救世主外伝その拾~繋ぐ未来~
その男の名は三蔵法師
かつて救世主と呼ばれた男だった。
俺は三蔵!
世界を混沌へと変える力を持つ覇王を相手に戦っていた。
五体の最高神を宿した俺は金色のオーラを纏いながら燃え盛る降魔の剣を手に一歩一歩前に出る。
怯んでいた蛇神達が一斉に襲いかかるが、今の俺は別次元の強さで斬り伏せたのだ。
「馬鹿な・・・そんな、ありえないわ!」
その強さは白蛇王を怯えさせる。
「今、決着をつける!」
俺は飛び上がると一瞬で覇王の前に出ると、覇王もまた視界から消えて指先を突き出して来たのだ。
「!!」
だが、先程とは違い俺は奴の攻撃が見えていた。
紙一重で躱して、次の攻撃を仕掛ける。
振り払った降魔の剣が覇王の頬を斬ったのだ。
互いに間合いを取ると、覇王は頬から流れる自らの血を指で拭うと舌で舐める。
傷跡が再生して直ぐに消えていた。
俺は剣を構えた状態で直ぐにでも仕掛け、一瞬で間合いに入り斬り込む。
覇王の妖気が蛇のように向かって来るが構わず斬り伏せると、覇王の眼前に剣先が迫った。
「ふん!」
しかし俺の剣もまた紙一重で躱され、今度は覇王の蹴りが俺に繰り出される。
咄嗟に片腕で受け止めると、その衝撃は闘技場を震撼させて崩れさせた。
信じられない顔で固まっていた白蛇王は我に返ると、
「馬鹿な・・・あってはならない。この世界の支配者たらん覇王様と互角に渡り合えるなんて事は!はっ!そうだわ!」
白蛇王は急ぎ配下に念を送り命じる。
「ふふふ。これで覇王様に敵う者はいないわ」
すると白蛇王直属の配下の白蛇衆があるモノを持ち運んで来たのである。
それは蛇気を帯びた鞘?
「ふふふ。見事に錬成されたのぉ?鈎蛇王よ」
それは覇王候補だった鈎蛇王の変わり果てた姿だった。
鈎蛇王は覇王の持つ剣の鞘として、その身体を使われたのだ。
「覇王様にその身を捧げよ」
白蛇王は鞘を覇王に向けて投げたのだ。
「那我羅様ぁ!これをお使いくださいませ!」
覇王は飛んで来た鞘を受け取ると、その鞘を見つめる。
その鞘には剣が存在していなかったのだ。
まさか鞘で斬り合うつもりか?
しかし覇王が鞘を手にし覇気を込めると、その鞘から蛇気を帯びた剣が出現する。
「覇王の剣でございます!どうぞお使いくださいませ。そしてその人間を斬り伏せてくださいませ」
それは覇王にのみ持たされる剣であった。
「覇王の剣か?面白い。久しく剣を振るってはいなかったな」
覇王がその剣を手にした途端、凄まじいプレッシャーが俺を襲う。
「喝っ!」
しかし俺は気合いで打ち消した。
俺は降魔の剣で斬り掛かると覇王もまた覇王の剣で受け流しつつ俺に眼前に剣先が迫る。
「ウグッ!」
危なかった。
この野郎!まさか、かなりの剣術使いだそ?
ただの力任せでなく、動きが洗練されている。
かなりの修羅場を潜り抜けた戦場の剣だ!
肌身に感じ分かる。
「覇王ってのは何でも一流だな?隙が全くねぇぜ」
しかし覇王もまた俺に感じていたのだ。
「・・・・・・」
俺に対して強者の匂いを!
同時に動く。
踏み込むと同時に互いの剣が交差し衝突し合う。
その余波は斬撃となって闘技場に残っていた蛇神達を巻き込み消滅させていく。
「お下がりください、白蛇の巫女よ」
白蛇衆の者達が白蛇の巫女である白蛇王の安否を心配する。
「構わぬ。覇王様が戦っておると言うのに私が逃げるなどとあってはなりませぬ」
「しかし!」
その余波が幾度となく白蛇王に迫る所を白蛇衆は結界を張り命がけで守っていた。
生き残った蛇神達もまた俺に対して驚愕する。
「覇王様の御力は我々とは次元が違い過ぎる。にも関わらず、あの人間の力は何なのだ!?」
皇蛇は見上げながら驚きを隠せない。
既に巻き込まれ消滅した蛇神は力無き者か運がなかった。しかし現存する蛇神達は余波から発生する斬撃を全て躱すか受け流す猛者揃いであった。
そこには蛇牙流多と猛虎修蛇も生き残っていた。
そしてもう一人、俺と覇王の戦いに身震いし目を奪われる者がいた。
そいつは獅駝王。
「俺俺、最強を垣間見たぞ!俺俺の目指す高みは奴らだぞ!」
今はまだ敵わぬと野生の本能が告げる。
悔しくも感じたが、その桁違いの力に目を奪われて身動き出来ないでいた。
白蛇王は目の前の現実に混乱していた。
「覇王様と互角・・・そんな事・・・」
覇王と互角に渡り合える者など存在しな・・・
いや、存在する事を思い出したのだ。
「か、神を・・・導きし救世主?あの人間はそう言ったな?確か」
「確かにそう言っていました」
「まさか!!」
それは世界を救済する守護人。
人間の中より選ばれ神を使役し、
全ての厄災を祓う伝説の存在。
まさか、その伝説が目の前に現れた人間なのか?
蛇神達に言い伝えられるもう一つの伝説があった。
それは蛇神にとって絶対神である覇王に唯一対抗出来る存在。
それこそが救世主の存在であると。
その神を導きし救世主こそ覇王に対抗させるがために始祖神達が創り上げたもう一つの覇王であった。
その特徴は金色に光り輝く瞳を持ち、
全ての神を使役出来る程の特殊能力を持ち合わせる。
その事から神を導きし救世主と呼ばれるのだ。
更に覇王とは因縁があった。
始祖神は覇王討伐に救世主と仕立てた者こそ、かつてエデンにより唆され、世界を崩壊へと導いてしまった罪人イヴであったのだ。
その罪により始祖神は人間のイヴに与えた。
覇王を討つ事を!
そして与えたのだ。
覇王と同じ力を持つ始祖神の力を!
しかしイヴは人間であり寿命は限られている。
そこで転生を繰り返し現世に産まれて来るのである。
そのイヴの魂を受け継ぐ者こそ救世主!
神を導きし救世主なのだと。
「まさか・・・」
今、旧世紀よりの因縁より運命付けられた覇王と救世主が交わり、世界の命運をかけた戦いが始まってしまったのである。
「うぉおおおおおお!」
「かぁああああああ!」
覇王と俺の剣が衝突し莫大な余波が闘技場の結界を破壊し上空へと昇っていく!
それは雲を突き抜け、神の住まう天界をも震撼させたのだ。
天界人は突然の出来事に震え上がる。
一体、何が起きたのか?
天界もまた稀に見ぬ揺れを感じていた。
その中で唯一、俺と覇王の戦いに気付く者がいたのだ。
「天をも揺るがすか?救世の力と覇王の力。どちらも災いである事は明白」
その者は天界の最高神であった。
「討つか?」
そこには他に四人の天の称号を与えられし武神が控え、そのリーダー格の武神が最高神に問う。この四人は最高神を守護する武神・四天王であった。
最高神の言葉一つで四天王が天界の軍を引き連れて地上へと進軍するのだ。
しかし最高神は首を横に振る。
「まだ時ではない。覇王と救世主の共倒れも良し。それに時の歯車はまだ動き続けている」
最高神の言葉に四天王は殺気を鎮めた。
そして世界の命運は全て俺に託されたのだ。
互いに振り払われる剣が幾度と衝突を繰り返し、気付くと俺と覇王は剣を付き合わせた状態でピタリと止まっていた。これは極限の緊張状態から精神が肉体を凌駕してしまった状態なのかもしれない。
時がゆっくりと動く。
すると覇王は俺に向かって言葉を発する。
「俺はお前のような奴を待っていたのかもしれん。この胸踊る緊張感をお前と共にいつまでも戦い続けていたいぞ!」
「そうか?悪いがお前のラブコールは御免被る!俺はお前なんかに用はねぇよ?さっさと終わらせて俺はゆっくり寝てたいんだ!」
俺と覇王を中心に闘技場は跡形もなく消え去っていた。
それどころか俺と覇王以外は時が止まって見えている。
そして俺もまた身動きが出来ないでいた。
マジか?このままでは殺られる??
だが、目の前の覇王も止まっていたのだ。
まさか意識の更に先の時の領域なのか?
俺と覇王は極限の状態で時をも超える領域にいた。
そこで俺は見たのだ!!
それは未来の選択肢。
この戦いの結末次第で未来が幾つも変わる。
無数の選択肢がビジョンとなって変化しながら未来を決定付ける。
この俺次第なのだ!
そして最悪の選択肢が見える。
俺が死ぬ事で覇王が生き残り、世界が蛇神によって征服される未来。それがもたらす未来に、俺の知る未来の世界はなかった。何もかもがなかった事になる。
俺はこの世界に来た理由も、生きて来た道のりも、巡り合った全てが無かった事になるのだ。
確かに俺の生きて来た道のりは決して楽ではなかった。
寧ろ茨の道だったに違いない。
「それでもだ!」
これまで生きて来て巡り合った師や兄弟弟子。
共に戦って来た運命に引き合った友。
それに最期まで俺を愛し愛した妻。
誰一人と欠けてはならぬ。
俺を生かし支えた者達の分まで俺は戦い続ける事を誓ったのだ!最期まで止めてはならぬのだ!
そして俺の愛する娘のためにも・・・
この俺が負けたら全てが無かった事になる。
そんな事は神だろうと覇王だろうと許さねぇ!
「クッ!」
時と精神の中で俺の指が微かに揺れた。
その時、未来の選択肢が二つのみになったのだ。
「!!」
だが、どちらの選択肢を選んだとしても。
「くそったれ!」
俺の生き残れる未来はなかった。
しかし!
「俺の未来は俺が切り開く!」
微かに揺れた指は動き出し、止まっていた世界の中で唯一俺だけが動いたのだ。踏み込んだ足は大地を踏みしめ、握られた降魔の剣は金色の炎を放ちながら覇王を斬ったのだ!
「うぐぉおおおおお!!」
俺と覇王を中心に強烈な閃光が広がっていき地上を天をも飲み込み世界を覆った。
時が動く。
俺と覇王の戦いは決着が付いた。
俺は瓦礫の中で倒れていたのだ。
もう指一つ動かない。
全身が麻痺しているのか?
それはそうだろう。
神の領域をも超えた力の代償が何もないはずない。
しかし驚いた。
俺は生きていたのか?
選択肢はどちらも俺の死へと繋がっていたはず?
「!!」
すると倒れて動けない俺の前に白蛇王が瞬間移動で現れたのだ。
マジか?まさかコイツに殺されるのか?俺は?
「ふふふ。手を出せないか」
白蛇王は俺にトドメを刺しに来たのは間違いなかった。
しかし叶わなかった。
倒れた俺の前には五体の明王が結界を張って守っていたからだ。
白蛇王は笑みを見せて告げた。
「恐ろしきは救世主の力。しかしもう恐れる事はない。我らの覇王様はお前によって傷付き暫しの間眠りにつくことになる」
何だと!?
覇王はあの一撃で死んでなかったのか?
だが、その後に告げたのは宣告だった。
「お前は次に覇王様がお目覚めになられる時には既にこの世にはおらんであろう。お前にはクッキリと死相が現れている。遅かれ早かれお前は長くはない。これは変えられぬ運命よ!ふふふ。お前のした事は寿命を縮めて破滅の時を先延ばしにしただけよ!」
そう言って俺の前から消えたのだ。
全てが終わった。
白蛇王が最後に言い残した俺の運命を知り、俺は自分の成すべき事を理解した。
俺はあの時、選択したのだ。
片方は確かに白蛇王が言い残した通り俺が消えた後に覇王が蘇り世界を混沌に消失した未来。
そして、もう一つの未来は・・・
それは俺の死と引き換えに繋ぐ未来だった。
それは不確定な未来。
それでも可能性は残る未来。
俺は光に包まれながらその先の未来に見たのは、覇王を相手に戦う細腕の少女の姿だった。
その後、俺は生き残れた千兎達の手によって救出されたのである。
俺は治癒を施され身動き出来るようになると早々に旅仕度をする。
そうそう、そう言えば獅駝王も生き残って俺に喧嘩を吹っ掛けて来たものだから一つ約束をした。
「俺は強い。俺と戦いたければお前はもっともっと強くなれ!そうすれば戦ってやる」
「本当か?俺俺は強くなるぞ!信じるからな?」
嘘。恐らくその頃には俺は生きてないかも。
更に俺は獅駝王に言ってやった。
「なら、お前は今から獅子の王ではなく百獣王と名乗れよ?」
「百獣王?俺俺?」
「そうだ!お前は獅子の頂点ではなく百獣の王となるのだ!強く気高くあれって意味だぞ?」
「うむ。何かその名前は強そうだから俺俺、百獣王と名乗るぞ!」
「今度は蛇神なんかに遅れを取るなよ?」
「がうぅ!」
そして止める千兎と白兎、それに家族を救えたカナルに別れを告げると俺は旅立ったのだ。
俺には時間がなかった。
再び現れる覇王の脅威に俺が出来る事をせねばならなかったから。
それは、俺の後に戦う事になる光の中で見た少女を支える運命の仲間を見つけ出す事。
それが俺の求める未来を救えると信じて。
「さて、まだまだこれからだぞ!」
三蔵救世主伝説 終幕
次回予告
次話から法子達の物語が動き始めます。
そして、救世主伝説の三蔵さんについては、
「転生記」
「神を導きし救世主」
にて語られています。
法子の前に起きた物語もご興味あって欲しいと思います。