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3月14日


 翌朝、例のおばあちゃんのところに娘さんたちがお見舞いに来ていたのだが、娘さんたち、ベッドごと空白のスぺースをみて苦笑いした。

 「またか」

 「やっぱり詰所にいっちゃうのねぇ」

 「一応行こうか」

 どうやらあのおばあちゃまは常習犯らしい。

 慣れた娘さんたちの様子に私は苦笑いした。


 そして私は。

 朝迎えに来てくれた有志を前に意気消沈していた。

 いや、今日は外泊の日だ!

 有志が来る前にお着替えも終わり、荷物の用意もばっちり!

 そして迎えに来てくれた有志にあいさつをして、手を出したんだけど、訝しげに見られて終わりだった。

 あのー、今日、ホワイトデーですよ?

 一応私、ホワイトデーまでにバレンタインの贈り物をしたはずですよね?

 あなたがお風呂場でガンガン使ってるタブレット、来月あたり私の口座から引き落とされるはずだけど!?

 なのにホワイトデーの贈り物がないとか!!

 どういうことだね、旦那様!?

 「2月分の君の手術代と入院費、俺が支払ったのに、もらえるとか思ってるの?」

 って……。

 いや、そういうのは私に請求してくださいよ。

 ちゃんと耳そろえてお支払いしますって。

 私はほっぺたを膨らませた。

 チョコ一粒でもいいから、『はい』ってくれたら、全然気持ちが違うのに!

 別に大金包んでくださいとか、キラキラした宝石くださいなんて言ってないじゃん。

 そんなん買うお金は大事に貯金しておいてください、一応夫婦の共有財産なんですから!

 私の要求は、ささやかなものだ。

 なんでわかってもらえないかな?

 値段とか大きさなんて関係ないんだよ、こういうのは。たとえばクリスマスの朝、枕元に小さなラッピングを置いてくれてるとか、ホワイトデーに小さなラッピングしたものをくれるとか、誕生日にご飯作ってくれるとか、ご飯が大変だったらホットケーキ焼いてくれるでもいいよ。子どもじみたわくわく感がほしいだけなんだよ!!

 私の心の叫びは受け入れられず、今年のホワイトデーは寂しく終了しました……。

 ちーーーん(´・ω・`)……。

 文章に顔文字なんて入れたくないけど、こればかりは入れられずにおれないよ!

 本当に(´・ω・`)ショボーンだよ……。はあ。

 おとめ座だったら、こっちのほうこそ理解しろよ、と声を大にして言いたい。


 家に帰り洗濯機を回し、それから久々に化粧をして髪型をなおし、さゆきが来てくれるのを待つ。

 しばらくすると、さゆきから家を出るというメールがあった。

 彼女の家からうちまで、車で2分……ご近所さんだ。

 有志と、母屋にいる義両親に声をかけて、私は家の前の道まで出た。

 さゆきの家からは同じ路線沿いに家が並ぶ。もうね、同じ学区なだけあってみんな家が近い。

 コートの前を止めようか迷っているうちにさゆきの車が到着した。

 「久々~」

 「おひさー」

 お邪魔しますよ、と声をかけて助手席に座る。

 そうしてうちから3分ほど車で行ったところにあるおしゃれな洋食屋さんに向かった。

 最近できたこの店は、田舎に珍しくおしゃれなお店ということで瞬く間に人気店になり、今や予約を入れてからでないと入店できない。

 今日もさゆきに予約をしてもらっていて助かった。

 女性客で満席の店内の、広めのソファ席に案内されて、私とさゆきはゆったり腰かけた。

 最初はランチということでなおちゃんも来る気満々だったらしいけれど、急に用事が入ったらしく来れないことを残念がっていた。

 まあ、しかたがないよね。

 とりあえず、ランチプレートを二つ注文入れてから、さゆきがまじまじと私を見る。

 うん、なんかこう見られるのも慣れた。

 「本当に前と変わらないね」

 「うん。一応、ここ外したらそれっぽいものは見えるでしょ?」

 前髪のヘアピンを外して傷口を見ると、みんなああと納得する。

 さゆきも、本当だって小さく笑った。

 すぐに隠しなおして、私は水を一口飲んだ。

 基本的に中学の時の友達はいわゆる類ともがそろっている。

 同じ穴の狢、というべきか。

 夏と冬は薄い本を求めて遠征する同志だったりもするので、気心知れているというか……。

 ああ、私は結婚してから遠のいてはいるが。

 そんなわけで、いろいろ緩むのは仕方ない。


 話題は自然と入院中の生活になるのだが。

 さゆきは終始笑っていた。

 私の会話の内容がどSズと腹黒の話が中心なんだけど、あの人たちは存在がすでに面白い。

 嵯峨先生にひたすら私がいじられてて、たまーに反撃するときに西田先生が違うところから攻撃入れてたりとか。

 嵯峨先生に対してしれっと西田先生がどSでおもしろすぎることとか。

 いやーつくづく思うね。

 どSズはセットでいいコンビ。うん。

 私の熱い説明でさゆきも大いに理解した。そして。

 「やー、1日詰所に椅子置いてその先生たちをずっと観察したいわ」

 「それいいね、私もやりたい」

 二人で意見が見事に一致した。

 ついでに。

 さゆきに見抜かれてしまった。

 「悲惨な入院生活かと思ったら、ものすごく満喫してるよね!」

 って。

 うん。

 暇を持て余してるけれど、ものすごく楽しんでるよね!

 主にマンウォッチング的な意味で。

 やー、いろんな人、いろんな家族模様が垣間見えて人間観察がはかどるわ。

 最近、ちらほら退院の話も出てきてるんだけど、え、もう退院ですか? して大丈夫ですか?

 てゆか、もう退院って、私が寂しいんですけど!?

 そんな感じになってる。

 退院したいんだけど、実際のところ私はどこまで戻れるのか、今すでに行方不明なんですけどね。


 ところで。

 このとき私は自分の舌の変化に気づいた。

 入院前にもこの店には何度か来ていたし、おいしく食べていた。

 が。

 今日はやけに舌にびりびりした感じが残った。

 さゆきはこれについて何も感じないという。

 つまり、あれか。

 「入院生活中の無添加薄味に慣れすぎて、添加物に反応してるのかな」

 ぼやいたらさゆきに爆笑された。

 いや、うん。

 だってそれ以外思えない。

 薄味の低カロリー食生活は伊達じゃない!

 「なににしたって、入院生活が充実してるようでよかった」

 うん。

 そして今日、さゆきから借りたたくさんの小説で読書充も期待できるし。

 読書趣味ジャンルが被る友人がいると、こういう時本当にはかどる。

 本当にありがたい。

 ランチとおしゃべりを十分に満喫して、再びさゆきに家まで送ってもらう。

 ああ。本当に楽しかった!


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