プロローグ 追走
「キャー!来ないでー!」
女子高生は走っていた。
暗闇へと誘うかのように待ち構えている路地裏の奥へ奥へとひたすら走る。
女子高生はそれに恐怖を感じていたが、その恐怖以上の恐怖が自分の後ろから追走していた。
身長百八十センチ越えの大男が左手にナイフのようなものを持って追いかけてきていたのである。
女子高生の叫びに答えず、ただただ執拗に追跡を続ける。
不気味な音を吐く変質者ですらないのがさらに恐怖を掻き立てた。
女子高生はワケが分からなかった。自分が一体何をしたのか、今日一日を思い返しても検討もつかない。
自分でも整理のつかないまま会話していたが、やはり大男からの返答はなかった。
疲労感の蓄積が身体に感じられたが、女子高生は走るのをやめられなかった。
自分の奥底に眠る本能のようなものが走るのをやめるな、と、命令していた。
本能の赴くままに走る、走る、走る……。
すると、大男のあのドタドタとした足音は消えていた。
女子高生が恐る恐る振り返ると、
誰もいなかった。それを認識してか、ようやく走るのをやめてもよいと本能が認めた気がした。と同時に、女子高生の脚に力が無くなりしりもちをついてしまった。
振り切ったとはいえ、いつあの大男が追いついてくるかの瀬戸際にあったが、彼女の身体は限界だった。
どれくらい走っただろうか。携帯電話の電源をいれると、電波時計が二十三時ジャストを表示していた。女子高生は驚いた。なぜなら、約一時間ほど自分が走り続けていたからだ。
いつもの体育の授業でも五分も走れば疲れてしまうのにそのときの自分とは嘘のようだった。
しかし、走り切った後のあの清々しさや達成感は微塵も感じられなかった。
残ったのは死という絶望から回避した安心感ただ1つだった。
数分で息を整えた彼女はよろけながら立ち上がる。
「はぁ……はぁ、何だったのよ一体」
冷静になった今、自分がなぜ襲われたのか脳をフル回転させたが、結局分からず終いだった。
しかしそんなことより、自分は今生きていることを噛み締めることに気持ちが移ってしまっていた。
「ホントなんだったんだろ。あっ、警察に電話した方がいいかな」
携帯電話を取り出し、肩に掛けていた鞄を引っかけ直した彼女は不気味な気配を察知した。
路地裏から脱する道の先に鮮血に身を染めた大男が立ち塞がっていた。
「キャァァアァー!!」
鮮血とは異なったのかもしれないが、そんなことは大して気にならなかった。
自分に再び死の危機が舞い戻ったのだから。
「もしもし、こちら警察です。何かあったのですか」
不意の声にビクッと身体を震わせた彼女は、電話越しからの音声だと気づき安堵した。
が、現状を打破するには到底及ばない。
彼女の身体はまたしても危険信号を発した。
大男とは正反対の道へ疾駆した。
不思議と身体は動き、コーナーを曲がり切ったそのとき、
「え……?」
不自然な音がした。何か柔らかい物質が硬質な物質に貫かれるような、形容しがたい音だ。
彼女は自分が背後の迫り来る恐怖から逃げ出せなくなったのか分からなかった。立ち止まっているのも分からなかった。
1つ分かることは、背中が熱かった。
女子高生の背には、先刻の大男が持っていたナイフのようなものの柄がようやく見えるくらいに深々と突き刺さっていた。
白い制服はみるみるうちに赤黒く染まっていき、女子高生は倒れた。
夥しい血で路地を塗らしながら彼女は絶命した。
しかし、倒れて一分も経たず自らの血で全身を彩った女子高生は、何事もなかったかのように、闇の中に消えていった……。
まだまだプロローグで内容もよくわからないかもしれませんが、読んでいただきありがとうございました!!
ご期待に添えるかわかりませんが、これから少しずつ更新していこうと思います。
小説になろうさん投稿させていただきありがとうございました。読んでくれた方々にも多大な感謝とともに今日も一日頑張ります♪