脅える黄牙白象?
最後の魔王である黄牙白象が傷付き、意識のない
法子に迫る中で、八戒が立ちはだかる。
無謀な戦いが始まる!
孫悟空が大鵬金翅鳥を、百獣王が青獅王を倒した頃、残りの三魔王である妖恐黄牙白象の前には八戒が立っていた。
その背には壁際に額から血を流して気を失っている法子の姿があった。
「何故ら…何故、オラを見捨てて逃げなかったら…」
八戒は気が動転していた。まさか気絶していた自分を守るために、法子が身を張って戦って傷付いてしまったなんてと。
「オラなんか見捨てて良かったら…」
八戒は涙を流して真面目な顔付きになると拳を握り締めたのだ。
そして無謀にも黄牙白象の前に立ちはだかる。
「この象野郎!オラが相手になるらぁー!」
八戒は飛び出すと拳に妖気を籠めると、ムクムクと巨大化した拳で黄牙白象に向かってぶん殴る。
「肉体強化・拳」
巨大化した拳が黄牙白象に直撃したが、びくともしない。
「クッ!」
それでも両拳を巨大化させて連打を繰り出す。
「うらぁああああ!」
滅多うちにしているにも関わらず、黄牙白象は何事もないように鼻を振り払うと八戒は吹っ飛んで天井に直撃した後に壁にぶつかり、床に埋もれた。
「ぶはぁ!」
八戒は全身から血を流しつつも立ち上がる。
「まだまだらぁー!」
無謀に戦う八戒に対して黄牙白象は虫を払うように、もう一度鼻で振り払った。
「!!」
しかし今度は振り払われた鼻を両手で掴んで止めたのだ。八戒は更に両足を強化させると、黄牙白象を一本背負いで床に叩き付けた。床が陥没し、黄牙白象が埋もれた。
「フンンヮ」
黄牙白象は予想だにしない虫けら程度の八戒に床に叩き付けられて怒りを覚える。
ふらふらしながら立ち上がる八戒の目の前に、容赦なく振り上げた象鼻が降り下ろされたのだ。
頭上に直撃して、今度は八戒が床に埋め込む。完全に即死に思えた。
「!!」
しかし八戒は勝利を確信した黄牙白象の前に、ゾンビの如く再び立ち上がったのだ。
「待つら…準備体操はもう終わりら…これからが本番ら…」
一瞬、八戒に対して本能的に寒気を感じた黄牙白象は、そう感じた自分自身を恥じて確実に八戒を仕止めにかかったのである。
象鼻で何度も打ちのめした後に吊し上げる。
「オマエ、気持ち悪い。もう楽になれ?」
黄牙白象の両鼻下の二本の象牙が鋭く伸びて八戒の身体を貫いたのだ。
すると見る見る身体が萎んでいく。
「オマエの妖気を吸出して、二度と起き上がれなくしてやろう」
急激に妖気を吸出された八戒の身体は完全に干からびた姿になる。
そして放り捨てられたのだ。
黄牙白象は余計な時間を取られたと、次はまだ目覚めない法子に狙いを定める。
「美猴王の仲間は全て始末する。それがワタシの生まれた理由!」
黄牙白象が法子に向かって鼻角を突き刺そうとした時、背後から何かが自分の足をポカポカ叩いていたのだ?
「?」
振り向こうとした時に頭に過ったのは、まさかと思いつつも恐る恐る自分の足下を見る。
「!!」
黄牙白象は青ざめる。予想通り、自分を叩いていたのは弱りきった八戒だった。攻撃こそ大したことはないが、いくら倒しても甦る八戒の再生力の謎が恐怖を覚えた。
確かに三魔王も不死と再生力を持っている。しかし弱点もあった。大鵬金翅鳥は魂をも焦がす地獄の炎に焼かれた事で再生力も不死性も無駄に消滅した。青獅王は地下の隠し部屋にあった不死と再生力を三魔王に与え続けた装置を破壊されて、その供給を絶たれて敗北した。
つまり黒炎のように再生力を凌駕し魂事消し去るか、力の供給を止める策が不死性を持つ化け物には有効。更に先に法子達が試みた結界で封印する手段もある。
だから目の前の八戒を行動停止にする手段はなくはないのだが、不気味なのは八戒の持つ再生力の謎だった。三魔王達みたいに何処からか力が供給されているようには見えない。自身の能力だと思われるが、だからこそ妖気を根こそぎ奪って再生出来ないようにしたはず。それなのに再び甦るなんて理屈が成り立たなかったのだ。
「不気味な奴め」
目の前の八戒を行動停止にするには結界の中に封印する手段があるが、黄牙白象には法術は使えない。黒炎も大鵬金翅鳥でなければ使えない。だが、黄牙白象には巨大な鼻と二本の角だけでなく別の能力も持っていた。
「オマエのような下等種に使うとは思わなかったぞ?くらえ、凍結地獄!」
黄牙白象の妖気が凍てつく冷気へと代わり、足下から床が凍り付き始める。黄牙白象は腕力だけでなく氷結系の能力をも持っていたのだ。
部屋中が冷凍庫のように凍てついていく。
八戒もまた焦っていた。
「…このままじゃ…法子はんが凍死して、しまうら…」
八戒は自分自身の事より法子の事が気掛かりだった。だからこそ自分が何とかしないといけないと使命感が駆り立てていた。
「全く…猿も他の連中も、大事な場面にいないから…オラがこんな苦労すんら」
しかし、八戒の目は言葉とは裏腹に闘志は消えてはいなかった。
「オラは…本気で誰かを守ろうとした時、強くなるんらよ!」
八戒は黄牙白象に向かって駆け出した。既に瀕死状態の中で冷気によって体力が奪われても気力だけで立ち向かっていく。
「うらぁああああ!」
が、黄牙白象の間近まで近付いた時には八戒の身体は動かなくなって、凍り付けになっていた。氷は次第に八戒の身体を覆いながら氷の人柱に閉じ込められたのだ。
「死なぬなら二度と目覚めぬように、永久に氷の棺桶の中に封じてやろう」
八戒は身動き出来ずに再生も出来ずに破れ去った。
(あっ…)
八戒は身動き出来なく閉じ込められた状態で僅かに意識があった。
(そういえば昔、これに似た事があったらなぁ…あの双子の化け物に氷付けにされ拷問されたんら…でもオラは…あの時はどうやって生還出来たんらったかな……)
八戒の思考も冷気によって止まりかけていく。
最後の最後に案ずるは仲間との走馬灯のような思い出。
完全に動かなくなった八戒を見て黄牙白象は今度こそ確実に八戒を始末したと確信する。
「仲間を一匹始末されて美猴王も嘆くであろう。しかし直ぐに美猴王も後を追わせてやろう。だが、その前にもう一匹!」
今度の今度こそ邪魔されずに法子を始末しようとしたその直後、寒気を感じた。
それは自らの冷気とは違う別の悪寒だった。しかも気付けば部屋中が暗くなっている事に気付く?
「何が起きている?この闇は何だ?」
だが、黄牙白象には心当たりが一つあったのだ。それは先に戦った孫悟空の発した黒い妖気と酷似していたのだ。正確には銀髪で褐色をした孫悟空の発する気に?
「ふふふ。飛んで火に寄る夏の猿とはよく言ったものだ。仲間の危機に駆け付けたようだな?美猴王!!」
部屋中、既に黒い気で視界が見えなくなっていた。
「目くらましの術か?闇に潜みながら仲間を救い、ワタシを襲うつもりか?子供騙しだな!」
黄牙白象は意識を集中させると闇の中で何者かがゆっくりと近付いて来ている事に気付く。
「視界を奪ったつもりだが、オマエの居場所は手に取るように分かるぞ!」
接近して来る者に向かって象鼻を振り払ったのだ。
が、振り払った象鼻が止められたのだ?
「甘いぞ!」
だが直ぐに二本の象牙を槍のように伸ばして突き刺す。象鼻を片腕か両腕かで止めた状態から二本の象牙を止めるのは勿論、躱す事も不可能。後は貫くのみ!
が、象牙に強い衝撃を受けて砕け散ったのだ。
「馬鹿な!?」
目の前の的は黄牙白象の象鼻を左腕のみで受け止め、向かって来た二本の象牙を蹴りで粉砕したのだ。黄牙白象の象鼻を受け止める腕力だけでなく、象牙を砕く破壊力。恐るべき力であった。
だが、先に三魔王を同時に相手した銀髪の孫悟空の実力を知っていたから、それも有り得ると己を引き締める。そして目の前の敵が全力を出すべき強敵だと理解した。迫る敵に向かい、寄せ付けないように覇気を放ち吹き飛ばそうとする。
「がはぁ!」
だが、その敵は先に覇気を貫く拳で黄牙白象の腹に一撃を与えたのだ。血を吐きつつも、黄牙白象は太い腕で目の前の敵の両腕に掴みかかり、更に象鼻を絡み付けて身動きを止める。
「どうだぁー美猴王!これで身動き取れまい?このまま全身を押し潰し、引き裂いてやろう!」
だが、黄牙白象の剛腕ですらそれ以上動かずに逆に広げられていく?
更に目の前の敵が覇気を爆発させたのだ!
「うぐぅおおお!」
全身に覇気をぶつけられてふらつく黄牙白象に、敵は更に覇気を籠めた拳を放つ。
背中越しにまで貫通する衝撃が走り、全身の骨が粉砕したのが分かった。
たった一撃で?
本来なら不死の力と再生力の供給にて復活する黄牙白象も、既に沙悟浄達によって供給は止められていた。黄牙白象は敗北を理解し、最後の力を振り絞り目の前にいる敵、自分自身を倒した美猴王の顔を一目見ようと顔を近付ける。
そこで見た姿は?
「わ…ワタシは…だ、誰に、は…敗北したのだ…」
相手の姿に驚愕した黄牙白象の身体は身体は、水分を無くして乾燥するかのように干からびていった。
黄牙白象が最期に見た相手は本当に孫悟空だったのか?
やがて部屋中を覆っていた闇の気が消えて、黄牙白象が破れた事で凍てつく氷も溶けていく。
そこに駆け付けたのは天井を破壊して降りてきた孫悟空に、通路から扉を開けて入って来た沙悟浄、フォン、三妖仙、別の通路からは百獣王であった。
そこには干からびて倒れている黄牙白象の屍と、血を流して意識を失っている法子と八戒の姿があった。
沙悟浄と三妖仙は二人に駆寄ると、直ぐに治癒を施した。やがて法子と八戒が目を覚ます。
「どうなったの?私?」
「覚えてないのか?」
「黄牙白象に襲われて頭を打ってから後の記憶がないの」
孫悟空が黄牙白象の屍の方向を法子に見せると、法子は驚いた顔で聞く。
「あんたが?」
「違う。俺様達がやって来た時には黄牙白象はくたばってやがった。後はお前と八戒が気を失っていただけだ」
「八戒は?」
「命に別状はないぜ?」
八戒も沙悟浄と三妖仙達に治癒を施されて弱々しく目覚める。
「オラは…生きていたらか?」
「八戒兄貴!」
沙悟浄が抱き付くと、八戒は怪訝そうに物足りなく感じる。
「ここは法子はんが抱き付くシーンらぞ?」
「しねぇーよ!」
法子が冷たく言い放つ。
だが、この場で誰が黄牙白象を倒したかは分からないままであったが、とにかく当初の目標であった三魔王を全て討伐したのだ。
「後は…」
法子達は此処までの情報を纏める。本当にこれで終わりなのか?
もう帰って風呂に入って、美味しいご飯を食べて、ゆっくり眠って良いのか?
「ダメよね?やっぱり!」
そう。この一件にはまだ黒幕がいるのだ。それは三魔王を遺跡の力で造り上げ、更に百獣王をも監禁し、いまだに姿を見せずに存在が不明な者がいる。
「そいつを見付けないと第二、第三の魔王を作りかねないわ?此処まで来たら乗り掛かった船よ?私達が最後まで面倒みましょ!」
法子一行だけでなく、フォンは勿論、百獣王に三妖仙達も加わった最強パーティーが挑む相手とは?
そして、この地下遺跡の更に地下にある部屋にその者はいた。
「待っているぞ?美猴王。それにその関わる者達よ!お前達の事は全てお見通しだ」
すると法子達のいる場所から何かが飛び立って行く?
それは眼?
更に謎の存在のいる部屋中の壁や天井にも眼が現れる。
この者は一体?
次話に続く!
次回予告
今回の黄牙白象を倒した者の正体は?
そして黒幕の正体は?
謎が深まる中で、次話はどうなる?




