金色の奇跡!親子の愛と運命の時!
紅孩児の覚醒?
それは新たな救世主が世界に現れた。
幼き頃、頭上に二本の角を生やした少年は妖怪の世界から好奇心で人間の村に踏み入れた。
人間
自分と見た目は変わらない。
頭上の角が有るか無いかの違い。
角さえ隠していればバレたりしない。
フードで角を隠して入り込む。
妖怪世界にはない面白い物が沢山あり、大人しかいない妖怪世界では見ない自分と同じサイズの子供達との交流。
楽しかった。
けれど子供の一人がフードを捲った時、その角が露わになってしまったのだ。
大人の人間達が叫び出し、自分の子供を連れ戻し、石を投げ付ける。
罵声と狂気にも似た威嚇。
どんなに訴えても聞き入られず、暴走した少年は妖怪の力である炎を解放させてしまった。
村は灼熱の炎に焼かれ、その中を泣きながら帰って行く少年。
その出来事はトラウマとなった。
それから又時が流れた。
少年の名前は紅孩児。
紅孩児は武者修行の途中に出会った孫悟空と名乗る自分の同じくらいの妖怪の少年と仲良くなった。
そこで、再び人間の村に立ち寄る事になる。
過去のトラウマから人間の村に入る事を異常に嫌がり孫悟空を困らせている時、偶然入った料理店で一人の人間の女と出会ったのだ。
女亭主であった愛音に・・・
愛音のそのおおらかでいて強引な態度に最初は戸惑いを感じていたが、次第に懐き始める。
それは愛音に産まれて間もなく死んだ自分の母親の像を被らせていたから。そして愛音もまた奇遇な運命を持ち、過去に幼い子供を目の前で妖怪に食べられた姿を目の当たりしていた。
お互いに失った愛する者を被らせつつも次第に心を打ち溶けていく。
しかし、紅孩児はもし自分が妖怪だと知られたら愛音に嫌われてしまうのではないか?
この関係は壊れるのではないかと恐怖しながら。
そこに現れたのが三体の黒豹の妖怪だった。
村は襲われ、正体を隠し力が制限されていた紅孩児を命懸けで腕を引っ張り一緒に逃げる愛音の姿を見て、自分が妖怪だと知られるよりも、愛音を失う恐怖の方が怖かった。
例え二度と会えなくなったとしても救いたい!
その一心で三体の黒豹妖怪の前に紅孩児は自らが妖怪だと晒して愛音を救ったのだった。
この場から去る事を覚悟する紅孩児だったが、愛音は妖怪であろうと関係ないと抱きしめてくれた。
その日を境に絆が生まれた。
その後、紅孩児はちょくちょくと愛音のもとに顔を見せるようになる。
それは本当に親子のような関係だった。
愛音の旦那も、村の者達すらも二人を実の親子のように扱うくらいに。
その後、奇跡が起きた。
もう二度と子供が産めないはずの愛音が女児を出産したのである。
それから三年後に男の子を。
それでも愛音は実の子供と同じくらい紅孩児を実の子供のように扱ってくれ、紅孩児は愛音の子供を自分の妹、弟のように可愛がった。
苦難な人生を送って来て、幸せな時が流れる。
いつまでも続くと思われた日々。
それが、今目の前で
壊された!!
愛音の変わり過ぎた姿に紅孩児は言葉を失い、思考が現実を受け止められない。
夢であって欲しい。
夢であってくれ!
もし自分が間に合っていれば?
もし最初の戦いで熔毒覇蛇を倒していれば?
もし!もし!もし!
その願いは叶わず二度と取り戻せない現実。
崩れる大切な人の骸が消えていく。
何も残らない。
腕を伸ばしても手は空を掴むだけ。
「あ、あっ!あっ!あっ!」
その直後、頭上から熔毒覇蛇の猛毒の大蛇が紅孩児を飲み込んだのだ。
全身を焼き付くような痛み。
激痛が全身を蝕むも、愛しい愛音や子供達を失った痛みの方が紅孩児を苦しめた。
そして全身が熔毒覇蛇の猛毒に覆われた時、停止する思考と心に向かって声が聞こえて来たのである。
『このまま消えるか?そうすれば苦しむ事なく楽になれるぞ?』
その声に対し紅孩児は放心状態だった。
『もしお前が力を望むなら与えてやっても良い。ただしこの力はお前自身が憎む敵を滅する力ではない!この滅びる世界を救済するための力。一度手にすれば今よりも過酷な茨の道しか残されない。お前は救済の道を進めるか?』
その声に紅孩児は意識を取り戻し拳を握り軽く頷く。
「構わない。このような残酷な未来がまだまだ沢山あるなら、この俺様が全て救ってやるぞ!こんな痛み、決して許しちゃいけないんだ!」
すると声の主は答える。
『その言葉に二言はないな?なら、お前にこの俺の力を与えよう!お前が太陽を継ぐ者だ!』
「!!」
その直後、紅孩児の瞼が見開き金色に光り輝く閃光が熔毒覇蛇の猛毒を消し去ったのだ。
そして紅孩児の周りをとぐろを巻くように埋め尽くしていた猛毒が蒸発していく。
「なぁ?何が起きていると言うのだ!?」
すると炎が熔毒覇蛇の猛毒地帯を蒸発しながら広がっていく。
しかもその炎は金色に燃え盛っていたのだ!
熔毒覇蛇はその中心に立つ紅孩児を目を見開いたまま言葉を失う。
そこには金色の瞳で刺すように自分を睨んでいたから。
まるで蛇が獲物を見付け、足が竦んだ蛙の状態だった。
しかも蛇である自身が動けぬ側なんて洒落にもならなかった。
「この小童ぁああ!何度も何度も俺の前に現れては、この俺の機嫌を害しやがって!実に胸糞悪い!実に腹立たしい!実に怒り極まる!」
すると失われた腕が再生していき、掌に障気が凝縮していく。それは蛇気を込めた猛毒が凝縮された触れたら必ず死に至る攻撃だった。
「この猛毒玉はお前を跡形もなく消し去る。断言しても良いぞ?お前は助からんのだ!」
放たれた猛毒の玉は紅孩児に向けて投げられた。
「全身が猛毒に爛れ消えろ!」
しかし向かって来る猛毒の玉に対して紅孩児は避ける事なく片手を向ける。
猛毒の玉が紅孩児の向けた掌の前で止まり、金色の炎に焼かれて消滅したのだ。
「そ、そんな馬鹿な!?この俺の猛毒の玉が消滅するなんて、そんな馬鹿な!奴の炎は、どれだけの高熱を発していると言うのだ?それに金色に光り輝く炎なんて!!」
その時、熔毒覇蛇は気付く。
辺り一帯が紅孩児を中心に高熱を発しながら足下が既に金色の炎が広がっている事に。
「くっ!!」
蛇気の結界で高熱と炎から身を守ろうとするが、その炎は結界を無かったかのように消し去り、熔毒覇蛇の身体を蒸発させる。
「うぎゃああああ!」
生殺しだった。
しかし蛇神の再生力は失った身体を元通りにしていく。していくが、金色の炎は再生したばかりの熔毒覇蛇の身体に纏わりつき高熱が蒸発させていく。
「た、たまらん!」
熔毒覇蛇は焼かれる我が身に全身が凍り付く程の恐怖を感じて、その場から離れるように上空へと飛び上がり逃げようとする。
「これで勝ったと思うな!俺は必ず舞い戻り、次こそは必ずお前を始末してやるからなぁー!」
が、熔毒覇蛇の視界の先には先程までいたはずの紅孩児の姿が消えていたのだ。
その直後、全身を駆け巡るように鳥肌が立つ。
熔毒覇蛇は周りを見渡した後、その背後に迫る気配に気付いたのである。
「アガッ!?」
顔面を掴まれると、その掴む指先の隙間から紅孩児の姿が見えた。
「お前は決して生かしては帰さない。この俺様の炎でお前の存在ごと焼き尽くしてやる!」
「ヒィ!」
脅え恐怖したのは一瞬だった。
熔毒覇蛇の身体は金色の炎の中で跡形もなく消えていた。
この時、紅孩児が最強を誇る覇蛇を倒したのだ。
だが、紅孩児の炎はまだ消えてはいなかった。
それどころか、猛毒地帯をも消滅させる程の金色の炎は戦場を中心に更に広がっていく。まるでクレーターのように大地をも燃しながら。このままでは力尽きるまで地上を燃やしかねなかった。
まるで過去のトラウマを繰り返すかのように。
「うがぁあああああ!」
紅孩児は収まらぬ炎の中で消えぬ悲しみと怒りの中で藻掻いていた。
暴走とも言えるその力は球体を作り上げる。
金色に燃え盛る球体はまるで、大地に落ちた太陽と見間違える程であった。
しかしこのまま広がっていけば蛇神の侵攻よりも被害は大きくなってしまう。
そんな中を、上空を東の方向から飛行雲に乗って向かって来る者がいた。
「うぉおおおおおお!」
その者は上空から飛行雲から飛び降りて、灼熱の球体に向かって飛び降りたのだ。
その者は紅孩児の父親、牛角魔王。
「全身が焼き付きそうだ!」
それでも灼熱の太陽の中心にいる紅孩児に向かって降りていく。
本来ならその身は一瞬で消え去る程の高熱の中で無事にいられるのは?
《いくら儂の防御力とて長くはもたんぞ?》
その声は牛角魔王の聖獣である四霊の霊亀。
その防御力は地上界最硬である。
それでも金色に燃える球体の中では耐えられない。
「それでも行かねばならぬ。父親としてな!」
牛角魔王は霊亀の鎧を纏い、着地と同時に金色の業火の中を一歩一歩中心にいる紅孩児に迫って行く。
そして腕を伸ばし、暴走する紅孩児を引き寄せて自分の胸の中で抱き寄せる。
「鎮めよ!その悲しみも怒りも俺が受け止めてやる!だから自分を取り戻せ!今度こそ俺がお前を必ず守り抜いてみせるからな!」
かつて愛する妻を守り切る事が叶わなかった。
唯一の忘れ形見を奪われ、生存している事も知らずに生きる屍のような日々を過ごした。
しかし、今、目の前に失ったと思っていた紅孩児がいる。愛する妻が命懸けで残してくれた唯一の生きる希望があった。
「もう二度と失ってたまるものかぁー!」
その時、霊亀の力も消えて全身を焼き尽くす炎が全身を覆った。
「!!」
しかし炎は牛角魔王を焼く事はなかった。
「ち、父上・・・」
紅孩児は意識を取り戻していた。
涙ぐみながら牛角魔王の胸に顔を埋めて涙した。
「今は泣くが良い。その涙は決して外には見せん。この俺が隠してやるからな?だから今は思い十分泣くが良い」
かつて愛する者を失った痛みを知るからこそ、今の紅孩児の涙は止められないと知っていたから。
悲しくも虚しさが残る戦いは終わった。
勝利を喜ぶ事は出来ない。
しかしまだ全て語られてはいない。
物語は遡る。
この猛毒地獄と化した戦場の中心に親子が取り残されていた。
「アレが元凶かい・・・」
愛音は自分の子供のファンとフォンは背中に隠れさせて身を守る。守ると言っても抗う事は出来ないのは分かった。唯一の救いは御守の羽根の加護。
しかしそれも長くは保ちそうになかった。
「くっ!」
この状況の中でも愛音は子供達を救う手段を廻らせていた。何千何万の手段を考えようと助かるすべなんて有るはずもない。それでも考える事を止めないのは、母親としての意地だった。
「人間の女よ?何故、この中で生存している?この俺の猛毒の世界では誰一人生きていてはならぬのだ?よって実に呆気なくその命を奪い取ってやろうではないか」
熔毒覇蛇は愛音と子供達に向けて指先から猛毒の弾丸を放ったのである。これを受ければ間違いなく身を守る御札の結界も消え去り、その身を猛毒に侵され跡形もなく消えてしまうだろう。
しかしその時、その弾丸の前に身を呈して受け止めた者がいたのだ。
「あ、あんた達は!?」
それはこの村に現れ村人達を逃がすために現れた修行僧達であった。全身に護印を書き印、更に護符を貼り付けた障気防御の鎧。この障気の中に入り込んで来た事は出来た。しかし熔毒覇蛇の放った攻撃に触れた直後、全身が猛毒に侵蝕され塵と消えた。
「何と禍々しき力よ」
彼等に気付いた愛音は叫ぶ。
「どうして戻って来たんだい!あのまま逃げていれば助かったのに!」
その言葉に修行僧は笑みを見せた。
「我々は過去に愛する肉親を妖怪によって手にかけられた。だから、お前達を見て見ぬふりは出来なかった。これは我々の戦う理由なのだ!例え敵わぬとも、この命を使ってお前達を生かせたかった」
「馬鹿だよ!無駄死にだよ」
「そうかもな。だが、これが人間なのだ!」
かつて自分達を救った修行僧は我が身を削りながら犠牲にしても戦い抜いた。
その者に救われた命だからこそ、この命の使い道は自分達で決めたのだ。
「俺達の命を持ってしてもあの親子が別れを告げる時間稼ぎがやっとか」
しかし、愛音はその修行僧達の決意に勇気を与えられた。そして自分も子供達のために出来る事を考えたのだ。それは記憶の片隅に残る不可思議な体験から、この窮地で可能性を見出す。
愛音は幼き頃に父親と共に別の世界、しかも未来から過去のこの世界へと迷い込んだ。
その記憶は夢でも妄想でもない。
何故なら、この世界で自分のいた未来を知る者に出会う事が出来たから。
つまり自分は未来人なのだ。
だったら、思い出せ!
あの日、関東と呼ばれる場所で起きた大震災。
そこで愛音と父親は不思議な穴を通りこの世界へ来た。あの穴は突然現れた時空を越える穴。
そしてあの穴は間違いなく愛音とその父親が出現させたのだ。愛音は何もない場所に両掌を掲げて願いをぶつける。
「お願いだよ!もし私が本当に過去に来て、その理由が私の力にあるとしたら!お願いよ!もう一度あの時の穴を開かせて!」
半信半疑の記憶から、この状況を救える唯一の望みであり賭けだった。
「お、お母さん?」
その姿をファンは赤子の弟フォンの手を握り見ていた。その時だった?愛音の視線の先が歪み始めたのである。
「あ、ああっ!!」
過去に何度か試してみた事はあったが一度たりとも穴は開かなかった。だから溜息をついては過去に起きた出来事が自分の記憶違いなのではないかと思っていた。それが同じく未来から来た村を救った僧侶に法子との出会いから確信に変わった事で自分の能力を信じる事が出来た。
「仕方ないなぇ」
しかし、愛音の開いた穴は大人が入るには余りにも小さ過ぎた。けれど後ろにいる我が子を見て笑顔を見せる。
「十分だよ」
愛音は二人に向けて愛情を向けて説明する。
「あんた達はこの穴を通り逃げな」
「お母さんは?」
「お母さんは後から必ず行くから!時間はないの。急いで!」
けれどファンは気付いていた。
「私、お母さんと離れない!行きたくない!」
泣き出して愛音にしがみつく。
「お願いよ。ファン?貴女はお姉ちゃんたがら弟のフォンを守って欲しいの。これは貴女にしか出来ないの」
そして抱き締めながらオデコにキスをした。
「分かってくれるかい?私の大切なファン」
ファンは泣きながら頷く。
すると穴が再び閉じ始める。
「行って!ファン!フォン!」
けれどその状況を見ていた熔毒覇蛇が逃がすつもりはなかった。
「空間に歪みだと?あの穴から逃げるつもりか?そのような能力者とは驚いた。しかしこの俺を前にして生かして逃しはせん!」
熔毒覇蛇は再び愛音と子供達に向けて掌を向けると猛毒の弾丸を放ったのだ。
そして同じく見ていた修行僧達も状況を把握し今出来る最善の手段を選ぶ。熔毒覇蛇の放った弾丸に向かって駆け出して我が身を盾にしたのだ。
それはほんの数秒足らずの時間稼ぎに過ぎない。
それでも、
「人には必ず生きて来た意味がある。この俺達はもしかしたら、この日のために生きて来たのかもしれんな!願わくば助かってくれ・・・」
猛毒の弾丸を受けて全身が塵と消えていく中でも、その死に様は恐怖ではなく満足感を得ていた。
愛音は振り向かず感謝しながら我が子を空間の穴に押し込む。この穴の先が何処に続くのか?もしかしたら自分と同じく別の時代の世界に取り残されるかもしれない。それでも共に死ぬ事を選ばずに二人が生きられる可能性があるのなら、この選択を選んだのは自分は過酷の人生の中でも今の今まで生きて来た人生に悔やんでいなかったから。
そこに愛音に向かって猛毒の弾丸の流れ玉が向かって来ていた。
「二人とも?生きる事に諦めたら駄目だよ!一生懸命生きていれば必ず救いはあるのだから!」
その言葉を最後に空間が閉じてファンとフォンは視界から消えた。
同時に猛毒の弾丸が愛音に直撃し全身が焼き付くような痛みを襲う。
それでも笑顔でいられたらのは我が子を救えた事が一つ。
そして、薄れゆく視界の上空から眩く光る炎が見えたから。
それは真っ直ぐに自分に向かって来る。
「ごめんな?あんたとも最期に語りたかったよ。けど、絶対に負けんじゃないよ!これからの人生にも、あんな化け物なんかにもね・・・アンタは出来る子だから、紅孩児・・・」
そこで息絶えたのだった。
たどり着いた紅孩児は見事に熔毒覇蛇を倒した。
そしてファンとフォンは?
それは全て語られた物語。
過去と未来、未来と過去が交差する物語。
次回予告
覇蛇が次々と倒される事態に覇王の宮殿では?
※ファンとフォンのその後は転生記シリーズ・転生記に現れています。