追憶
今回は番外編!
ってか更新遅すぎで友だちに愚痴をたれられながらようやく書けました(笑)
急遽登場のハルちゃんの過去話で本編は進みません!
いやいや、内容に詰まったわけじゃないんですよー?
うちのスピリチュアルがまだ高まっていないんよ!((笑))←
というわけで!
お読みくださる方に多大な感謝を込めて、どうぞ!!
「ハルーっ」
それは一番暑いと言われていた季節。
玄関から大きな声で名前を呼ぶのは日高夏樹だった。ハルは幼少の頃、内気な少女で家でずっと絵を描いて過ごしていた。自分から話しかけたいと思っても上手く言葉にすることができず、知らぬ間に誰も相手にされなくなっていた。
そんな時に出会ったのが堅護だった。夏樹が初めて連れてきた友達で、髪が黒くて短くて、まるで針山のような頭をしていた少年にハルは当初萎縮していた。女の子にすらまともに話しかけられないのにこんな怖そうな男の子になんて余計に無理だ、と。
「い、いらっしゃいま、せ」
しかし、か細い声ながらも勇気を振り絞ってぎこちない笑みで出迎えることができた。ハルにとっては上出来な対応だったのだが、
「何言ってるか聞こえないんだけど」
これほど露骨にストレートに言う男の子に出会ったことのなかったハルは、針山少年のことが嫌いだった。
「いらっしゃいませぇっ!」
腹立たしくなり投げやりに出迎えるとドタドタと二階に上がった。自室に戻り、荒々しく息をしながらベッドに突っ伏したハルは盛大にベッドで暴れ回っていた。
「あの人何であんなこと言うの!私が精一杯話したっていうのに、何言ってるか聞こえない。なんて!バカバカバカバカ」
器用に顔真似までして針山少年堅護の真似をしているハルだったが、
「何一人で暴れてるの?」
一人の少年の声にビクッと体を震わせゆっくりと振り返ると先ほどの少年仲間堅護が扉の前で首を傾げて凝視していた。
「……どこから見てたの?」
すると堅護は階段を一度下まで下りていきわざとらしく音を立てて階段を上がりフーフーと息をしていた。更に、ベッドの方へ足を向けようとしたら
「最初から最後までじゃないの!」
ハルは恥ずかしさのあまり手元にあった枕を堅護思いっきり投げつけた。ボフっと音は柔らかいのだが不意を突いた攻撃を受けた堅護はよろめきながら階段を転がり落ちていった。あああぁぁ~っ!!なんて叫び声は聞こえない聞こえない、と耳をそっと塞いで目を閉じたハルだったが再びボフっという音が聴こえるとともにハルの顔に衝撃が伝わった。驚いて目を開けたハルの前にはしぶとく階段を駆け上がってきた堅護が立っていた。
「枕投げた仕返し。なんか文句ある?」
涼しい顔でそう告げた堅護だが、明らかに転げ落ちた傷が響いているのだろう。体がふらふらだった。
「あるよ!私の部屋に勝手に入ってこないでよ!」
「いらっしゃいませって言ったのアンタでしょ?だから入ったのに、悪かった?」
「……んー!!もういい!速く部屋から出てって!」
無理矢理方向転換させられた堅護は部屋の外まで追いやられドン!と大きく扉が閉まった。その日は扉の外から、ごめんね堅と何度も謝っていた夏樹の声が耳から離れなかった。
翌日再び家に訪問してきた堅護に対し、ハルが出迎えることは無かった。一人机に座っていつも通り絵を描く。昨日が少しおかしかっただけでまたいつも通りの日々が始まると思いながら。
「こんちわーっす」
戸が開き、目の前にいたのはやはりあの少年だった。
「また勝手に入ってきてな―」
ハルが言い終わる前に堅護は手を取って玄関まで連れ出した。
「ちょっと!一体どこに連れて行くの!」
堅護は俄然無視し、汗が吹き出る暑い夏の空の元グングン前に進んでいく。終いには走り出してハルも強制的についていく嵌めとなる。手を振り解こうとしても一向に解けずに走り続けること数分。
「ついた」
立ち止まる堅護の後ろにそのままぶつかる形となったハルは前方の少年を睨みつけ、
「……これって」
ハルの視界に広がるのは小学校の運動場で楽しそうに遊ぶ子ども達の姿だった。踵を返そうとしたハルの背を、今度は兄の夏樹が押してかくれんぼして遊んでいる子ども達に近づけた。
鬼の一人が百数え終わってさぁ探しに行くぞと起き上がった時ハルが目の前に現れて、
「ハルちゃんどうしたのー?」
キョトンとした顔でハルの顔を見つめる女の子。ハルは正直状況の変化についていけていなかった。だが、自分が望んでいた光景がここにはある。ハルは勇気を振り絞って言った。
「いーれーて!」
テンプレ的な一言に対し女の子は、いーいーよ。とこれまたテンプレ的な一言で答える。すると隠れていた子ども達が何事かとゾロゾロ集まりハルを中心に囲んでいた。実はずっと一緒に遊びたかったが恥ずかしくて言い出せなかったこと、お話するのが苦手なこと、などなど。自分が出来なかったことを強引に成し遂げた針山の少年のことなど視界にも止めずに、ハルは楽しんでいた。この瞬間を。
堅護とまともに話せるようになってツンが取れた頃、ハルは尋ねた。
「堅護君堅護君!私がボッチだったときどうして運動場に連れ出してくれたのかね?」
「あの頃のハルちゃん内気だとは思えないほど攻撃的だったよな、俺に。理由なんて無い、ただ俺がやりたいようにやっただから」
ハルに対してそっぽを向いた堅護。
「……寒いよ堅護君。今って冬だっけ?本心だとしても寒い、寒いよ……」
ガタガタとわざとらしく肩を震わせたハルはいやらしく笑みで堅護を見つめている。
自然に耐えきれなくなった堅護は脱兎の如くその場を逃げ出した。ハルはその行動が読めており、待ってよー!堅護くーん!と笑みを壊さず追いかけていたという。
夕陽のせいか先を走る堅護の頬は紅くなっていた。