17 激突へ向けて
17 激突へ向けて
「到底看過できぬ事態だ」
中堂則正は、見るからに激昂しながら廊下を歩いていた。
数分前、彼にもたらされたのはグラウンド側に動きがあったと言う連絡とその詳細。
グラウンドの王たちは二人の生徒を取り囲み、弄び、そして片方を死に至らしめた。
人殺しとは、およそ法律によって何よりも犯してはいけない罪とされる重罪。
その常識ともされるルールを破られた事が、則正には理解できなかったし、度し難かった。
「そこまで愚かではないと思っていた。仮にも我が高校に通っていた生徒たちだ。それぐらいの信頼は置いていた……だが、私の信頼はこうして裏切られた!」
一人歩く廊下で、怒声が響き渡る。
声を出していないと、胸中で暴れまわる怒りを御しきれないのだ。
律儀に革靴に履き替え、昇降口を通り、グラウンドへと向かう。
「粛清せねばなるまい。ヤツらが犯したのは最早、人道を外れた行い。断固たる態度で臨まなければなるまい」
怒りに熱があったのならば、彼の足元のアスファルトは泡を立て、煙を上げて、とろけていただろう。
グラウンドからはドンチャン騒ぎと笑い声が聞こえる。
ヤツらは笑っているのだ。
人を殺して、人を汚して。
それが人であるはずがない。
「全く、彼らは度し難い。私の鉄拳制裁などではまだ生ぬるい。……だが、それよりも理解できないものが先に立つ」
中堂則正の前に立ちふさがる影が一つ。
それは赤黒いカーテンを羽織り、腰には一振りの剣を携えた女子。
「貴様、確か白マントとか言ったか。最早その風貌は白マントとは言いがたいが、そんな事はどうでも良い。貴様も我が高校の生徒ならば教師の命令には従うんだろうな?」
「それが私の信条に反さないのならば」
「私は貴様も許してはいないぞ。人を傷つけ、生徒たちを恐怖に染めた貴様も、私の粛清対象に含まれている。だがこの場は見逃す。貴様よりも重罪を犯した、愚劣な連中に裁きを下すのが先だ」
「……では先生は、グラウンドに降りて、彼らと事を構えると」
「答えるまでもないな」
赤マントがその柄に手を添える。
「先生は私を白マントと呼びましたが、私はもう白マントではありません」
「なに?」
「私は人の血を知り、人の痛みを知り、人の死を知り、彼らに慈悲を乞う血塗られた人間。この紅いマントはその十字架です」
「……貴様のポエムを聞いている暇はない。そこを退け」
則正の命令は彼の能力の発露。
命じられた人間は、その通りに動いてしまう。
だが、赤マントは腰に帯びた剣を一閃払う。
「もう一度言います、先生。あなたの命令が私の信条に反さないのならば、私はあなたの言う事を聞きます。ですが、そうでないならば……」
赤マントは剣を収め、マントの下から則正を見据える。
まるで則正の能力が全く効かなかったかのように、身じろぎ一つしない。
「申し訳ありませんが、反抗させていただきます」
「そうか、貴様もグラウンドの生徒たちと同じなのだな。……ならば力尽くでもわからせてやろう。人が積み上げたルールの重みを!」
****
体育館近くにて。
そこには秋野垂千穂と彼女の側近、そして校舎側に潜んでいたグラウンドの王のスパイがいた。
「なるほど、鬼頭虎勝が校舎の中で戦闘不能、ね」
「俺も聞いた話だけど、恐らく間違いない。実際、ボコボコにされた鬼頭の姿を見たってヤツもいるしな」
それは垂千穂にとって朗報であった。
蜀は今、最大戦力を失っている。これでは抑止力としての役目を全く果たせていない。
「グラウンドの王へ伝令を飛ばして。すぐに校舎側に攻め入るわ。この機を逃す手はない」
「だが、中堂はどうする? アイツの能力は強力だぜ? それに校舎側の覚醒者も集められたって話だ。そいつらに抵抗されたら……」
「そのための手はこちらで打つわ。中堂の目を少しでも逸らす事が出来れば、校舎側への侵入は可能。校舎側の覚醒者? ケンカ相手が見つかったなら、グラウンドの王にとってもプラスよ」
グラウンドの王は何せ、暴れたいがために結成された集団。相手が出来る事はむしろ喜ばしい事である。
「伝令はグラウンドの王の覚醒者にこう伝えて。『進軍は二十分後。全員、全力で暴れると良い』ってね」
「了解。じゃあ、俺はちょっくらひとっ走り行ってくる」
側近の一人を伝令に飛ばし、垂千穂はもう一人、特定人物の居場所を割り出す覚醒者にも指示を出す。
「ヤツの居場所はわかった?」
「……今も移動中。校舎の中に入る所だ」
「じゃあ行き先を割り出して先回りするわ。スパイのアンタは今後のために、もう一度校舎側の生徒として潜伏して」
「了解」
部下に指示をし終わった後、垂千穂はふと空を見上げる。
「……もうすぐ、私の役目も終わりかしらね」
垂千穂の策が成ったとしても、失敗したとしても、グラウンドの王は崩壊する。前者ならば校舎側を滅ぼした後に自壊、後者ならば校舎側に打ちのめされて全滅。どちらにしても滅びは免れない。
それを回避する気もないし、グラウンドの王たちも望んではいない。
この策を発動した時点で、覚醒者でもない垂千穂の役目は全て終えた事になる。
「最後の最後に躓かないようにしなくちゃね。さ、行くわよ」
「行き先は恐らく、二階……かな」
ターゲットの行き先を聞いて、垂千穂と側近はすぐに移動を開始した。




