玄壇元帥・顕聖二郎神君の力!
二体の覇蛇に対して、二郎神君と楊善が挑む。
英雄神の実力は覇蛇に通用するのだろうか?
私は法子。
今、二郎神君さんと楊善さんが喰殖覇蛇と蝕王覇蛇を相手に戦っているの。
哮天犬と聖獣変化して蒼い鎧に身を包む二郎神君さんと、紅色の鎧に身を包む楊善さんの神気は二体の覇蛇を相手にしても怯まない力を発していたの。
「あれが二人の本気なのね」
楊善さんが戦う姿は何度か見た事あったけれど、二郎神君さんもやっぱり桁違いの強さなんだと分かる。
二郎神君さんは手にした三尖両刃刀を構えると、その周りを喰殖覇蛇が素早い動きで移動しながら翻弄する。そして隙きをつき鋭い斬撃を放って来るの。二郎神君さんは三尖両刃刀を構えた状態で最小限の動きで受け止め、左右に躱していたの。
「セイヤァアア!!」
閃光の如き突き出された三尖両刃刀は確実に動き回る喰殖覇蛇の胸を貫く。そして二郎神君さんから放たれた強烈な神気が喰殖覇蛇の全身を覆い体内から破裂させた。
やったわ!
まさに一撃必殺だったわ。
二郎神君さんは三人の英雄神の中ではリーダー格。
その強さは覇蛇に対しても圧倒的だわ。
「不気味だ」
「えっ?」
歓喜する私にナタクが呟く。
「どういう事よ?」
「馬鹿目!考えてもみろ?木っ端微塵になったにも関わらず、蛇気がいまだに充満しているのだ。それにあのような力量で俺達が派遣されるはずがない」
ナタクの推理に私はもう一度見直す。
すると二郎神君さんも警戒を解いてなかったの。
「どういうカラクリは分からないが、蛇神は不死だと言うのは本当のようだな?」
二郎神君さんの目の前に肉片が集まって、再び喰殖覇蛇は再生していく。しかも先程の痩せ細った身体ではなく、今度は筋骨隆々の姿で甦る。
「やはりさっきの姿では相手にはならんか?ならば次はこの器で相手してやろう」
すると今度は先程の素早さ以上かつ破壊力が数段とアップした攻撃力で殴りかかる。
三尖両刃刀で受け止めた二郎神君さんの足が地面に埋もれる。押し込まれる圧力に二郎神君さんは軸をズラしてその場から飛び上がり躱す。
喰殖覇蛇はその勢いで体勢を崩され地面を殴りつけると、その一帯が一気に陥没したの。
何て破壊力なの?もしあのまま受け流さずに受け止めていたらどうなっていた事か?
あの状態で二郎神君さんは適切な判断力だったわ。
「まるで別物。本来の力を解放させたのとは異なる強さの増加?お前、何をした?」
「この俺の秘密を知りたくば、この姿の俺を倒してみろ?」
「そうか?」
「なぁッ!?アガガガ!!」
本当に一瞬だった。
二郎神君さんは一度の踏み込みで喰殖覇蛇の背後に出撃し、その頭上から脳天を貫いたの。
串刺しになった喰殖覇蛇に向け、
「その状態で復活出来るのか?」
二郎神君さんは閃光を放ち喰殖覇蛇の身体を再び破裂させたの。
「やはり甦るようだな?」
えっ?
喰殖覇蛇の姿が見る見る再生していく。
しかもまた全然違う姿になっていたの!
「そろそろ教えてやっても良かろう?この俺の秘密と絶望をな?」
喰殖覇蛇の不死の秘密。
それはただの再生とは違ったの。
「この俺はな?喰らった者の魂の分だけ生き返り、その餌となった者の能力と姿を俺のモノとして使えるのだ。当然、覇蛇として強化されてな!ちなみに俺の中には一万の魂を補完できるのだぜ?」
「つまり借り物の能力か?」
「借り物?違うな。今はこの俺自身の力だ!」
新たな喰殖覇蛇の姿は両腕が鎌のような刃となっていたの。
しかも六本もあるの。
「斬り刻んでやろう!そしてお前も俺の餌となり、その能力と姿をいただくとしよう。そのために俺はお前達のいるこの戦場にまで足を運んだのだからな。覚悟してもらおうか!」
「お前のような者にやれるモノは何もない!」
喰殖覇蛇の繰り出す六本の大鎌に対して二郎神君さんは三尖両刃刀一本で受け返す。
磨き上げた二郎神君さんの剣術は退くどころか一歩前に踏み込み更に鋭い一撃で六本の腕を掻い潜る突きで蝕王覇蛇の胸を貫く。
「剣光神弾!」
三尖両刃刀から神気が流れ込み喰殖覇蛇を再び粉砕する。
それでも甦る喰殖覇蛇に対して、
「これは手間と時間がかかるな」
余裕そうに見える二郎神君さんだけれど甦る度に能力も変わり力も上がる喰殖覇蛇に焦りを感じる。
例えるなら一万もの様々な能力を持つ蛇神を相手にしなくてはならない。
しかも今でこそ喰殖覇蛇を力で凌駕してはいるけれど、次第に勝敗が紙一重となっていく。
しかも相手の能力は厄介極まるの。
「クッ!姿が消えた?」
すると背後から殺気が迫り本能的に身を逸らすと肩の鎧が砕けながらも躱したの。
甦る度に新たな能力を見せる喰殖覇蛇。
「透明化か?しかも素早いとは厄介だな」
透明なだけでも厄介なのに、その動きは二郎神君さんを凌駕するスピードなんて!?
「どうしよう!あのままじゃ二郎神君さんがやられちゃうわ!ナタク!」
私はナタクに救援に行って欲しいと訴える。
しかしナタクはその場から一歩も動かずに答える。
「あの程度で負けるようなら、それまでの武神だったまでのこと」
「なぁ?見殺しにするつもりなの?ナタク!」
「そもそも何故俺を呼び付けする?」
「そんなの今は関係ないわ!」
「本当に無礼な娘だな」
するとナタクは口元に笑みを浮かべて呟く。
「本当にあの程度の男なら、俺が先に戦っていた」
「えっ?それって?」
その時、二郎神君さんに変化が起きたの。
纏っていた神気が一気に膨れ上がったの??
「そこだぁー!」
その突きは閃光を放ち透明化しながら高速移動をしていた喰殖覇蛇を貫き消し飛ばしたの。
「どうしちゃったの?二郎神君さん?」
「あいつの力は一気に開放させると身がもたないらしくてな?段階を踏まえて開放させているのだ」
二郎神君さんの背後に後光が輝く。
アレが真の力なの?
「何度でも甦るが良い!その全てを俺はこの三尖両刃刀で斬るまでだ!」
その計り知れない力に喰殖覇蛇は驚きを感じる。
「まさか蛇神以外にもその境地に達する者が存在するとはな・・・しかし、お前のその力も能力も奪って俺は更に力を得る!」
喰殖覇蛇の姿が膨れ上がり風船のような化け物になる。
そしてゆっくりと近づいて来るの。
「素早さを捨てたか?その姿は何のつもりだか知らんが直ぐに終わらせる!」
二郎神君さんは三尖両刃刀に神気を籠めると上空に光の魔法陣が描かれると神気の光線が放たれたの。
避けもせずに直撃する喰殖覇蛇。
「!!」
しかしその光線は全て喰殖覇蛇の膨れ上がった身体の中に吸収されていく。
「この俺の身体には神族の気は全て通用せんぞ?神族の気を喰らい栄養に変えるのだ」
「神気が通用しないだと?そうか、それで勝ったつもりでいるのなら話が早い」
「何だぉ〜?」
直後、二郎神君さんは喰殖覇蛇の間合いにいた。
「えっ?いつの間に?」
「戦場では臨機応変に自分の磨いて来た力を使い熟せて、初めて意味があるのだ!」
それは肉弾戦。
拳と蹴りを織り交ぜで削ぐように斬り裂く。
まるでミキサーの中の野菜のように喰殖覇蛇は二郎神君さんの攻撃になすすべなく身を削られ倒れる。
それでもやはり復活する喰殖覇蛇を見て、分かっていた結果に対して挑発する。
「次々と来るが良い!」
覇蛇を相手に圧倒的な戦いを見せる。
これが英雄神と呼ばれる二郎神君さんの強さなのね。
「もしかして孫悟空よりも強かったりして?」
私がそう漏らすと、
「かつて奴は天界大戦で孫悟空、いや?全盛期の美猴王でさえ降したのだ」
「うそ?マジ?」
あの孫悟空よりも強いと言うの?
でも頷ける。
それだけ強い覇気がビンビンと伝わって来てるの。
本当にこのまま喰殖覇蛇の一万の魂を全て倒し切るのも不可能じゃないわね!
けれど覇蛇の力を見くびっては駄目だった。
再び起き上がる喰殖覇蛇は今は圧倒的な二郎神君さんを相手にして怯む事なく笑みを見せる。
「組み変えるか」
組み変える?それってどういう意味なの?
「俺は内に取り込んだ魂を融合させ強化し、その能力と特性を一つに出来るのだ」
すると喰殖覇蛇の身体が粘土を捏ねるように変形し始める。
捏ねれば捏ねるほど肉の塊のような喰殖覇蛇から発する力が膨れ上がっていくの。
「どうやらとんでもない化け物へとなるか?しかし俺も待ってやるほど甘くはないのでな!」
一瞬で踏み込み三尖両刃刀を振り上げ、目の前の肉の塊が完全体となる前に決着をつけようと振り下ろす!
肉の塊は両断された。
「!!」
しかしそれは卵の殻のように割れただけだったの?
中にあった本体は何処に消えたの?
「どうやら一筋縄ではいかないようだ」
二郎神君さんの頬から一筋の汗が流れ落ちた。
そして振り返った先には、人型に蛇の尾のある姿で喰殖覇蛇が立っていたの。
「俺達覇蛇は覇王様より与えられた究極の血を与えられて無限の力を与えられた。だが俺達自身が自らの力の限界値を知らないのだ。だからこそ戦いの中で進化しながら究極体へ近づく。教えてもらうぞ?俺はお前と戦う事で俺の限界を知る事が出来るかもしれんからな!」
その瞬間、喰殖覇蛇の指先が二郎神君さんの眼球目掛けて突き出されたの。
「ハァアア!」
二郎神君さんはその攻撃を寸前で躱す。
けれど瞼から血が垂れる。
身を翻し三尖両刃刀を構えた二郎神君さんは瞼から流れる血を振り払うように拭い止血する。
「進化する化け物か。なるほどな。だが俺達天界の武神もまた己の身体を日々訓練の中で可能な限り痛めつけ鍛え抜き、己の限界を超えて来ているのだ!お前が戦いの中で進化し続けるのであれば、俺はそのお前を超えて見せよう!」
二郎神君さんは全身に覇気を纏って突っ込むと、喰殖覇蛇は尾を振り回して接近を防ぐ。
喰殖覇蛇の左右から振り回される尾の斬撃の余波は天を震わせ大地を削りながら離れた後方の岩や山をも粉砕する。さらに空いている両手から繰り出す突きは一直線に貫く槍のようだったの。
その攻撃を三尖両刃刀で受け返している二郎神君さん。
僅かに集中力を欠ければ二郎神君さんは八つ裂きになること間違いなかったの。
二人を中心に大地が陥没し揺れ始める。
それでも構わずに二人は攻防を止めなかった。
この攻防戦を制するのはどっちなの?
「ウォおおおお!」
二郎神君さん三尖両刃刀は無数の閃光となって喰殖覇蛇の全ての攻撃を弾き返して、その心臓を貫く!
「ば、馬鹿なぁ!?」
喰殖覇蛇は気付く。
目の前に立つ天界神は本当に成長している?
今の自分は完全体に相応しいと自負していた。
先程までの様子見とは違い確実に凌駕し始末出来る自信があった。
にも関わらずまた敗北したの。
確かに不死で甦る事は可能だけれど、二郎神君さんは驚くスピードで成長し、このまま全ての命を狩り取られてしまうのではないだろうか?
そんな不安と込み上がる恐怖を感じ始める。
「馬鹿な?この俺が下等な種に敗北するなどあってはならぬ!断じてだ!俺は覇蛇なのだぁー!」
「早くかかって来い?来ないのであれば俺から行くぞ!」
二郎神君さんが一歩前進する。
「ヒィイイ!」
その迫力に喰殖覇蛇は怯んでしまう。
確実に二郎神君さんが勝つムードだわ!
この勝負は勝利に間違いないわ!
「!!」
その直後、二郎神君さんは接近を許した背後の気配に反応が遅れて警戒しながら振り向く。
そこには?
「よ、楊善!?」
その気配の主は楊善さんだったの。
「そうか、どうやらお前も決着を終えていたのだな?ならもう少し待っていてくれないか?俺も直ぐに片付けるからな!」
楊善さんは笑みを見せると、二郎神君さんは再び
喰殖覇蛇に矛先を向けたの。
その時!
えっ!?
突如、背後からの攻撃に二郎神君さんは何とか反応し受け止めはしたけれど、その相手に対して驚きを隠せなかったの。だって、その相手は!
「よ、楊善!お前、何をする!?」
そう。その攻撃の主は楊善さんだったの。
楊善さんが何故二郎神君さんに攻撃を?
それに相手をしていたはずの覇蛇は?
楊善さんは笑みを見せて答える。
「楊善、そう!この私の新たな名だ」
「お前、何を言っているのだ?どうしてしまったのだ?楊善!」
すると衝撃的な言葉を告げられたの。
「お前の知っている楊善は死んだのだ。この私、蝕王覇蛇によってな!」
「何だと!?」
その意味を理解する事は余りにも残酷。
よ、楊善さんに何が起きたと言うの?
そんなこんな。
次回予告
楊善が敗北?
楊善に何が起きたというのか?
話はその時の戦いへと遡る。