女神なあの子とメタルなアイツ
とりあえず鬼のように追いかけてくる連中からは逃げ切れた。オークエンペラー退治っていうおまけがついて。だが一つ問題がある。
・・・これからどうしよう。
とりあえずオークエンペラーを飲み込みながらこれからについて考える。あ、飲み込むって言うのは比喩ね。正確にはアイテムボックスに収納するだけ。だってまだ何も入ってないし。
もったいないからなんとなく。
ついでにこいつが持ってたでっかい棍棒も収納しておいた。
もったいないからなんとなく。
思考が収納にそれた。まぁいっか。とりあえず俺なにがしたい?
この姿じゃハーレムとか作っても嬉しくない。やれることが限られるし。
んじゃ世界最強を目指す?え?なにそれおいしい?
ならなら、世界中を旅して回るとか。正直めんどい。元引きこもり舐めんな。
うーん。じゃあ意思疎通できる人間を探すか?コミュ力ZEROの俺が?無理だろ?
それにコミュニケーションとらなくっても生きてこれたじゃん俺。元引きこもり舐めんな。
・・・あれ?なぜかちょっと涙が。生前も今も俺の人生って・・・
がきん!
「きゃっ!」
何かが俺に引っかかって転がった。
しまった、追っ手か!結構深くへこんでたから気づかなかった!逃げねぇと!よし!
鉄也は逃げたした!・・・しかし、周りを囲まれてしまった!
まじか。オークっぽいのが囲うように出てきた。数にして十匹くらい。なんでオークっぽいかって?似てるんだよ、エンペラーに。エンペラー見た後だと普通のヤツが弱そうに・・・は見えないな。結構強そうだ。つか下半身のウィンナーしまえよ。
いや、それも気になるが、かなり気になるが、それ以上に気になるヤツが一匹。雰囲気も装備も他のやつらよりいいのが混じってる。こいつもしかしたら・・・
鑑定結果:オークキング。オークの王。数多く生まれるオークの中で生まれる突然変異。王のいる集団は統制がとれており、小さな町や村でも滅ぼすのでさらに注意が必要。個の能力にも秀でており、上級の冒険者数人でもてこずる。危険な存在なので、発見時は早期に退治するように対策する国が多い。
[種 族]オーク
[名 前]キング
[称 号]キング
[レベル]113
[H P]2988/2056
[M P]62/62
[体 力]1699/1203
[攻撃力]1116(+18)
[魔 力]81
[防御力]1389
[素早さ]365
[経験値]3146
耐性
火耐性Lv1、氷耐性Lv3、雷耐性Lv1、毒耐性Lv5、麻痺耐性Lv2、石化耐性Lv1、精神異常耐性Lv6、能力低下耐性Lv2
スキル:統制Lv5、指揮官Lv4、威圧Lv3、自己再生Lv3、体力異常回復Lv7、皮膚硬化Lv4、雄たけびLv4、強攻撃Lv3、破壊攻撃Lv5、貫通攻撃Lv1
やっぱりか。キングまでいたのかよ。しかし名前も称号もキングて(笑)って笑ってる場合じゃねぇな!
くそっ!逆にこいつら俺を見て下品に笑ってやがる!万事休すかよ!
「くっ!殺せ!」
いや、今の台詞は俺じゃねえよ?
あ、そういや俺に引っかかって転がったヤツがいたな。声からすると女か?
え?もしかしてオークが見て笑ってたのって後ろの子?俺じゃねぇの?俺の勘違い?
・・・チョー恥ずかしい。軽く死にたい。なんか今日の俺へこんでばっかだ。
いやへこんでる場合じゃないぞ俺!今リアルくっころさんがいたぞ!エロフラグ立てたぞ!
くそっ!逃げるチャンスなのに後ろを見る誘惑に勝てねぇ!そして・・・
振り向いた先には、天使がいた。
いや、天使よりもっと・・・そう、女神だ。女神がいる。
女神は剣が折れていた。女神はエロフラグを立てた。ということは。
このまま放置してたら・・・(想像中)
くっ!まったくけしからん!なんてけしからんのだ!
俺は逃げない!人としてここで逃げてはならんのだ!彼女をしっかりと見守らねば!
「ぐへへへへへへ」
オークの声が聞こえたとき、俺はほんのちょっと冷静になった。
あれ?俺これ最低じゃね?もしかしてこいつらと同類じゃね?
よし。冷静になって考「えろ」俺。エロ!?いやそうじゃねぇだろ俺!
ここで彼女があいつらの餌食になっていいのか?いいか?冷静に考えてみろ?
・・・あまりよくないな。むしろこれは俺がフラグをたてる場面じゃね?フラグたつんじゃね?
よし!俄然やる気が出てきた!ちょっと怖くったってオークの十匹や二十匹軽くぶっ殺してやるぜ!
景気よく振り返る。
・・・うん無理。HP16の俺にどうしろと?
でもこのままじゃ彼女が18禁の世界へ誘われてしまう!どうする俺!?
賭けになるけど方法は一つある。ステータスの画面で????になってたスキル。あれは俺が神様にもらったチートだ。ただしこのチート、自分では動けない。次に彼女に使ってもらわなければならない。そして最後に、彼女の実力がいかほどかだ。まったくの素人ではなんともならない。
ただし。敵に臆さずに戦えるだけの胆力と、少しの実力があれば。
オークキングにだって楽に勝てる。
さぁどうする俺?・・・そんなの決まってるだろ?
俺は彼女の前までいく。そしてチートスキル発動!
俺の体が光り輝く。そして変化する。そして彼女の目の前には。
一本の白銀の剣と化した俺が地面に刺さっていた。
・・・これはいったいどういうことだ?
今私の目の前には美しい一本の剣が地面に刺さっている。
今年新兵として試験を合格した私は、オークキングの討伐隊に選ばれ本陣の守備に回された。
本陣は兵も多く、柵もあるから防御に徹すれば安全性が増すためだ。そもそも前線が瓦解しない限りここが襲われることはない。だから私もどこか安心していた。
しかし現実とは無常だ。前線は壊滅、オークの集団は本陣を取り囲んだ。そしてそこからは悪夢だった。オークの集団の中に、伝説のオークエンペラーがいたのだ。しかも確認されたキングと一緒に。
柵はあっさり破られた。男は殺され、女は集団で穢された。
混戦の中、私はよりによってエンペラーに目をつけられた。私は逃げた。町へ逃げたら被害が大きくなる。だから森へ逃げた。必死で逃げた。そして私はヤツを巻くことができた。
しかし不運は重なることも多い。私はエンペラーを追ってきたキングと遭遇してしまったのだ。そして今度は逃げられなかった。途中で何かに躓いて転んだ。それはめったに見られない精霊のメタルジェル・・・いや、この美しい輝きを持つのはオークエンペラーと同じく伝説のメタルジュエルか。そんな変な運に引っかかって私は逃げ場を失った。
私は覚悟を決めた。いや、できていないから懇願した。できれば女として穢されるのではなく、潔く死を与えて欲しかった。
しかし目の前のモンスターには私の願いは叶わないだろう。やつらの目は欲望に駆られた目だ。
私は思った。一日に二つの伝説に会うような運があるのなら、ここから救われる運もあっていいだろうと。
それが叶わぬのならせめて、ヤツラに一太刀でも浴びせてやれればと。
私の願いは届いたのか。今目の前にあるのは、メタルジュエルが変わった美しい剣だ。
どうせ私ではオークキングには勝てない。
だが一太刀。こいつらに一矢報いてみせる!
そして私は手を伸ばす。地面に刺さっていた私の願いを引き抜くために。