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11 新たな指導者

11 新たな指導者


 その様子を窺っていた職員室の教師たち、職員室の前の生徒たちは唖然としていた。

 たった一人の教師が数百人の生徒を圧倒し、退けたのである。

 静まり返る校舎の中を、反響する足音が一つ。

「ん? なんだ君たち。指示があるまで特別教室で待機と言われてなかったか?」

 職員室の前の廊下に現れたのは、他でもない中堂則正その人。

 彼の言葉に圧倒され、生徒たちは誰も口を開かず、そのまま特別教室へと帰っていった。

 その様子を見送った後、則正は職員室へと入る。

「ただいま戻りました」

「ちゅ、中堂先生……いったい、あなたは……?」

「何かありましたか?」

 事も無げな則正に対し、職員室の面々は最早何も言えなかった。

 彼にとってはアレが普通だったのである。

 水を打ったように静かになる職員室で、若い教師が声を上げた。

「す、すごいじゃないですか、中堂先生! あの能力があれば、グラウンドの王なんかも目じゃないですよ! それどころか、校舎の中の生徒だって従わせられる!」

「先生、グラウンドの生徒たちを王などと呼ばないでいただきたい。彼らが付け上がるだけだ。……それに、私の能力はそれほど万能ではないのです」

 則正は自分の椅子に座り、ネクタイを少し緩めた。

「先程の様子は皆さんもご覧になられたようですが、私の力は確かに広域に渡って私の課したルールを強制出来る。しかし、対象が広範囲に渡れば渡るほど、そのルールが厳しければ厳しいほど、力を溜め込む時間が必要なのです。その上、能力の持続時間が短くなってしまう」

「えっと、学校中ってレベルの広い範囲の大人数を従わせるには、発動するのに長い時間が必要で、効果も長く続かないって事ですか?」

「効果時間は相手の意志の力も関係してきます。相手が私のルールを破りたいと強く思えば思うほど、効果時間が短くなる。恐らく、グラウンドの生徒たちに課したルールも、しばらくすれば効果を失うでしょう。この力は牽制や時間稼ぎには使えても、根本的な解決にはなりません」

 職員室に現れたかすかな希望は泡沫のように消えた。

 しかし、それでも則正は諦めてはいなかった。

「それより、鬼頭虎勝の件はどうなりました? グラウンドの生徒たちが行動を始めたのなら、彼の対処は早くしなければならない。私が取り急ぎ、鬼頭を無力化しに行こうと思うのですが……」

「あ、それならこちらで手を打っておきました」

「……まさか、グラウンド側と結託したのですか!?」

「い、いえ、こちら独自の手法で……しょ、詳細は後ほどお話しますので、鬼頭の件は解決したものと見て良いかと」

「……わかりました、先生方を信用します。では、グラウンドの生徒たちの抑止力についてです。彼らを押し留めるには何か強い力が必要だ。我々には彼らを強く押さえつけるだけの力がない」

 それ故の、今回のグラウンド側による暴動未遂である。則正がいなければ、今頃校舎内にグラウンドの王たちが押し寄せ、覚醒者によって制圧されていたかもしれない。

 それほどまでに校舎側とグラウンド側の力の差は歴然なのである。

「ハッキリ申し上げて、我々はグラウンドの生徒たちになめられている。だから先程のような事件が起きた。これ以上ルールが蔑ろにされれば、グラウンドの生徒たちに感化され、校舎側の生徒たちも付け上がるでしょう」

 則正は知らない事だが、さっきまで職員室の前にたむろしていた生徒たちなどは良い例だ。あの行動こそグラウンド側の生徒たちに感化された行動である。

 これ以上、校舎側の生徒が勢いを増せば、再びグラウンドの王のように無理やりにでも自治権を奪い取って新たな勢力が出来上がるだろう。

 教師たちにとって、これ以上の混乱は避けたい。故に、グラウンドの王たちを押さえつける必要があるのだ。

「で、ですが中堂先生がいれば、グラウンドの生徒たちに対する抑止力になるのでは?」

「先程も申し上げた通り、私の力は万能ではなく、有効期限付きのものです。今はグラウンドの連中もそれを知らないから私を恐れもするでしょう。しかし、現実が知れればグラウンドの生徒どころか校舎側の生徒だって我ら教師を軽んじるでしょう。敵ではない、と。故に、私の力以上に確実性のある抑止力が必要なのです」

「しかし、そんな強い抑止力がどこに……?」

「覚醒者を募ります。校舎内の生徒の中に、潜伏している覚醒者がまだ何人もいるはずだ。彼らや私たちが旗印となり、グラウンド側を牽制しておけば、時間稼ぎは出来る」

「その稼いだ時間で根本解決を……か」

 それを口に出した時、職員室全体が、則正までもが表情を暗くする。

 根本解決とはあの黒い壁の撤去、そして事態の収拾である。

 黒い壁の外側と連絡がつかない今、外側で何か手を打っているかどうかもわからない。ならば自分たちで壁をどうにかしなければならない。

 もし黒い壁を撤去できた場合、覚醒者が、とりわけグラウンドの王たちが黒い壁の外側に出てしまったらどうなってしまうのか、今以上の混乱を世間にばら撒くのではないか、と言うのも考えたが、学校に備蓄されている食糧は限られている。最初から長期戦は出来ない環境なのだ。黒い壁を撤去できなければ、校舎側もグラウンド側もなく、行く行くは全滅である。

 しかし、あの黒い壁が何で出来ているかすらもわからない現状、撤去出来るのかどうかすらも怪しい。あるいは覚醒者の中にはそういう能力があるかもしれないが、可能性はさして高くはないだろう。

 教師たちにとって一番の問題は、状況発生からいつでも黒い壁なのであった。

「……まずは山積された問題の中でも、解決出来そうな物から片付けていきましょう。私は各特別教室を回って生徒たちに呼びかけて覚醒者を探してみます」

「中堂くん」

 職員室を出て行こうとする則正を、校長が呼び止めた。

「なんでしょう?」

「……これからは君が全ての指揮を取りたまえ」

「どういう事です?」

「君がこの校舎にいる全員を導くんだ。責任は私が取る」

 校長の言葉に、職員室内は一瞬ざわついたが、すぐに収まる。

 そして、

「僕も、それがいいと思います」

「私も中堂先生になら任せられる」

「頼りにしてますよ、中堂先生!」

 周りの教師たちにも後押しされ、則正は一つため息をつく。

「わかりました。不肖の身ですが、その大役、担ってみせます」

 職員室が拍手によって埋め尽くされる。

 こうして中堂則正をトップに置いた、新たな校舎側の体制が出来上がったのだった。

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