小角伝 ~迷故郷~
フォンの行き付いた場所は、そこは?
自分は…フォン。
自分は妲己と呼ばれる伝説的大妖怪の女子と共に何処か分からぬ場所へと飛ばされていた。
「あの穴は何だったのだ?」
自分は窮地で現れた空間の歪み?穴へと飛び込んだ事までは理解していた。しかも恐らく、あの穴は自分が出したに違いない。
「自分にあのような能力があったとは。しかし自分達は何処まで飛ばされたのだろうか?」
しかも妲己を連れて来てしまった。
そういえば同じく穴に飛び込んだ蚩尤は何処へ消えた?間違いなく蚩尤も連れて来てしまったはず?
穴に飛び込んだ後に蚩尤が掴みかかって来たところを妲己が妖気弾を放って引き離し、その爆風で吹き飛ばされるように穴へ落ちたのだ。自分も目覚めたばかりで、妲己にしては未だに目覚めておらんし。
仕方なく自分は霊体を近辺に飛ばしてみた。
山奥だな?人里はないのか?
もう少し遠くへ飛ぶか?
「!!」
人里はあった。里と言うより都か?そこの民は貧富の差の激しい生活をしていた。そして得られる情報をもって肉体へと戻る。
「違和感が?なんだ?この違和感は?」
この地の民はまず言葉が自分の使っていた言語と全然違っていたため、目で見た情報しか得られなかった。しかし問題はそこではなく、そう!
「妖怪がおらん!?」
確かに人間しか見当たらなかったのだ?しかも人間が妖怪よりも栄え支配していたのだ。
「そんな事があるものなのか?」
自分のいた世界では人間と妖怪の割合は良くて六対四。
その大半の人間が妖怪に虐げられ、奴隷のように扱われているのだ。
自分はとりあえず洞窟の中へと戻ると山で手に入れた食材で料理を始めた。
ん?
「目覚めたのか?もう少し待っておれ?もう少しで何か食わせてやるからな?」
自分は背後からの視線に気付くと振り向かずに料理を続けながら声をかけた。背後からの視線の主は黙ったままだった。その主は、そう妲己。
「と、言っても茸に火を通した質素な食事だがな?文句は言うなよ?」
自分は運んで来た茸料理を妲己の前に置くと、その前に座る。
「いただきます」
自分は先に食すると、
「安心せい?毒なんて入ってはおらんぞ?」
妲己は自分を睨みながら出された食事を口にした。
お互い無言で食事を終えると、妲己が口を開いたのだ。
「主は、我が恐ろしくないのか?のぅ?人間よ?」
「はて?確かに伝説的大妖怪だからな!恐れるのが筋だな?確かに!恐らく自分では太刀打ち出来んと思うしな。今から恐れるべきか?」
「恐れている者の答えか?それは?それにお主のそれは恐れが感じられん。余裕?違う。そう、主のその目が恐れていないのだ!」
「恐れているぞ?太刀打ち出来ないと理解しているぞ?それでは駄目か?」
「そういう問題ではない。不思議な人間だ」
すると妲己は自分と目が合い、赤面した。
そして理解した。
「そうか!その目だ!お主、何故、そんな真っ直ぐな目で我を見れるのだ?我を知る者は全て我を敬い、恐れ、忌嫌う。なのにどうしてそんな真っ直ぐな目で我を見れる!?」
「はて?」
しばし考えた後
「恐らく、自分がお主達のような人でない者達と距離が近かったからかな?それに自分には敬い、憧れる妖怪の友がおるしな。あははは!」
「……」
すると妲己は自分を見て、しかめっ面で答えたのだ。
「嘘は言ってはおらんな?変な人間だ」
「変とは何だ?」
「変だろうて?さっきから我の胸元や股をチラ見しては欲情の数々を廻らせておるではないか?」
「何と??」
何を言ってるのだ?えっ?ん?まさか?
「お前…まさか自分の心を読めると言うのか?読心術とか?」
「違う。そんなケチな能力ではないぞ?お主の思ったイメージがそのまんま映像として見えるだけよ」
「そうか、そのまんま映像として見えるだけなのか…だったら…」
「エロいの〜」
「猶更、いやぁああああ〜」
良からぬ妄想を見透かされている事に気付いて逆に悲鳴をあげてしまった。
「話しを戻そう。わるいが心を読まないでもらえんか?話しづらいし…」
「ほれ?」
妲己はおちょくるように胸元を開いて見せると堪らず鼻血を噴いてしまった。
「だ、妲己〜!」
マジに怒る自分を見て笑う妲己。
「良かろう。お主は我に対して害を齎さぬ者として扱ってやろう」
「そうかそうか。そうしてくれ」
妲己は自分に対して興味を抱き始めていた。最凶最悪の伝説的な大妖怪である妲己に対して、まるで昔からの友人のように接する人間に。少しでも機嫌を害せば一瞬で消し去る事も出来る圧倒的な存在に対して対等に接するのだから興味深かった。
「久しいな。太公望ぶりか。この我に対して臆する事なく笑みを見せる馬鹿者は。まぁ…あ奴は敵ではあったがな」
「?」
妲己の一人言に対して意味が分からずに首をかしげると、自分は伝説的な大妖怪である妲己と友になっていたのだ。しかしこれが、自分にとっての人生のターニングポイントになるとは思ってもみなかった。
食事後、自分は妲己を連れて人間達のいる場所へと移動した。
「賑わっておるな。ここは都か?」
「……」
妲己は黙っていた。無理もあるまい。人の都に堂々と大妖怪が男連れで降りて来ているのだからな。
「しかし言葉が通じないのは不便だのぉ。自分まで萎縮してしまうよ」
すると妲己はブツブツと呟いていた。
「どうした?妲己?気分でも悪くしたか?」
すると正面から兵士のような男達が自分達の道を塞ぎ、何やら怒鳴り付けてきた。
「?」
言葉が分からぬゆえ何を言ってるか困り果てていると、妲己の奴が兵士達の前に出たのだ。
ま、まさか目障りだからと命を奪うつもりではなかろうな?それはまずいぞ??
「ま、待て待て!穏便に…ん?」
すると兵士達は惚けた顔で自分達の目の前から立ち去る?どうなっている?まさか妲己が何やら術を使ったのか?妲己は振り返ると、
「見慣れぬ姿だったから不振に思ったようじゃ。安心せい?幻術をかけて誑かしてやったわ」
「何と!?」
いや、それよりも妲己…お前?
「この地の言語が分かるのか?もしかして?」
「それが何か?」
「この地に来た事があったのか?」
「いんや?」
驚く事に妲己が言うには、先程から無口だった時にこの国の人間達の言語を全て聞き取り、分析して理解したと言うのだ!
「そんな能力があったのか?」
「人間の聴力よりは桁違いだが、分析能力はこの出来ではないか?」
と、自身のオツムを指差す。
「凄いな?お主?たまげた」
「だったら、少しは褒め讃えよ?」
このノリ、法子さんを思い出してしまった。
「早く元の世界へ戻り、法子さん達を安心させねばな。うむ」
そこで自分は妲己に言葉を学ぶ事にしたのだ。
言葉が通じなければ情報も分からぬし、元の世界へ
戻る手立ても見付かぬからな。
そして知った。
この地は小さな国、日本!
大宝元年、時は飛鳥時代だと!
「自分達は他の島国へと飛んで来てしまったのか?ならば海を渡れは良いのだな」
その夜、自分は霊気を高めていた。
かなり遠くへ霊体を飛ばすため、それなりの用意が必要だった。
自分は中国にまで、この島国から霊体を飛ばそうと計画したのだ。
「ぅぬぬぬ!」
霊体が肉体から抜けると、一気に上空へと飛んで雲を抜けた。そして方角を定めると自国へ向かって飛んで行ったのだ。かなり消耗する。肉体から離れるほど霊体の力は弱まる。正直、国を渡るほど霊体を飛ばした事はなかったため、かなりの苦行だった。
海を渡る最中、意識が消えそうになる。
「集中力。意識が消えたら肉体へ舞い戻りだ」
しかし、ボヤける視界に力が抜けて平衡感覚が鈍り海に向かって落ちていた。
「!!」
直後、身体が浮き上がり自分は獣の背に乗っていたのだ。まさか?
「主よ?我を置いて旅行とは黙ってはおけんの?」
「妲己!?」
寸前で自分は巨大な九尾の狐の背に乗っていた。紛れも無く妲己の化けた姿だった。
「着いてきてくれるのか?」
「憑いてるだけじゃ」
と、冗談混じりに答える。
自分は妲己の背に乗って自国の中国へと戻って来た。
しかし
「そんな馬鹿な?」
茫然とする自分は知る事になる。この中国は自分のしる国と違う事に?それは時代だけでなく、住む人間達、それに歴史までもが??
「この地には妖怪が存在せんだと?人間のみが国を支配する世界だと言うのか?」
それは全く異なる世界であった。
何処を探しても自分の知る時代の痕跡もなかった。
しかし似たような建物や全く同じ土地。それに歴史上の人物もいた。
「分からぬ」
どんだけ思考を廻らせても答えは出ない。
そこで意識が遠退く?
えっ?
「とにかく一度戻るとするか?主よ?」
倒れこむ自分を妲己が抱き抱えると、背に乗せて肉体のある日本へと戻った。
目覚めると自分は肉体に戻っていた。
「目覚めおったか?」
「妲己か?お前が?」
「無理しすぎだよ、主よ」
「済まない。迷惑かけたな」
冷静になって物事を整理する。自分のいる世界は自分の知る世界とは似てはいるが異なっているようだ。
どういう事か理解出来…ん?
「どうした、主よ?そんな目で我を見て欲情でもしおったか?」
「馬鹿者!違うわ!」
自分が見ていたのは妲己の手にした箸であった。妲己は箸を交差させて音を鳴らせていた。
「そ、そういう事なのか…」
自分は理解した。
この世界が何処なのかを。
この世界は…
次回予告
見知らぬ地にフォンと妲己の取る行動とは?
そして、この世界は一体?




