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不思議なマリコさん  作者: 苦無玄
叫ぶ魔方陣
7/9

1-4


次の日の昼休み。逸島は田中の席を陣取って、俺と強制参加の作戦会議を開いた。席の主は、取られた事も知らずに呑気に購買に行ってるだろう。


さて、目の前の逸島は黙ったまま、ずっと考え事に耽っている。作戦会議だって言うのに、進行具合は匍匐前進である。


「で、何も思い浮かばないのか」


我慢が出来ずに直接問う。逸島は目線だけ俺に向けた。


「彼女の行動理由は分かったけれど、それは花冠を見て花の種類を当てれただけよ。根っこの部分は未だ不明」


詰まりは何も分かっていないと。

あれだけ昨日は楽しそうに顔を輝かせていたのに、逸島の表情はもう曇り空だ。それに付き合っている俺は大雨になりそうだけど。


「もう直接聞きに行くしかないかしらね」


「え?」


「行くわよ月等くん」


逸島が突然立ち上がり、呆気に取られている俺の腕を引っ張って外へ連れ出す。

流れに任せて着いて行くが、未だに状況が読めていない。

何をしたいんだ逸島は。


「だ、誰のところに向かってるんだよ」


「あら月等くん。会話の流れ的に答えは一つでしょう」


前だけ向いて素っ気なく返事を返された。

まさか。


程なくして、目的地に辿り着いた。

俺たちの隣の隣のクラス。あまり交流の無い組。俺たちは一人の女子の前で止まった。


「もう来たんだ」


「ええ、伏見さんにどうかヒントをくれないかお願いしに来たの」


伏見京子。逸島の現在立ち向かっている謎を引き起こしている張本人。

言うなれば、答えを知っている人間である。その人物に会いに行くのは、逸島的には大丈夫なのだろうか。謎である。


「え?京子ちゃんこの人たち誰?」


「愛子は知らなくてもいい人たち」


「へ、へー」


伏見は食事中だった。いや、昼休みだから当たり前の光景ではあるが、取り敢えず一言ゴメンと言っておく。


「それで、用件は何かしら」


「貴女の姉について」


隣の少女が素っ頓狂な声を上げた。少女のおかっぱ頭が少し揺れる。


「何を聞きたいの」


声色が氷点下なくらい冷めている。

何だろう、逸島が気にしていない分、その無視された棘が俺に突き刺さっている気がする。


「貴女の姉は現在何歳?」


逸島の問いに伏見の顔が歪む。

嫌味、に聞こえたのだろうか。いや、敵対心を剥き出しにしている相手に、気を使われたからだろうか。どちらにしろ、何か思うところがあったのだろう。それでも伏見は冷静な表情に戻して答えた。


「十九歳。……順調に生きていれば」


また隣の少女が揺れた。笑顔が凍りついている。


「あら、今年卒業したのかしら?」


「それも順調に行ってたらね」


逸島が口を開くたびに伏見の表情が険しくなっていく。これもうどうしようもないよこの状況。


「そう。ならある程度の目星はついたわ。ありがとう伏見さん」


逸島の皮肉たっぷりの笑顔が顔に張り付いた。もういつ殴られてもおかしく無い。お腹痛くなるからやめてくれ。


「もう、クラスに来るのは止めてくれない?」


「ええ、善処するわ」


あー、痛い。お腹痛い。おかっぱ頭の子も似たようにお腹を押さえ始めたよ。この二人は完全に犬猿の仲だ。どんな爆発を起こすのか想像がつかない。


「それじゃあ、次は解決した時に会いましょう」


「会える時を楽しみ待っている」


嵐のような時が過ぎ去った。

一組から抜け出した時、妙な汗が身体中から噴き出しているのを漸く感覚が捉えた。汗も忘れる程に緊張が溢れる空間が出来ていた。

空気がこれ程までに美味しいと感じたのは、生きていてもう何回もないだろう。


「月等くん、伏見さんは強敵ね」


「そう言える余裕があって羨ましいよ」


逸島が久しぶりに此方を振り向いた。

僅かに逸島の額に汗が走って行くのが見える。どうやら、当の本人も緊張はしていたらしい。

続く文句が途絶えてしまう。


「あれ程の空間を作れるなんて余程の覚悟なのね、彼女は」


しかし、御構い無しに彼女は笑った。


「なら、私達もそれなりの覚悟が必要なようね」


昨日見た、あの表情が戻って来ている。

不敵に笑って、馬鹿みたいに顔を輝かせて、そして楽しそうな顔。

あの顔は、断れないんだよ。


「そう言えば月等くん。もう直ぐあのイベントよね」


人差し指を立て、逸島が言う。

答えを催促されているようだが、答えられる程の俊敏性は無い。


「な、何があるんだよ」


俺の答えに逸島が本当に驚いた顔をする。かなり隙を見せた表情だが、軽く噴き出してまた気を取り無して言う。


「体育祭よ、体育祭。其処が勝負よ」


「え、体育祭?それがどうしたんだよ」


最後まで言い切って、逸島の待ってましたの顔を見てしまったと思う。

軽く誘導された。


「学年合同イベントよ?上級生を担当する先生に近づく最大のチャンス。もう分かっているわよね?」


今度は頭が痛くなってきた。

詰まり、体育祭の実行委員の俺に働けと?


「分かっているならいいわよ。貴方が望むならそれ相応の望みを叶えるけど」


また不敵な笑みだ。

魔女と一部から言われているが、その理由もわかる気がする。が、


「良いさ、ここまで来たらもう引き返せないさ。やれるところまではやるよ」


「へー」


また流された。何でこんな言葉が口から這い出るんだ。これでは良いようにされているだけだろう。もうこの魔女からは逃れられないのだろうか。

落ち込む俺にトドメを刺すように逸島は言った。


「なら月等くん。叫ぶ魔法陣の調査開始ね」


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