3月20日
病棟から包括に引っ越した。
やたらと多い荷物を引き連れてやってきたのはいいけれど……。
そうそう、この時に私の勘違いが判明したので報告。
引っ越しに担当看護師さんが付き添ってくれたのだけど、道中に
「高橋さん、歩きながら脳卒中手帳の説明してもいい?」
歩きながらですか?
まあ忙しいものね。
「いいですよ」
歩きながら話を聞く。が。
「西田先生ちゃんと書いてくれてるかなあ」
私たちの親世代近い看護師さん、私の脳卒中手帳の中身をパラパラめくって確認中に、まるで西田先生を子どものように……
「あ、うんうん、書いてくれてる。見て、かわいいなあ」
……ん?
「あ、こっちもちゃんと書いてる。この字! かわいーねえ」
……ええと。
これはあれか?
お母さんが子どもを見守るような発言ととらえたほうが平和か?
その看護師さん、私を見て全開の笑顔でおっしゃった。
「仕事で疲れたら椅子で寝るし、かわいいやろ?」
我慢したけど、つい顔を覆いたくなった。
どう対応すればいいのか。
椅子で眠る姿は、確かにそう思う部分があるから素直に同意すればいいのか?
だがしかし。
「いや、仕事の時間終わってるんやったらさっさと帰れって言ってあげればいいじゃないですか」
西田先生にも家庭があるんですから!
早く帰って奥さんのおいしいご飯を食べろって言ってあげてよ!
しかし私の声は残念な言葉が返ってきた。
「それはね、あなたが言う係りだと思うわ」
えええ!?
「そういって私があの二人に突っかかっているさまを見て楽しむんでしょ!?」
「あたりまえじゃない」
がっくり膝から崩れ落ちそうになった。
いや、病棟引っ越ししたから、もう今更突っかかりに行こうとは思わない。
思わないが!
これ……西田先生の家庭、大丈夫ですかね?
心配になったよ?
一応、その後ちゃんと看護師さんから脳卒中の予後の説明を受け、新しい病棟に引っ越しした。
こっちはこっちで美人な看護師さんいっぱい、病棟のにおいがわりと普通、健康な患者さんも多いという感じで、さすが退院を目指すリハビリ病棟なだけはある、そう思った。
さて。
この病院はどうやら大部屋は4人部屋らしい。以前6人部屋で使っていたのを4人部屋に改装した様子がうかがい見える。
昔6人部屋で真ん中はつらいと思っていたけれど、これならかなり一人のスペースが広い。
4人部屋と言っても先客はおばあちゃん二人。一人は近く退院が決まっているという。
あいさつした後、荷物を片付け終わってしみじみとさっきの看護師さんの言葉を考えた。
いつだったか、別の年配の看護師さんにも弱った私に寄り添う西田先生にキュンキュンしたって言われたことあったっけなあ……。
私に寄り添う西田先生に、キュンキュン……。
私ははっとした。
どっちの看護師さんも西田先生に反応してる!!
つまり!!
あの病棟で西田先生はアイドルってことか!!
ああ、すごく納得した!!
ものすっごく、納得しちゃった!
そうだよね。嵯峨先生怖いもんねぇ。
それに比べると西田先生、格好いいし若いし優しいものね。たまに言う鋭いどS発言はあれど、発動対象は基本的に嵯峨先生だけだもんね。
いじめっこ発動対象が全方位の嵯峨先生とは違うよね!
うんうん。
西田先生、アイドル。
ものすっごく納得しました。
さて……。
そういや、嵯峨先生に先日気になる言葉を言われていたのだが。
夫婦そろった時にお話をって言われて、どう考えてもしばらく有志が来る気配がない。有志は有志で年度末業務で忙しいらしく、「今、嵯峨先生のお小言を受けて生き延びるだけのヒットポイント残ってないから頑張って受けてきて」といわれ、仕方なしに親が来た時に、嵯峨先生のところまで行き今聞いてもいい? って尋ねに行ったら「高橋さんが今後一緒に生活するのは旦那さんでしょう? だから旦那さんと来て。急がないからいつでもいいよ」そういわれて、へちょ-ってなった。
何だろう、すごく気になる。
夫と、ということはあれか?
夫婦生活に関する話、とか?
以前、高校1年生のとき、皮膚移植したときは、退院前に主治医だった先生から『森野さん、これから向こう3か月くらいは性行為禁止ね』ってスパって言ったからね。
言われたときたしか、『先生、そんな相手いません!』泣きそうになりながら自虐ネタを披露した。が『まあ、一応知っておいてっていう意味で』って、あの時の先生は笑って言ってたっけ。
あの時は私一人の時にそっと言われたけど。
まあ今回は夫というパートナーがいるわけだから、もしもそういう話だとしたら、一緒の時にっていうのも仕方ないな。
しかし何の話だろうなあ。
それにしてもなんで嵯峨先生? 別に西田先生が言っても問題ないよね?
悶々するんだけど……。
結論を先に書くが。
実は結局この話はなんだったのか聞きそびれて7月半ばまでこれについて悶々することになる……。




