12 校舎裏の締結
12 校舎裏の締結
具合が悪い。なんだかとても衝撃的な事が起こったような気がする。
そう……あれは確か、身体を貫かれたんだ。えっと……剣、だったかな。白マントに後ろから奇襲されて……。
うぅん……でもなんだか、今は痛くないし、良い匂いがするし、後頭部が柔らかくて暖かい。あ、今おでこを撫でられたな。
……なんだ? 僕は死んだのか?
そう思って、駿平はゆっくりと目を開ける。
「あ、目が覚めました?」
目の前には美少女の顔がやたら近くに。
「天国ッ!?」
「きゃっ!」
飛び起きた駿平は目の前にいたゴンベエに頭突きをかまし、二人で仲良く頭を抑えてうずくまった。
「おぅおぅ、仲良いな」
「こら、茶化さないの」
駿平が首をめぐらすと、近くに鬼頭虎勝と湯浅いおり、そしてマントを脱いだ白マントがいた。
「あれ、ここは……?」
「寝ぼけてんのか? 三十分も寝てねぇってのに」
「三十分……あ、そうか、僕は」
白マントに胴体を貫かれ、その痛みと衝撃で気を失ったのだ。
どうやら、それから三十分と経っていないようだが、記憶が混乱するには十分な衝撃であっただろう。
「……って、だったらそこに白マントがいたら危ないんじゃないの!?」
状況を確認しなおし、白マントであった女子を見て慌てて立ち上がる。
「あ、大丈夫ですよ、駿平さん。この娘はもう、安全です」
「あ、安全!? ……た、確かに危なそうには見えないけど」
今のところ、白マントはいおりに寄り添うようにして……と言うか、いおりを盾にして虎勝から隠れている、普通の気弱そうな女子にしか見えない。
「ってか、なんかお二人、仲良さそうだね?」
「ああ、うん。なんか懐かれちゃって」
ピッタリとくっついている白マント。
彼女はチラリと駿平を見て、
「あ、あの……鶴木かなめです。さっきは、ごめんなさい」
ペコリと頭を下げた。
自分を刺し殺そうとした相手がこれでは怒るに怒れない。
駿平が寝ている間に何があったかは知らないが、どうやら白マントの無力化には成功したようだ。
「落ち着きました?」
「え、えと……うん。……うん?」
いや待てよ。
さっき、駿平が目を覚ました時、ゴンベエの顔が異常に近くにあった。
そして良い匂いがして、後頭部にやわらかい感触があった。
「あれ、僕、もしかして今までゴンベエに膝枕……」
「あ、いえ、その……」
二人で黙り込み、顔を真っ赤にする。
「おぅおぅ、仲良いな」
「こら、茶化さないの」
虎勝といおりにまたも茶々を入れられ、二人は更に顔を赤くする。
「そんなラブコメはどーでもいいんだよ。お前、三嶋駿平とか言ったか?」
虎勝が駿平に向き直る。
「俺はお前と約束した。俺の気が変わらん内は、お前に力を貸してやる」
「ほ、ホントに!?」
「裏切って欲しいなら、そうするが?」
「いやいや、マジで、そんな事になったら僕なんか即死しちゃうから!」
無様なほど狼狽する駿平を前に、虎勝は嘆息する。
先程、虎勝の前で啖呵を切って見せた駿平はどこへ隠れてしまったのだろう。
しかし、約束は約束。虎勝はとりあえず、駿平の下につく事を決めた。
「で、大将。これから俺らはどうすりゃ良いんだ?」
「え? 大将?」
「そうだよ。お前が大将で、俺らがお前の下につく。鬼頭虎勝、湯浅いおり、白マントもとい鶴木かなめ、そして、そこの記憶喪失女」
「ご、ゴンベエですっ!」
「本名じゃねぇだろ、すっこんでろ。……この五人が新たな勢力だ」
たった五人の新勢力。
しかし、いおりの癒しの能力、虎勝と白マントの戦闘能力を盾にすれば、校舎側やグラウンド側の抑止力になりえる。
虎勝とガチでやりあうには、校舎側、グラウンド側のどちらもリスクが勝ちすぎていると判断するだろう。仮に校舎側とグラウンド側が結託したとしても、駿平のチームが五人と言う極少人数なら上手く姿を隠しながらやり過ごせるはず。と言うか、そもそも他の勢力が結託するところなんて考えられない。
新勢力は出来上がった。ならばこれからは駿平の本当にやりたかった事を始める時だ。
「で、でも僕が大将ってのはどうかな? 戦力的にも鬼頭がリーダーをやった方が良いと思うんだけど」
「俺ぁヤだぜ。誰かに担がれるようなタマじゃねぇしな」
「コイツがリーダーで指示するなんて、考えられないでしょ?」
「うるせぇ、いおり!」
「何よ、アンタの助勢してやったつもりだけど?」
「なら、テメェだって一緒だろうが。テメェが他人に指示するようなところなんか想像できねぇな!」
「そうね。同様にこの娘も、そっちのゴンベエちゃんもそう。……消去法で三嶋くんしかいないってわけ」
虎勝の挑発をスルリとかわし、いおりは巧みに結論へと導いた。
「そ、それなら僕だって誰かに指示するような人間じゃないよ!」
「テメェはアレだけ俺に言う事言っておいて、そんな口を叩くか?」
「口先だけじゃリーダーにはなれないよ!」
確かに、駿平には度胸がない。土壇場では虚勢が張れるが、それも長続きしない。
担ぐ御輿が貧弱であれば、他からなめられる。それではよろしくないのだ。
「じゃあこの僕がその役目を担おうか!」
その時、全く別方向から声が聞こえる。
全員がそちらに顔を向けると、見知らぬ男子と私服の女性がそこにいた。
「……誰だ? 三嶋の知り合いか?」
「いや、湯浅さんは?」
「見た事はあるね。確か……」
「僕の名は林隼人! 誰が呼んだか、『でしゃばりキング』とは僕の事だぁ!!」
自分で自分をでしゃばりと評する彼は、見るからに変人だった。
確かに彼はでしゃばりだったし、その種の王冠を被ってもおかしくはないだろう。
彼の隣でため息をついている女性の心労が慮られる。
林隼人と名乗った男子は、ズカズカと一行に歩み寄り、首を傾げる。
「で、何の相談をしていたんだい?」
「おいおい、面白いヤツが乱入したもんだぜ」
何の相談をしているかも知らずに立候補をするのだから、でしゃばりキングの名は伊達ではない。
そんなバカ丸出しを見せられて、唖然としている一行の中で虎勝だけは面白そうだった。
「今、俺たちでこの学校に新勢力を立ち上げようと思ってたんだ。お前ならリーダーに持ってこいかも知れねぇな」
「と、虎勝! 本気で言ってるの!?」
「ああ、本気も本気よ。やっぱ大将ってのは度胸があって、なおかつ死にそうにないヤツじゃないと務まらねぇ。コイツはその点、どっちもクリアしてる」
確かに、度胸はあるだろうし、なかなかしぶとそうでもある。
しかし、その後に小声で付け加える。
「それに、馬鹿なら御しやすい」
「アンタって人は……」
企み顔で笑う虎勝に対して、いおりはもう何も言えなかった。
虎勝は口をつぐんだいおりから、隼人に向き直る。
「お前、林隼人って言ったか? 何年だ?」
「二年生。君と同じだ。この中に二年生以上の人間はいないみたいだね。なら年長者を尊重する事もないし、僕ほど適任はいないグェ!」
胸を張る隼人の首根っこを、後ろで控えていた女性が引っ張る。
「失礼しました。私たちにはやる事がありますので、先程の発言は全て忘れていただけると幸いです」
「ちょっと、プレイトミル! 僕は一度言った事は曲げない男だ!」
「ならば私との約束の方を片付けてからにしてください。その後ならあなたが思う通り、リーダーでもなんでも引き受けて良いですから」
「しかしだなぁ。これは僕のポリシーの問題でもある! 誰もやりたがらない事をやらなければ、僕は僕でいられないグェ!」
「そーだぜ、お嬢さん!」
今度は虎勝が隼人の首根っこを掴んで引き寄せた。
「男の世界はお前みたいな女にゃわからんかもしれんがなぁ。一度吐いたツバは飲み込めねぇんだ。コイツには俺らのリーダーになってもらう」
「……あなたがどなたか存じ上げませんが、言った事を覆せないと言うのならば、私の目的の手伝いをすると言ったのもその人です。優先順位を付けるのならば、私の方が先に申し出たのですから、私の件を先に解決するのが道理だと思いますが?」
「だったら俺たちがアンタの目的達成の手伝いをしてやる」
「「「えっ」」」
驚きの声が三つ重なる。プレイトミルと呼ばれた女性、いおり、そして駿平のものだ。
「虎勝! 何を勝手に……!?」
「俺たちにはリーダーが必要だ。他のヤツらに示しをつけるためにも、それは絶対条件だ。だが、俺らの中にはその器たる人材がいねぇ。だったら他所から取ってくるしかねぇだろうが。そんな俺らに渡りに船だ。これを逃す手はねぇ」
「で、でも……」
「更に加えて、俺には今のところ目標ってのがねぇ。センパイ方へのお礼参りも特に優先する案件ってワケでもねぇしな。だったら、こいつらの手伝いをしてやるのも悪くねぇ」
「いやでも僕にはやるべき目標ってのが……」
おずおずと手を挙げる駿平だが、虎勝に一睨みされる。
「テメェには名前だけ貸すって約束だったなぁ?」
「だって、さっきは力を貸してくれるって……」
「俺の名前だって力の一部だろうが。それでガマンしろ。あとはテメェでやれ」
横暴な物言いだが、理が通っていないわけでもない。
駿平の最低ラインの目標も、虎勝の名前を使って他勢力への牽制を利かせる事だ。それが叶えばあとは自力でも何とか出来るのではないか、と踏んでいる。
何も言えなくなった駿平に、虎勝は満足そうに笑う。
「どーだ、プレイトミルとやら。これで文句はねぇか?」
「大有りです。私たちがあなたたちに助力を請う理由がありません」
「自慢じゃねぇが、俺らはこの学校でも有名な覚醒者だ。実力も保障付き。何らかの力にはなれると思うがな?」
校舎側からもグラウンド側からも一目置かれる虎勝、校舎側の生命線として働いていたいおり、そして校舎を恐怖に塗れさせた通り魔である白マント。これだけビッグネームが揃えばうかつに手を出そうとはしないはず。
少なくとも虎勝を護衛に付けていれば、多少は学校内を動き回りやすくなるはずだ。
しかし、それだけのメリットを提示されても、プレイトミルは難色を示す。
「私の目的も聞かずに、あなたたちはそんな判断をして良いんですか?」
「それだけ早急にリーダー格が必要なんだよ。……だが、教えてくれるなら是非聞きたいね、アンタの目的とやらを」
聞かれて、プレイトミルはゆっくりと指を差す。
指された先にはゴンベエ。
「彼女の魂と記憶を取り戻す事です」
「「えっ」」
今度、驚きの声を上げたのは駿平とゴンベエだった。




