表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/711

小角伝 ~時の扉~ 


ここより、フォンの物語が始まる。


第二部 神を導く救世主 


での謎が今、語られる。



うむむ


自分、フォンです。


自分は今、一人見知らぬ土地の異世界に来てしまったようです。自分は人目から隠れるようにして洞窟の中で雨を凌いでいた。


いや、一人ではなかったな?


「どうしたもんか」


座り込む自分の視線の先には美しい女子が眠りこけていた。「ゴクリ」いや、いかんいかん!

確かに自分はオナゴ好きであって、しかも目を奪われるくらいの美しいオナゴであろうとも、手を出す事は出来なかった。理性?いや、それだけだはなく目の前で眠っているオナゴの美しさは魔性の美!


なにせ頭上には耳がとんがっており、尻には尾があるのだから。尻?つい唾を飲み込むが首を振って自制する。このオナゴは獣人の物の怪に間違いないのだから。

自分は一度洞窟から出て空を見上げる。もう雨はあがったようだな?そしてこれまでの経緯を思い出しため息をついた。



それは法子さんと孫悟空さん達と一緒に魔王討伐に参加し、見事三体の魔王とその黒幕をも倒した後の話。


「で?フォンさんも一緒に来るんでしょ?」


法子さん達は魔王討伐を依頼した人間の軍隊と一緒に国へ帰還するらしい。


「頑張った分のご褒美貰わないとね!」


「魔王討伐の報酬ですね?」


「もちろん!当然の見返りよ!」


法子さんの目は金に汚れているように思えたが、そんな自分自身に素直な法子さんにさえ可愛さを感じた。

自分は孫悟空さん方を見ると軍隊の兵士達に囲まれ英雄視されて悪い気じゃないみたいだった。法子さんもチヤホヤされて、「もっと褒めちぎりなさい」と調子に乗る。


「法子さん、貴女って何て自分に正直なんだ。惚れ直しました!やはり嫁にしたい」


と、妄想していると法子さんが自分の顔を覗きながら、


「行くのよね?」


「えっ?あ、報酬の受け取りですよね?残念ですが自分は今件を武闘寺院に報告に戻らないといけませんので、自分の分は皆さんで分けていただいて構いませんよ」


「えっ?フォンさんの分は私が貰って良いの??有り難う!なんか悪いわね〜」


皆さんで分けてという意味だったのですが、あはは。まぁ、良いか。


本当に何て自分の気持ちに正直なんだろう。


「と、その前にひと仕事残っていたわね?」


法子さんの指示で孫悟空さんと百獣王さんが妖気を高め始める。


「何を?」


「こんな危なっかしい遺跡を残して置けないでしょ?また良からぬ事を考えた連中が遺跡を使って悪さされたらたまったもんじゃないわよ」


法子さんは遺跡を破壊するつもりだった。沙悟浄さんと三大妖仙さん達は惜しそうな顔をしていたが逆らえずに天候を操る術を始める。


「いくぜ?獅駄王!」


「おう?俺俺、百獣王だぞ!」


二人は極限にまで妖気を高めると、互いの妖気を融合させる。二人の頭上に巨大な妖気の玉が浮かび上がる。


「これが、かつて地上界を震わせた大魔王お二人のお力です!なんとも恐ろしくもあり頼もしいのでしょうか!」


三大妖仙達が褒め称えてる。そこに法子さんが二人に向かって大声で指図した。


「ドカンっとやっちゃいなさい!」


「おぅさあ!」


孫悟空と百獣王さんは互いに頭上の巨大な妖気の玉を地表に向けて落とさせる。凄まじい爆風と轟音が大地を震わせると、自分達も吹き飛ばされないように堪えながらその有り様を見届ける。


「!!」


驚く事に一帯はプレートのように陥没していた。

更に三大妖仙さん達と沙悟浄さんが雨降りの術で雲を呼び、豪雨を降らせたのです。


「驚きです」


数時間経つと自分達の目の前には巨大な湖が出来上がったのです。


「そういえば八戒さんは?」


「八戒には、あっ!ほら?」


見上げると八戒さんが地面から顔を出して法子さんに報告する。


「ゼェゼェ、隣の山向こうの湖から掘って来たらよ〜」


八戒さんは別の湖と出来立ての湖を繋げたのです。

八戒さんの掘った穴から流れて来たのは湖の水だけでなく、植物や魚といった生き物だった。


「やるからには徹底的によ」


そんなこんなで、遺跡のあった場所は見る影もなくなっていた。

連戦後に過酷な動労。くたびれ果てる孫悟空さん達はもう喋る元気もなく、残っていた兵士達の運ぶ荷車の上で寝ていた。


「城に着いて御馳走出来たら起こしてくれよ?」


そう言うと、孫悟空さんとハ戒さんは自分に向かって「今度はゆっくり話そうな?」と、手を振ってくれた。


「フォン君、また会いましょう」


「必ず!」


沙悟浄さんも暫しの別れに涙していた。


「本当よ?フォンさん、次に会ったら私と手合わせしてよ?」


「手合わせなんて、そんな!自分で良ければ手合わせでも婚姻でもしますよ!」


「婚姻は結構です」


ショックを受ける自分を見て集まって来た兵士の皆さんが笑っていた。


「では!」


そして自分は法子さん達と別れて武闘寺院へと戻る事にしたのだったのですが・・・


その後に起きた出来事が今に至る経緯。


「!!」


自分は離れた場所から感じた事のない気を感じ取ったのです。それは法子さん達でも気付けない程の僅かに漏れ出た霊気。


「物心つきしより死霊使いのせいか、霊気の探知にかけては皆さんより秀でていたようだ」


自分は霊体を感じ取った気の方向へ飛ばすと、霊体越しに隠れた洞窟を見付けた。


「まさか地下遺跡の入口が他にもあったのか?法子さん達を呼び戻すか?いや」


既に魔王も黒幕もいない遺跡、妖怪の残党程度なら法子さん達の手を煩わせる事もないか。

自分は単身、霊体を飛ばして見付けた洞窟へ向かう事に決めた。


「さて」


洞窟の中からは遺跡で感じた不思議な力を感じる。


「さて、どんな事が起きるか用心、用心だな」


洞窟の中は不思議と罠もなければ、化け物が現れる事もなくもぬけの殻だった。しかし何者かが使っている形跡も見て取れる。幾つも結界が貼られていたからだ。


「百眼魔王以外にもこの遺跡を使っている者がいたという事か?百眼魔王に知られずに?」


すると洞窟の奥から声が聞こえて来た。

やはり何者かがいる?

自分は印を結ぶと霊体のみを飛ばした。


「!!」


遺跡洞窟の奥まで霊体を飛ばした先にその者達はいた。潜在能力を探るに魔王級の力を持つ妖怪が三人に、更に傷付き意識を失っている妖怪が担がれていた。心当たりはあった。意識を失って担がれている妖怪は恐らく黒幕の百眼魔王に、他の三人は法子さん達がトドメをさす前に連れ去った謎の一味に間違いなかろう。


「とんだ連中に出くわしてしまったようだ。引き返して法子さん達を呼び戻すべきか?」


自分は単身、気配を消しながら一味の動向を探る事に決めた。

謎の一味は行き止まりで立ち止まると、懐から開門の石札を壁に向ける。すると空間が歪んで扉が出現した。一味は扉を開けて中に入って行く。


「クッ!」


自分は霊体から念を送って本体に瞬時に戻ると、瞬歩を使い扉が閉まる前に飛び込んだ。


「危なく置いて行かれる所だった」


中は部屋になっていた。一味の姿が見えない所、恐らく更に奥へ行ったのだろう。自分は再び本体を隠すと霊体を飛ばした。


この奥には何があると言うのだ?


そこで自分は恐ろしい体験をする事になる。


一味は意識のない百眼魔王を床に置く。その前には金髪の髪の長い人間の高僧らしき男がいた。いや、人間ではない!だからといって妖怪でもなく、もっと格上の存在!!

かつて似た力を持つ者を知っていた。自分の第二の師であり、様々な術を学んだ存在。その者は旅の神仙。神なのだ!


「あの一味を率いているのは神なのか?」


すると男は仲間達に言葉をかける。


「その百眼魔王もまたお前達と同様、この偽り世界を壊す鍵だ。治癒をしてやれ」


どういう意味だ?

一味は指示された通り、百眼魔王の身体を水晶の柱に押し込めると中に沈むように入ってしまった。推測するにあの水晶は治癒をする装置か?


しかし、このまま百眼魔王を復活させてしまったのでは、法子さん達の努力が無駄になってしまう。


「それにしても、他の水晶の中の化け物連中は目覚める様子もないな?」 


確かに百眼魔王の水晶以外にも五本の水晶柱があった。


「その他の水晶柱には下手に手を出すなよ?暴れ出したら手が負えられんからな」


「全くだ。超伝説級の大魔王だからな。大将に叱られるぜ?」 


「くわばらくわばら」


それは百眼魔王など、取るに足りない程の化け物が他にも封じられていると?


「やはり放っては置けないな」


その直後、


「!!」


自分の霊体に向けて霊気弾が放たれ、躱す事も叶わずに消し去られた。


「どうやら何者かが入りこんだようだな」


高僧の姿をした男の言葉に一味の妖怪達が自分の居場所を探そうと周りを見回した。


「はぁ、はぁ」


危なかった。霊体を消される瞬間に肉体へと戻した自分は印を結ぶ。


「見つけ出せ!」


妖怪達が自分を探している。入って来た扉は塞がれて八方塞がり。なら自分のやるべき事は目覚めず眠っている化け物を今のうちにしとめるのみ!


この命と引き換えに!


「アソコだ!」


化け物の一人が気功波を放つ。これで消し飛び始末したと思ったその目の前で、氷の壁が床から盛り上がり気功波を遮る。粉々になる氷の壁の先には自分の姿は消えて、まるで獣の如き速度で駆け回る。


「どうやら唯の虫ケラではないようだな」


自分の姿は双頭の狼の鎧を纏っていた。


「狼神変化唯我独尊」


それは金角と銀角と呼ばれた双子の狼鬼神の魂を身に宿し、人の身で神がかりな力を手に入れる変化の術。三人の妖怪達は自分の動きに翻弄されていたが、直ぐに潜めていた妖気を開放させた。


身震いする!


「気を捉えました。ほれ?」


駆け回る自分の足が重く感じ、金縛りに合う。


「猛棍奪望!」

※モウコンダツモウ


棍棒を持った者が襲い掛かってくる。


「氷結鎖大鎌!」


冷気で構成した氷の鎖大鎌を投げて防ぐが、棍棒で砕かれて消えてしまった。しかしその間に金縛りの術を解いて紙一重で躱す。


「やはり分が悪かったか」


三人の妖怪に囲まれた状態で逃げ場がない。


「こうなれば!」


自分は水晶柱を破壊して中の妖怪を先に始末する事を考えた。


「水晶柱を破壊してどうするつもりだ?その中にいる化け物は地上に混乱を及ぼす能力を持った者達だ。例え水晶柱を破壊してもお前程度の力で何が出来ると言うのだ?」


高僧の問いに自分は水晶柱破壊の手を止める。


「お前自身の手で世界を滅ぼすか?その覚悟があるなら試すが良い?」


「・・・」


躊躇した直後、三人の妖怪が襲い掛かる。自分は身を回転させて氷結の刃を四方八方に放ち足止めさせると、


「くっ!死なばもろとも!」


決断した。自分は覇気を拳に籠めて水晶柱を殴り付けたのだ。

例え中より世界を揺るがす脅威が現れようとも、この者達が何を計画しようとしているかは分からないが、いずれ奴らに洗脳でもされて仲間にされるのであれば、それだけは阻止せねばならない。


何より!

共倒れになってくれる事を願うのみ!


「そんな!!」


しかし、自分の放った覇気の拳は水晶柱に傷一つ付いてはいなかったのだ。


「記憶を消して見逃してやるつもりだったが、やはり知りすぎたお前は始末しておくべきだな?」


「くっ!」


打開策も無く、なすすべ無くなる自分の前に


「何だ?何か面白い事をやっているようだな?俺もまぜろよ!」


そこに新たな妖怪が現れた。鍛え込んだ肉体に頭は馬の化け物だった。


「どれ?」


接近した馬頭の妖怪の拳がガード越しの自分の全身に衝撃を与える。全身が痺れる!


「私達の獲物ですよ?」

「後から来て美味しい所を持っていくとは無粋」

「儂はどちらでも良いがな」


更に三人の妖怪が自分を囲む。


囲まれた状態で、魔王級四人の妖怪の猛攻撃を受ける。ガードが押し負け、身を守る鎧にヒビが入る。

強烈な衝撃が全身を襲うも、一歩でも気を抜けば命を持っていかれる。しかし防戦一方ではやがて体力も尽きて時間の問題。


「やむおえん」


いずれこの者達は法子さんや孫悟空さん達の脅威になる事は明白。ならば自分が出来る残された手段は一つだけ!素早く印を結び、術を発動させる。


「狼頭鬼殉法!」

※ロウドウキジュンホウ


身体中から狼の妖気が四方に拡散して油断していた妖怪達に噛み付き拘束する。


「何を?う、動けん!?」

「逃しはせん!お前達は自分と共に冥土へ行って貰うぞ!」


爆発的な気が高まっていく。このまま気を高めて掴まえている妖怪共々自爆してやろう!

その覚悟に気付いた妖怪達に一瞬、焦りを感じたが直ぐに薄ら笑いをする。


まさか死が恐くないのか?ならば望み通り道連れにしてやろう!


「狼頭鬼殉法!」

※ロウドウキジュンホウ


術の発動とともに気が限界に高まり、爆発の中で妖怪達をも飲み込んだかに思えた。


「な、何故??」


見ると妖怪の一人が掌を向けて自分の高めた気を吸収していたのだ。


「久しぶりの極上の気だ。もっと私によこしなさい!」


「アァアァ…」


流石に戦意を喪失した。まさか自爆すら出来ないなんて、本当に無駄死にじゃないか?

消えるように変化が解けると、もう完全に戦意を失った自分の顔面を馬頭の妖怪が掴み上げる。


「案外、脆かったな。所詮は人間」


振り上げた拳が自分の胸元にむけて放たれる。


「きさま、人間!!」


寸前で残った気を両手に集めて受け止めると、顔面を掴まれたまま馬頭の顔面目掛けて至近距離の気功を放つ。堪らず手を離した馬頭から着地すると、こんな場所で自分は死ねない事を思い出す。


「自分は死ねない。そう!あの方と再び廻り逢うために死ねないのだぁー!」


魂からの叫びだった。


「何を意味分からない事を?こな俺の顔面を焦がした恨み、その命で償え!」


その時、異変が起きた。


「まさか、どれほど呼び掛けにも応じなかったあの化け物が!?」


高僧は叫ぶ!


「お前達!油断するな!」


何が起きたか分からなかった。しかし自分の頭上から水晶の破片が溢れ落ちて来たのだ?


「これは?」


その時、背中越しに寄りかかっていた水晶柱が砕け散り、中から凶悪な魔物が目を醒ましたのだ!

強烈な覇気が部屋全体を震わせる。


「まさか、あの妖怪皇帝が目覚めたと言うのか?厄災の蚩尤が!」


「グルルル!!」


唸りをあげる蚩尤と呼ばれた化け物に魔王級の妖怪達は動きを止めようと、抑えていた妖気を解放させた。既に自分の立っていられない桁違いの戦いだった。このままでは巻き添えに合うくらいに!


「何がどうなって??」


状況を理解出来ないでいる自分を高僧は不思議に思って見ていた。


「まさか蚩尤と所縁ある者?あの人間の魂の声に共鳴して目を醒ましたように見えたが。だが、蚩尤の血縁は牛角魔王のみのはず?不可解な?あの人間何者だ?」



蚩尤と呼ばれた化け物は四人の妖怪を相手に五分以上に戦っていた。六本の腕から繰り出される斧や剣…弓矢、その戦いは暴君!


「くそっ!かなり実力上げていたつもりだったのに!やはり蚩尤は強いぜ!」


馬頭の妖怪が押されつつ弾かれる。


「私が蚩尤の気を奪いましょう!」


気を吸収する妖怪が蚩尤に接近して気を吸収するが、蚩尤は構わずに殴り付ける。


「ぐはぁ!」


「忘れたか?蚩尤は力だけでない。あの無限の再生力が一番の脅威なんじゃ!」


「修行して強くなったつもりでいたが、やはり元妖怪皇帝は強いぜ!」


「ならば奥の手を出しましょう。この私が、この場をが納めましょう!」


気を吸収する妖怪が何か奥の手らしき行動をしようとした時、背後から肩に手を置かれる。


「退くがよい」


それは謎の高僧。


「しかし…」


「お前も、他の者達も、私には失う訳にはいかないのだ。良いな?」


「!!」


四人の妖怪達は素直に後退し高僧に任せる。


「さぁ、神の前に跪け!」


高僧の身体から神々しい気が高まる。その気は人間の放つ霊気でも、妖怪の持つ妖気とも異なる神聖な神の持つ神気であった。


「やはり、あの者は神?神がどうして妖怪を従え、世界の災いとなろうとしているのだ?」


高僧の頭上に凝縮した神気の玉が幾つも浮かび上がる。


「お前を殺すわけではないが、黙らせるために痛い目に合わそう。調教だと思い覚悟しろよ?蚩尤!」


神気の弾丸が高僧の意思で放たれると蚩尤の身体を貫いていく。


「グオオオオオオオオ!」


あんな化け物をも容易く黙らせる力?


「だが、時間稼ぎにはなる。今のうちに遺跡から脱出するチャンスだ!他の妖怪達も二人の戦いに目を奪われているようだし、今がチャンス!」


この場から一刻も早く逃げようとした時だった。


〈遺跡から脱出は無理じゃよ。扉は塞がれたままだろ?どうするつもりだ?のう?人間よ?〉


「!!」


脳に直接声が聞こえて来たのだ?


何者?


だが、他には誰もおらん?


〈お前さんの後ろじゃよ?〉


えっ?

後ろを振り返ると、目に見えるは水晶柱だった。いや、中には確かに人影が?


「お前が話し掛けているのか?」


中の妖怪は身動き一つしないが、


〈そうじゃ。どれ、お主、我と取り引きしないか?〉


「取り引き?自分とか?お前も水晶柱に閉じ込められた化け物か?」


〈うむ。もし解放してくれるなら主を奴らから逃してやるぞ?〉


「だが、代わりにお前を世に放たれるわけか?」


この声の主がどんな化け物の力量は分からなかったが、あの高僧と四人の妖怪とぶつけるのも


「面白いかもな?ここまで来たらもう何でもありだ!しかし自分にはその水晶柱を破壊する力はないぞ?」


〈問題ない。縁だの?主の中にいる二体の妖怪は我の力を与えた縁のモノ。お前の血を柱にかければ良い。簡単じゃろ?〉


「金角と銀角の縁?確かに簡単だが、本当に助けてくれるのだな?」


〈くどいぞ!〉


自分は傷付いた血を水晶柱に向かって振りかけたのだ。その行動に気付いた四人の妖怪が慌てる。


「お前!何をしている?その中の魔神が歴史上最凶最悪の大魔王っと知って」


「知るわけなかろう!」


もう手遅れだった。

水晶柱にヒビが入ると、中より新たな大妖怪が出現したのだ。その姿を見上げながら唾を飲み込む。


「美しい」


中より現れた大妖怪は美しい女子だった。

いや、確かに妖怪だな?

頭上に耳がとがり、尻には九本の尾があった。

何より、妖怪が壁に亀裂を起こし、天井が崩れ始める。その状況に高僧も度肝を抜かれる。


「時間をかけて手に入れるつもりが、何なのだ!あの人間は?もう容赦はせん!」


高僧から放たれた凝縮した神気が自分に向かって放たれたのだ。


「うわっ!」


しかし自分を庇うように九尾の娘が神気の弾丸を掌から出現させた妖気の壁で守ったのだ。


「この人間との契約でな?守らせて貰うぞ?憎き神族の者よ!」


九尾の娘は神族を恨んでいた。


「どうやらお前も跪かせ調教が必要なようだな?厄災の大魔王、妲己よ!」


妲己?


その名前には心当たりがあった。

歴史上、この地上を騒がせ大戦争の原因を作った最悪の妖怪がいた。それは孫悟空さんの前世である美猴王と、その更に前にもう一人!


それが九尾の妲己と呼ばれる大妖怪の名!


「まさか!?」

「そのまさかじゃよ!」


妲己は更に高まる妖怪で他の四人の妖怪達を床に押し潰す。その中で神族の高僧は立っていた。


「グルルル」


と、蚩尤もまた立ち上がる。しかも更に強大な妖気を纏って!


「あの妖怪、魔神の魂を取り込んだだけではないな?太古の魔神の血縁か?」


妲己は薄笑いすると久しぶりの極限の戦いに武者震いする。

三者三つ巴状態だった。

自分は妲己の妖気の壁で無事に立っていられるが!逃げれる状態じゃないですよな?


もう見ているしかなかった。


空間が歪む程の力場が発生し、酔いそうだ。


ん?


力の均衡が崩れ始める。封印から目覚めたばかりの妲己、まだ自我を忘れて本能だけで暴れる蚩尤が神族の高僧の神気に押されつつあったのだ。


「只の神族ではないようだな?我でも厄介な相手だのう」


余裕の台詞とは裏腹に本調子でない事で焦りが見えた。更に本能だけで暴れる蚩尤の様子に異変が起きていたのだ。


エッ?ナヌ?


蚩尤が自分に矛先を変えて、少しずつ接近して来たのだ!?


「お前の相手は我だろ?気でも狂いおったか?いや、最初から壊れているようにみえたかな?」


蚩尤は妲己の言葉を気にもせずに自分に一歩一歩と接近する。


「我を無視するとはとんだイカれ野郎だのう?その者は生かして逃がす契約をした上、手を出すならオマエから先に亡きものにしてやるぞ?」


三人の力の均衡が崩れる。


三人から放たれる攻撃的な波動が自分に向かって押し寄せ始めたのだ。


「ちょい、待ち??ひぃえええ〜」


自分の身を守っている妲己の妖気の壁に亀裂が入り、いつ壊れてもおかしくなかった。


あっ、壊れた!!


手遅れだった。自分の身は三人の気に押し潰されて跡形もなく消え去るのだろうと覚悟する。


「法子さん…」


最期に法子さんにもう一度会いたかったのが心残りだった。気に飲み込まれて瞼を綴じる。


ん?

まだ…死んでなさそうだぞ?


自分は妖気の壁が砕け散ったにも関わらす、何も起きてない事に疑問に思い瞼を開き状況に驚く。


「な!何と??」


自分の前に妲己が身を呈して神族の高僧と蚩尤の気から守っていたのだ!


「お前、何をしている?」


妲己は振り向かずに答える。


「約束は守るものだろ?人間?」


はっ?


この妲己と言う妖怪は本気で言っているのか?


伝説で耳にする噂の妲己とは違うのか?それとも?


この戦いにしびれを切らした高僧は、


「いい加減黙らせて貰うぞ?我が奥義でな!」


高僧の神気が頭上で円型の金属器、光輪と呼ばれる神具が出現する。


「さぁ、神の前にひれ伏せ!」


神具、光輪が神気を纒い回転しながら向かって来たのだ。


「うぐぉおおおおお!」


蚩尤に光輪が直撃し、受け止めた六本の腕が弾かれ黒焦げに火傷を負う。が、直ぐに再生した。


「超再生か?厄介な。しかし!」


蚩尤を囲むように四つの光輪が出現して四方から連続的に蚩尤の身体を襲い、ズタボロにする。再生力を上回る連続的な攻撃に蚩尤も膝を付く。


「時間の問題だな。残るは妲己のみか」


視線が妲己を捉える。


「小癪な神族が調子に乗って!本調子なら片手でねじ伏せてやるのにな」


苦悶の妲己に、光輪が迫る。


あれを受けたら妲己でもヤバイのではないのか?


「妲己、自分に構わず逃げよ!」


しかしその場から動かずに自分の盾になる妲己を見て、自分は深い溜息をついた。


「やむおえんな〜」


光輪が勢いを上げて回転しながら妲己に迫る。妲己は悔しながら自分を守る壁となって受け止めようと両手を広げる。しかし現状に驚き目を丸くした。


「お前、何を??」


更に神族の高僧も同じく怪訝な表情で見る。


「愚かな」


その現状とは?


「ぬぅおおおお!」


自分は飛び出すと同時に向かって来た神族の放った光輪と妲己の間に割って入り、妲己を守るために霊気で構成させた錫杖で受け止めたのだ。


もって、数秒か?


「妲己!今のうちに逃げよ!お前だけなら逃げだれるだろ?」


自分の叫びに妲己は、


「お前、人間!お前は馬鹿か?そんな事をしてお前に何の得があるのだ?無駄死にになるのが分からぬ愚か者か?」


「確かに自分は愚か者だ。自分を守る女子を男子として放っては置けない、愚かでカッコつけの偽善者よ!なははは!だから早く逃げよ、妲己!」


「!!」


しかし、もう耐えられん!!


回転する光輪が受け止める錫杖を粉砕し、このまま自分の身体を引き裂く


今度こそ、し、死ぬのか?


誰もが結末を予測した。


自分の身体が焼きつく感じがした。


熱い?痛い?


しかし、これは?


「何だ、あれは!!」


誰もが予測だにしない出来事が起きた。死んだかと思われた自分の身体から光が放たれ空間を歪まし、空間に穴を出現させたのだ??


「何だ?この穴は?」


力が抜けて意識が遠退く中で、自分は妲己の名を呼んだのだ。


「腕を伸ばせー、妲己ぃー!!」

「あ、うん」

「なるようになれ!」


自分に名を呼ばれ、不意に手を伸ばした妲己の腕を掴むと、自分は最後の力を振り絞って理解出来ない穴に向かって飛び込んだのだ。

が、その背後から蚩尤が自分達を追って穴に向かって飛び込んで来たのだ。


逃さないように高僧と四人の妖怪が動こうとするが穴が出現した時から金縛りに合っていたのだ。


「まさか今のは時の扉だと?扉を開く人間だと?」


驚きを隠せない高僧の前から穴が消えた後、身体の自分が戻る。その場からは自分も、妲己も、蚩尤の姿も消えていた。


そして、目覚めた自分は・・・


この世界にいた。


妲己と共に。





次回予告


フォンと妲己は異国の地にて・・・


何が始まるの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ