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小角伝 ~呪詛愛~ 


小角と妲己、その結末は?


自分は小角

蚩尤討伐のその後、落ち着く事はなかった。

それもこれも蚩尤の中にいた自分の兄と名乗った少年の件。

彼は自分達が時を移動する能力者、ノアの末裔だと教えてくれた。

そして今後のリスクも!


時の移動は兄と自分がいたから発動した事。

一人では開けない。

つまりもう時の穴は開かない。

それが何を意味するのか?

 

それは今、自分がいる時代。

それはあの方が現れる時代から、遠く離れた過去の時代に自分はいるのだと。

同じ世界にいるのに、会う事は叶わないと言うのか?

人間の寿命なんて良くて百年。

あの方が生まれる時代は更にずっと先なのだと知らされたのだ。


まだ問題はある。


「今日の所はこのまま去ろう。しかし次に会った時には覚悟するのだな?私はこの世界を託された神として、捨てては置けんのだ」


そう言ってイザナギは少女を連れて去って行った。


次に会った時はか・・・


知らされた事はまだある。

この世界は不安定な状態のままであると

異界より入り込んだ自分と妲己の存在が世界の均衡を崩している。

このまま放置すれば必ず災いを呼び寄せ、最悪世界を崩壊しかねないのだと!

 

「自分さえいなければ」


自分は何の為にこの異世界の地に現れ、何の為に生きているのだ?

自分は勝手に宿命と、運命だと思い込み、足掻いていたに過ぎない。

そもそも運命なんてあるのか?

先の事など分かるものか!


分からない・・・


自分は酒に逃げていた。


「そんなんで良いのか?主よ?」


そんな自分に妲己が呆れた顔で叱咤した。


「主がそのような感じだと数多くいるお主を慕う弟子の手前、しめしがつかんぞ?」

「自分の事もままならない者が、他の者を導くなんて出来るものか!自分にはそんな資格も器もない」

「始めた者が、放置とはな?最も、今は韓国広足の小僧が頭角を現しておるからな。任せきりで良いのか?」


自分は拗ねて黙ったまま酒に手を伸ばす。


「まぁ、良かろう。主のそれが望みが本心ならな」

「・・・」


妲己はそれだけ言い残すと部屋を出て行った。


そういえば自分は妲己にまだ伝えてなかったな?

法子さんを胸の内に秘めて、妲己の誘いに幾度と堪えつつ、自制して来た。

妲己の奴は人間と妖怪だからと思っているのうだが、違う。


ただ、自分が自分の思う以上にヘッポコだっただけ。女子が好きだと覗きや誘惑をするのは簡単。

しかし、思い寄せられる女子に対して本気で向き合う勇気がなかっただけ。

それが人間だとも妖怪だとも変わりない。

今までは自分の運命に女子を巻き込む事に躊躇もあったが、妲己なら共に来てくれよう。

何せ運命共同体なのだしな。

そうだ。このまま自分は妲己と夫婦になって、

何もかも忘れて穏やかに暮らして人生を終えるのも良いのかもな。


穏やかにか・・・


考えてもみなかった。

生きる事が試練と、運命だと信じて生きて来た。

自分は妲己が戻って来たら、その思いを告げる事を決心したのだ。


だが・・・

その日を境に妲己は自分の前から姿を見せなかった。

何処とも分からない。

何処へ?

いつもの気まぐれかと、すぐに戻ると思っていたが、痺れを切らして、霊体を飛ばして探し始めたのだった。何処へ行ったのだ?妲己!


「!!」


霊体を飛ばして捜索する事、七日間。

妲己の気を見付けたのだ。


そこは、イザナギの地!


「馬鹿な!まさかイザナギの所へ?そんな真似をしたらどうなるか分からないわけでもあるまい!」


自分はすぐ様装備を用意し、急ぎ足でイザナギの地へと向かった。


「待っていろよ!妲己!」


その地は雷が嵐のように大地を震わせ、人間達は既に避難していた。

この嵐は間違いない。妲己とイザナギが戦っているのだ!


「待ってろよ!妲己!」


血相変えて駆け付けた時、そこで目の当たりにしたのはイザナギの矛で胸を貫いた光景だった。


「妲己ぃーーー!!」


怒りが頂点まで上がり、印を結び唱える。


「老神変化唯我独尊!」


二体の鬼神が狼の姿へと変わり自分の身体へと纏われる。

その姿は二体の狼が融合した鎧姿。その手に氷結の大鎌を手にイザナギへと斬り掛かる。


「イザナギィーー!!」

「小角か!」


イザナギの槍と大鎌が衝突し、爆風が一帯を吹き飛ばした。しかし自分は構わずに連続で斬り掛かっていく。しかも力の差は歴然。イザナギは武神とも思える巧みな槍使いで、自分の鎧を傷つけていく。


「よくも妲己ぉおお!」


身体に傷を負った痛みも、怒りと悲しみが凌駕して攻撃の手を止めなかった。


激しい攻防戦の結末。


そこに矛を突きつけたイザナギの足元に自分は傷だらけで倒れていた。


「殺せ!自分も妲己のように殺すが良い!」


しかしイザナギは矛を収める。


「どうした?自分が狙いだったのだろ?」

「私はお前を殺しはしない」

「どういうつもりだ!殺せ!」

「私の目的はお前ではない。何せお前はこの世界の人間なのだからな」


イザナギは言った。

この自分さえ知らなかった真実を!

それは出生の秘密だった。


「お前の母はこの世界の住人。その者がお前の世界へと渡り、その世界の者との間でお前を産んだ。お前から世界を渡る能力が失った以上、限りなく特殊なケースではあるが、お前は紛れもなくこの世界の住人となろう。よって始末する対象ではない」


「ふざけるな!」


イザナギはそれだけ告げると、他には何も言わずに自分の前から立ち去った。

自分は傷付いた身体を引きずりながら、倒れている妲己の元へと向かった。


だ、妲己・・・


冷たくなった妲己の身体を涙を流しながら強く強く抱きしめ泣いた。


「痛いよ主よ・・・」

「!!」


妲己の弱々しい声に自分は妲己の顔を見る。


「泣きべそだのう?主よ」

「お前!生きていたのか?」


そこにイザナギの仲間のオモイカネが背後から事の全てを教えてくれたのだ。

妲己は後、七日間で間違いなく死ぬ。

それはイザナギの矛で貫かれたからだけではなかった。

実は妲己はこの世界に来てから力を失い続けていたと言う。

力だけでなく魂までもが!

この世界は異分子である妲己の存在を許さなかった。

居続ければ理によって存在を抹消される。

妲己は自分にその事を一言も言わなかった。

言えばもう一緒にいられなくなると知っていたから。

言えば別れが来ると分かっていたから!


妲己は存在が消えるその日まで自分と共に一緒にいたかったのだ。

そう。妲己は人間である自分を愛してしまったのだ。


「だ、妲己」


妲己は苦しみ悩む自分の姿を見て、いてもたってもいられなかった。この世界で会わねばならない者が遙か未来の存在だと知り、寿命という人間の理から叶わぬと苦しむ自分に出来る事。

既に魂の力に限界を感じていた妲己は単身イザナギに会って、その方法を教え願ったのだ。


イザナギの条件は妲己の存在を消す事。


猶予は七日間

七日間の猶予は自分と妲己への手向け。

自分は妲己を抱えると、隠れ里でニ人だけで過ごした。

その七日間は二人にとって、与えられた穏やかな時間。


「妲己よ」

「主・・・」


自分は横たわる妲己の手を握り、優しく


「自分の嫁になってくれ」


妲己は僅かな寿命だと笑い自分を受け入れてくれなかったが、

その本気の眼差しに涙を流して顔を背ける。


「自分、この生涯、妲己!お前を愛し続けよう。お前を一生の伴侶として迎えたい」

「だから、我は!」

「関係ない!こんな自分では物足りないのか?嫌なのか?愛せぬか?」

「そんな事は」


自分は妲己を抱きしめ唇を合わせると、妲己もまた自分を強く抱きしめ返した。


七日間だけの夫婦生活


それが自分にとって、最初で最後の幸せの一時。

いずれ来る別れを圧し殺し、涙を押し止め、この瞬間、瞬間に幸せを感じていた。


そして、別れの時・・・


妲己は入って来るなと部屋に籠もる。けれど自分としては最後まで看取ってやりたい。

最後の最期まで一緒にいたいと思っているのに。


「!!」


その直後、部屋の中から禍々しい邪悪な怨念が立ちこもって来たのだ!?


「中で何が!?」


自分は妲己に決して入って来るなと言われていた部屋の中へと飛び込んだのだ。


「妲己?何が起きているんだ!?」


中にいた妲己は邪悪な怨念に纏われていた。


「ニクイニクイニクイ!」


えっ?妲己?


「オマエに巻き込まれなければ死なずにすんだのに。オマエにさえ会わなければ!!」

「!!」


それが妲己の本音?

そうだよな。自分にさえ会わなければ死ぬ事もなかった。

自分がこの世界へと巻き込み、今、まさに死なせてしまうのだからな。

自分は憎しみの塊となった妲己へと歩み寄ると、その身を抱きしめる。


「どうしたい?お前になら、自分は殺されても構わない。お前になら全てを捧げられるぞ?愛している妲己!」


妲己を抱きしめながら瞼を綴じた時、怨念の塊となった妲己の指が自分の心臓を貫いたのだ!


「ごふっ!」


血を吐き、痛みも悲しみも忘れ、その思いも愛に乗せて妲己を離さなかった。

そんな自分を妲己は付き離した。


「そこまで憎んで。なら共に逝こうぞ」


薄れゆく意識が、突如激しい痛みが全身を襲った。まるで全身の神経を一度に引き裂かれるような痛みが!!生き地獄。だがしかし、決して妲己より先に死ねぬ!せめて妲己を看取るまでは!


そんな苦しみもがく自分に妲己は言った。


「それは呪いじゃ!この先、生きる間、何度も何度も同じ痛みにオマエは味わい続ける。それこそ死んだ方が楽だと思う程にな」


それはどういう意味だ?


「その呪いはオマエを死なせぬ。数年、数百年、オマエの身体を蝕むのじゃ!この呪いは生き地獄を与えながら死なせぬ呪いじゃ!」


「そ、それはどういう?」


すると妲己が自分にもたれ掛かりながら弱々しく呟いたのだ。


「我が出来るのは、こんな事だけじゃ・・・すまぬ。苦しませて・・・」


全てを理解した。


これは妲己が自分に対して、命をかけて与えてくれた餞別。


最期の思いなのだと!


「ありがとう。妲己よ。自分は、自分は!お前に何もしてやれなかった!何も!」

「そんな事はない。我は主と共に過ごしたこの時間は、かけがえのない幸せの時じゃったよ」


幸せだった・・・


妲己は自分を残して逝った。


自分は妲己の最期の贈り物、それは時折襲う激しい痛みを背負う事を引きかえに、肉体の老化を遅らせ死ねぬ呪詛なのだ。


痛みは妲己からの愛と受け止め、自分は生き永らえる。


十年、百年と・・・


その間、自分は組織を確立していった。


そこでイザナギに再び会った。


イザナギはあの日、妲己に伝えた事を自分にも話してくれた。


それは、転生の儀。


この世界の者でなかった妲己の存在は許されなかったが、その魂は救われる。


「それはどういう?」


妲己の魂は、この世界で転生し、再び生を得られると言うのだ。

自分はいてもたってもいられずに、イザナギの教えてくれた時代で妲己の生まれ変わりと再会した。


時は平安時代


そこで、妲己は安倍晴明という名で存在した。


「妲己よ・・・」


嬉しかった。

例え記憶も思い出も失っていようと、妲己の魂は救われたのだから。


一目見れただけで満足だよ。


更に月日は流れた。


年老いながらも生き長らえ、自分は戦いの日々を続けた。

呪いの痛みも、繰り返される戦いの日々も、この日を迎えるためにあった。


「ここかのぅ?空海よ?」

「はい。小角様!間違いなく小角様が探し求めていた少年に間違いないと思われます」

「そうか。そうか・・・ついに約束を果たせるのだな儂は・・・」


総本山の結界の張られた地下に、その少年はいた。


一目見て分かった。


あの方だと・・・


少年は自分を睨みつけて聞いて来た。


「お前は誰だ?」


その問いに儂は答える。


「儂の名は役小角じゃよ」




小角伝 ~完~



次回予告


次話より、再び法子と孫悟空、八戒に沙悟浄が活躍します。


彼等の新しい冒険が始まる!



小角の話の続きは、第二部


「神を導きし救世主」にて語られています。

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