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Radiant Wings  作者: 新夜詩希
3/12

<兄の過去と再生に向けた決心と>

「……経緯は分かった。モンペとは恐ろしいモノだな……。ネットの中だけの話かと思ってたが、まさか実在するとは……うーん……」




 泣き止んだ愛歌と舞歌から事の顛末をやっとこさ聞き出した後で、ぽつりとオレが漏らす。うーん……としか言いようがない。この地元でサッカーやってるヤツなら葦切と言えば名門、名門と言えば葦切と当然の認識だった。それがたった一人のオバサンのワガママで廃部同然に追い込まれてしまうなんて……。世の中ってのは分からんものだ。

 あ、今更だが、ウチの愛ちゃんと舞ちゃんもサッカーをやっている。オレの影響らしい。当然件の葦切の選手で、この辺はオレとは違い攻撃的な選手。

 ……とは言え、選手層の厚い葦切では試合に出たり出なかったりとスタメンをキープ出来ていた訳ではないっぽいが。何か体格もそうだけどプレースタイルも被り気味だった所為で、交互に使われていた感じだったようだ。

 この二人の場合、双子という前提も相まっていつも一緒に練習してたんだからコンビプレイはツーカーの領域だった筈。絶対同時起用した方が効果的にやれてた気がするんだけどなぁ。懸巣(かけす)監督の事は尊敬してたし標榜してたサッカーも好きだったけど、この辺だけは疑問だった。


「どうしよう、アスにーさま……。私達、サッカー出来なくなっちゃうよぉ……」


「アスにーちゃん……あたし達、どうすればいいのぉ……?」


 再び涙を浮かべ、縋り付いて来る二人。可愛い。不謹慎だけどとても可愛い。贔屓目に見ても、設定云々関係なくこの二人は充分に美少女のクラスに認定しても何ら問題はないと思っている。……はいはい、分かってますよーだ。兄バカって言うんでしょ。上等だコラ! 気持ち悪いだの変態だの言うヤツぁ前出ろや! 妹可愛がって何がダメなんじゃあああぁぁぁぁ!!!

 ……などと心の声で読者様に反論しつつ、再び縋り付いて来る二人の頭を撫でる。……とは言ってもなぁ、現役ですらないただの大学生である所のこのオレに、一体何が出来ると言うのか……。


 ……そう、現役、ですらない。高校時代本格派ボランチとしてそれなりに名を馳せ、地区選抜メンバーにも選ばれたオレだったが、今はボールを蹴っていない。いや、もう『蹴られない』。オレの膝は、もう激しいスポーツに耐えられない程に壊れてしまったのだから。

 試合中に相手に削られただとか、オーバーワークによる疲労蓄積だとか、そんな理由……ならカッコ良かったんだがなぁ……。実際はサッカーなんぞ何ら関係ない、友達に借りた原付を乗り回していたらハンドル操作を誤って、硬いアスファルト道路に凄まじい勢いでプロレス選手もかくやと言うジャンピングニーをかましてしまっただけの事。

 そんで、めでたく右膝脛骨粉砕。治療とリハビリに一年以上を要したが、余りに粉々だった為もう元には戻らないらしい。今の大学にはスポーツ推薦で進学したが、サッカーが出来なくなり入ってすぐに退部しちまった為、学内では非常に肩身の狭い思いを強いられているという訳だ。ほーら、ただのバカだろ? 笑えよ。笑っちまえよ。オレ自身だって自分のバカさ加減に呆れ返ってる所だ。遠慮なんざいらねーぞ? さあ皆さんご一緒に。あっはっはっはっは(泣)。

 ……などと自虐的なネタはさて置き。とまあこんな感じでオレ自身もサッカーを断念せざるを得なかった訳だが……今は正直、オレの事なんざどうでもいい。そのババアや試合に出れなかったコがどんなヤツなのかは知らないけど、目の前でオレの妹達が泣いている。好きな事、大事なものが奪われた、壊されたと泣いている。やり場のない怒りに、湧き上がる悲しみに、理不尽な現実に、涙を流してその顔を曇らせている。そんな顔は見たくない。こいつらには笑っていて欲しいんだ。兄として、家族として、こいつらの笑顔を取り戻し、もう二度と失くさないように守ってやりたいと心の底から思い知る。


「それじゃあ……お前達はどうしたい? 復讐でもするか?」


 頭を撫でる手を止めず、出来るだけ優しく二人に問い掛ける。


「「………………」」


 答えはNO。二人とも頭をぶんぶん振って否定する。部を壊した連中に復讐したいのは山々だが、二人がそれを望んでいないのならオレの出る幕はない。続いて次の質問。


「それじゃあ………サッカーを辞めるか?」


「「それだけは絶対イヤ!!」」


 即答。さっきまでの不安に押し潰されそうだった弱々しさは微塵も感じられない、力強い声。二人が全く同じタイミング、全く同じ台詞で声を荒げた。それだけで、二人がどれ程サッカーに対して真剣なのか、サッカーが好きなのかが見て取れる。……まあ、流石オレの妹達だわな。


「ふむ、サッカー続けたいのは分かったが……部活で出来ないとなると、地域のサッカーチームに入るとか、女子サッカー部がある他の学校に転校するとか、そういう選択肢になると思うんだけど」


「えっと……サッカーは大好きだけど……それだとまた何か違うというか……」


「う……うん……ママやパパにも迷惑掛けちゃうかもだし……」


 二人で顔を見合わせながら、探り探りで返答する。まあ答えにはなってないんだけど。そりゃあ幾らサッカーが好きだからっていきなり知らない所へ入れと言われたって難しいだろう。そこにどんなチームメイトや監督がいるとも分からない。指導者の数だけサッカーはある。それが自分達に合うのかなんてやってみなくちゃ分からない。それで淘汰される選手の何と多い事か。

 現実問題として、二人が言うように家族にも少なからず影響は出るだろう。オレん家は正直裕福とは言い難いし。二人が二の足を踏む気持ちは分かりすぎる程に分かる。つーても二人が望むならオヤジもオフクロも、最大限協力はするだろうがな。


「じゃあ、お前達の理想的な展開は何だ?」


 ある程度、返答の予想が着く質問。……まあこれはむしろオレの為の質問というか、オレが腹括る為に訊いた質問。


「え……っと……辞めちゃった皆が帰って来て、カントクも復帰して……」


「前みたいに皆で楽しくサッカーが出来るようになる! あ、でも、もうちょっと試合に出れるようになるといいなー、なんて……」


「うんうんっ、私もマイちゃんともっと一緒にプレーしたいなぁ。あんまり一緒に試合出た事ってないんだもん」


「そうだよねー。あたしもアイちゃんとだったら何でも出来る気がするのにぃ」


「………………」


 ………うん、やっぱりこいつらならそう言うと思った。つまり二人が望んでいるのはどんな形でもいいからサッカーを続ける事じゃなくて、『葦切サッカー部を復活させたい』のだという事。あのサッカー部が自分達の居場所だと、頭ではなく本能で分かっているのだろう。あの場所じゃなきゃサッカーを続ける意味なんてないのだと、他人から言われなくても分かりきっているのだろう。


「そうか……。お前達、葦切サッカー部は好きか?」


「「うん!!」」


 一片の曇りもない、最高の笑顔で二人はそう答えた。……うん、オレが見たかったのはこの笑顔。これを失くしてしまったら、愛歌と舞歌じゃない。これを守る為ならオレは何だってやってやる。


「……よし、お前達の気持ちは分かった」


 二人の頭から手を離し、座り直してキチンと向き合う。オレの決意が伝わったのか、二人も真摯な表情でオレに向かい合う。……これを口に出してしまったら、もう後には引けない。ただ妹達が可哀想だからなんて軽い気持ちで言い出す訳では決してないが、相手はあの名門・葦切女子サッカー部だ。果たしてオレなんかがどれだけの役に立てるのか。未知への挑戦に胸躍るのと、不安・プレッシャーが半々。しかしそれを凌駕して余りある決心を乗せて、オレはゆっくりと言葉を紡ぎ出す。




「オレが……葦切女子サッカー部の新しい監督になってやる―――――」





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