な蛇神兵として造り上げたのだから。
「面白き玩具を使うよな」
覇王は自分を殴り飛ばした巨蛇城兵を見上げる。
「ふん!」
覇王の剣から繰り出された斬撃は大地を削りつつ巨蛇城兵を斬り裂く。
「無駄だよ!覇王!お前の力は解析済み。この魔導覇蛇と一体となった巨蛇城兵はお前の数十倍の力を持つ真の支配者なのだからな」
覇王は飛び上がると新たに斬撃を繰り出す。
しかし巨蛇城兵の身体は湧き上がる数億もの邪悪な魂に覆われて傷一つ付かなかったの。
「ほぉ?俺の覇王の剣でも倒せぬとは、応龍の鱗に匹敵する強固さだ。しかしそれも全て紛い物。胸糞悪い」
覇王はその腰の鞘に手を置く。
そこには覇王の剣とは別の剣が収められていたの。
「試し斬りには良いかもな」
ソレは龍神族の守りし三種の宝具。
黄龍の剣と呼ばれている真王のみ使用が許される剣。
その剣の柄に手を置く。
掴んだ腕が痺れ、震え出す。
「この覇王を認めずに抗うか?面白い」
覇王は己の覇気を纒い剣を力任せに抜く。
掴む手が弾け飛ぶような衝撃を受けるも、その精神力で抑え込もうとする。
「この俺こそ強者!何者も抗えぬ力の権化」
すると剣は暴れ動くのを止める。
「そうか?お前の真名は聖魔の剣か?なら俺を主と認め、その有り余る力を俺に見せてみよ!」
抜刀されて聖魔の剣は光と闇を纒い巨蛇城兵に振るわれた。
時が止まったかに感じた。
「何だ?その剣は?そんなので俺を倒せると」
直後、崩れ始める巨大な身体。
そして弾けるように粉砕したの。
「うぎゃあああああ!」
魔導覇蛇は全身から神経を引きちぎられる痛みに堪らずに巨蛇城兵から身体を分け脱出したの。
「う、嘘だ!そんな馬鹿げた事ないはずだ?何がどうなってんの?これ?俺の最高傑作が・・・あぁ」
その身も崩れていく事に恐怖を感じる。
このまま、まさか死ぬなんて事あるはずないと。
しかし逃げる先に覇王が立っていたの。
「逃がさん」
そして崩壊寸前の魔導覇蛇に剣を突き刺す。
「あ、ぁぁ」
もうどうする事なんて出来なかった。
これで本当に終わり
「なぁ〜んてな」
えっ?今、何て?
魔導覇蛇は笑みを見せて真の奥の手を使う。
それは蝕王覇蛇の能力。
自身を殺した者の身体と入れ代わる転生術。
「転身移魂」
魔導覇蛇は全ての流れをシュミレーションで体験していたの。
そして何度と殺されそうになり見つけ出した勝利の方程式。
倒せない敵。倒される自分。
ならその全てを逆転すれば良い話。
入れ換えてしまえば良い話。
だからこのタイミングをずっと見計らっていたの。
この能力には実は条件があった。
自分を殺す者が優位に勝ちと判断する事。
強引に入れ換える事も可能だけれど、リスクもあるの。
それは蝕王覇蛇が私達に倒され死に際に身体を奪おうとした時、沙悟浄の身体を奪ったでしょ?
この場合、本来の手順を踏んでいないから魂の定着が弱いらしいの。
これも全て魔導覇蛇の水晶から知り得た情報。
そう。この情報は私にとって、私達にとっての好情報なの。
だって、沙悟浄を取り戻せるかもしれないじゃない?
これは人繋ぎの賭け!
「覇王よ!お前の身体を手に入れ、俺が覇王になってやるよ?これが真の覇王の誕生だ!」
魔導覇蛇の魂が覇王の身体へと吸い込まれるように消えて行ったの。
魂の魔導覇蛇は覇王の中で核たる魂を探す。
探して核に触れさえすれば全てが入れ代わる。
全てが思い描いた通りに事が進む。
「うがぁあああああああ!」
けれど??
魂の濁流が吹き荒れる大嵐が魔導覇蛇を弾き飛ばしたの。そして音一つない無限に広がる暗闇に何十年、何百年、気が遠くなる時間を何処までも沈み込み吸い込まれる中で、意識の糸が消えかける。このまま消えて魂の渦に飲み込まれたら、後は何も考えずにその一部となって存在を失う・・・
「フワァアア!」
意識が戻り目に見える視界は現世だった。
魔導覇蛇は我に返り気付く。
何度も転身移魂は練習し試した。
失敗は無かった。
簡単な作業だ。
段取り通りやれば上手くいく。
なのに失敗?
「あれが覇王の魂なのか?アレじゃ」
そこで胸を貫く剣に気付き悲鳴をあげた。
そう。胸を刺されて魂を移してから現世では数秒も時間は経っていなかったの。
「うわぁあああああ!」
そして宝貝を念で飛ばすとストックしていた肉体が飛び出して、そこに自分の魂を転移させる。
同時に剣に貫かれていた肉体が消失したの。
「危なかった。けど?けど?けど?」
助かったものの、この後の手段は何もなかった。
周りを見渡すが、白蛇の巫女の張った結界で外に抜け出す事も出来ない。
そして覇王を倒す事はもう不可能に違いなかったの。
「考えろ?考えるんだ!考えれば必ず道はある!だって俺は主人公なんだぞ!主人公なんだ!」
が、現状は変わらない。
その視界に覇王と白蛇の巫女が見える。
逃げ場なんてない。
「この状況を覆す方法はあるはずだ!俺にはソレが出来る!」
しかし迫る覇王に、魔導覇蛇は下半身から液体を漏らしていたの。
それは極限の恐怖で身体が怯えて尿を垂らし、全身が震えて動けない。
「無様だな」
覇王は指先から蛇気を撃つ。
魔導覇蛇は両掌を向け、
「万能防御壁!結界!強化盾!万重結界!」
ありとあらゆる防御を試みるが全てを貫通して魔導覇蛇の肩を貫く。
「うぎゃ!」
痛みに耐えながら死にものぐるいで抗う。
「こうなればこの地一帯を火の海に変えてやるぞ!これが現代兵器の最終兵器・核爆弾だ!」
覇王の周りに核弾頭が幾つも出現する。
「消え失せろぉー!」
が、覇王は聖魔の剣を振り払うと、核弾頭は爆発するよりも先に消失してしまった。
「あわわ」
涙目になる覇王覇蛇。
もう憐れとしか言いようがなかった。
「怯えた下等種。もはや俺の手で始末するにも価値もない。お前達で後片付けしておけ」
「えっ?」
魔導覇蛇の背後に人影が見えた。
それは転移させて戻らなかった大老九蛇と握手九蛇の姿だった。
「お、お前達?お、遅かったではないか!しかしよく戻った。この俺の盾となり覇王を倒すのだ!」
正直、覇王を倒す事は無理だと分かっているの。
けれど時間稼ぎさえすれば白蛇の巫女の張った結界を破り、そこから逃げ出す事も可能だった。
「まだまだ天は俺に味方していたんだ」
次の瞬間、大老九蛇と握手九蛇の頭が落下して残った身体が微塵粉砕したの。
「へっ?」
そしてその背後には殺したと思われていた軍蛇覇蛇と妖輝覇蛇が立っていたの。
「覇王様への反旗、死にあたいする」
「ふふふ。魔導覇蛇?あんた身の程知らずよ」
すると二人の身体から発する蛇気が魔導覇蛇の身体を拘束したの。
「まさか九蛇を倒したのか?だが、お前ら如きで俺をどうにかなると思うなぁー!」
が、その身体は身動き出来ない。
魔導覇蛇の身体が覇王とは別の強力な妖気に押し込まれていたの。
「まさかお前か?お前が俺を?」
魔導覇蛇は自分を抑え付ける妖気の正体が目の前の妖輝覇蛇であると解析して驚愕する。
「うふふ。魔導ちゃん?捕まえた」
同時に蛇気が急激に消耗して抜けていく。
身体を拘束する妖気は濃縮な密度で魔導覇蛇でも直ぐには解析出来なかったの。
時間が必要、けれど時間なんて与えてくれなかった。
「は、離せ!」
そこに軍蛇覇蛇が前に出る。
「どうやら調子に乗り過ぎたようだな?だが、覇王様は勿論、この俺達の力を見誤った事がお前の敗因だ」
その殺気は魔導覇蛇を脅かす。
「何だ?コイツの潜在能力は?読めないだと?いや、この二人は本当に覇蛇最弱なのか?」
そこに白蛇の巫女が告げる。
「その二人が最弱ですって?ふふふ。少なくともその二人はお前なんかより強いわよ」
「そんな馬鹿な?そんな馬鹿な?馬鹿な?」
けれど実質、身体は動かない。
もう殺されるのを待つだけだったの。
泣いて謝罪しても許されない。
忠誠なんて言葉、そもそも蛇神には無用。
裏切る事が前提と覇王は蛇神全てに告げた。
つまり一度反旗する場合は覚悟が必要。
死ぬ覚悟なく、謀反出来ないという脅迫。
そんな覚悟など最初から無かった魔導覇蛇にとって、この状況は想像の範疇をこえた状況。
突然、目の前に突き付けられた死の宣告。
「嫌だ、死にたくない、死にたくなんて。僕は主人公で、それでいて新世界の創造主になるんだ」
軍蛇覇蛇の抜いた剣が魔導覇蛇の身体を斬り裂き、血が噴き出した。痛覚を消したはずなのに、その痛みは激痛となって魔導覇蛇を襲った。
「うぎゃええええええ!」
再生しない?痛みを感じる?
まさかこれが今まで見せなかった軍蛇覇蛇の特殊能力?
「終わりだ!」
今、魔導覇蛇の処刑が行われる。
「嫌だ、死にたくなぁぃ・・・死にたくなんかなぃ・・・助けてお母ぁ」
もうその姿は何も抗えない弱者。
死を前にして脅える敗者。
「覚悟しろ、魔導覇蛇よ」
軍蛇覇蛇は覇気を籠めた剣を魔導覇蛇に突き出す。
強烈な衝撃が走った。
「な、なんで?」
魔導覇蛇は目を見開き動きが止まる。
そして光が眩しく照らした。
その光の先に見えるのは、軍蛇覇蛇の突き出した剣を弾き返した者がいたの。
その乱入者に軍蛇覇蛇と妖輝覇蛇だけでなく、飽きていた覇王と白蛇の巫女も振り返ったの。
「もぅー!嫌になるわ!この状況!でもさ?いくらアンタが人間捨てた酷い奴でも、反省させるチャンスはあげる。だから後で必ず数千倍で罪を償いなさい」
飛び出したのは私!
龍神の羽衣で宙を飛び、全身に龍の防具を装着して完全装備。
それでも適うはずなかった。
それでも飛び出してしまったのは?
「私は誰かを見捨てるなんて出来ないのが取り柄なのよ!なんて立って正義の女子高生なんだから」
そんな私に驚くのは魔導覇蛇だけじゃなかった。
軍蛇覇蛇は私を凝視して語る。
「人間の娘、それは勇気ではないぞ?我々に刃を向けるなら、この場はやり過ごして時を待てば良かった。愚策だったな?」
「あら?策なんて最初から無かったわ?それに私も貴方の言う通り、この場を見捨てた方が助かるって思い付くもん。けどね?そうしたら私は私を許せない!自分が自分を認められないで、誰が自分を認めてくれると言うの?私は真っ当に生きて、皆にチヤホヤされたいのだから」
「全く理解出来ないな」
「私もそう思う。けど性分だから」
私は頬に冷や汗が流れ落ちる。
正直、この場を切り抜ける手段なんて無かったから。
それに今の私に何が出来るの?
本当、いきあたりばったりです。
「その行為、多少は誉れだと思おう。だが、生きて返せぬゆえ、痛みを与えずに始末してやろう」
軍蛇覇蛇は私と庇う魔導覇蛇に向けて蛇気を凝縮し、そして打ち放ったの!
直撃と同時に爆煙が吹き荒れたの。
「!!」
爆煙が巻き起こり消えていく。
そして、その中から出現したのは?
複数の人影?
「法子はんに手を出させないらよ!」
放たれた蛇気弾を拳で弾き返して私を救ったのは、魔導覇蛇に倒された八怪だった。
そして?
「どうやらあの者が覇王のようだな。この俺が震えているなんてな。だが、退くわけにはいかん」
「奴を倒せば全てに決着がつく。そうすれば法子のお守りから解放されるわけだ」
それは二郎真君さんとナタクだったの。
てかナタク?
誰が誰のお守りよ!
けれど、その登場に魔導覇蛇は首を振る。
「馬鹿な、この俺にも手も足も出ない奴らが覇王に敵うはずない。終わりだ。皆、終わるんだ」
絶望の恐怖から立ち直れないでいたの。
「天界の武神か?」
「あら?イケメン揃いだわ〜」
軍蛇覇蛇と妖輝覇蛇は三人の登場に戦闘態勢に入る。
が、それを止めたのは?
覇王だったの。
「二人共、手を出す事は許さんぞ?ふふふ。面白い。その三人は俺が直接手をくだす。下等な雑種に戦を汚され興が冷めていたところだったからな」
すると軍蛇覇蛇と妖輝覇蛇を残して地上へと降りていく。
「あの日のように俺の血を揺さぶらせられるか?なぁ?ナタクよ!」
覇王が名指ししたのはナタクだったの。
しかしナタクは心当たりなかった。
「俺に会った事があるのか?記憶にない。しかしお前を討伐する事には変わりない」
ナタクと覇王に何か因縁あったの??
そして、この戦いの結末はどうなるの?
さらに見せ場終わった私の立場は?
そんなこんな。
次回予告
無敵とも思える覇王を前に八怪、二郎真君、ナタクが挑む。