小角伝 ~小角~
フォンと妲己、二人の来た世界に現れたのだ。
あの蚩尤が!!
自分はフォン
「うおぉおお!」
自分は錫杖を振り下ろすと、自分よりも二倍近くある鬼を真っ二つに両断する。鬼は断末魔をあげて障気を噴き上げて煙のように消滅した。
「そっちに二体向かったぞ!」
「承知しておる。主よ」
妲己は手にした妖気の炎を向かって来た二体の鬼に投げつけと、爆発するように消滅した。
「片付いたようだな?妲己」
「そうだのぅ」
化け物の現れなかった世界に鬼の出現、これはあの夜から始まったのだ。空間の裂け目より出現した蚩尤の影。本体こそ現れなかったが、その障気は地上全体に広がり、この世界の人間の嫉妬や怨み辛み、悪念を吸い、肉体を奪われた虫や動物、人間までもが鬼へと転じる現象を起こすようになった。
「この週だけでも四件か」
人間達は突如現れた尋常成らざる脅威にただ怯えるしかなかった。なにせ化け物を相手にするすべなど無いに等しいからな。やがて鬼を退治する自分達の噂は都の遥か先にまで広まっていった。
そんなある日、鬼が集落を襲っていると噂を聞いて出向いていた。しかも一体、二体ではなく群れを成していると言うのだ。
「自我を持つ鬼か」
その鬼達はそもそも人間。しかも山賊だった者達。
その者達は障気を吸い、その邪悪な魂が穢れて鬼に転じたのだ。
強大な鬼の力を得たその者達は好き放題に暴れては、人間達の村を襲っていた。
「愚か者共め!」
その頃、妲己もまた別の場所へと向かっていた。
同じく奇っ怪な事が起きていると噂があったのだ。それは鬼の出現率が多い山で、もしや蚩尤と関係あるのではと情報収集に行って貰ったのだ。
「妲己の事だ。心配はなかろう。何せ自分よりも数倍は強いからなぁ〜」
自分は妲己に時間がある時には様々な術を学び、体術の稽古をして貰っていた。かつて神仙に学んだ事はあったが、期間も十分でなく、学び足りないと思っていたから。妲己はかなり高度な術を身につけており、禁呪である邪法にも長けていた。例え禁呪で有ろうと備えあればと、意欲的に学んだのだ。
「さて」
やがて噂の村ヘと辿り着いた時、そこには鬼かどころか人の気配すらしなかった。
「もう何処かへと去ったか?それとも?」
その時、正面から村の生き残りらしき男がフラフラと向かって来たのてをある。
「お主、大丈夫か?この村で何が起きたのだ?」
自分が問うた瞬間、男は突然駆け出して来ると、筋肉が膨張して鬼へと変化したのだ!
「変化までするとは、知能を持った化け物なら妖怪と何ら変わらぬな」
自分は向かって来た鬼の腕を掴むと、軽々と投げ飛ばす。
「まだ未完成だが、上手くいった」
それは肉体強化の術。霊気で自らの肉体だけでなく細胞レベルにまで薄い膜で覆い、更に魂を燃焼させて限界まで燃やす。内と外から同時に霊気コントロールする事が難易度を増すが、一時的に神がかりな力を発するのだ。いずれは一時的だけでなく通常状態で持続出来るようになりたい。
倒された仲間を見て、気配を隠していた鬼達が群がって来た。
どうやら三十体近くはおるな?
臆する事なく呼吸を整え戦う準備をした時、離れた場所から人間達の気を感じたのだ。
まさか何処かに集められているのか?
ならば助けねばなるまい。
鬼達が襲いかかる中、人間達の集められている場所へと移動しながら戦う。中には刀を振り回す鬼もいたが、今の自分の力なら苦ではない。
「人を捨てた愚か者共!」
自分の発した覇気が鬼達を蹴散らして消滅させたのだった。
そして捕らわれていた村の生き残りの者達を解放させる。
「生きていて良かった。もう安心だ」
しかし誰一人逃げようともしない。
「鬼達は全て自分が滅した。もう恐れる事はないのだぞ?」
すると村の代表らしきものが恐る恐る答えた。
「白き鬼は退治なさったか?その親玉は他の鬼何かと比べをモノにならない化け物。その白き鬼は我々が逃げようとするなら、逃げ込んだ村へと現れては同じように仲間を連れて襲うのだ。もう誰も逃げられないのだ」
「白き鬼だと?」
思い当たるのは蚩尤であった。
「ならば自分が、その白き鬼を退治してやろう」
誰も自分の言葉を信じなかった。
希望を失った目。
自分は外に出ると、大声で叫ぶ。
「隠れてなどいないで現われよ!それとも自分に怖れを成したか?化け物よ?あははは!」
自分の挑発に、話のあった白き鬼は姿を現した。
「人間のくせに俺達を邪悪するのはお前か?」
「!!」
その白き鬼は蚩尤ではなかったが、確かに他とは桁違いの力を感じる。
しかも微かに蚩尤の気配も感じるぞ?
「お前、蚩尤の居場所を知っているのか?」
その問いに白き鬼は驚きを見せる。
「あのお方を知っているのか?お前、何者だ?」
「自分は、その蚩尤を退治する者だ」
「人間が調子に乗るなよ?お前など俺様が八つ裂きにして喰らってやろう!」
「出来るものなら、やってみるが良い!」
白き鬼との交戦。この鬼は確かに強かった。
かつての地でなら魔王級か?しかしこの世界にこのような化け物が出現するなんて?
やはり蚩尤と何らかの関係があるのか?
「俺はあの方に選ばれたのだ!」
「選ばれただと?」
この元山賊であった鬼は、偶然蚩尤の祠を見付け子分達と中に入ったと言う。
噂が広まり、化け物が守る宝があるた聞いていたからだ。
化け物と言っても獣の類いだと高を括っていたが、中から現れたのは蚩尤。
蚩尤は手足となる部下を作るために自分の肉腫を投げつけると、山賊達は苦しみだして鬼へと変化したのだ。肉腫から逃れた仲間達を喰らって、鬼と化した者達の中から白い鬼が誕生した。
その白き鬼は他の鬼とは桁違いの力を持ち、人間の邪な記憶を残していたのである。
「俺は選ばれた!あの方に従えば、いずれ土地を与えられて君主となれよう!あははは!」
「残念だったな?」
「?」
「自分は、その蚩尤を始末するために来た。お前なんぞに足止めされてる場合ではないのでな。それに相方を待たせているし」
「か弱き人間が!身の程知らずが!」
「神にでもなったつもりか?愚か者め!」
襲いかかる白き鬼の目の前で、自分は印を結んで唱える。
「神狼変化唯我独尊!」
閃光が自分を覆い、そこには二体の狼が融合した鎧を纏っていた。
「手加減はできぬぞ!」
その姿を村の者達は驚きつつと跪き見ていた。
鬼をも凌駕する人間の姿を!
いや…恐らく人間とは思ってはいないかもしれぬ。
何せ変化した自分の姿には額に金と銀の角が生えているのだから。
自分は白き鬼を圧倒的な力で退治した。
そして恐れる村の者達に何も言わずに戻っていくと、妲己とも無事に再開した。
しかし
その日を境に自分の環境が変わる。
自分の前には?
「師よ!本日も三名の志願者が」
「そうか」
溢れるように増える鬼の出現に自分と妲己だけでは手が追えなかった所に、自分に戦うすべを学びたいと集う志願者が集まって来たのだ。
「このようになるとはな」
「主よ?邪魔なら放って置けば良かろう?」
「それは自分にも責任の一端はあるゆえ、見捨てられるものか?それに今は戦える人材は貴重だよ!」
戦力は育っていた。伝授した体術や仙術を一心不乱に学ぶ弟子達。彼らの大半は家族を鬼に襲われた者達。覚悟が違うのだ。
いずれ、この者達、いや…この組織は必ずあの方へと続く道になるはず。
自分はこの世界で魔物を退治する修験者として数多くの弟子を持った。
そして名を改めたのである。
小角と!
次回予告
蚩尤討伐に向かった小角と妲己の前に現れた者は?




