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零の運命(さだめ)  作者: 高空 日置
運命の歯車
3/3

決意の容

やっと二章です。まさか待っていてくれた方、大変遅くなりました・・・すいません。


文法などまったく成長せず、なんで小説書いてんだろう、なんて思うことも。


そしてある時気づいたんです。そうだ!これはただの自己満足の塊なんだ!!と。

こうなったら、自分の好きなように書こう、と開き直りました。


まだまだ未熟ですが、これからもお付き合いの程、よろしくお願いします。


翌日の土曜日。岸田康次は自室のベッドの上で寝転んでいた。彼は休日はいつも、自室でゲームをしたり本を読んだりしているのだが──今は、いつもの休日のような軽やかな気分ではなかった。

頭の中では、ここ数日の間に脳に叩き込まれた事々が渦巻いているのだ。


『あるの、アルスメナスに対抗する為の組織がね』


昨日、菘の家で灯が言っていたあの言葉。その事実は、康次にとって、確かに心強いものだった。そして灯から、その組織に加わらないかと康次は誘われたのだった。

「…いきなりすぎるよなぁ…」

薄暗い部屋のベッドの上で、独りぼやく。確かに心強くはあるのだが、いざ加わるとなると少々気後れしてしまう。そう簡単には決められそうに無い。

そして、それ以外にもうひとつ、康次を悩ませていることがあった。


(菘、大丈夫なんだろうな)

もしも休日に無闇に外を出歩いて、また黒服の連中に襲われでもしたら。しかし、彼女の連絡先を知らぬ康次は、何も行動を起こすことができずにいた。いっそ家に訪ねてみるか。ああ道忘れた・・・。

そんな風に、考え始めたらキリが無く、ぐるぐると悩み続けていた。


ふと、時計を見る。ちょうど昼を回ったころだった。

(…出かけるか)

晴れない気持ちを紛らわすために、と康次は起き上がり、部屋を出る。もし出かけているなら、運良く菘と出会えないだろうか、と、そんな期待を抱いていた。もちろん彼女が家に居るのが一番いいのだが。一階へ降りてリビングに入ると、カチャカチャと食器を洗う音が響いてきた。

「母さん、俺ちょっと出かけてくるわ」

そう声をかけると、母さんと呼ばれた女性が顔を上げる。

「あら康次。何処に行くの?」

ふんわりとした長い髪を後ろでまとめ、40代にしては若く見える彼女は、康次の母親である。

「気分転換がてら、本でも買ってくるよ」

「そう、わかったわ。あ、ついでに詰め替え用シャンプー買ってきてくれない?」

「わかった。行ってくる」

リビングを出て靴を履く。玄関を出ると、眩しい日光が康次の網膜を刺激し、康次は顔をしかめた。


まだ5月だというのに、外はじわじわと汗があふれ出てくるほどに暑かった。この調子では、夏にどれだけの地獄が待っているのだろう、と、康次はため息をつく。しかし、気分転換のために外に出てきたのに、ここで滅入ってしまっては元も子もないので、そこで思考を停止し、暑さから逃げるように康次はそそくさと本屋へ向かった。



「あれ?康次?」

「ん?」

本屋で雑誌を立ち読みしていると、後ろから聞きなれた声で名前を呼ばれた。康次が振り返ると、目の前には髪を横に結んである頭がこちらを伺うようにぴょこぴょこと跳ねていた。

「あー、やっぱり康次だー。なにしてんのー?」

「美咲か。本を買いに来たんだよ」

声をかけてきたのは、康次の向かい側の家に住んでいる幼馴染の上星美咲かみほしみさきだった。丸っこい瞳にやや子供っぽさの残る顔。少し短めの髪を片方だけ縛っており、彼女が動くとそれに合わせてぴょこぴょこと動いている。そして小柄な体格は、彼女の可愛らしさをより一層際立たせるようである。

美咲は自分の姿が康次に捉えられたとわかると、飛び跳ねるのをやめ、嬉しそうに笑っている。低身長であるが故に康次が真正面を向いても頭すら映らないので、美咲が飛び跳ねていなかったら何処にいるかわからなかったかもしれない。

「お前はどうしたんだ?」

「さっき友達と買い物行って、欲しい本があったから先に別れたんだー」

「そっか」

康次は携帯で時間を確認する。12:32と書かれた画面を見ながら、康次は少し考え─

「これからそこまで行くけど、お前も来るか?」

─とりあえず、美咲を誘って見ることにした。向かいにあるデパートを指差しながらそう言うと、美咲は目を輝かせて、

「え?いいの!?行く行く!!!」

結んだ髪をピョコピョコと弾ませながら無邪気に喜ぶ。たかが買い物でここまで喜べるなんて羨ましい性格だな、なんて康次は思う。そして、そんな無邪気な彼女を見て和んでいる自分に気づき、苦笑する。

「それじゃあ俺は会計済ませてくるから、先に出てていいぞ」

「おっけー♪」

美咲は親指と人差し指で丸を作りながら、とたとたと店を出て行く。康次はレジで会計を済ませ、そのまま美咲を追った。


二人で店の中に入り、シャンプーを探す。すると向こう側にシャンプーの陳列する棚を見つけ、そちらへ移動する。そして棚の前に立った時、彼はふと思った。

「・・・あれ、ウチって何のシャンプー使ってたっけ」

康次はシャンプーの銘柄をいちいち記憶しておくような性格ではない・・・とはいえ、彼は買わなきゃならないシャンプーの銘柄が分からないなんて間抜けな状況立たされていた。渋々母に電話で確認しようとすると、横からピョコんと顔を出す人物がいた。

「もしかして、買うシャンプーがどれかわからなかったり?」

「ん・・・まあそんなところだ・・・けど」

「もー、自分の家のやつくらい覚えておきなよー。はい、これだよ」

美咲は苦笑しながら黄色い文字で名前の書かれたシャンプーを康次に手渡してくる。

「おお、ありがとう美咲──」

と、シャンプーを受け取った直後、ひとつの疑問が康次の頭に浮かぶ。

「なあ・・・、なんでウチのシャンプーの銘柄なんて知ってるんだ?」

自分の家の物ならまだしも、彼女は今すんなりと康次の家のシャンプーを手にとった。なぜ彼女は、彼の家のシャンプーの銘柄を知っていたのだろうか。康次が尋ねると、美咲は誇らしげに胸を張って言う。

「昔はよく康次の家でお風呂入ったりしたじゃん?あの頃から康次ん家のシャンプーは覚えていたのでーす♪それに、この前康次ん家に行った時に、洗面所にこのシャンプーが置いてあったのを見て、変わってないんだなーって!」

なるほど、流石は幼馴染だ。と彼は感心した。まさか昔に見ていたシャンプーの銘柄を覚えているなんて思いもよらなかった。・・・まあ、彼女が昔うちで風呂に入っていたことは、記憶喪失の彼にはわからなかったが。もしかして、一緒に入っていた時期もあったりしたのだろうか・・・。

「康次?」

「ん!?な、なんだ?」

美咲の声により、康次の思考は中断される。なんだか少し、恥ずかしいことを考えていた気がして、康次は狼狽えてしまう。

「ねね、ご飯食べに行こうよ!お腹すいちゃった」

しかしそんな彼に気づいていないのか、美咲はひまわりのように輝かしい笑顔を康次に向けて言ってくる。康次はそんな彼女を見ると、気恥ずかしく思っていた自分がバカに思えてきて、ため息をもらしながら苦笑する。

「そうだな。んじゃ、付き合ってくれたお礼に好きなものおごってやるよ」

「ホント!?じゃあじゃあ、えっとね、ジャンボチョコパフェ食べたい!!」

「お、おう、もちろんいいぞ」

「やったぁ♪」

にぱぁ、と顔を緩ませる美咲。そんな彼女を見ていると、本当にこちらまで幸せな気分になってくるから不思議だ。そして考えてみれば、自分はこの笑顔によって支えられてきたのだったと思う。この笑顔なしで、果たして自分はここまでやってこれただろうか。・・・いや、きっと無理だっただろう。康次は、そんな美咲に心から感謝の念を抱いていた。


だから。


ジャンボチョコパフェ(680円)、チーズハンバーグセット(890円)、ドリンクバー(230円)の出費なんて、どうってことない。軽くなった財布を見つめて目尻に涙を浮かべながら、康次はそう自分に言い聞かせたのだった。


「さて、シャンプー買ったし、飯も食ったし、これからどーすっかなー」

早くも目的を果たした康次は、先程買った詰替用のシャンプーの入ったレジ袋を揺らしながらぼやいた。すると、隣を歩く美咲が楽しそうに提案する。

「じゃあさじゃあさ!ゲーセン行こーよ!」

「んー、ゲーセンかー。よし、行ってみっか」

そういえば、最近ゲームセンターに行っていなかったな、と彼はふと思う。去年は友達と何度も足を運んだ記憶があるが、今年はまだ一度も来たことがなかったように思える。更に気分を変えるにはうってつけの場所だ、康次は首を縦に振った。

「久しぶりにさ、アレやろうよ、アレ!!」

「アレ?」

康次は聞き返すが、その声は彼の手を引っ張って走り出した美咲の耳に届くことはなかった。

ゲームセンターに着くと、彼女は一直線にひとつのゲーム機にたどり着く。そのゲームは、流れてくる譜面にあわせて、筐体に取り付けられた太鼓を叩く、[太鼓マスター]と呼ばれる有名なゲームだった。

「よく中学の時はこれで勝負したじゃん!久しぶりにやろうよ!」

「・・・おお、やるか!」

・・・中学時代の記憶は彼には存在しないため、一瞬戸惑ってしまう康次。しかし、美咲とゲームを楽しむという目的を果たすことにそんなことは関係ない。今はこのゲームを目一杯楽しみたいのだ。

康次と美咲は百円玉を筐体に投入し、ゲームの操作を続けていく。

「難易度はもちろん[あくま]だよねー♪」

「おう・・・ん?」

目の前に映し出されていた画面には、[かんたん][ふつう][むずかしい][あくま]の4つが記されている。どう見ても[あくま]は最高難易度だ。このゲームは、中学時代の記憶のない彼にとっては初見も同然。更に、先ほど言っていた美咲の言葉・・・。

『よく中学の時はこれで勝負したじゃん!』

『難易度はもちろん[あくま]だよねー♪』

この言葉から、中学時代の康次は、よくこの最高難易度である[あくま]をプレイし、美咲と競い合っていたと推測できる。

「・・・」

これは不味いことになった、と康次は悟る。初見同然の康次が、最高難易度で競える程の実力を持っている美咲とこのゲームで遊ばなければならないのだ。それはつまり、彼は記憶を失う前の実力など持っていないわけで、そんな状態で彼女とプレイしようものなら、確実に違和感を抱かれるだろう。

記憶喪失であることを美咲に知られるわけにはいけない。が、この現状から逃げられるはずもなく──。

「よーし!!今日は勝つぞーっ!」

「・・・っ!」

既に目の前の画面には、右から流れ出る譜面が表示されていた。

「ああ!こうなりゃ──」

──ヤケだ!

康次は必死に腕を動かす。画面を凝視し、曲のリズムに合わせて筐体の太鼓を叩く。

「・・・あれ?」

と、そこで康次はあることに気づく。

簡単──なのだ。プレイが。いや、画面に映し出されている譜面は目が回るようなものなのだが。しかし康次は、それを容易に叩けてしまっている。その感覚はまるで──腕が勝手に動いているかのような感覚だった。いったい何がどうなっているんだろうか。

一曲目が終わり、プレイの結果が画面に映される。スコアは、彼は美咲に10000点差をつけて勝利したようだった。

「あーもうっ!!また勝てなかったぁ!」

美咲が悔しそうに嘆く。そんな姿を見ながら、康次は冷静に考えた。なぜ自分はあのような高難易度のゲームをいとも容易くクリアしてしまったのだろうか。

「まさか・・・」

身体が覚えていたのだろうか。身体で覚えてしまうほどやりこんだとでも言うのだろうか、過去の自分は。だとすれば自分は過去、どれだけの金をこのゲームにつぎ込んでいたのだろう、と康次は思う。

その後2曲プレイし、結果は康次2勝美咲1勝という結果に終わった。

「むー・・・なんであんなに高得点とれるのさ・・・」

「あはは・・・なんでだろうな」

「次は絶っっっ対に勝ってやるぅ」

負けた美咲はへそを曲げてしまったらしく、先程からプリプリと文句をタレていた。そんな姿がなんだか子供っぽく見えて、またも癒される康次がいる。そんな感じで、ゲームセンターの中をぶらついていると・・・

「・・・ん?」

ふと、UFOキャッチャーの前に一人の少女を見つける。小さい華奢な体にリュックを背負ってヘッドホンを装着した彼女は、UFOキャッチャーの中身を物欲しそうに見つめていた。そして、ポケットの中から百円玉を取り出し、機械の中に投入する。彼女が操作したアームが中のぬいぐるみに腕を回し、それを見た彼女はガッツポーズをする。が、いざアームが上昇するとぬいぐるみはアームの腕をすり抜け、ころころと転がり落とす穴のギリギリ手前で静止してしまった。それと同時に少女のガッツポーズの腕も緩む。

そんな少女の姿に彼は見覚えがあった。少女は制服のポケットに手を突っ込み百円玉を取り出そうとするが、しばらくもぞもぞと動かしたあと、何も握っていない手をポケットから出した。どうやら百円玉を切らしてしまったようだ。

康次は彼女の横へ歩み寄り、代わりに百円玉を投入する。アームを操作し、腕をぬいぐるみに引っ掛け、見事穴に落とすことに成功した。取出口からぬいぐるみをとり、少女に手渡してやる。

「よぉ、天利あまり。久しぶりだな」

「康次先輩・・・?」



空はすっかり赤く染まり、向こうの電柱にはカラスが何羽か止まっていて、まるで絵に書いたように綺麗な夕方の風景が広がっていた。康次、美咲、天利の3人は、そんな空の下を歩いていた。

「ありがとうございます先輩、ぬいぐるみ」

「いや、気にすんなって。よかったな」

「はい」

康次の隣を歩く少女・菅野天利すがのあまりは、口元を緩めてぬいぐるみを抱えていた。ヘッドホンを首にかけ、肩に触れない程度の黒髪をした彼女は、康次と同じ高校の後輩であり、現在1年生である。しかし、どうやら中学生の頃から康次・美咲とは面識があったようで(記憶をなくした彼はもちろんそんなことは知らなかった)高校でも度々会話をするほどの中であった。

「いや~天利ちゃん、ホント久しぶりだねー!相変わらずクール~♪」

「そうですか?」

この天利という少女は、表情の変化があまり見られない少女で、なんとなく感情の変化は読み取れるのだが、それがあまり表情に現れないのだ。それ故に、とてもクールに見えてしまう。

「お前、友達できたか?」

「入学したての頃はついヘッドホンを付ける癖が出ちゃって出遅れましたけど、まぁ今はなんとか」

「あれほどヘッドホンは付けないように注意してやったのに」

「はは・・・スイマセン」

天利は力なく笑う。顔も・・・まぁわかる程度には笑っていた。

「それじゃ、私こっちなんで。また」

「おう、じゃあな」

「天利ちゃんまたね~♪」

「さよなら美咲先輩。・・・あ、康次先輩」

「ん?」

天利は康次に向き直ると、真剣な眼差しを向けてくる。

「物事は、慎重に考えて決めてくださいね。私たちは、結論を急いだりしませんから」

「・・・え?」

いきなり天利から掛けられた意味深な言葉に康次は理解が追いつかずに聞き返してしまう。が、天利はいたずらっぽく仄かな笑みを浮かべるだけで、そのまま去ってしまった。

「何なんだ?」

「康次、どーゆーこと?」

「さぁ・・・」

康次と美咲は揃って首をかしげる。と、唐突に──

「うわああああっ!?!?」

──首筋に何か冷たいものがかかり、康次は絶叫する。

慌てて後ろを振り返ってみると、なんだか先日も見たようないたずらっぽい顔で立っている少女がいた。

「す、すずな!?」

「よ、馬鹿男」

彼の後ろに立っていたのは、今日一日心配をかけさせた人物、川崎菘かわさきすずなだった

「あぁ!すずなんやっほーっ♪」

「やっほー美咲♪」

美咲は菘に抱きつき、二人は嬉しそうに飛んだり跳ねたりしている。まったく、一日心配させておいてこいつは…と溜め息をつく康次。

「お前、ぶらぶら出歩いてたら危ないんじゃないのか?」

「いいのよ、今日は灯先輩と一緒だったから」

「そうだったのか、それならいいけど」

「なによ、私一人じゃ不安ってわけ?」

「そりゃ不安に決まってるだろうが」

「悪いけど、アンタみたいな軟弱者じゃないわよ私は。っと、それより康次」

誰が軟弱者だ、と言い返そうとするが、この言葉は彼女が続けた言葉によって発せられることはなかった。彼女は真剣な眼差しをこちらに向け、言ってくる。

「明後日の放課後、予定を空けておいて。必ずね」

いかがでしたでしょうか、第二章。


もっと長く書けるようになりたいです。頑張ります、応援してください!


さて、次の第三章では更に新キャラが登場します。ちゃんと康次たちも活躍しますので、楽しみに・・・しててくれたら幸いです。


あ、Twitterのアカウントは@yuzha4328なので、是非フォローしてください!


それでは、まだまだ大変未熟ではございますが、よろしければ今後もお付き合いの程よろしくお願いします。


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