9 暴動間際
9 暴動間際
そんな体育館での一幕があった頃。職員室の周りに校舎側の生徒たちが押しかけていた。理由は白マントの件が一つ。教師でありながら生徒を利用して事態の鎮圧をしようとした事が、結局は生徒の反感を買ったという事。
そしてもう一つはつい数十分前に発覚した食料泥棒事件である。
学校には緊急時に避難場所として機能するために、水や保存食などが大量に備蓄されている。それの約半分が何者かに盗まれたのだ。それが状況から見るにグラウンド側の生徒による犯行だと断定されては、校舎側の生徒も黙っていられない。それは生徒たちも気付かない内に、校舎側のフィールドにグラウンド側のヤツらが侵入していたと言う事だ。
駿平が何もしなくとも、生徒たちは自ら立ち上がり、不満をぶつけようと教師たちに詰め寄る。しかし職員室のドアは堅く閉ざされ、教師側からの返答は何もなし。ストレスを抱え込んだ生徒たちは暴動一歩手前のデモ活動のように職員室に押し寄せたのである。
このまま行けば教師たちから主導権を奪い、生徒たちによる自治が行われる、と言うのもありえない話ではない。
「ドアを開けて話し合いに応じろぉ!」
「先生たちはグラウンド側と結託してるんじゃないのかぁ!?」
「私たちを守ってくれるなら誠意を見せてよ! そうじゃなきゃ、自分たちの身は自分たちで守るわ!」
廊下で大声を上げる生徒たちに対し、教師側は職員室で沈痛な面持ちを下げ、終始だんまりであった。
教師側としては生徒たちの自治権を認めるのは良策ではない。何故ならグラウンドの王という前例があるから。グラウンドの王は言うなれば、勝手に自治権をもぎ取って行った生徒たちの塊である。今現在、校舎にいる生徒たちにも自治権を譲渡すれば、グラウンドの王に似た勢力がもう一つ出来てしまう……もしくはグラウンドの王と併合して、かの勢力が増強されるだけだ。そうなってはもう、この事態を最小の被害で抑えて切り抜ける、なんていうのは不可能になるだろう。
生徒たちは黒い壁が出来上がってしまった現状、今現在を乗り切れば良いと考えているだろう。だが教師たちはその先を見ている。この黒い壁が取り払えたとして、この責任をどう取るのかと言う所まで考えて行動しているのだ。そのためにはまず怪我人を可能な限り少なくし、批判を受ける要素を極力少なくしなければならない。それにはグラウンドの王やそれに類似した勢力など邪魔なだけだ。教師側が生徒たちをコントロールすればこそ、状況は落ち着き、被害も最小限にとどめられるというものだ。
故に、なんとしても生徒に自治権を渡すわけにはいかない。だが、この状況で生徒たちを鎮められるだけの手段がない。
失態続きなのは揺ぎ無い事実。汚名を返上出来るような何かがなければ生徒たちも納得はしまい。
「ど、どうします?」
若い教師が声を上げるが、他の教師は黙りこくったままだ。
「い、いっそ生徒たちに任せてみますか?」
「バカな! 状況を混乱させるだけです!」
「でも例えば、生徒会にリーダーを任せれば、私たちの言う事も聞いてくれそうな気がしませんか?」
つまりは傀儡政権と言うわけだ。
教師の言う事をある程度聞いてくれそうなリーダーを立て、その生徒を通じて教師たちが間接的に指揮を取る。
「しかし問題があります。まずはその手段も生徒たちに見抜かれては、我々を更に不利にするという事。そして生徒会の役員たちも今や、職員室に殺到する生徒たちの一人となっている事です」
「今から私たちの言う事を聞いてくれそうな生徒を立てるのは難しいでしょうね」
状況はかなり悪い所まで来ている。ここから挽回する手段がないのが致命的だ。
現実逃避するように、窓際にいた教師がふと外へと視線を向ける。
「……ん? アレは……」
見えたのはグラウンド。
グラウンドの王たちが校舎の正面玄関側にある階段付近にたむろしている。
グラウンドの王たちは今まで、グラウンドの端にある野球のダイヤ付近にいたはずだが、気付かぬうちに校舎側の喉元まで接近していたのである。
「た、大変だ! グラウンドのヤツらが……!」
校舎側とグラウンド側を繋ぐ階段は二つあるが、そのどちらにも見張り役の教師が二人ずつ立っている。その教師はジワジワと移動してきたグラウンドの王たちに対して、声をあげ手を振って押し留めようとしているが、それも焼け石に水。
グラウンドの王の先陣を切る覚醒者らしき生徒に殴り飛ばされてしまった。
そんな様子を見て青ざめる。階段が突破されれば校舎にたどり着くのはすぐだ。
職員室からグランドの様子を見ていた教師は、すぐに逃げる算段を頭の中で整え始める。
一般人である自分が、覚醒者を多く有するグラウンドの王たちに敵うわけがない。
逃げなければ、今しがた殴り飛ばされた教師のようになってしまう。
恐怖に駆られた教師は、ガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。
「に、逃げなくては……!」
「どうしました?」
「グラウンドのヤツらが来るッ!」
教師は窓の外を指差して叫ぶ。それに釣られて他の教師たちも窓の外に目を向け、そして逆流する川の様に階段を駆け上るグラウンドの王たちを見つける。
見る見る内に、教師たちの血の気が引いていく。
「でも、あ、あれは」
しかしその内の一人が指差す先。
階段の一番上に一人の影があった。
「中堂先生じゃないのか……!?」




