熔毒覇蛇の猛毒!立ち上がれ紅孩児!
修蛇六尾と熔毒覇蛇の襲撃に紅孩児が倒れる。
紅孩児は本当に死んでしまったのか?
そこは東の大陸。
そこには牛角魔王の居城があった。
その場所に強者を求める蛇神が二体現れたのである。
しかも覇蛇の称号を持つ熔毒覇蛇と、その候補であった修蛇六尾であった。
二体の蛇神の侵入に城で待ち構えていたのは牛角魔王の息子の紅孩児だった。
二体の蛇神に真っ向勝負した紅孩児は覇蛇の圧倒的な力を前にして力及ばずに敗北し、その命も尽きようとしていた。既にその場には蛇神達は残ってはいない。放って置いても紅孩児は絶対に助からないと判断したからだった。
「う、ウグッ!グググッ」
紅孩児は直面する死を前にして抗っていた。
「死んでたまるかぁ!死んでたまるかぁ!死んでなんてたまるかぁー!」
指一つ動かそうとしただけでも全身の神経が悲鳴を上げ焼き切れるようだった。徐々に全身の麻痺に思考が薄れ猛毒による高熱が徐々に凍えるような寒さに襲われる。
紅孩児君は焦っていた。
あの二体の蛇神達の次の目的場所を知ったから。
奴等の目的は強者だった。だからこそ東の地で最強を誇る牛角魔王を倒しに来た。
しかし問題外だと判断した蛇神達の次の目的は西の地と言っていたのだ。
そして東の地もまた奴等二体が現れた事で周辺の村々や大国がいっさいかっさい跡形もなく滅ぼされたと知っていたから。
あの二体の蛇神がこの居城へ来る少し前に牛角魔王は配下を連れて近辺の国が襲われたと聞き、剣を手に取ると戦争の準備をする。
「おのれ!」
冷静沈着な姿しか知らなかった父親の激怒。
少なくとも東の地は牛角魔王の統治下。
その地を土足で踏み込み、荒らす蛇神達。
しかもその滅ぼし方は残忍非道。
今までも東の地でも国同士他国と争い、村や国を襲う盗賊などは見て見ぬふりをした。
それは自分達が食べていくため、家族のため、生きるために必要だから。
しかし蛇神の行いは欲求からの虐殺。
「俺が奴等をたたっ斬る!」
そう言って少し前に出陣していた。
しかしそれはすれ違いに終わり、既に国を滅ぼした蛇神達は牛角魔王の居城に残った紅孩児の前に現れたのだ。全てが手遅れに終わった。
「ハァハァ・・・」
激痛の中で唯一動く左腕で這うように前進する。
紅孩児は理解していた。
この後に起きうる最悪の結末を。
「奴等は西に向かうと言っていた!向かうと言っていたんだぁ!西にぃー!!」
西に何があると言うのか?
西の地には紅孩児にとって最愛の人がいたから。
かつて孫悟空と初めて会った時に共に旅をして、立ち寄った村で出会った人間の女。
人間に対して不信を抱くトラウマのあった紅孩児に人との繋がりを知り、産まれて間もなく死んだ母親に代わり初めて母親の愛を知ったのだ。
彼女の名は愛音。
愛音もまた子供を妖怪に殺された過去があった。
それでも母性をもって妖怪である紅孩児に接してくれた。
孫悟空とは別に大切な存在であった。
もし、もし!
あの蛇神が西の地の愛音のいる村にまで行ってしまえば、彼女にはもう・・・
「絶対に手を出させてたまるかぁー!」
這いずり動く度に地面を血で染めていく。
その時、目の前に炎が人型へと変わっていく。
その姿は炎の翼を持つ少女であった。
名前を彩鵬。
「紅孩児くん、僕の力でも蛇の毒を癒やす事は出来ない・・・みたいだよ」
彼女は鳳凰一族であり、紅孩児の聖獣。
その能力は鳳凰の再生と炎の力。
「お前、それは!?」
しかし紅孩児を犯す猛毒は魂で繋がれている彩鵬にまで侵蝕していたのだ。
「俺様だけでなくお前にまで」
涙を流す紅孩児に彩鵬は答える。
「泣かないで紅孩児君。僕は君を守るためにいるんだ。だけど今は君を先に行かせるために」
「お前、何を?」
「今から僕の使う再生の炎を全て使って君の背中を押すよ!その代わり暫く僕は深い眠りにつく。だから紅孩児君は絶対に死なないでおくれよ」
「!!」
すると彩鵬の姿が美しい炎となって紅孩児の身体を覆いながら猛毒が徐々に収まって痛みが引いていく。全身を焼き付く猛毒は消えていた。
「ぴぃーちゃん!」
どんなに呼んでも彩鵬の返事はなかった。
死んだわけではない。
彩鵬と紅孩児は魂で繋がっている。
だから分かる。
死んだわけではない。けれど消耗は想像以上に激しく、紅孩児の魂の中に眠りについたのだった。
「俺様は戦うぞ!お前に押された背中が熱く滾らせてくれているからな!」
そして火炎山を出た修蛇六尾と熔毒覇蛇を追って、紅孩児は再び戦場へと向かったのだ。
東の地は荒れ果てていた。
修蛇六尾と熔毒覇蛇が進む道は跡形もなく廃墟となっていた。
奇しくも行く先を追うには迷う事もない。なにしろ二人から発する凄まじい蛇気が駄々漏れだったから。その方向へと紅孩児は紅色の飛行雲に乗って追っていたのである。
蛇神の進んだ道はまるで熔岩が流れた跡のようだった。
けれどそれは猛毒の熔岩。
直接でないにしろ、その障気には生きとし生ける者は逃れられる事なく絶命した。
紅孩児の前に現れてから、そう時間は経ってはいない。けれども既に周辺の村を含めても国の一つ二つは地形からも消えていた。
「急げぇー紅斗雲!!」
飛行雲は猛毒の障気を潜り抜け猛スピードで飛んでいた。紅孩児もまだ不完全な状態にも関わらず飛行雲から振り落とされないようにしがみつく。
「!!」
そして、ついに追いついたのだ。
「ウォおおおお!」
紅孩児は飛行雲から飛び降りると、前進していた修蛇六尾と熔毒覇蛇の道を塞ぐように着地した。
その姿を見て二人は驚く。
「まさか、まだ生きていたと言うのか?何者かが接近していたのには気付いてはいたが、正直驚いたぞ!だが、俺の前に再び現れた以上、次はない!」
修蛇六尾が紅孩児を相手にしようとした時、修蛇六尾が腕を伸ばして止める。
「どういうつもりだ?奴は俺の獲物だぞ?」
しかし修蛇六尾は熔毒覇蛇の形相を見てそれ以上何も言わなかった。
何故なら?
「実に不快!お前、この俺の毒を直接流し込んだはずなのに何故動ける?いや、何故生きている!」
それは確実に殺したはずと自負していた誇りを傷付けられた怒りであった。
「修蛇六尾、奴は俺が始末する。良いな?」
「アンタがそう言うなら仕方ない」
熔毒覇蛇は覇蛇の中でも現在三本の指に入る強者であった。修蛇六尾もまた同じ覇蛇として、いずれは越えるべき相手ではあったが、まだ勝てる見込みがなかった。
なにせ熔毒覇蛇の猛毒は直接触れれば蛇神である自分でさえ死に至る。確実に攻撃を当てる能力を持つ修蛇六尾でさえも相討ちこそ出来ても無事ではすまない。
もしその後に別の覇蛇か六尾に仕掛けられれば抵抗出来ずに殺される事は分かる。そうならないようにと熔毒覇蛇は修蛇六尾に最後の覇蛇となるまで同盟を組んだのである。そもそも覇蛇とは現在は地上の妖怪を絶滅するために手を組みはしているが、その後は敵に回る事になっている油断出来ない間柄なのだ。
「お前達をこれ以上先には絶対に行かせない!お前達はここで今度こそ俺様がお前らを倒してやるからな!」
全身に炎を纏い拳を握り締める紅孩児。
するとその身に再び赤の牛角帝の鎧が纏われる。
熔毒覇蛇が突進して紅孩児の前に接近すると、繰り出される拳を紅孩児は全て躱す。
「思った通りだ!お前は修蛇六尾より動きは速くない!そんな攻撃は全て躱せられるぞ!」
そして炎を纏う蹴りで熔毒覇蛇の顔面を蹴り上げる。
「ぐはぁ!」
しかし熔毒覇蛇は笑みをみせる。
何故なら蹴ったはずの紅孩児の方がダメージが大きいと知っていたから。そう、熔毒覇蛇の身体は猛毒の塊。触れる事はもちろん、攻撃なんかすれば自ら毒に犯されてしまう事は目に見えていたから。
それに熔毒覇蛇の身体から発する猛毒の障気の中で生きてはいられない。
「!!」
しかし紅孩児は立っていた。
「そうか、キサマの業火が俺の障気を焼き消しているのだな?だが、それもいつまでもつかな?」
既に一帯は猛毒の障気で充満していた。
一息吸えば猛毒に犯されてしまうのだ。
紅孩児の手段は一撃で熔毒覇蛇を倒すしかなかった。
今ある全ての力を振り絞り、その渾身の炎撃で熔毒覇蛇を消滅させる。
それが唯一勝つ手段だった。
「燃え上がれ!俺様の炎よ!」
すると両拳に全ての炎が集約していく。
それは同時に猛毒から身を守っていた防御を捨てて次の一撃にかけたのである。
それは、まさかの奥義だった。
左手の差し出した方に燃え盛る闘牛、上げた右手には炎の鶏・鳳凰が現れる。
これはかつて龍神界で青龍王が見せた天地の構えから繰り出される天竜と地竜を衝突させて目の前の敵を消滅させる必殺奥義。それを見た孫悟空が朱雀と白虎を使い模した事があった。
そして今、紅孩児は鳳凰と炎牛を召喚して自分なりの最終奥義を完成させていたのだ。
「鳳牛射闘臨!(ほうぎゅうしゃとうりん)」
その直後、一帯が炎に包まれる!
「うりゃあああ!!」
今出来る一撃必殺の炎属性最大奥義。
逃げ場を奪われた熔毒覇蛇は全身を炎に飲まれながら焼かれていく。
「うぎゃああああああああ!」
このまま覇蛇の魂ごと消滅させる。
「あがぅ!!」
その時、紅孩児の顔を炎の中から掴む腕が!?
炎の中から現れた腕の正体は熔毒覇蛇だった。
熔毒覇蛇はこの業火の中でも耐え凌ぎ、その中心にいる紅孩児のもとまで近づき顔面を掴んだのだ。
「この程度の熱で俺の猛毒を消しされると思ったか?実に力不足!お前に二度目はない!」
紅孩児は熔毒覇蛇の腕を掴み引き離そうとするが、掴んだその腕も猛毒によって爛れていく。
「ふふふ。お前はわざわざ怯えながら生き長らえるチャンスを捨てて、この俺に直接殺されるためにわざわざ現れたのだ。実に愚かな選択よ!」
紅孩児の力が全身から抜けていく。
猛毒が全身を犯して気が練られない。
炎が消却し、既に視界は朦朧としていた。
せっかく全ての力を振り絞り彩鵬に蘇らせて貰ったと言うのに、無駄にしてしまうのか?
己の無力さを痛感した。
「ゴミクズめが」
熔毒覇蛇が動かなくなった紅孩児の首を圧し折ろうときたその時、首を掴む自分の腕がボトリと地面に落下したのだ?
「なぁ、なんだぁ〜?お前は!?」
目の前には寸前に上空から降りて来た何者かが剣を振り下ろして紅孩児の首を絞めつけていた熔毒覇蛇の腕を両断したのだ。
その者は立ち上がると、その威圧感は熔毒覇蛇を怯ませた。
その漆黒の鎧を纏った男は静かに熔毒覇蛇を睨みつけて名乗ったのである。
「俺の息子が世話になった。この礼は存分に返してやろう。俺の名は牛角魔王!この東の地を統べる者だ!」
その男こそ東の地を統べる魔王であり、紅孩児の実の父親であった。
「牛角魔王だと?お前が?」
熔毒覇蛇は牛角魔王を見て納得する。
「なるほど。どうりでこいつは手応えがないと思った。お前が本物の牛角魔王であったか!」
何せ紅孩児が牛角魔王を名乗って戦っていたから戸惑いはしたが、本物の牛角魔王から発するプレッシャーを目の当たりにして熔毒覇蛇は納得したのだ。
「つまり息子の仇を取るために今度はお前が俺の相手をしてくれると言うわけか?」
「お前が東の地を荒らしていた蛇神だな?この俺の地に土足で踏み荒らしたからには覚悟するが良い」
一触即発のその時、
「ちょっと待てよ?牛角魔王を狩るのは本来俺のはずじゃなかったか?」
それは見ていた修蛇六尾であった。
牛角魔王から発する覇気を感じて無性に戦いたいと戦闘狂の血が疼いたのである。
「そうだったな?ならば牛角魔王はお前に任せてやろう。必ずやその首を覇王様に捧げるが良い!」
「礼を言う」
そもそも熔毒覇蛇は自らの猛毒に自信があったにもかかわらず紅孩児が生きて再び現れた事に頭に来ていたのだから、牛角魔王と戦う理由は特になかったのだ。それに目の前の牛角魔王と修蛇六尾を戦わせる事で修蛇六尾の実績を上げる事にもなる。
正直、めんどくさいから先に覇王から与えられていた小瓶を牛角魔王をまだ倒してないのに先に修蛇六尾に渡してしまっていた口実になると考えたのである。
「その代わり俺も疼いた血が沸騰しそうでな?」
すると斬られた腕が体内から噴出する毒により新たに再生される。
「おそらく西の地の魔王もこの牛角魔王と同等の力を持つと思われる。そっちはこの俺がいただくとする。構わんな?」
「俺はそれで構わん」
「ならば俺は先に西の地へ向かうとしよう。何せ他の覇蛇に先を越されてはかなわんからな」
すると熔毒覇蛇はその場から消えたのだ。
「・・・」
牛角魔王は立ち去った熔毒覇蛇を追いたかったが、修蛇六尾が向ける殺気がそれを許さなかった。もし追う素振りを見せたなら、無防備な状態で修蛇六尾からの攻撃を受けていたに違いなかったから。
「やむを得ん。俺の相手はお前のようだ」
「残念だが、お前は此処で俺の手によって始末される。熔毒覇蛇を追う事は叶わん」
「必要ない」
牛角魔王は修蛇六尾に反論する事なく剣の鞘に手を置く。
「余裕だな?」
「それはこっちの台詞だ。気付かなかったようだな?お前の仲間を追った者を?」
「何だと?」
その時、修蛇六尾は気付く。
この場にいたはずのもう一人の存在が消えている事に。それは牛角魔王から発する覇気に意識を向けさせられていたからだと気付く。
「お前、まさか奴を行かせるために?」
「俺の仕事はお前を葬る事に専念しよう」
そう。
この場にいたはずの存在が既に先に向かった熔毒覇蛇を追って行ったのだ。
紅孩児が!
「あはははは!愚かな!あのような今にも朽ちる状態の身体で何が出来ると言うのだ?いや、万全であったとしても熔毒覇蛇には到底敵うまい!」
修蛇六尾の高笑いに牛角魔王は笑い返す。
「ガハハハハ!奴は俺の血が流れている。負けるはずがない!俺のガキは大した奴だからな!」
「親馬鹿か!そのガキを死地に向かわせたお前は寂しくないように先に逝かせてやろう」
修蛇六尾が構える。
それは無手の刃。
修蛇六尾が接近して牛角魔王の顔面に拳を突き出す。
対して牛角魔王は抜いた剣の側面で受け止めると、その一帯が爆風に覆われる。
「素手の相手に武器を持って相手するわけにはいかんな。鞘に治めるか?」
「構わん!お前は俺に何をされたか分からないまま死ぬのだからな!」
次の瞬間、牛角魔王が弾き飛んだのだ。
「ぐぉおお!」
確かに面食らった牛角魔王は修蛇六尾を見る。
「俺の拳は何者も躱す事も避ける事も防ぐ事も出来ん最強の矛!東の地を統べる魔王よ?俺を楽しませられるか?」
「ふん!俺に笑いを求めるな!冷静沈着クールな魔王として恐れられているのだからな」
「・・・・・・」
ん?それはギャグか?真面目か?
かつて孫悟空の転生前の美猴王と共に義兄弟として戦った牛角魔王が蛇神との戦いに参戦する。
次回予告
かつての最強の妖魔王・牛角魔王の参戦。
その実力は蛇神に通用するのだろうか?