オークと女神と剣なアイツ
女神は俺を手にとってくれた。
なんだか彼女と一体になった気分になる。
俺のチート、武器化。でもこれ俺自身は動けなくなるし、ちゃんと使ってもらわないと宝の持ち腐れなんだよ。
彼女は立ち上がり、俺を構える。
「なんだこの剣?軽い!羽みたいだ!それにすごく手になじむ。まるで私のために作られたみたいに・・・」
彼女、驚きのあまりか独り言が出てる。
その内容が俺は嬉しかった。武器としてとはいえ女神に褒められたのだ。
手に馴染むのは彼女と一体になった気分の俺に何か関係があるのだろうか?
そうこうしてるうちに、とうとう一匹のオークが襲ってきた!
「ふっ!」
一閃。多分横薙ぎに。そして真っ二つ。
「なんという斬れ味だ!切った感触すらほとんど感じなかった!」
俺も感じなかった。俺の感触がなくなったのか、感触すら感じないほど早い斬撃だったのか。
だがこれで安心した。これなら大丈夫だろう。俺を上手く使いこなしてくれる。
オーク達はいまだ欲望の眼差しで彼女を見ている。仲間がやられた事に何も思わないんだろうか?それとも目の前の欲望の対象に他が目に入らないんだろうか?
しかしキングが指示を出すと、ばらばらだったオーク達が連携して襲いかかってくる!これがキングの統制力か。
ちょっと心配した。しかし彼女の自信が俺を掴んでる辺りから伝わってくる。これって本当に一体化してないか?
そしてその自信を裏付けるように、連携してるにもかかわらずオークの攻撃が当たらない。
「見える。敵の動きが見える。この剣のおかげか?」
おかげです!(どやぁ
武器化した俺はチートに相応しく高攻撃力、破壊不能、ステータス補正、俺の耐性とスキルの一部が使用可能ときた。どこぞの伝説の武器にだって引けを取らないと自負している。
「はぁっ!」
瞬時に襲ってきているオークが全部倒れた。全部上半身と下半身がきれいに分かれてる。
めちゃめちゃ強えぇ!!これ俺のせいなのか彼女の実力なのか・・・
ぱきゅん。
うぉぉおっ!キング襲い掛かってきてたのか!?ぜんぜん気づかなかったぞ!?それに気づいた彼女マジ女神。しかも攻撃してきたキングの武器まっぷたつ。
ふっ。そんなナマクラじゃ俺に傷一つ付けられないぜ?
彼女は好機と見たか、後退したキングに突っ込んでいく!そして・・・
「ぎゃんっ!!」
転んだ。
うぉぉぉぉぉぉいっ!!(魂の叫び)
足元にあった木の幹に引っかかりやがった!なにやってんの俺の女神!
あ、いや、これってもしかして、いきなり与えられた力を制御しきれなかった・・・とか・・?
って冷静に分析してる場合じゃねぇ!転んだ瞬間に俺を手放したからステータスも元に戻ってるはずだ!
「いっ!今声がした!なまくらがどうのこうのって・・・」
え?俺の声聞こえたの?マジか!?これも愛のなせる技なのか!?おーい!聞こえるか?
・・・だめだ聞こえてねぇ!オークキングはここぞとばかりに彼女に襲い掛かっていく!
今一瞬オークキングの顔が見えた。めっっっっちゃイヤラシイ顔してた。
このヤロォ!女神に手ぇ出してみろ!ぶっ殺すぞ!
オークキングが彼女に覆いかぶさ・・・ってねぇ!巴投げで投げ飛ばした!
そのあとあわてて俺を拾い上げる。
セーフ!
「なっ!また声が聞こえた!セーフって何だ!?」
うぉっ!?また俺の声が聞こえたみたいだ!もしかして装備してもらって初めて俺の声が届く?
おい!聞こえるか!?
「き、聞こえる!さっきしゃべったのはお前か!?」
俺だ!マジか!俺の声が聞けるのか!嬉しすぎる!この世界に来て初めてコミュニケーションとれたよ!
なんて感動してる間にキングは体制を立て直してる。だが改めて俺を持った女神に不用意に近づけないようだ。
「しゃべれるなら最初から言っておいてくれ!危うくオークに襲われるところだったんだぞ!」
あれ?さっき転んだのって俺のせい?マジで?力の制御じゃなくて?
ぐぁぁぁぁぁぁぁ!何やってんだ俺!?女神ピンチにしてどうするよ!?
いや、弁明させてくれ!意思疎通というか、俺の声が伝えられるって知ったのさっきが初めてなんだ!
「その葛藤は嘘ではなさそうだな。というか女神って私か?それは本気でやめてくれ!」
え?じゃあ名前教えて。
「モカだ。モカ=レネット。」
モカちゃんか。いい名前だ。
「ちゃんづけはやめてくれ・・・。お前はいったい何者だ?伝説のメタルジュエルか?」
みたいだね。この武器化は俺の能力だけど。
「武器化する能力だと!?聞いたこともないぞ!?」
だろうね。この世界でたぶん俺一人の能力だ。
「武器化も異常だがこの性能はなんだ!?魔剣か!?」
あー。説明長いよ?聞きながら戦闘できる?
「・・・とりあえず一つ教えてくれ。私はアイツに勝てるのか?」
たぶん大丈夫だろ。負ける気する?
「・・・しないな。この戦闘が終わったら色々教えてもらうぞ!」
そう言って彼女はオークキングに突撃していった。
数分後、元の体に戻った俺はオークキングを丸呑み・・・じゃない、アイテムボックスにしまっていた。
モカさんは隣で俺に触れつつ休んでいた。
「さん付けもいい。呼び捨てでかまわない。」
どうも触れられたら意思疎通はできるみたいだ。そこで俺は異世界の人間で転生させられたこと、この姿でたくさんの人間に追い回されたこと、崖から落ちてオークエンペラーを偶然倒したこと、その後モカに出会ったこと、武器化のチートとその性能といった、ここにいた理由と、武器化の能力について語った。
「しかし信じられんな。異世界云々もそうだが、その能力と性能。まぁ実際この目でみて、助けられたから信じるしかないのだが・・・」
まぁそうだよな。俺もまだこれ夢なんじゃね?って思う部分あるしなぁ。
「しかしお前これからどうするんだ?」
そこなんだよな。俺としては意思疎通できるし、惚れたモカについていきたいんだが・・・
あ、モカが真っ赤になった。
「なっ、ならば私と共にこないか?私の武器、いや、相棒になってくれると嬉しい。」
魅力的な話だけど、また冒険者に襲われそうなんだよな。ほら、俺って高経験値だから。
「あぁ。それは安心していい。魔法の中に魔物と契約を交わすものがある。それを使えば私の盟約者として狙われることは減るだろうし、町や人の住む場所にも出入りできる。ただし、入れない場所も多いし、問題を起こせば処分の対象となる。そこだけには気をつけてくれ。」
それなら問題なしだ。ひゃっほぅ。ほとんどの問題が解決したぜ。モカさんマジ女神。
「女神はやめくれ。さっきも言ったじゃないか・・・」
そういいつつ俺から離れて魔法陣を書いていく。モカ魔法が使えるんだ。
しばらくすると複雑な模様の魔法陣が完成した。
「じゃあ始めるぞ。最後の確認だ。私の相棒になってくれるか?」
喜んで。
魔方陣の中には俺とモカ。彼女は俺から離れつつ言葉を紡ぎだす。
「この言葉は我と汝の契約を結ぶものなり。我と汝は対等な盟約者として共に歩むことを誓うものなり。言葉よ。力を解き放て。言葉よ、世界の理に我と汝の契約を結びつけよ!」
言葉が終わったとたん、俺と彼女の中で何かが結びついた。これが契約か。
「これで契約は終了だ。これからは共に生きよう。」
まるでプロポーズのような台詞だな。
彼女は契約の終わった俺に触れようとして・・・固まった。
「ぷ、ぷ、ぷぷろぽーず!?」
あ、あれ?触られてないのに声が伝わった?
「な、なにを考えてるのだお前はっ!!」
照れるモカもかわいい。
「まっ、まったく。まぁいい。これは契約の影響だ。」
(こんな風に意識だけで言葉のやり取りができる。)
直接声が響いた。うわ。便利じゃん。
(うむ。だが気をつけないと考えてることがだだもれだぞ。訓練しだいで通話のオンオフができるから徐々になれていくといい。)
そんなこともできるんだ。モカのプライバシーが覗けないのは残念だけど俺のプライバシーが守られるのも結構ありがたい。
(・・・お前、早速だだ漏れてるぞ?)
しまった!これは本気で訓練しないとまじでやばい。絶対に嫌われたくないからがんばろう!
「しかしいつまでもお前じゃあ不便だしなんか嫌だな。そういやまだ名前聞いてなかったな。」
今度は普通に声に出して話しかけてきてくれた。
鈴木 鉄也。どう読んでもらってもいいぞ。
「じゃあてっつんだな。あだ名のほうが親しみがあっていいだろう?」
モカだったらなんて呼んでもらっても超うれしいよ。
「そうか。じゃあよろしくな。てっつん。」
よろしくな。モカ。
こうして俺は意思疎通できる人間と、人間の世界でくらしていけそうな身分を手に入れた。
テンションあがってきたぜ!!