小角伝 ~夢記憶~
フォンと妲己が迷い込んだ世界とは?
世界は繋がっていた。
自分はフォン
妲己の手にした箸を見て気付く。自分と妲己が辿り着いた世界は自分のいた世界とは異なる世界であると!
この世界は同じ土地や建物が自分のいた世界の映し鏡のように当然のように存在していた。しかしこの世界には人こそ存在するが、魔物や神の存在が無いのだ。神は自然の偶像として奉り、魔物は病や厄災と認識した世界。自分のいた世界では魔物も神も人に似た姿で現れ、その超常的な力を見せ存在を誇示し、人間の中には仙術を学び神に近づくすべを持っているのだ。
「信じられない事だが、認めるしかあるまい。この世界は並行世界なのだと」
追い詰められて逃げ込んだ穴は、別世界への入り口だったとは…。
しかし、あの穴は自分の中から出現したように思えた?
だったら再び現れるのでは?
その後は幾度と試みた。
あの時の感覚を思い出せば必ず!
しかし、叶わなかった。
「そろそろ諦めてしまえよ?主よ?」
「自分に構うな!」
自分自身を追い詰める事で出せると信じて、考えられる苦行で身を傷付け限界で白目を向く。
「見たことか」
溜息をつきながら妲己は自分を抱えて屋敷へと戻った。
自分達はこの日本国に居場所を作っていた。住民達に妲己の催眠で身分を偽り、名字を「君」と名乗り、居座っていた。身分制度が根強いらしく、貴族として振る舞う事が何かと楽であった。
「うっ…」
自分は夢を見ていた。それは過去の悪夢。
金角と銀角に肉体を奪われ、自身も闇に魂が穢れていく。やがて欲望も怒りも悲しみも失せ、自身をも放棄し何もかも諦めてしまった。次第に感情は消えて無になろうとした時だった。
「諦めるな!」
それは差し出された力強い腕!
いや、自分への希望の光明だったのだ。
強く熱く逞しく、その手を掴んだ時に自分は導かれるように引き戻された。この光ある世界へと!
その方は孫悟空さん達の師であり、この自分の恩人。
その時、自分はその方と繋がったように感じた。
いや、確かに繋がったのだ!魂と魂が!
その方の記憶が流れ込み、過去を見てしまった。
その過去はあまりにも重く、自分の闇など些細に感じる程に…
それでもあの方は闇に落ちなかったのは、様々な出会いがあったから。
その出会いの中でも最初に、闇から光の世界へと導いた者がいたのだ。
老師?
その者を見た時に、直感的に分かってしまった。
その者は、未来の自分であると!
まさか自分が?
恐らくあの方は気付いていたのかもしれない。
まだ幼い自分が、自分の師になる者であると。
不思議な運命。
自分を闇から救った者が、自分が闇から救った少年なのだから。
しかし自分は必ず成し遂げなければならない。
恩人であるあの方を闇から救う事が出来るなんて、それ以上の恩返しなんてあるのだろうか?
しかし久しく見ていなかったその夢の中で、今まで特に気にしていなかった事に意識が及んだ。
それは、あの方の住む世界の歴史、文化、そして時代であった。そこで今まで不確かだった疑問に確信を得る。あの方の生きた世界は、今自分がいる世界の未来であると!
「うっ!!うわぁああああ!!」
更に流れ込むように入って来る記憶の濁流に自分は飲み込まれてしまたのだ。
「はっ!」
飛び起きるように目覚めた自分は痛む額を押さえながら苦悶の表情を見せる。
何でこんなに痛むのか?
「興味深い夢だったな?主よ?」
「だ、妲己か?」
気付くと隣で妲己が座りながら水の入った茶碗を渡してくれた。自分は飲み干すと、
「お前、自分の夢の中を覗き見ていたのか?」
「うむ。これから先の行動には必要な情報であったからのう。本当に興味深い夢、いや?記憶だのう」
「やはり、記憶なのだな。しかも未来へと続く」
「それよりも主よ?気付かぬか?」
「何がだ?妲己?」
「先より我はこの地の言語で話しているのだぞ?」
「!!」
そういえば、確かに?いつの間にか日本語を理解しているだけでなく会話していたぞ?
なぜ?
いつの間に??
「ふふふ。主の許容範囲で情報を定着させてやったのだぞ」
妲己が言うには、自分が見ていた記憶の夢の情報を精神感応を使用した術で記憶に定着させたのだと言う。だからこの地の会話を理解して喋るようになっているのか?何と便利な!
後から聞かされたのだが、この術は許容範囲を誤れば廃人になってしまう禁呪だったとか。
待て待て?下手したら眠ったまま目覚めなかったのか?
結果的に命拾いしたが、二度とするなと注意しておいた。
注意だけで怒らなかった理由。
それは今まで薄ぼんやりだった記憶が明確になったから。
この記憶を頼りに、自分の目指すべき道を理解した。
自分は、この世界であの方を探し出す。
そうか、やはりあの方は別の世界の住人。
しかも未来からの来訪者であったのだな。
「礼を言う、妲己よ」
「もっと褒めよ?主よ!オホホホ」
何か法子さんに似た返答にホコリとした。
恐らく、もう二度と法子さんにも、孫悟空さん達にも出会う事はなかろう。
約束を裏切る事になった事は本当に申し訳ありません。
それから自分と妲己は明日に備えて眠る。
「のぉ?いつになったら我を夜這いするつもりなんじゃ?こんな美しい我に手を出さぬとは、主はまさか包茎か?」
「違うわ!馬鹿な事を言ってないで寝ろ!」
「オホホホ」
と、布団に潜り込む自分の下半身は言葉とは裏腹に反応していた。
寝ろ!自分!
と、ようやく眠気が来た丑三つ時、突如揺れ始めたのだ。
地震?
「妲己!屋敷の外に出るぞ!」
すると既に近辺の住民達は外に出て拝むように頭を上げないでいた。
「地震なら、直ぐにおさまろう」
「待つのじゃ!主よ!」
「どうした?まさか地震が苦手か?」
しかし妲己は返答せずに空を見上げながら固まっていたのだ。
空に何が見えると言うのだ?
自分も見上げると同じく固まる。
空は溢れんばかりの流星が流れていた。
尋常じゃない天変地異。
「さ…三年前と同じだ」
頭を上げない住民達は恐れながら口々に言う。
三年前にも同じ事が?
三年前と言えば…
「!!」
自分と妲己が、この世界へと現れたタイミングと同時期であったのだ。
そして、妲己が真面目な顔で答えた。
「どうやら、とんでもない奴が付いて来てしまったようじや」
「なぬ?」
その後、人間達の恐怖の叫びが響き渡る。
無理もあるまい。
何せ、空が割れ始めたのだから!
そして割れた隙間から邪悪な障気が立ち込め、上空に巨大な鬼の姿を形どったのだ。
「やはり来ていたのか、蚩尤!」
この日を、この時を境に、この世界に変革をもたらす事になろうとは、
その時の自分には考えても見なかった。
次回予告
蚩尤までも同じ世界へと現れた。
それがこの世界に何を及ぼすのか?




