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Radiant Wings  作者: 新夜詩希
7/12

<新たな出会いとチームとしての完成と② 燕理子の場合>

「鈴花のヤツ、何処行っちゃったんだよ~! 一人でズカズカ行くからはぐれちゃったじゃんよ~!」


「はぐれ。はぐれメ○ルは経験値いっぱい。」




 朝日も眩しい葦切学園中学校グラウンド。テクニカルお嬢様に置いてけぼりを喰ったボク・鷹野早羽は、後輩で二年生の烏丸忍と共に学校の敷地内を駆け擦り回っていた。

 この学園、とにかく広い。広すぎる。部活動に力を入れてるって、そりゃー限度ってものがあると思う。何せグラウンドだけで3つある。それも東京ドーム何コ分とか、あんまりイメージの湧かない単位の広大さで。ついでに言うと体育館に至っては5つもある。しかもその全てを余す事無く使ってるってんだから恐れ入る。まあ……今は女子サッカー部が活動してないからその部分だけポッカリ空いてる形だけど。

 その広大な敷地内で鈴花を探し回る事20分。ボクらは普段ボクらが部活で使ってる第一グラウンドから遠く離れた第三グラウンドの東側に来ていた。初めて来たけど、どうやらここは主に陸上部が使用している区画らしい。数十人はいるであろうランニング姿の生徒達が顧問の指導の下、梅雨の鬱陶しさを吹き飛ばすかのような熱気を放ち身体を動かしている。……本当なら、ボク達もこんな所でこんな意味の無い事せずにボールを追いかけてる筈だったんだけどなぁ……。そう思うと少し居たたまれない。

 あ、全然関係ないけど、作者はようやくちゃんとした形で自分の作品にボクっ娘を出せたからって物凄いテンション上がってるんだって。いい歳こいて気持ち悪いよねっ☆ でもその割に筆が進んでないとか矛盾しまくりで頭おかしいよねっ☆


「あんぐりー。ひーいずヴェリーあんぐりー。」


「えっ?」


 っと、思考が脱線してる時に隣の忍がいきなり変な言語を口走る。……や、このコの場合いつもこんなんだけど。このコの精神構造って少し特殊。でも試合じゃ後輩なのに弥生と並んで頼りがいがあってチームに欠かせない選手だ。ボクが選ばれた事ないU-15代表にも選ばれるくらいだし。所謂『天才肌』ってヤツなのかも知れない。……その才能が、正直ちょっとだけ羨ましい。や、ボクだって負けてるつもりはないけど。

 忍の視線の先に目をやる。そこには顧問の大柄な先生に怒られてる女の子がいた。ああ、「あんぐりー。」ってそう言う意味か。Veryだけ発音が無駄にネイティブなのがイラッとするけど、取り敢えず無視。

 陸上部顧問の阿比(あび)センセイは結構有名だ。それもあんまり良い意味じゃない。熱心で悪い先生では決してないのだけど……。


「じゃあ辞めます。短い間でしたがお世話になりました」


「ちょ、ちょっと待ってくれ(つばめ)!!」


 ……あれ? 何か一瞬にして立場が逆転してるっぽい。さっきまで阿比センセイが怒鳴ってたのは分かるんだけど、いまいち現状が把握出来ない。先生を毅然とした態度で突っ撥ねた女の子は礼儀正しく一礼すると、にべもなくその場を立ち去ろうとしている。もう聞く耳も持ってないみたい。


「……ねえ忍、あれってどーゆー事? 今何があったの?」


「単純明快。あの子、阿比の石頭にプッツン。」


 それは流石に単純明快過ぎるというか……まあ、阿比センセイの人となりを考えれば充分に察しがついてしまうのが悲しい所。あのセンセイは根っからの熱血教師というヤツで、言ってみれば猪突猛進、もしくは直情径行と言うべきタイプのセンセイなのだ。それは陸上部の指導においても同じ事で、陸上部の友達に因れば『前時代的』という代物らしい。堅物、石頭とはよく言ったものだ。要するに根性論者。今の新人類には最も忌み嫌われるタイプだろう。あの女の子は正にそれっぽいし。


「忍、あのコを追ってみよう」


「あいあいさー。」


 何となく感じ入るものがあって、ボクは彼女を追ってみる事にした。本当は鈴花を探さなきゃいけないんだけど、あの唯我独尊お嬢様はしばらく放っておいても大丈夫だろう。それよりもあのコ。あのコなら、もしかしたら……。




「ねえ、そこのキミ! ちょっと待って!!」


「はい?」


 陸上部が練習している区画から程良く離れた所で彼女に声を掛ける。振り向いた彼女はセミロングの髪を靡かせて、タオルと共に手にしていた眼鏡を掛けた。一年か二年かは分からないけど、後輩とは思えないほど大人びていて知的な印象を受ける。……そこ、ボクが子供っぽすぎるからとかゆーな。


「初めまして。ですよね? 初対面の先輩方が私に何の御用でしょう?」


「あ……えっと……」


 彼女の冷静な視線に射抜かれて、ちょっとたじろぐ。……声を掛けてみたものの、何て切り出せばいいんだろう? 初対面の人間にいきなり『女子サッカー部に入って!』とか、『ボクたちを助けて!』とか言ったら引かれちゃうかも。いやいや、むしろ先輩権限利用して『貴女、今さっき部活辞めたのでしょう? ならワタクシたちの部活に入りなさい。なあに、悪いようにはしなくってよ。お~っほっほっほ♪』とかやってみても……ってこれじゃ何処の鈴花だよー! こんなのボクには出来ないよー!


「早羽ちゃん。ギャップ萌え狙い?」


「当たり前のように地の文読むなー!」


 一人苦悩していると忍がボクの心を見透かしてツッコミ入れて来た。ああもう、このコといるとこれだから……!


「……用事がないならもう行きますけど?」


 ボクたちの寸劇を呆れた目で眺めていた彼女が、これまた呆れた感じで切り捨てる。……うう、先輩の威厳がズタボロにされて行くよぅ……。


「え……っと、いきなりで失礼だけど、キミ名前は? あ、ボクは鷹野早羽。女子サッカー部の三年生だよ」


「忍。烏丸忍。同じく二年。」


 取り敢えず、気を取り直して自己紹介から始める事に。そう言えば彼女の名前知らないし。


「燕です。『燕 理子(りこ)』と言います。さっきまで陸上部で長距離種目をやっていた一年です」


 そう言って彼女はペコリと礼儀正しくお辞儀する。何処かの暴走お嬢様とは違う路線で折り目のついた育ちの良さそうな女の子。子供っぽいボクとは全然違う。何食べたらこんな風になれるんだろう……。


「えっと……燕さん?」


「好きなように呼んで下さって結構ですよ」


「じゃあ、理子ちゃん……でいいかな? さっき阿比センセイと何を口論してたの? 結構派手に怒鳴られてたみたいだったけど」


 会話の掴みとして、取り敢えずさっきの事を訊いてみた。もともとはさっきの騒動を見て彼女……こほん、理子ちゃんが気になったんだし。忍は口論の内容を知ってたようだけど、ボクはちゃんと聞いてない。


「……陸上部員以外にも見られていたんですか……。別に大した事じゃないんですけど」


 そう言って理子ちゃんは少し目を伏せる。


「陸上部としては割と日常茶飯事なんですけどね、コーチの練習メニューの内容について、少し議論を交わしていまして」


「あー……」


 理子ちゃんは言葉を選んでいるけど、それだけで察してしまった。前述にもある通り、阿比センセイの指導方法……と言うか、陸上哲学はかなりアレだ。身も蓋もない言い方をすれば、脳筋そのもの。昔ならそれでよかったかも知れないが、現代社会ではそうも行かない。理子ちゃん同様、それで陸上部を辞めた生徒も結構いるらしいし。


「私はもっと人間工学に基づいた科学的なトレーニングをするべきだと常々言っていたんです。今の練習法では効率が悪すぎると。走る為に必要な筋肉は足だけじゃない。身体の様々な部分を鍛えなければタイムも伸びない。

 なのにあのアホ……もとい、阿比は二言目にはやれひたすら走れだの水飲むなだの俺の時代はそうやって速くなっただの……アンタの時代がどーとかじゃなくて、今の時代に合わせた効率的な練習が必要なのに! あのノータリンはなーんにも分かっちゃいないんだわ! 大体温暖化の今の気候であんな練習してたり水飲まなかったりしたら熱中症で死ぬってーの!

 ああもう、思い出すだけで腹が立って来た!! よくあんなので教員免許取れたわね!! あんなバカはサバンナにでも行ってチーターと競争でもしてればいいんだわ!! うがーーーーー!!!!」


「………おおう………」


「わんだほー。」


 さっきまでの冷静さは何処へやら、理子ちゃんはキレイな顔と髪を振り乱して際限なくヒートアップして行く。その光景を見て、今度は逆にボクと忍が引いていた。ギャップ萌えとはならなそうな所がご愁傷様。……意外と内に溜め込むタイプのコなのかなぁ……。


「……はっ!? 私ったら初対面の先輩の前で……ご、ごめんなさい」


 一頻り溜まっていたものを吐き出した所為か、急に我に返って礼儀正しさを取り戻す理子ちゃん。うん、こっちはギャップ萌えで行けそう。……いやいやそーじゃなくて。


「なら、女子サッカー部に入らない? ユー来ちゃいなよユー。」


「……え?」


 唐突に、忍がそう切り出した。相手が冷静になった瞬間、狙い澄ましたような一言。ルー某もしくは某ジャニーさん的な余計な語句も混ざってた気はするけど、それは無視。本来はこっちが本命なのだ。このコはサッカーのプレイスタイルでも同じ、こう言う絶妙なタイミングを見計らうのが上手い。


「そ、そうだよ、理子ちゃんボクたちの女子サッカー部に入らない? きっと楽しいと思うよー!」


 遅れて、ボクも便乗する。……うう、またタイミング逃してる……。顔には出さないように必死に努めたけど、心の中では涙がホロリ。三年のプライドとやらはズタボロになったのだ……!


「女子サッカー部……ですか? 私、サッカーなんてやった事ありませんし……それにえっと……最近何かと有名なようですが……」


 理子ちゃんは戸惑いつつも言葉を選んでる。……そりゃそうか、あの一件以来校内では噂の的、色んな方面からの風当たりは強い。いきなりそんな所へ誘われたら、困るのも無理はないよね……。


「で、でも、女子サッカー部はこれから生まれ変わるんだよ。きっと初心者の理子ちゃんでも楽しめると思うよ。新しい監督も来るし、あ、その監督って言うのがね、地元じゃ有名な選手で……」


「……じゃあ」


 勢いに任せて捲し立てるボクを理子ちゃんが遮る。


「さっきから楽しい楽しいって言いますけど、じゃあ先輩にとってサッカーの楽しい所って何処ですか?」


「えっ……?」


 虚をつく一言。同時に核心をつく、一言。確かに物事には動機が不可欠だ。このコは如何にサッカーが楽しいのか、何故ボクはサッカーが好きなのかとその理由を尋ねている。その情熱を示し、自分を納得させてみろと答えを求めている。……うーん、いきなり言葉にしろと言われてもなぁ。何か上手く纏まらない気が……。


「早羽ちゃん。」


 振り返ると忍が頷く。


「早羽ちゃんの思うとーりに口を動かせばいーよ。れっつごー。」


「……うん」


 忍に背中を押されて、気を入れ直す。……全く、これじゃホントにどっちが先輩だか分かんない。




「今まで考えた事なんてなかったけど……きっとね、理屈じゃないんだよ、このサッカーを『好き』って思う気持ちは。そりゃ、練習はキツイしオフサイドとかファールの種類とか多すぎてよく分からない事多いし自分に関係ない所で味方がボール奪われたりしたら何やってんだー!って叫びたくもなるし自分自身のプレーだって納得の行かない事ばっかりだけど、ボールを追って走り回ってるとね、身体がカーッて熱くなって、考えるよりも先に足を伸ばしてて、疲れなんて忘れちゃうんだよ。頭の中を『楽しい』で満たされちゃうんだよ。

 ボク自身がいいプレーをした時も勿論だけど、味方がスゴイプレーをしたら自分の事のように嬉しいんだ。ボクはポジション的にあんまり得点に絡む事は出来ないけど、点が入れば自分が関与してなくてもホントーに嬉しい。試合に勝った時なんてサイコーだね。勿論、自分の活躍で勝てれば尚良いんだろうけど、ボクはまだそこまでの選手じゃないや。えへへ。

 それはきっと、チームのみんながいるからなんだよ。時に競い合い、時に励まし合って、一つになって勝利を目指す。勝って嬉しい時も、負けて悔しい時も、チームみーんなで分かち合うからいいんだと思う。部のみんなが同じ気持ちかは正直分からないけど、ボクはサッカーのそんな所が大好きなんだと思うんだ」




 取り留めの無い感情を、とにかく口に出してみた。嘘偽りない本心を曝け出した。日本語として纏まっているかは正直自信ないけど、これがボクのサッカーに対する想いの一端だった。

 ボクの無駄に長い台詞を静かに聴いていた理子ちゃんは数秒間ボクの顔を覗き込んだ後、「そうですか」と呟いてボクらに背を向けた。


「……そんな熱烈な愛の告白みたいな感情を満面の笑顔で話されたら、こっちが恥ずかしくなっちゃいますよ。……でも想いは充分に伝わりました。いずれにしても、届を提出して正式に退部してからの話になりますので、考える時間も含めて返事はもう少し待って下さい」


 そう言うと理子ちゃんはもう一度振り返り、


「ありがとうございました、早羽ちゃん先輩……!」


 弾けるような笑顔で、ボクにお礼を言って校舎に駆け出した。


「――――」


 その笑顔に、ボクは見惚れていたのかも知れない。それくらい魅力的な笑顔だった。……いやいや、ボクは『ボク』なんて言ってるけど、そっちの気はないからね。そんなのはこの作品に1人いれば充分だし。……今舌打ちしたヤツ、正直に手を挙げて廊下に立ってなさい。


「……これで良かったのかな?」


「ぐっじょぶ。やるじゃん早羽ちゃん。」


「ぐっ……アンタが後輩のクセに早羽ちゃんって呼ぶから理子ちゃんが真似しちゃったんでしょーがー!!」


「『ボクはまだそこまでの選手じゃないや。えへへ』。早羽ちゃん可愛すぎんだろJK。」


「うわああああやめてええええええええ!!!」




 梅雨の晴れ間。絶望を噛み締めた翌朝は、新しい出会いと自分の思いを再確認した朝だった。ボクはきっと、この気持ちを忘れないだろう―――――





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