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ウイルス戦争  作者: 甲斐のTORA
5/10

出現

さてどこを探そうか。

堅護たちは途方に暮れていた。捜索しようというものの特に心当たりはないからだ。とりあえず人通りの少ない道を探そうという事になり、学校近くの繁華街の裏路地を歩いた。


「何も考えずにとりあえず突っ走るところはさすが堅だよね」


少々呆れ気味ながらも横にしっかり付いて歩く夏樹はため息をひとつ。


「うっさい、ほっとけ」


堅護はすべてを見透かされている親友に頭が上がらなかった。


「でも、気持ちが先行して空回りしても諦めずに物事をやり切るのは僕とっても好きだけどなっ」


夏樹には生来の気質からなのか、恥ずかしいセリフでもサラリと言ってのける。そしてその後に頬を染め、はにかんだ笑顔を見せる。もしコイツが女だったら確実に惚れてるなぁと堅護はボーッと考えていた。


「いつもいつも思うけどよくそんな恥ずかしいこと平気で言えるのな」


「……堅は覚えてる?僕達が初めて出会った時のこと」


「あぁ、もちろん」


あの日の事を堅護は忘れるはずもなかった。

十年前、堅護は一人で近所の公園で遊んでいた。家庭の事情もあって休日も一人で遊ぶことしかできなかったのだ。夕方まで一人で遊び、家へ帰ろうとした時


「た、助けてぇ!!」


堅護は叫び声がする方に振り返った。すると、堅護よりも3つくらい年下の子どもが池で溺れていたのだ。初めて出くわす事態で一瞬どうしていいか分からなくて硬直した堅護だったが、手にしていたおもちゃを放り投げ、池に向かって走った。


その時、背後から自分と同年齢くらいの茶色い髪を伸ばした女の子のような子どもが現れた。

そして二人同時に池に飛び込んだが、飛び込んだ瞬間二人は泳げないことに気づき新たに救助者を二人増やしただけとなった。


結局一匹の犬により三人全員助けられて名犬が生まれただけとなった。


飛び込んだ二人はどちらからともなく笑い合って、気付けば友達になっていた。

件の茶髪の女の子のような子どもは夏樹なのは言うまでもない。


「忘れられない、大切な思い出だ」


しみじみと堅護は頷き、


「僕は友達がいなかった。見た目が女の子に見えるからって苛められてた。堅が直接救ってくれたんじゃないけど、あの瞬間から僕は心からの友達に出会えたんだ。ありがとう、堅」


だからお前はまた〜と照れ隠しで夏樹の頭をわしゃわしゃと撫でた。しかし、穏やかな時を過ごしていた刹那、路地裏の空気が変わった気がした。堅護は周囲を確認したが、特に変化は無い。

だが、肌に粘着くような空気がとてつもなく気味が悪い。


「夏樹、俺から離れるなよ」


夏樹を後ろに付かせ、ジリジリと路地の奥へ奥へ進んでいく。壁伝いに歩き、曲がり角をそっと覗き込んだ。


「―っ!?」


初見、自分が今どこにいるのか分からなくなった。堅護が捉えた視線の先にいたのは一人の女の子だ。


だが、少女の身体は赤黒く血塗られていた。

正しくは違うのかもしれないが服の袖から見える肌の色がどうしてもおかしいのだ。背を向けられているからはっきりとしたことは分からないが、異質性は見て取れる。


「ア゛ー……」


うめき声を上げながら異形の者は首のみを器用に動かし辺りを見回している。

人間が回せる首の限界を越えようとした時、堅護は覗かせていた首を引っ込めた。視認されることは何とか防いだか……。


グニッ。


「いてっ」


二つの音が無音の空間に響き渡る。

堅護の後退りした足が背後にいた夏樹の足を踏んづけていたのだ。


ヤバイと思った時は夏樹の手を引っ張って、もと来た道を引き返していた。


「け、堅!一体何があったの!?」


「振り向くな!とにかくここを抜けるぞ!!」


しかし夏樹は既に視認していた。

人外の者を。

背面だけでは分からなかったものが顕になっていた。頭皮は掻き毟って血が滲み、目は血走り口は悪魔の如く歪み、お腹からは血が噴き出しており、瀕死の傷を負いながらも夏樹と堅護を追ってきていた。


「うわぁぁあぁぁぁっ!!」


突如起こり得た事態に夏樹はパニックを起こそうとしている。


「夏樹ぃ!今は前を見ていろ!俺が何とかするから」


夏樹は堅護の発した言葉により辛うじて平常を保った。


とは言ったものの、状況を打破する方法を堅護は作り出すことが出来なかった。


自分と夏樹、二人を助ける方法を。

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