2月7日
朝起きて、家族のご飯を作り、夫にお弁当をつめて渡し、仕事に見送ってそして自分も仕事にいって。
楽しいこともちょっと残念なこともある仕事をどうにかこなし、帰宅してご飯を作って食べて、お風呂に入って洗濯をして干して、そして寝て。
お休みの日にちょこっと片付けや掃除をしたり、遊びに行ったり買い物に行ったりする。
そんなありきたりな日々が、これからも続くんだろうって思ってた。
こんなふうに日々を重ねてそして生きていくんだろうって思ってた。
それが、砂の城のようにもろいものだとも知らずに……。
2月7日 AM 11:00
「せっかく三連休を2人であわせて取ったのに、どこか旅行に行けばよかった」
ぶーたれた私に、夫の有志が苦笑いする。
「またそこにもどるのか? いろいろ費用考えたら高いから面倒だっていって、それで先週、日帰りで出かけたんじゃないか。昨日はデパートでチョコレートたくさん買って、今日は朝からホームセンターでスチールラック買ってきたし。ほら今日はそこの家事室、片付けるんだろ? 十分三連休満喫してると思うけど」
有志が箱から出したばらばらのスチールラックの部品を、てきぱきと組み立てる。
私は、そうなんだけどさ、と口の中で言いながら、有志が出したごみの片づけをした。
「今日中にここ片付けて明日は、どこか行こうね」
「はいはい、片付けてから考えようね」
「そこはもう少し具体的に考えようよ」
「ここを具体的に片付けなきゃ現実味帯びないでしょ」
「あえて考えないようにしてるんじゃない!」
私は服でぐちゃぐちゃになった家事室を見上げて苦笑いした。
うん、現実逃避したいんだ。
だってそこはたくさんの服や洗剤が決まりなく詰め込まれて、ぐちゃぐちゃになっているのだから。
とある田舎の一戸建て。築年数は私と有志の結婚生活より3年長い11年。
田舎の長男の有志が、私とお見合いするより先に結婚する心構えとして、母屋の隣に貯金をはたいて家を建てた。
だから結婚するときに私は中身の家具と家電を嫁入り道具に持ってきたのだけれど。
3畳ほどの家事室に私は洗濯場だけでなく違う役目も持たせてしまった。
それはクローゼット。
最初、家事室には洗濯機と洗剤しかなかった。最初は洗濯物も外に干していたからだ。
だが景観や天気やあと近所の畜産農家からのにおいを考慮して家事室に1本の突っ張り棒を設置した。そこから家事室で洗濯を干すようになった。
けれど、ふと思い立ってもう1本突っ張り棒を渡してみた。
干して、乾いたらそのままもう1本の突っ張り棒の片隅に片付ける。それはぐうたらな私にはぴったりな片付け方法だった。
2階の寝室にもクローゼットがあるので、本来そちらがメインに使われるべきなんだろうけれど、洗って干して片付けて、着替えて、着替えた汚れ物は洗濯機にぽい。なんと3畳の部屋ですべて片付く。わざわざ2階まで上がることもない。
さすがにすべての服をここに置くわけにも行かないので、季節モノの服だけここにおいて、シーズン外のものを二階の寝室のクローゼットにしまうけれど、ものぐさな私でもそれくらいの衣替えは苦じゃない。
ただ盲点だったのは、服は意外と重い。
特に今は冬服。突っ張り棒のたわみ方がすごく、強度的に不安になったので、せめて普段着の服をつりさげるのはスチールラックにしたほうが頑丈だろうとそちらを採用することにした。
2人でやれば早いもので昼過ぎには、どうにか片づけが終わり、一息をついた。
見上げてみればかなりすっきりした。
服はきちんと釣り下がっているし、ズボンもちゃんと並べて、自分の下着や靴下を置くスペースも確保できてる。
これならもしなにかがあって、義両親にここを見られても今なら大丈夫だ。
そのうちまたぐしゃっとなっていくんだろうけど、なるべくこの状態を維持できるよう頑張ろう。
ひとつ片づけが終って、時計を見ればもう3時がこようとしていた。この時間が来れば夕飯をなににしようかなと母屋の冷蔵庫の中身を思い返す。
普段過ごしている家は別だけれど、台所の面としては有志の両親と同居しているので、大人4人分の献立だ。
確か今日中に使わなければいけない肉があるので、今日の夕飯のメインは肉料理としても、野菜が心もとなかった。
「スーパーに買い物、行こうかな」
お財布の入ったかばんを持つと「じゃ一緒に行く」と有志も立ち上がった。
夫とは結婚して8年たった。子どもはいないけれど、友達のように仲が良い。
今多い友達夫婦のような関係だ。
ただ、まあよくある買い物の光景として「ビールがもうなくなったんだよね。入れて良いよね」「あ、納豆なくなった! あと麻婆豆腐食べたい! 作ってよ」と、こっちの意図したもの以外のものをどかどか入れてくるけれど。
「今日の夕飯のメインは決まってるから、麻婆豆腐はまた今度だわ。あ、お豆腐は入れたままでいいよ。買うつもりだったから」
麻婆豆腐を却下したとたん、しょぼんとして豆腐を棚に戻そうとするのを引き止めて、ついでに即席の麻婆豆腐の元も籠に入れる。
「でも、麻婆豆腐今日しないんだろ?」
「差し迫って食べなきゃいけないお肉があるんです。大丈夫、材料があればまたいつでも作れる!」
なんだかんだと麻婆豆腐が作れそうな材料が入った籠に苦笑いしつつ、私は明日の夕飯が麻婆豆腐でも良いかなと思ったりもしてた。
あくまで明日の昼間はどこかにお出かけするつもりで夕飯の献立として。