20 剣の終焉
20 剣の終焉
鶴木かなめが舞い踊るように、白刃を閃かせる。
刃渡り八十センチほどもある鉄の棒を軽々と振るう姿は美しくもあったが、異常でもあった。
「どこにそんな腕力が隠されているのやら」
彼女の様子を見ながら、中堂則正は動きを止める。
それを見てかなめも剣を鞘に収めた。
「諦めてくださいましたか?」
「バカな、ありえない」
かなめの問いに則正はピシャリと答える。
「ただ、今のままでは埒があかないことは理解した」
則正は足元を確かめるようにして、地面を何度かつま先で蹴る。
「一つ聞こう、何故私の邪魔をする?」
「私が蜀だから、と言えばわかりますか?」
「なるほど……君もあの鬼頭の仲間と言う事か。とすれば、君たち蜀とやらが抑止力だと言うのは本気らしい」
話に聞いていた白マントはもっとギラついた殺意を持っていたはずだ。それが今、目の前にしている敵はこちらに近づこうとすらしていない。
相手には戦うつもりなど毛頭ないのだ。
ある程度の実力者が防戦一方になった時、突き崩すのは難しい。
時間制限も審判もないこの状況で、判定勝ちなどはありえないのだ。
だが、手がないわけでもない。
「生徒相手に本気を出すわけにもいかんと思っていたのだがな」
「……え?」
かなめの声が小さく漏れる。
瞬間、十メートルほど開いていた間合いが瞬く間に詰められ、かなめの前に人の形をした殺意が現れる。
ドロリと、身体中に泥のようなものがまとわりついた感覚。
指の一本すら重たくて動かせない。それほどのプレッシャーが、たった一人の人間から発されているのである。
かなめは恐怖に圧され、しかし足を引くことも出来ない。虎勝と対峙した時よりも遥かに危険な圧力。神聖な職業とされる教師が発するには、実に禍々しいものだった。
その時間はわずか刹那であっただろう。かなめにとっては何十分にも感じられる死の恐怖の瞬間。気付くとそれは浮遊感に変わっていた。
流れるような動作で足が払われ天地が逆転し、アスファルトに背中が打ち付けられる。
「かっ……は……!」
受身を取る事も出来なかった。
呼吸が乱れ、全身から感覚が抜け落ちる。視界も一瞬真っ白になるが、気合で意識を繋ぎとめる。
しかし、状況は一瞬の内に更に悪化していた。
仰向けに寝転がっていたはずが、いつの間にうつ伏せにされている。
かなめは腕を取られ、関節を極められる。この間、わずか数秒の出来事だろう。
鮮やかすぎるほどの投げ技と関節技の連携。
「貴様の心根を折るのが難しいのはわかった。代わりに腕を折る」
則正の声が聞こえるや否や、バキンと音がしてかなめの右肩が外れた。
「ぐぅ……あ……」
「ほぅ、声をガマンするか。年端も行かぬ女子の割りに見上げた根性だ。だが、その右腕では刀を振るう事も出来ないだろう。いや、具現化すらも叶わんか?」
則正も既にかなめが剣を具現化する覚醒者だと気付いていたのだ。
女子が振るうには物々しい刀と、その刀が振られる度に則正の能力がキャンセルされていては気付いて当然と言うもの。
恐らく、その刀は覚醒者の能力を斬る刀だったのだろう。
「ふん、覚醒者の能力は最早、なんでもありなのだろうな。つくづく恐ろしい」
立ち上がって背広を正し、痛みにもがくかなめを見下ろす。
「しかし、恐ろしいからこそ管理されねばならない。貴様のような抜き身の刀が転がっていては一般の生徒は恐ろしくて外を出歩けんからな」
「ぐっ……わ、私は……」
「口答えなど許さん」
則正の言葉と共に能力が発動する。
かなめの口は閉ざされ、反論が出来なくなる。
「貴様が一般生徒を襲い、傷を負わせたのは事実。その件に関しては次の機会にでも罰を与えよう。それまではせいぜい、息を殺して教室の隅で震えているんだな」
足音を立てて、則正はグラウンドへ向かう階段を下っていった。
その後姿を、かなめは悔し涙を流しながら見送るしか出来なかった。




