仲間堅護
仲間堅護はゲームの主人公に憧れていた。さらわれた姫を助ける勇者みたいな話の。でも現実の世界でそのようなことは決して起こりえない。
堅護は誰にも言えないような秘密の能力なんて持ってるわけないし、魔法で満ちてるようなワンダーランドでもない。そう、ここは完全無欠全く普通の世界。地球も昔は青かったし、今は二酸化炭素削減やら騒いでいる時代である。
頭では理解していても堅護はやはり、ゲームの主人公への憧れを抱かずにはいられなかった。 その主人公に少しでも近づくために、いつからだったか覚えてないが、知らぬ間に人助けをするようになってた。車に引かれそうになっている子供を助けたり、苛められている人がいれば勝ち目がなくても助けに行ってしまう。そんな馬鹿で無謀で諦めの悪いやつが、仲間堅護だ。
そして今のんきに自己紹介やらをしていた堅護だったが、それと同時に口にパンをくわえて道路をダッシュしているという切羽詰まった状況のまっただ中であった 。
堅護がなぜこんな朝っぱらからダッシュしているのかというと、珍しく早起きして家から出発したものの、ダンプカーにひかれそうな猫を某モンスターを狩るあのゲームのように緊急回避で助けたり、コンビニでかつあげされている学生を助けたり(強そうなお兄さん方にボコボコにされた)、と散々な目にあって現在好評絶賛遅刻中だからであった。あちこち傷だらけで血の味が口の中で広がっていても走るのをやめない。
もし、遅刻しようものならあの大魔王様(堅護の担任の先生)に殺されてしまうからである。これは決して比喩ではないし、二割増しの解釈ではない。とにかく恐ろしいのだ。 通学路に突入してもやはり、生徒らしき生徒は一人もいなかった。時間的には危険だが、状況としてはよかったのかもしれない。
傷をまざまざと全校生徒にみられながら登校するほど、堅護の心は強くないのだ。身体とは裏腹に(日々の人助けのおかげ)心は弱い。いままで一度も会ったことのない親戚の葬式に行ってもわんわんと泣きじゃくるのだ。男としてこれは少々恥ずかしい点であるのは理解しているのだが、そう簡単には治るはずもない。
階段を二段跳ばしで上っていき、二階の東棟までたどり着いた。そして、ドアを横にスライドさせて教室に入ると―、 誰もいなかった。状況の不自然さを感じ、教室内の壁に立て掛けてある時計を見た。針は七時を指しており、遅刻どころか一番乗りに登校していたことを告げていた。自らの馬鹿さ加減に辟易しながら机を枕にし、意識を落とした。
目が覚めた頃には教室内には見知った顔がほとんど集まり一日が始まることをぼーっと認識していた。
ぼやけた目で視線を右左と彷徨わせていた時、視界が急に暗転した。
堅護は身体を強張らせ、背後にいるであろう相手に意識を集中した。
「だ~れだっ?」
しかし、堅護の緊張は杞憂に終わる。
よく意識すると背中にはマシュマロのような柔らかい感触が伝わってくる。それが何なのか意識が明瞭になるにつれはっきりと分かってきた。
「もぅ~私の事忘れちゃったの〜?」
次の句を述べることが出来ない。なぜなら堅護にはそのような甘々展開が起きるような人望も友達も皆無だからだ。自分で言っておいて泣きたくなってくるが。
何も言えずに沈黙を通していると背後の女の子は、
「忘れたのなら仕方ないか〜。こっち……向いて?」
痺れを切らしたのか堅護に覆い被せていた手を離した。太陽の光が机に反射して眩しさに目をパチクリする。
そしてついに背後を向き対面する。
陽光に照らされて現れるは背中まである黒髪に切れ長の目、見下すかのような視線の高さ、凹凸の特に無い体つき。
堅護の期待に満ちた表情は急激に萎み、今や真顔だ。
「ていっ」
の一言とともに件の黒髪に上段から手刀を下ろした。
あいてっ、と頭を両手で押さえながら涙目でこっちを見つめてきたが堅護は惑わされない。仕草や声、容姿は正しくザ大和撫子と言われても遜色ないのだが一つ難点があった。
「堅護ひどいよぉ〜。せっかく僕が堅護の青春の1ページを彩ってあげようと思ったのに〜」
「お前が可愛らしい美少女なら俺も喜んだな……けど、おまえは男だろうが!」
これ以上は特に説明するまでもないそのままの意味だ。堅護は苦渋の表情(主にやつあたり)で執拗に手刀をくらわし続けていたが、
「おい、そこで何やってる?」
教室に一気に押し寄せる冷気に誰も彼もなく皆黙った。堅護はじゃれ合いを止め、ドアの目の前にいる人物を見る。
最凶の敵が現れた。
読んでいただきありがとうございました♪
ここが変とか面白くない、こうしたらいいのではないか、など何でもお伝えください。
これから長くなる予定ですが最後までお付き合い頂けると光栄です。