救世主外伝その伍~乱戦~
捕らわれた男はそこで厄介な化け物を目覚めさせてしまった。
それは西の地を統べる大妖怪だった。
俺達が目覚めた同時刻、闘技場には十三体の蛇神達が揃っていた。
この蛇神達は今から互いに殺し合いをしてくれるのだ。
勝者には闘技場の観客席に拘束されている攫われて来た五万の人間や妖怪達といった生贄。
そして何よりも、覇王の玉子と呼ばれるナニカらしい。
ソレを手に入れた者が真の覇王になるとか。
「今宵、我々の中から真の覇王が誕生する。力こそ勝者!そして覇王になりし者はこの世界を終わらす事を誓おうぞ!」
十三体の蛇神達は同意し腕を挙げる。
どうもこの十三体の蛇神達は千年前に地上を荒らしていたらしく、天界の武神達が総動員して地上の各地に封じられていた事がわかった。
白兎が過去の書物で読んだ伝説の情報だけだが、
蛇牙流多
こいつは影一族の隠れ里で俺と戦った奴だよな?
千年前には天界の武神一万と地上の魔王軍三万を相手に全滅させたとか。
蛇磨意我
こいつは俺が殴っても傷一つ付かない化け物だろ?
その強固な防御力で竜神の戦士を数多く仕留め、もぎ取った鱗をコレクションにしていた逸話がある。
鈎蛇王
こいつは大剣を武器に天界で暴れたらしく、伝説では戦死したとか?
どうして生きてるのかは分からないらしい。
白蛇王
こいつは伝説に名がないとの事だが、白色の蛇神は不吉とか言われてるそうだ。
蛇具羅
全身凶器と呼ばれ天界の名のある武神のみを襲い、倒した武神の武器を狩り集めて一万本集めたとか。
蛇亜流我
こいつも見かけた奴だな?見えない攻撃をする奴だよな?
伝説では蛇神の覇王に一番近いとか言われてるみたいだ。
宝蛇
金銀財宝を集め黄金の城塞を作り上げ足を踏み入れる全ての者を二度と帰さなかったとか。
伝説では金の風呂が好きとか、
紅蛇
巨大な大蛇で大国を丸飲みして移動した伝説が有名らしい。
蛇葬操
屍を操る死者の軍を作り上げた亡者の王とか、
猛蛇王
その手に触れたら最後、山をも一瞬で消し去るとか、
蛇瑠蛇璃
その輝きに触れる者無しと千年郷を作ったとか、
猛虎修蛇
その生涯修行に明け暮れ、魔神の国へ戦いに明け暮れたとか、
巴蛇王
蛇神一族でも名高い黒蛇一族の新たな支配者とか、
と・に・か・く!
面倒くさい連中ばかりのはわかった。
そして闘技場に一体の蛇神が降り立つと、その前に別の蛇神が相対する。
宝蛇と猛虎修蛇だった。
覇権をかけたバトルが既に始まっていたのだ!
互いに蛇気を極限にまで高めると同時に殺し合う。
宝蛇の全身が金色に輝くと下半身が大蛇へと変化し、更に尾が剣へと変わる。
「私の尾に斬れぬ者はない!」
轟音と閃光の如く振り払われる尾の剣を猛虎修蛇は残存で躱して攻撃を仕掛けるが宝蛇の間合いに入り込む事が出来なかった。大振りに思われた剣の軌道が変則的に鋭くなり次第に宝蛇の刃が猛虎修蛇の身体に傷を付けていく。壮絶な戦いに他の蛇神達は血湧き肉躍っていた。
「俺の身体に傷を付けたな?」
猛虎修蛇は流れる自分の血を舐めると、その身体が虎柄に変色していく。
「一瞬で終わらせてやろう!」
刹那、猛虎修蛇の姿が消えた。
その場にいた何人がその動きを目に捉える事が出来ただろうか?
次の瞬間には猛虎修蛇が宝蛇の頭をもぎ取って勝利していたのだ。
「覇王選抜には力不足だったな?次は誰だ?この俺が相手になってやるぞ!」
この猛虎修蛇の残虐性とスピードはまさに覇王候補と言っても申し分なかった。
そして次に登場したのは蛇牙流多と紅蛇だった。
闘技場を狭しと巨大化する紅蛇を蛇牙流多は恐れる事なく近付くと、その手から出現した無数の喰蛇が紅蛇の身体に風穴を開けて細切れにし肉片が闘技場に降って散らばった。
「デカければ良いなんてのは雑魚以下だ!」
やはり蛇牙流多もまた恐ろしい力を持っていた。
そして黒色の巴蛇王が闘技場に降り立つ。
その姿を見た鈎蛇王が口を開く。
「あの者が我が友の名を語る解せ物か?」
鈎蛇王は闘技場にいち早く飛び降りると、
「お前のような小物が我が友であった黒蛇の名を語り、この覇王候補に入り込むとは許さんぞ!」
鈎蛇王は背負った大剣を振るう。
「黒蛇だと?あの龍神族に拘束された下等な蛇神が覇王に相応しく無かろう?この俺こそが真の覇王に相応しい!」
巴蛇王は黒蛇と呼ばれる蛇神と同じ種族であったが、黒蛇の消息が消えた後に新たに黒蛇の名声を自分のものと偽りながら力を得て、本来黒蛇が参加する予定であったこの覇王生誕祭に参加したのだ。
「身の程知らずめ」
鈎蛇王は覇気を籠めた抜刀で巴蛇王を細切れに斬り裂く。
何が起きたか分からないまま巴蛇王は息絶えていた。
どうやら剣術に長けているようだ。
更に生誕祭は続く。
蛇葬操が闘技場に姿を現すと、同じく白蛇王が闘技場の中央に立っていた。
「白蛇王、お前は雌か?覇王候補に雌が現れるなど気にくわん!」
蛇葬操は蛇気を高めると地面から屍の蛇が無数に出現して白蛇王に襲いかかる。
「強き者が真の覇王でなくて?」
白蛇王の足下から魔法陣が浮かび上がると、向かって来た屍の大蛇が塵と消えていく。
「ば、馬鹿な、この俺がぁああ!」
魔法陣は更に闘技場を覆うように広がっていくと、
蛇葬操の身体もまた塵となって消えていく。
呪術を使う雌の蛇神もいるのか?
恐るべき白蛇王。
その次に現れたのは蛇瑠蛇璃と名乗る全身瑠璃色に輝く美しい蛇神であった。
「私の美しさを褒美と思い心地よく死になさい」
対する蛇神は蛇具羅。
蛇瑠蛇璃の放つ光線は大地をも溶かし駆け回る蛇具羅を追い詰めていく。
「いつまでも逃げてばかりでは私は倒せませんよー!」
「お前は気持ち悪い!喰らい殺してやる!」
そして互いに衝突しようとしたその直後だった。
「何だと!?」
闘技場の門が突然内側から破壊されて、そこから何者かが土煙ともに闘技場へと乱入したのだ。
「うぉおおお?お前、いい加減にしやがれぇ!」
「ガルルル!お前、強い!俺俺が最強だぁー!」
そこに乱入したのは俺と、西の妖魔王・獅駝王だった。
獅駝王は闘技場の地下にあった結界の扉から出るやいなや俺を見るなり、突然襲いかかって来たのだ。俺がどんだけ今の状況を説明してもお構いなしに襲いかかって来るからたまったもんじゃない。
まさか蛇神を相手にする前にこんな厄介者の相手をしないといけないなんて思ってもみなかったぜ!
「あの人間楽しませてくれるぜ!」
蛇牙流多は俺の姿を見て笑みを見せる。
「奴との決着はここで付けるぜ!」
しかし他の蛇神達は覇王生誕祭を妨害した俺達に殺意を感じていた。
「あの人間、まだ動けたのか?それに何だ?あの妖怪は?」
「俺達に匹敵する程の力を感じるぜ?」
猛虎修蛇と蛇亜流我が俺よりも獅駝王の方に興味を持つ。
「俺達は覇王生誕祭に向けて十三体。そうなると対戦相手の枠が残っていたよな?あの獅子の妖怪を充てがうのはとうだ?」
「それは構わんが、あの人間はどうする?」
「ふっ!あのような小物など直ぐに消してしまえ」
完全に俺は必要ない者と見なされていた。
そして争う俺と獅駝王の前に蛇神の蛇具羅が妨害に入ると、俺達に向かって叫ぶ。
「おい!そこの獅子妖よ?お前は俺の獲物に決まったようだぜ?相手しろよ!直ぐに終わらせてやるけどよ!」
完全に調子こいてる蛇具羅に対して俺はムカつきながら向かって行く。
「はぁ?お前のような小物には用がねぇ!退け!さもなくば・・・」
その直後、蛇具羅の身体は真っ二つに斬り裂かれて炎が噴き出しながら消滅したのだ。
「!!」
驚く蛇神達の目の前には魔神が全身を業火に包まれていた。
それは不動明王の姿をし、燃え盛る炎の降魔の剣を振り下した俺の姿だった。
そして俺から発する覇気が闘技場全体を震わせる。
「何だ?あの人間は!以前とは桁違いではないか?本当に人間なのか!」
驚く顔を見れて嬉しいぜ?
だが、本当に驚くのはこれからだ!
俺の本気を見せてやろうか!
俺と獅駝王を囲むのは蛇牙流多、蛇磨意我、
蛇亜流我猛蛇王に蛇瑠蛇璃、猛虎修蛇
の六体の蛇神だった。
「おっ?俺俺の喧嘩する気か?お前ら?ん?そう言えばお前ら誰だ?此処は俺俺の寝ぐらだぞ?」
緊張感のない獅駝王は蛇神を相手に動じてはいないようだ。
コイツを上手く使えば楽に事を進められるか?
「おい!獅子頭!お前、奴等と戦いたくないか?奴等は最強をかけて、この闘技場に集まった強者ばかりだぞ?それともビビって手が出せんか?」
「最強の座だと?」
獅駝王は目を輝かせていた。
どうやらコイツも戦闘狂のようで更に頭悪くて助かる。
このまま蛇神とぶつけてやれば
「だが、俺俺、お前も強いのは臭いで分かるぞ?お前を先に倒してからでも遅くはないよな?」
「・・・マジか?」
単細胞過ぎて目の前の相手から手を付けるタイプか?どうする?俺!
「何をごちゃごちゃと言っている?この覇王生誕祭を妨害したお前らは直接俺が始末してやるよ!お前のその毛皮を剥ぎ取ってな〜」
戦い中の邪魔をされた猛蛇王が一足先に飛び出して攻撃を仕掛けて来たのだ!突き刺した手刀は蛇気を纏い、覇王生誕祭の候補だった宝蛇を細切れにする鋭利な斬撃なのだ。その狙いは獅駝王の頭部をはね落すはずだった。しかし!
「!!」
獅駝王の鍛え抜かれた首の筋肉で受け止められたのだ。
「俺俺の肩こり解消か?」
「お前、八つ裂きにしてやる!」
猛蛇王は更に殺気を籠めて斬撃を繰り出すと、獅駝王は腕を交差し受け止める全身に切り傷を負う。
「お前、強いな?俺俺、ムラムラしてきたぞ!」
ん?獅駝王の標的が俺から逸れたようだぞ?
なら俺も心置きなく拳が奮えるぜ!
「どいつから来る?それとも纏めて来るか?」
俺の挑発に対して蛇瑠蛇璃が名乗り出る。
「私が先に行かせて貰うぞ?何せ選抜の途中で邪魔をされて気が立っているのでね?それにお前らは一度仕留め損なったのだろ?」
「良いだろう。ただし口だけにならねば良いがな?」
蛇牙流多は試すように挑発する。
「この私が下等な人間如きに遅れを取ると思っているのか?この人間を始末した後は私の次の対戦相手はお前を選ぼうか」
「俺は俺以外の強者をこの手で始末し、覇王の道を貫くだけだ!」
「身の程知らずな。覇王には私こそ相応しい!お前の前に先ずは・・・」
蛇瑠蛇璃は俺の正面に立つと痺れるような蛇気が俺を覆い尽くす。
「胸糞悪い!喝っ!!」
俺は気合いで蛇気を祓った。
「誰が相手でも俺は二度と負けはせん!」
蛇瑠蛇璃が飛び出すと俺の間合いに入り首元に手刀を打ち込む。
「!!」
が、蛇瑠蛇璃の冷静な顔が歪む。
蛇瑠蛇璃の突き出した手刀はこの俺に掴まれ止められたのだから。
「掴まえたぜ?よってこうなる」
鈍い音がして俺は奴の手首を握力で圧し折り更に気を流し込む。
掴まれた場所から気泡が沸騰するかのように広がっていく。
「うぎゃあああ!」
蛇瑠蛇璃は咄嗟にもう片方の手で自分の掴まれた腕を切り落とすと、この俺から距離を取って逃れた。
「こおぉのぉお野郎がぁあ!!」
見下していた俺に思ってもいない攻撃を与えられて、怒りが込上がっていく。
その覇気は更に重く俺にのしかかる。
「見縊っていた。が、この私を本気にさせてくれた事で冷静になれた」
蛇瑠蛇璃の全身が瑠璃色に輝き全身から光の輪が浮かび上がる。そして操るように俺に向けて飛ばしたのだ。俺は霊気を掌に集中させると霊気を凝縮して構成した錫杖を回転させて光の輪を弾き返す!
「何だと!?」
しかし錫杖は光の輪に直撃すると簡単に粉々になってしまったのだ。そして俺の回りに光の輪が伸び上がると俺を拘束するように縮み締め付ける。
「馬鹿目!一度拘束されれば逃げる事は不可能。お前は締め付けられながら全身の骨が粉々になろう」
俺は力任せに蛇瑠蛇璃の放った光の輪の破壊を試みるが全く身動きが取れないでいた。
「潰れなさい!愚かな人間よ!」
蛇瑠蛇璃が両手を合わせると俺を締め付ける輪が圧力をかけたと同時に俺は唱えたのだ。
「明王変化唯我独尊!」
俺の筋肉が盛り上がり締め付ける輪を押し返していく。そして全身から人間を超えた神の力が解放された時、蛇瑠蛇璃の光の輪は粉砕されたのだ!
「馬鹿な?人間ではなかったのか?コイツは?」
すると蛇牙流多が助言する。
「その人間は二体以上の魔神の力を身に宿す奇っ怪な変化をするぜ?お前でも全力を出さねばただじゃ済まないかもな?」
「何だと?たかが魔神の力を使うからと言って、この蛇神の覇者である私にどうこう出来ると思うな!」
「お前が覇者かは置いておき、油断しないことだな?」
蛇瑠蛇璃の眼が変わる。
それは獲物を狩る獣の眼だった。
「さぁ、一瞬で終わらせましょう」
すると蛇瑠蛇璃の掌が光ると閃光が走る!
それは光線となって俺の身体を貫く。
「終わりましたね」
勝利を確信した蛇瑠蛇璃が視線を外したその時、蛇牙流多が笑いだす。
「あははは!おい?よく見ろよ?」
「何がですか?」
その時気付く。
蛇瑠蛇璃の光線は俺の身体を貫いてはいなかった事に。
「まさか私の攻撃を避けたとでも?ありえません」
蛇瑠蛇璃は再び光線を俺に向けて放つけれど、俺は全て紙一重で躱したのだ。
「そんな直線的な攻撃など躱すのは容易。お前程度なら直ぐにかたがつきそうだ」
「人間如きが私を見下すなぁ!!」
プライドを傷付けられ怒りに全身の発光から四方八方にと光線が放たれたのだ!光線は高熱となって闘技場の壁や床を熔かしながら俺に向かって来る。
「オン・ソンバ・ニソンバ・ウン・バザラ・ウン・パッタ」
俺の手には光り輝く弓が握られていた。
そしてもう片手には矢が!
「降魔明王弓」
射られた矢は分散し迫る光線と衝突し浄化しながら消し去っていく。そして超高速で次々と射られる俺の光の矢と蛇瑠蛇璃の光線が闘技場狭しと衝突していく。
「小癪な!小癪な!小癪な!」
蛇瑠蛇璃は現状を信じられずにいた。
本来なら一瞬で決着がつく。
例え相手が覇王候補であろうと!
「なのに何故人間如きが私の邪魔をするのだ!理解出来ん!理解出来ん!」
どうやら相当頭に来ているようだな?
「理解出来ないのはお前が未熟だからだ!そして俺がお前より強い。それだけだ!」
俺の渾身の矢が射られた時、
「ウガァア!」
蛇瑠蛇璃の胸を貫いたのだ。
「こんな、ところで、覇王になる事を、手放してなるもの、かぁあああ!」
蛇瑠蛇璃は胸を貫く矢を引き抜く。
「大した生命力だ。今の矢で仕留め損なうとは思わなかったぞ?まだ俺も修行不足のようだ。俺の義兄なら今ので決着はついていたはずだな」
蛇瑠蛇璃は自ら発する光線を鞭のように使いながら振り回して来たのだ。鞭は軌道を変えながら一直線に向かって来る光線とは違い躱すのは困難・・・
「!!」
けれど俺は全ての鞭の軌道を読み切り、射る矢は鞭を粉砕して消し去った。
「終わりにしよう!」
俺は弓を構えながら蛇瑠蛇璃に向かって駆け出すと寸前で飛び上がり蛇瑠蛇璃目掛けて矢を射る。
一直線に光が落ちて蛇瑠蛇璃の脳天を貫通した。
「アガガガッ!」
勝負はついていた。
そこに蛇磨意我が瀕死状態の蛇瑠蛇璃に向かって近付くと、拳でぶん殴り粉々にしたのだ。
「滑稽だ。弱者は消えよ!」
蛇磨意我は俺に向かって威圧する。
「お前、この俺に手も足も出なかった事をもう忘れたのか?だったら思い出させてやるよ!」
そして覆い被さるように俺に襲いかかろうとした時、俺は新たな真言を唱えると同時に拳を振り上げたのだ!俺の拳は蛇磨意我の強固な身体にクリーンヒットすると、抉るようにそのまま振り上げた。
「ぐはぁ!!」
蛇磨意我は強烈な一撃を胸部に諸にくらい、その衝撃に吐血する。
「アガガ、ば、馬鹿な!?お前の攻撃など通用するはずな、いはず?」
呻き、驚きながら俺を見るなりその新たな魔神の姿に目を見開いていた。
俺の姿は降三世明王の姿から更に凶悪に見える魔神・大威徳明王へと変化していた。
「言ったろ?俺は二度と負けはせん!」
さて、本番はこれからだ!
次回予告
乱戦の中で、バトル展開へと突入。
登場中の獅駝王は実は過去にも数度登場しているアレと関係あるのか?
その謎も明かされる物語。