転生変化!今こそ甦る純粋な破壊神!
その少年は黒髪、褐色の肌。
その身に纏う気は漆黒の神気。
それは魔神国の神の特徴だった。
突如現れた黒髪褐色の少年。
その者は自らを八代目天峰元帥と名乗った。
八代目の天峰元帥とは伝説の武神。
それが何故この場所に?
しかも生きて・・・いたのか?
いや、生きているはずがないのだ。
生かしていてはいけないのだ。
八代目天峰元帥
その称号とは別に恐るべき異名があった。
「破壊神」
天界の武神でありながら破壊神と呼ばれるのは、過去に大量虐殺を行ったのだ。
かつて大罪を犯して伝説からも消されるかのように討伐された。
少年の姿で騙されてはいけない。
この少年は魔神国から現れたのだから。
こちらの世界に初めて出現した時は天界の武神を数多く殺した。
その中には七代目天峰元帥・大玄を殺した事で天界も放って置けない事態へと発展する。
一人の少年に対して数万の武神が討伐へと出兵した。
しかしその戦いは一人の神によって止められたのだ。
それが捲簾大将・捲簾であった。
二人の邂逅は破壊神の少年を止めた。
捲簾大将の保護管轄下で捲簾と破壊神の少年との共同生活が始まったのだ。
その少年の名前は遮那。
徐々に心を持つようになった遮那。
かつての過ちはその後の功績の積み重ねから少しづつ償われていくように思われた。
はやがて八代目天峰元帥を就任したのだ。
しかし再び破壊神として天界を恐怖に震わせたのだ。
それは裏切り?それとも最初から騙していたのか?
まだ幼い訓練生を引き連れた魔物討伐の実践訓練の際に、遮那は訓練生達を皆殺しにした挙げ句、討伐に来た数百万の武神達を消し去った。
そして遮那のお目付け役だった捲簾大将自らが責任を取るべく討伐に出向く事になった。
共に激しい戦いを繰り広げ相討ちのうち戦死した。
それが口伝のみ伝えられている伝説だった。
にも関わらず、
なのに何故、今!
彼等の目の前に現れたのか?
まさか偽物?
そんな事は絶対にないと改伯と玄徳は確信していた。
何故なら二人は過去に八代目天峰元帥に直接出会っていたから。
「この私があの方を見間違うはずがない・・・まさしく八代目天峰元帥・遮那様だ・・・」
「しかし私は目の当たりにしてもなお信じられません。ならば八代目があの黒豚妖怪八戒だったと言う事になります。そんなはずない!まさか今の今まで力を隠して我々を謀っていたと言うのですか?何のために?天界の討伐から逃れるために?いや、あの八戒と目の前にいる天峰元帥とでは全く異質過ぎる!」
だが博識である改伯がある答えを導きだしたのだ。
「まさか・・・転生したと言うのでは?それも有り得ぬ話だ。転生とは前世の記憶も能力も全て失い浄化された魂が新たな肉体に宿りゼロから始める事なのだからな。前世の記憶と力を持ったまま転生など、この世の理から外れておる」
そして八戒自身も何者か分からないでいた。
つい先程までは・・・
八戒は「声」を聞いたのだ。
その声は自分を記憶の彼方へと誘った。
そこで八戒は、かつて破壊神と呼ばれた少年の生涯を覗き見たのだ。
それはまるで自分自身が体験したかのように「痛み」を感じながら。
それは心に、魂に刻まれた痛み。
破壊神としてこの世界に来た魔神の少年遮那は戦う事しか知らなかった。
しかし捲簾大将との出会いにより、その運命が変わっていく。
捲簾に敗北して仕方なく共同生活を送る事になった。
捲簾大将は遮那よりも遥かに強い力を持っていた。
後々倒す目標だった。
だから一緒に暮らす事を嫌々ながらも了承したのだが、その共同生活は戦う事しか知らなかった遮那にとってとても心躍る毎日だった。そして沢山の事を学ばせて貰ったのだ。それが遮那の成長えと繋がる。
次第に捲簾に対して心を開き、無意識に師として認め始める。
命の尊さ、大切さ、儚さを学び、遮那は守るために戦う事を知ったのだ。
そして八代目天峰元帥として、過去の償いを始める。
それは確かに茨の道であった。
かつての破壊の限りを尽くした魔神を信じる者はいるはずがなかったから。
遠退きに避けられ恐怖されながらも遮那は人事を尽くした。
それが試練と信じて・・・
徐々に世間からの遮那への評価も変わっていく。
その身を顧みずに傷付きながら率先して危険な戦場に出ては、傷付いた仲間を助け、強力な敵を前にして戦ったのだ。救われた者の数は数えきれなかった。
それも全ては捲簾大将との約束。
一つ良い行いをすると捲簾は遮那の頭を撫でてくれた。
最初は恥ずかしく嫌だったが、だんだん撫でられる事に歓びを感じ始める。
例え、その身が穢れていようとも
その心だけは、
光絶やす事なく生きよう。
例え、誰にも信じられず、忌み嫌われようとも
自分の信じる心を信じて・・・
泥の中に根を張りながら、泥にまみれることなく美しい花を咲かせる蓮華の如く!
唯我蓮華
ただ、自分は蓮華のようにありたい。
どんなに辛くても悲しくても、捲簾がいれば何でも耐えられる。
このままいつまでも・・・
そんな遮那の運命が代わる出来事が起きるとは知らずに。
それは遮那が訓練生を引き連れ魔物討伐の実習訓練を任された時の事。
そこで予想だにしなかった問題に遭遇する。
仲間から痺れ薬を盛られたのだ。
それでも本来なら問題なかった。
しかし討伐の対象が下級の魔物と聞いていたはずなのに、凶悪な蛇神だったのだ。
その蛇神の強さは本調子の遮那でも難しい相手であった上に薬のせいで見動きが取れない。
引き連れて来た若い少年兵達は蛇神に皆殺しにされ、しかも全てが終わった頃に現れた天界の武神達により訓練生の惨殺の全ての行いが遮那の犯行だと決めつけられたのだ。
そして遮那は天界から追われる身になった。
しかし捲簾なら、自分の事を信じてくれるはず!捲簾なら全ての誤解を解いてくれるはずと・・・
信じていた。
その希望を胸に遮那は捲簾の待つ天界の最上層へと向かったのだ。
しかし待っていたのは、捲簾大将との命をかけた一騎討ちだった。
信じられなかった。唯一自分を信じてくれると思っていた捲簾が殺意を向けて襲って来るのだから。
もしかしたら、何か怒らせてしまったのか?
それなら謝るから、だからいつもの捲簾に戻って欲しい。
しかしその願いは叶わなかった。
そして捲簾の口から聞きたくない言葉をかけられた時、八戒の圧し殺していた感情が爆発し壊れてしまったのだ。そしてお互い命をかけて熾烈な戦いが繰り広げられた。
その戦場を囲む武神達はその戦いをただ見ているしかなかった。それほど二人の戦いは次元を超えた戦いだったから。更に言えばその時、捲簾大将の正体も公になったのである。
捲簾大将の正体とは、最高神であり、仏神の最高峰である観音菩薩なのだと!
破壊神と観音菩薩の決着が付かないまま戦場は天界を揺らし始める。このままでは天界に天災が起きてしまうのではないかと思われた。
だがしかし、その時に凄まじい破壊光線が善見城から放たれたのだ!!
『破壊宝貝・突漸気飛躍砲門』
※トツゼンキヒャクホウモン
それは光輝く砲門であった。
数百万の武神達の魂を強引に抜き出し吸収し、その魂エネルギーを破壊光線として放つ禁断の宝貝。閃光は戦場にいた二人だけでなく囲んでいた武神達をも飲み込むほどの兵器だった。
高熱がその場にあった全てを消し去っていく
閃光の中に遮那と捲簾も飲まれていく。
その中で遮那は気付いた。
捲簾が何者かに洗脳されていた事に。
そこで遮那は後悔する。
何故、最後まで信じられなかったのか?
何よりも大切なかけがいのない者を自らの不始末から共に死なせてしまうなんて・・・
死ぬのは自分だけで良かったはずなのに。
後悔
それは遮那が自分自身の存在意義を全て否定した絶望であった。
自分さえいなければ、自分が全ての元凶で、不幸の始まりなのだと。
しかしその後悔も後の祭り。
もう手遅れなのだ。
高熱が徐々に身も心も焼き付けていく。
そんな状況の中で遮那は気付いたのだ。
目の前のけんれんが自分に微笑んでいる事に?
「け、けんれん・・・」
すると捲簾は遮那の頭に手を置き、数度撫でたのだ。その温もりが遮那の胸を熱くさせた。
捲簾が遮那の頭を撫でる時は褒める時。
「よく頑張りましたね?遮那」
「お、オラ・・・」
涙が止まらなかった。
捲簾の言葉が染み込むように遮那を熱くさせていく。
それは唯一の救いだった。
けれど全てが手遅れだった。
このまま高熱で全身を焼かれて消滅するのだから。
しかし捲簾は遮那に向かって印を結び唱えたのである。
この状況で何を?
「遮那、よく聞きなさい。これから私が貴方の命を奪わせて貰います」
「えっ?」
それは衝撃的だった。
このまま放って置いても消滅すると言うのに何故に直接手を下す必要があると言うのか?
「けれど貴方は時が来た時に再び蘇るでしょう」
「な、何を言ってるらか?オラ馬鹿らから捲簾が何を言ってるか分からないらよ」
「貴方の魂は私の転生の術で別の存在として生まれ変わるでしょう。その後に貴方の前に現れるであろう時を越えた運命の友との邂逅が再び貴方を遮那として目覚めさせるです」
捲簾その時の遮那には捲簾の言葉の意味が分からなかった。けれど唯一分かる事は、これが捲簾との最後の別れなのだと言う事。
「遮那、私は貴方に出会えた時間は本当に幸せな時でした」
その直後、捲簾は八戒に向かって術を発動させた。
閃光の中で消滅するよりも先に八戒の魂は飛ばされたのだ。
出産間近の黒豚の中に。
そして新たな命を持った黒豚として転生した。
捲簾は天界から遮那の存在を隠すために転生の術を施したのだが、強力な力を持っていた為に妖怪として転生してしまったのだ。
その転生した黒豚こそ八戒であった。
転生した八戒は遮那の記憶を全て忘れていた。
一番忘れてはいけない捲簾の事さえも。
弱小妖怪の八戒は唯一特殊な能力を持っていた。
それが驚異的な不死にも近い再生力。
そのお陰で特に強くなかった八戒は様々な苦難の中を生き延びてこれたのだ。
しかし八戒は硬剛覇蛇によって殺されてしまった。
もう全てが終わった。
それなのに、八戒は誰かと会話していたのだ。
その会話の相手とは?
「なぁ?お前は起きないらか?」
「何れ、そんな縮こまっているらよ?」
「なぁ〜?オラの声が聞こえてないらか?」
「無視するなや〜よぉ?こっちむくらよ?」
それは八戒自身の声だった。
「お前らったんらな?いつもオラがピンチの時に力を貸してくれていたのは?お前が出て来るとオラはいつも記憶がぼんやりしてよく分からなくなっていたから、今の今までお前の事を認識出来なかったんら〜すまねぇらな?」
八戒は思い出していた。
初めてその力を感じたのは金角児と銀角児に半殺しにされていた時だった。
その時は目覚めた時には全てが終わっていた。
一瞬だったけれど孫悟空を先に向かわせるために鵬魔王の軍団を相手に一人で戦っている時にも感じたのを思い出す。
それから黄牙白象の時にも、猪牙の時にもその力が崖っぷちの所で力を貸してくれたのだ。
「全て思い出したらよ・・・」
しかし八戒の声は闇の中に響いた後に吸い込まれて消えていくだけ。
沈黙だけが残る。
「なぁ〜?返事しなくて良いからそのままオラの話らけでも聞いて欲しいら」
八戒はその場に胡座をかいて言葉を続ける。
「オラはお前に起きて欲しいんらよ。正直、オラには手の余る化け物がわんさか出て来てよ?オラ参ってしまってるんらよな〜」
返事は無く独り言をひたすら続ける。
「これから先の戦いに必要なのはオラではないんら。これから先、法子はんや猿、河童に玉龍や阿修羅を守ってやれるのはお前なんらよ。一緒にいるべきは。オラではなくお前なんら!それに今も玄徳や改拍が危ないんら。直ぐにでもお前が必要なんらよ!」
叫ぶ八戒に、やはり返事は戻ってこない。
「いい加減に臆病風から抜け出すんら!」
その時、僅かな揺れを感じる。
「図星をつかれたらか?そうらよな?お前は確かにオラなんかよりも桁違いの強さを持っているら。でも中身は全然成長してないんらな?」
自分の胸を抑えて挑発した。
「お前の封印はとっくに解けていたんらろ?捲簾大将が言ってた運命の友にはもう巡り会っているもんな?」
それは法子や孫悟空達の事だった。
「それでもお前が閉じ籠っているのは、お前自身が外に出る事を拒否しているんらよな?何故ら?なんれ、お前は戦う事にそんな臆病になっちまったんらよ!」
すると八戒の呼びかけに初めて反応が戻って来たのだ。
その声の相手は遮那であった。
「オラを放っておくらぁー!」
「ようやく口を開いてくれたようらな?てっきり口が聞けないのかと思ったら。それより」
それは本当に不思議なやり取りだった。
遮那と八戒が時と空間を越えて意識の中で会話しているのだから。
「どうしてオラを起こそうとしているんら?止めるら!オラを放っておくら!」
「本来ならお前に目覚められた困るのはオラの方なんらよな・・・」
「そうらよ!オラが完全に目覚めたら八戒であるお前は完全に消えてしまうらよ?お前は消えて遮那であるオラが意識の所有者になるんら」
「・・・・・・」
「オラはお前(八戒)をずっと見てきたら。力は無くとも強く逞しく生きて、沢山の仲間が出来たら。それはオラではなくお前が築き上げたんらぞ?それを全てオラに渡すと言うのらか?仲間を捨てると?自分の生きた宝物を手放すと言うらかぁ!」
遮那の言葉に八戒は口を開く。
「なんとなく分かっていたんら。お前はオラのために表に出て来なかったんらな?」
「ち、違うら!オラは恐いんら!失うのが恐いんら!大切な者が出来たら、必ず全て失う。そんなのはもう嫌なんらよ!」
遮那は涙を流していた。
守りたかった捲簾大将を失った過去。
かけがいのない者を失う痛みを知っているから。
そして八戒には、もっと沢山の大切な者が出来ている。
その全てを失ったとしたら、その痛みを味わう事への恐怖が遮那を閉じ込めていたのだ。
「ふぅ〜オラは臆病者なんらよ?オラはお前に嫉妬しているんらよ?もしオラにお前ほどの力があればお前に頼まずにオラが戦うら。けれど今までみたいな借り物の力だけではもう凌げない所まで来てしまってんら。オラはもう用済みなんら!これから必要なのはオラ(八戒)ではなくお前(遮那)なんら!らから・・・」
八戒は悔し涙を流しながら遮那に訴える。
「オラもお前のように大切な恩師(三蔵)を失ったからお前の痛みは分かるつもりら。それでもお前には戦って欲しいと願うんら!お願いら・・・皆を守って欲しいんら。皆のためにならオラは消えても構わないら!オラには無理でもお前になら救える力があるんら!その力はなんの為にあるんら!」
「!!」
八戒の訴えに遮那は胸が熱くなる。
なんのための力?
それは遮那であった時に抱いていた葛藤。
そして今、それを問われた時に答えはもう出ていた。
遮那は立ち上がると八戒の目を見詰める。
「オラの力は守るべき者のために使う力ら」
「ならもう駄々をこねるのは止めるらよ出?」
遮那は涙を流して答える。
「オラは・・・お前(八戒)にも生きて欲しかったんら・・・お前を失いたくなかったんら」
すると八戒は遮那の胸に拳を置いて、
「オラはお前で、お前はオラなんらぞ?オラ達は最初から一人なんら!らから」
「わ、分かったら!オラはお前の分も戦い守り抜いてみせるら!オラは戦うらよ!」
「それでこそオラだよ」
そう言うと八戒の姿が薄く消え始める。
「皆を・・・法子はんを頼むら」
消えて逝く八戒に向かって遮那は飛び出し抱きしめる。
そして呟いたのだ。
「消えるな!オラ達は二人で戦うんら!オラ達は二人で一人の・・・」
すると八戒と遮那は同時に唱えたのだ。
「転生変化唯我独尊」
その直後、閃光が弾けて漆黒の神気が爆発した。
目覚めた時に八戒の姿はなく、そこには魔神の少年遮那の姿がその場にあった。
「あ〜ん?なんだぁ〜お前は?あっ〜??」
硬剛覇蛇が突如現れた遮那に問う。
すると何やら呟いていたのだ?
「不思議な感覚ら。オラは何者らと?オラは魔神国からの来訪者であった遮那と、黒豚妖怪らった八戒の記憶を同時に持っているようら。まるで遮那がそのまま八戒の人生を送って来たような感覚ら」
意味が分からない事をブツブツ言う目の前の魔神国の遮那に向かって硬剛覇蛇が襲いかかる。
すると口を開き拳を握りながら答えたのだ。
「オラは八代目天峰元帥の称号を持ちし破壊の申し子!
ルドラ・シャナ・八怪ら!」
その名は「戒」から「怪」へと字を改め、遮那である事と八戒が共存した「八怪」
と言う存在だった。
新たに生まれ変わった八怪は拳に気を集中させると阿修羅と同質の黒い神気が覆われる。
「うらぁああああ!!」
振り向きざまに硬剛覇蛇の腹部を素手で殴りつけると、その強固な身体がひび割れて粉砕したのだ。
「あ、がががぁ!?」
悶絶する硬剛覇蛇。
その一撃は重く、
その拳は強剛。
抉るように鋭くヒットした破壊力は、
まさに破壊の拳の一撃だった。
「オラは早く戻らないといけない帰る場所があるんら。お前相手に時間はかけてられないんら!」
世界の窮地に今、ここに新たな戦士が現れたのだ。
今、八怪として転生した戦士は、
世界を滅ぼしかねない蛇神の猛威に光明となるのか?
※遮那と捲簾の過去を詳しく知りたい方は、
「我蓮華~破壊神と呼ばれた少年~」
にて物語られています。