24 それからの日々
24 それからの日々
黒い壁の事件の後、駿平たちの通っていた高校は完全に封鎖された。生徒たちは近所の高校に分散して編入され、それぞれの生活を送っている。
事件直後は大変だった。
黒い壁の中では怪我人だけでなく、死人まで出たのだ。警察からの事情聴取や現場検証などが、夏休みを半分以上犠牲にされて行われた。
だが、そんな長時間の捜査の甲斐もなく、事件は原因不明の超常現象、または何らかの天災としてマスコミに報じられ、幕を閉じる。事件性など欠片も疑われなかった。何故なら覚醒者が全員、その力を失っていたからである。
元々、魔術の行使がしやすいように構築された黒い壁と言う結界。あの中であったからこそ、何の知識も技術もない一般人が、特別な力を使用出来たのである。結界から一歩でも外に出れば、それは普通の人間と変わりない。
事件関係者が口を揃えて超能力の証言をしたが、それら一切証拠として不十分とされ、何らかの影響によって起こった集団催眠事件として片付けられる事となった。
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地獄のような八時間を潜り抜けた仲間には、結束が生まれていた。
あの事件を共に過ごした人間とは、通う高校が離れてしまっても良く連絡を取る、と言う生徒が多くいる。三嶋駿平もまた、その一人だった。
今でも鬼頭虎勝とはたまに遊びに行く程度の付き合いがあり、情報通くんの本名も知り、いおりとかなめが妙に仲良くなっている事も知っている。
そして、プレイトミルと隼人との繋がりも強くなっていた。
理由は、彼の持っているビー玉だ。
携帯電話がメール着信を告げる。
ディスプレイに表示されたのは、こちらが送った近況を尋ねる内容に対する返答。
『桐生良蔵が受け取ったはずの魔術書を捜索中。夏休み中に片付くと思ったのに、思ったより長い仕事になってしまった。プレイトミルも愚痴ってる』
「はは、隼人くんも大変だ」
携帯電話をしまい、ベンチに座りなおす。
その日は晴天。駿平は見慣れない学校の屋上で空を見上げていた。
夏休みも終わったのに、残暑はまだ続いている。
「さて、続き続きっと……」
彼の手には一冊の古めかしい本と分厚い辞書が握られている。古めかしい本の表紙には英語の刺繍が。
「魔術書ってのは、どうしてこう……外国語が多いんだろうな」
駿平は辞書を片手に魔術書を解読していたのだ。
魔術書をくれたのは当然、プレイトミル。彼女が隼人を通して、駿平に渡してくれたのだ。
魔術書の内容は酷く難解で、言い回しも独特のモノが多く、素人の駿平では解読に何ヶ月も要する作業となっていた。
しかし、それを苦だとは思わない。
何故ならそれこそが彼の夢への一番の近道なのだ。
駿平はポケットからビー玉を取り出して、空に透かせる。その中に灯る幽かな光が駿平の希望だった。
それは魂の光。神の魂を開放したビー玉の中に残ったこの光は、恐らく彼女の魂。
「待ってろよ、ゴンベエ。僕はもう一度、君に会ってみせるからな」
夢は遠く果てしないが、それを諦めるなんて気持ちは、少年の瞳から微塵も感じられなかった。




