嶺黄風国の半人半妖の戦士達!
それは過去の物語
氷原の王に立ち向かった戦士達がいた。
それは法子達が「嶺黄風国」に来る六年前の話。
そこは氷山の城。
この地は妖怪が跋扈し人間達を襲っていた。
雪山の山頂から城を眺めている者達がいる。
人間?
六人の人間の若者達が妖怪が住まうこの地に足を踏み入れていたのだ。
「妖気ビンビンだな」
「全くね。でもこの山を越えたら城まで直ぐよ」
「早く終わらせて帰りてぇ〜寒くてたまんねぇ〜」
鎧を纏うリーダーの若者に、帽子を被った女の子。
それにヤンキーぽい顔付きの若者。
他には大人しそうな女の子と一言も喋らない少年に臆病そうな少年の六人。
彼等彼女達は何故このような危険な場所に足を踏み入れたのか?
「あの城の大妖怪を始末しなきゃ終わらないからな!チャッチャッと終わらせよう!」
彼等は妖怪の住まうこの地に氷原の王を退治に現れたのだ。
この者達は「嶺黄風国」の戦士達であった。
その背には全員体型には相応しくない大型の剣を背おっている。
「おい!俺達の臭いに気付いた化け物がお出でになったようだぜ?」
彼等の前に、埋もれた雪が盛り上がって異様な化け物が出現したのである。
「雑魚!」
彼等は四方に分かれると大剣を奮って化け物を一撃で一刀両断にする。
細腕の彼等にこんな芸当出来るはずない。そもそも筋肉量が力量とバランスが不相応過ぎる。
軽々と振るう大剣で次々と現れる化け物達を倒していく。
現れた化け物達の方が彼等を恐れて逃げる中で、少年少女達は逃さないように追い詰め始末したのだ。
「一匹も逃したりしない。一匹でも逃がせばお前達は俺達を襲う。家族を襲う。村の皆を襲う!絶対に許せない!」
彼等の目は憎しみの色が光る。
それも全て過去のトラウマからの憎悪!彼等は皆、化け物に肉親や大切な者を殺されていたのだ。
そして彼等は復讐を誓いこの力を手に入れたのだ。化け物を倒す力を!
生き残った最後の化け物は彼等に叫ぶ。
「お前らは人間か?それとも・・」
直後飛んで来た大剣が顔面に突き刺さりゆっくりと倒れる。
この大剣で斬られた化け物は全て傷口から沸騰するかのように蒸発して消滅していく。
彼等の持つ大剣はただの剣ではなく、化け物の骸を錬金して造った呪いの大剣。
呪憎剣!人間達はこの呪憎剣を手に化け物を倒す力を手に入れた。
この呪憎剣は憎しみが強ければ強いほど力を増し、強力な妖気を操る事が出来る。
人間が化け物をも凌駕する最終兵器だった。
ただ、この呪憎剣には適性があり、その同調率が強過ぎれば呪いに魂奪われ廃人と化して、弱すれば期待した力を発する事が出来ないのだ。その為剣を持つ者達は選ばれし者と言われていた。
「さて、城に近付くほど守る化け物も手強くなるけど覚悟は良いか?」
「もちろん!私達の任務は城に住まう氷原の王の首!」
「待てよ?殺すのは駄目だろ?忘れるなよ!俺達は化け物の大将を生け捕りにする事」
「面倒くさいわ〜」
「それが王様が俺達に命じた任務。絶対に失敗は許せられないぞ!」
そろそろ名前を告げよう。
リーダーの若者の名は凛音[リオン]
衝撃波を使う攻撃を得意とする。
帽子を被った強気な娘の名は流華[ルカ]
特殊な能力で草木や花を操る。
目付きの悪い少年が仔馬[コウマ]
脚力が自慢で剣と蹴り技を絡めた
連携技を得意とする。
大人しそうな少女が夜霧[ヨギリ]
見た目とのギャップが激しいが幻を使い身を潜め相手に気付かれずに暗殺を任される。
無口な少年が無風[ムフウ]
風を操る力を持つ。過去のトラウマが原因で
言葉を話せない。
臆病そうな少年が玲音[レオン]
一番若く凛音の弟。臆病が弱点だが兄の凛音は弟の
潜在能力が高い事を知り実戦にと連れて来られた。
そんな彼等六人は『嶺黄風国』の中で王より実績と能力から守護者の爵位を与えられていた。
「でもさ?僕は未だに王様のお顔を見た事がないんだよね。噂では大層な老人で、名のある仙人様って噂だよ?兄ちゃん」
「なにせ俺達の産まれる前から、ずっと昔から村を守り、ついには一国にまでした英雄だからな。もし救世主様がいらっしゃらなければ俺達はこの世にはいないだろうさ」
そんな二人の会話に流華が怪訝そうに割って入る。
「でもさ?噂なんだけど、救世主様は実は妖怪かもしれないって・・・だって何百年も生きてるなんて尋常じゃないわよ?」
「その謎は既に解けてるさ」
「えっ?」
「俺達の持つ呪憎剣が答えだよ!この剣は化け物から造られた呪われし武具。その力を借りて同調を繰り返せば、気付いてるんだろ?俺達はもう普通の人間ではないって事によ?」
それは力を使い過ぎた時に現れる破壊衝動。
理性を失い血を求め、更に生肉を求めてしまう
妖怪達の思念が自分自身の感情と同化して一つの個体として存在している。
それだけでなく生前の妖怪の思考を読み取る事で能力を使う事も出来るし、傷を負っても治癒が早く強化されているのだ。
「俺達は半人半妖なんだ。恐らく王様も同じなのだろうな?この剣を俺達の村に与えたのも王様なのだから」
「だから寿命が延びたのか。けど妖怪を憎む僕達が半分妖怪だなんて変な話だよ」
「もう普通の人間には戻れないのね」
落ち込む皆にリーダーの凛音が真面目な顔で言う。
「王様は俺達にも誰にも強制はしていない。俺達の意志で俺達は力を手に取った。俺は復讐のために力を手に入れた。皆もそうだろ?」
凛音の言葉は皆を納得させた。
かつて大切な者を目の前で残虐的に殺されたトラウマが蘇り力が入る。
「さぁ、行こう!この任務が終われば戦いは収まる。なにせボスを始末すれば残りは有象無象の雑魚ばかりだからな!」
しかし、そのボスの強さは桁違いである事は皆知っていた。
何せ彼等の前に出た戦士達は一人も残って来なかったから。
氷の城に住まう狼の姿をした大妖怪とだけ聞かされてた。
氷原の王は隣の大国を滅ぼして、この地へやって来たのだ。
その際、王様は仲間達を引き連れ隣国を助けに出兵したのだけれど、大妖怪の冷気が国を覆い生きとし生ける全ての者達は一瞬で凍りつき誰も生き残らない死者の世界にしたと言う。
そんな化け物に適うはずない?
それがこの地へ現れた大妖怪は傷を負って、力の半分を失った状態で城に籠っている。
倒すなら今しかないと王の指示で討伐隊が派遣されたのである。
「大妖怪の力は確かに弱まっている。数度の討伐隊の派遣で大妖怪も休む事なく連戦続きで体力を削られているはず」
そして彼等は城の中へと突入した。
襲い掛かって来る化け物達や罠を彼等は難無く潜り抜けていく。
彼等の力量は既に領域を超えていた。
人間としても化け物としても!
半人半妖には元の妖怪の能力を引継ぐだけでなく、その能力を人間の持つ感覚が最大限に引き出されるのだ。それは人間の個性や才能、それが適性。
彼等は類を見ない適合能力者!
「化け物なんて恐くはない!」
そんな勇猛果敢な彼等の足を止めたのは?
「ありえねぇー」
「だから化け物連中のする事は虫唾が走るのよ!」
彼等の前に現れたのは死霊の戦士達だった。
大型の剣を構え、蒼白い顔。
既に生気こそないが、その死霊達から発する
殺意は自分達へと向けられている。
「まさか先に向かった戦士達の骸を操るなんて!何処まで非情なんだ!」
死者の戦士達の剣が容赦なく襲いかかる。
「くそ!やっぱ強いや!」
死者の戦士達の数は二十体。
同じ武器や能力を持つ死者の戦士を相手に六人だけで食い止めるには分が悪かった。
討伐隊を数度に分けた理由があった。
王様より新たな力を与えられたのだ。
しかし未完成だったため、先に向かった戦士はいわば時間稼ぎであり、大妖怪の力を削るための特攻隊であった。それが数度行われ、ついに完成した新たな力を彼等は手にしていた。いや、刻まれたのだ。
彼等の身体には妖怪の血と骨を特別な錬金法で入墨として刻まれたのである。
それは全身の神経に直接妖気を送り、過剰な力を使う事が出来る能力。
「だがむやみに使うなよ?この力の過剰な使用は俺達を完全に人間で無くす力。王様よりの命令だ!本当に身の危険を感じた時に、敵を確実に倒す時にのみ使用を許されている。分かったな?」
皆は頷く。
「お前達はさがれ!先ずは俺がいく!」
リーダーである凛音が叫ぶ。
この力は諸刃の剣。命を削る、いや人間を捨てる覚悟が必要であった。
「呪憎剣装」
凛音はリーダーである責任から覚悟を決めると、呪憎剣を自らの胸に突き刺す。
剣の脈動が心臓から全身へと広がり激痛が走る中でその姿が変わっていく。
その姿、剣の鎧で武装し、髑髏の仮面を被っていた。
人間?その身体からは膨れ上がる妖気が纏われ、城を震撼させる。
「うぐるる」
獣のように唸ると、目の前の死霊の戦士達を獲物と定める。
身体中から剣が棘のように飛び出す。
同時に襲いかかる死霊の戦士に凛音は剣を構え、一瞬で一刀両断にした。
血飛沫を全身で浴び、更に妖気が膨れ上がる。
「すげぇ・・・凛音の奴」
「けど、恐いわ・・・」
驚く仲間達の目の前で、操られる死霊の戦士達を一人で相手をする。
激しく襲い掛かって来る剣が紫苑の身体を串刺しにする。
しかし身体から飛び出した棘が襲って来た戦士の身体を逆に串刺しにした。
その戦いは人間の戦い方ではなく己の身を顧みない
狂戦士の戦い方であった。
「あんな戦い方して大丈夫なの?」
「大丈夫なわけないだろ?あの力はそういう力だって知ってるんだろ?アレは俺達を別のモノに変える力!構わねぇぜ!オレもやってやる!」
仔馬も凛音と同じく呪憎剣を胸に突き刺すと、その姿が異形の戦士へと変わる。
下半身が鋼の馬となり、上半身は人体だが四本の腕で四本の剣を持つ。
「ウゲゲ!漲る。漲る!漲る!」
一瞬で姿が消えると、死霊の戦士達を瞬殺させた。
実際には死者であるから、その存在を人の姿残さずに四本の剣で斬り裂いたのだ。
肉片がまだ動いているのを見ると、剣で突き刺して持ち上げ喰らったのだ。
「せめて俺の血肉となって一緒に戦おうぜ?」
二人の狂戦士は全ての敵を皆殺しにした。
「お兄ちゃん!」
玲音が近付くと、凛音は元の人の姿へと戻る。同じく仔馬も人間の姿へと戻った。
「ハァハァ、戻れないかと思った。だが、この力は使いこなせる事を証明出来たぞ」
凛音はもし自分が暴走した場合は皆で殺してくれと頼んでいたのだ。
「けど、仔馬まで暴走したら私達には手に負えなかったわよー!」
「すまねぇな?上手くいったから許せよ!流華」
「先走るのもいい加減にしてよ。二人の友達を私達に手を汚させないでよ」
普段から強気な流華が泣きそうになる姿を見て仔馬は戸惑う。そんな姿を他の皆も笑っていた。
城に入り込んだ彼等の侵入を感知していた城の氷原の王は水晶を通して見ていた。
その前には三人の妖怪が従えていたのだ。
この戦いの結末は?
これは過去の物語である。
次回予告
半人半妖の戦士達の戦いは続く!
その戦いは未来に何をもたらすのか?




