表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/24

10 法の守り手

10 法の守り手


 階段の頂上にいる人影を、グラウンドの王たちも認識していた。それが中堂則正だと言う事も含めて。

 しかし、それでも怒涛の勢いを止めない。

「中堂ぉぉ! そこをどけぇ!!」

 一番槍の三年男子は覚醒者。能力は定かではないが、階段の見張りであった教師を一撃で跳ね除けたところを見ると、恐らくは腕力の強化とかその辺りではなかろうか。

 その一番槍は則正に記憶にもある顔だ。三年生の中でも不良と呼ばれるグループに属する人間である。つまり則正の嫌悪する存在であるというわけだ。

 則正の眼光が鋭くなる。

「目上に対する敬意が感じられんな。これだからお前ら出来損ないは嫌いなんだ」

 階段を駆け上ってくる生徒に対し、則正はまるでゴミでも見るかのような顔をする。

 そして、凛と一言。

「私以外、暴力を振るう事を禁じる」

「何を言ってやがる! テメェの言う事なんか、誰が聞くかよぉ!!」

 大腕を振りかぶった三年男子は、勢いのままに則正へと殴りかかる。

 だが、その拳は壁にでも阻まれたかのように、途中で勢いを止めた。

「……なっ!?」

 驚いたのは男子の方だった。

 自分の意志とは裏腹に、勝手に拳が止まったのだ。

「テメェ、中堂! 何をしやがったぁ!?」

「猪突猛進と敵にぶつかっていくのは確かに才能だ。しかし馬鹿では生き残れないぞ。君は相手の力量も知らずに突っ込んでいく愚かさを、今知ったのだ」

 則正は自分に向けられた拳に手を当て、ゆっくりと下ろさせる。

 その様子を見た後続の生徒たちも、異様な雰囲気に飲まれて足を止めていた。

「ルールとは、古来からの歴史を鑑み、幾つもの不幸を乗り越え、それを学習し、過ちの再発を防ぐためにあるモノだ。ルールは人の世の中をより良くし、君たちの生活を保護するものである」

「な、なにを……!」

 則正の言葉が理解できず、更には現状を把握しきれない三年男子は、呻くように言う。

 その様子が滑稽だったか、則正は笑みを隠さなかった。

「君は今、愚行を犯した。君はそれを学習しただろう。次からはこうならないように、自分の中でルールを作ったはずだ。私と相対する場合には細心の注意を払わなければ、とね。それもまた、世界をより良くするルールだ」

「ルール、ルールってうるせぇんだよ! うぉら!!」

 三年男子は残った左腕を振りかぶり、則正に拳を向けるが、やはりそれも途中で勢いを止める。

「ぐ……ぬぬ……!」

「理解が遅いのは仕方のない事だ。それは個人の資質に依存するからな。だから私たちのような教師と言う存在が、君たちを導く役目を負っている。この世のルールとは絶対であると君たちに教えるために、私がいるのだ」

 またも、則正は向けられた拳をゆっくりと下ろさせる。

「若い内は愚行を犯す事は良くある。若さゆえの過ちと言う言葉が示すとおりな。だから私たちもある程度、君たち若者の愚行を許容するだけの余裕がある」

 余裕たっぷりの則正は、三年男子の肩を軽く押してやる。

 三年男子は階段を数段下り、悔しげに則正を見据えた。

「中堂、テメェも覚醒者って事かよ」

「いかにも。私の能力は『ルールを課す』能力。君たちにはそれ以上、先に進む事を禁じる、と言うルールを更に課そう」

 則正の能力により、グラウンドの王たちはそれ以上、階段を上る事が出来なかった。

 足を動かそうとしても、全く言う事を聞かないのである。

 則正の操る能力は搦手。相手の行動を制限し、自分の有利を作り出す能力。上手く使えばどんな相手にも勝る力だ。

 単なる腕力強化しか持ち合わせていない三年男子は、則正に先手を取られた時点で負けていたのである。

 そんな負け確定の男子に、則正は笑みを絶やさずに近づく。

「さて、君も知っていると思うが、この世にはメジャーなルール、古くからの慣わし、ことわざと言うものがある」

「な、なんだと?」

「ことわざだよ。現国で習ったりするだろう? 確か、仏の顔も三度まで、と言うのがあったはずだ。あれはわかりやすいルールだよ」

 則正の言葉端に、背筋が凍るような寒気を覚える。

 気圧された男子は階段を一歩退く。

「な、なにをするつもりだ……!?」

「私は目上は敬えと言った。教師に対して敬称もなしとは、看過し得ぬ不敬だな」

 則正は何かするつもりである。三年男子はそれを恐れ、先手を打とうと力むが、脚はこれ以上前に進んではくれないし、腕は既に振り上げることすら叶わない。

 身動きの取れない男子に対して、則正が冷たく言い放つ。

「君にはこの三度、私を呼び捨てにした罰を受けてもらう。……自分の爪を三枚剥がせ」

「……なっ!?」

「なぁに、死ぬほど痛いが死ぬわけじゃない。安心したまえ。……それでは私は用があるので失礼させてもらう」

 踵を返す則正。彼はそれ以上、階段を振り返ることはなかった。

 男子の悲鳴が三度に渡って聞こえる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ