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14 負け

14 負け


 放送室のマイクがオフにされる。

「こんなんで良かったかな」

「おぅ、三嶋の言う通りには出来たな」

 メモ書きをポケットにしまい、虎勝は満足そうに頷く。

「事が終わったなら、すぐにここから出ます」

 放送室には隼人と虎勝の他にプレイトミルがいた。

 彼女は人差し指で壁をなぞり、円を描くと、そこに不思議な穴が開いた。

「さぁ、急いで」

「さっきも通ったが、不思議なもんだな、魔法ってのは」

 プレイトミルが使っているのは覚醒者の能力ではなく、ウィッチクラフトと言う純粋な魔法である。

 魔女の行使する不思議な魔法や薬、おまじないや占い、儀式などは総称してそう呼ばれ、それを使えるプレイトミルは即ち、魔女である。

「先程も言いましたが、このゲートは長くは持ちません。早くしてください」

「はいよっと」

 虎勝がゲートに足をかけたその時、放送室のドアが開けられた。

 そこに立っていたのは中堂則正。

「貴様、鬼頭虎勝!」

「おや、中堂センセ。数時間ぶりだなぁ」

「貴様はこんな非常事態にも、ルールを守らず、平穏を乱すのか!?」

 ツカツカと足音を立てて歩み寄る則正を相手に、虎勝もゲートに背を向けて則正と対峙する。

 つま先がぶつかるぐらいに接近し、お互いに睨みつける。

「鬼頭!」

 隼人が呼びかけるが、虎勝は動かない。

「先に行ってろ。すぐに追いつく」

「だが……いや、これ以上口を挟むのは無粋か」

「……隼人、良いのですか?」

 首を傾げるプレイトミルに、隼人は黙って頷き、ゲートを潜っていった。

 隼人を追いかけ、プレイトミルもゲートを潜る。すると、ゲートは収束を始め、瞬く間にいつもの壁に戻った。

 残ったのは則正と虎勝、そして則正の連れてきた生徒数人。

「どうした、鬼頭。お仲間は行ってしまったぞ?」

「だったらどうした? まさか、俺までセンセにビビッて逃げ出すとでも思ったか?」

「どうやらお前は、私の能力を見ていなかったようだな。それはそれで好都合ではある」

 則正は虎勝の胸倉を掴んだ。

「先生、これは体罰って言うんじゃねえのか?」

「黙れ。そして能力を使うな。そこに正座しろ」

 吐き捨てるように言う。

 当然、虎勝はそれに従う義理もなし、聞き流そうとしたのだが……。

「……なっ!?」

 身体が勝手に膝を折る。

 だが、完全に座るには至らない。片膝を付き、憎々しげに則正を見上げる。

「テメェ……何しやがった……!?」

「私も覚醒者だ。これぐらいは造作もないさ。……貴様には特に強く命じておく必要があるだろうな」

「な……にぃ!?」

「重ねて命じる。そこに正座しろ」

 同じ命令を下され、今度こそ虎勝はその場に正座してしまった。

 綺麗に膝を折り、両手をその膝の上に置いている。

「ぐっ……」

「これで良い。教師の言う事は聞くものだ」

 虎勝にとってはかなりの屈辱だった。

 誰より縛れる事を嫌う虎勝が、ルールを押し付けられている。

 無理に立ち上がろうとしても、身体が言う事を聞かない。

「貴様にはしばらくそのままでいてもらおう。……今回、新勢力を立ち上げてくれた事は、こちらにとっても有益ではあった」

「ケッ……テメェらのために……やったわけじゃねぇよ……ッ!!」

「結果としてはこちらに利があった。貴様の仲間の事も、しばらくは放置してやっても良い。グラウンドの生徒たちを黙らせるまではな」

「テメェの、その上から目線が……気に食わねぇ!」

「……貴様もやはり、目上に対する言葉遣いがなっていない」

 突然、容赦のない蹴りが、虎勝の肩にぶち当てられる。

「ぐぅっ!!」

「座れ。正座だ」

 床を転がった虎勝だが、則正に命じられてすぐに姿勢を正す。

「目上の者に対しては敬称を使え。それぐらい、社会常識だろう」

「ケッ、だったらテメェも……ぐっ!」

 すかさず蹴りが飛ぶ。

「……正座だ。床に寝て良いとは言ってない」

「……敬われてぇなら、それらしい態度を取れってんだよ、中堂先生よぉ!」

「勘違いしているな、鬼頭虎勝。私は敬われたいのではなく、立場として敬われて然るべきなのだよ。それが貴様に教えを授けている教師と言う肩書きだ」

「強いられた敬意なんて、長続きしねぇぜ。それが当然だとか思ってあぐらかいてるヤツなんかに、俺らは敬意なんかこれっぽちも抱きやしねぇ」

「なるほど、確かにそれは一理ある」

 虎勝の言葉に頷き、則正は極自然な動きで拳を振りぬく。

「ぐっ……!」

「言葉でわからんヤツには、多少痛い思いをしてでもわからせてやらねばならんな」

「……歪んでるぜ、テメェの教育方針……ぐっ!」

「理解できるまで蹴る。考えを改めたら頭を下げて謝罪しろ」

 しばらくの間、放送室の中に人を蹴り付ける音と苦痛に耐える声が続いた。

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