第二話
もし、戦争にあなたの国が巻き込まれたとする。
もし、戦争の行く末を知る事が出来たなら。
勝つ事が出来るはずだ。
戦争だろうと賭け事だろうと何だろうと、行く末が分かっていたら、未来が分かっていたら。
あなたの有利な方向に未来を進める事が出来る。
(予言師か・・・・)
シーオドアは、また考え事をしながら市場を歩く。
本来ならば活気溢れていたこの場所は、今は人通りも少なく、看板も壊れていたりと最悪な有様だった。
「・・・そこのあなた」
話しかけられて、予言師について考えていたシーオドアは顔を上げた。
老人だった。
ボロボロの服を纏い、フードを深く被っている。その為、顔がよく見えなかった。
フードから歯が数本欠けている口が見えた。
どこからどう見てもお伽噺に出てくる怪しい老人にしか見えない。
そんな事を考えながら、シーオドアは口を開いた。
「あなたは?」
「夢の世界というものを知っておろうか」
しわがれた低い声で老人が聞いてきた。
「いわゆる、夢界というものじゃ」
夢界なんていわれても分かるわけがない。
「何の事だか」
「ふぅむ・・・」
老人はしばらく考えていたが、やがて口を開いた。
「マージュリーヌが住み着いている場所の事じゃ。じゃが、分からんじゃろう。お主にこれを差し上げるから、マージュリーヌの所へ尋ねてみなさい」
普段、平民にこんな事を言われていたらとても苛立っただろうが、今、シーオドアは落ち着いていた。
そして老人は古びた1枚の紙を取り出して、言った。
「ほれ」
慌てて受け取る。
紙だと思ったら、薄い布だった。インクで何か書いてある。
そして、無言で立ち去る。数歩歩いて後ろを振り返ると、誰もいなかった。
この辺りには身を隠せる場所などないのだが、シーオドアは何も感じなかった。
自宅に戻る。
ご苦労な事に、衛兵が大きな門の前で見張っていた。
「お帰りなさいませ」
「・・・」
無言で通り過ぎ、急いで自分の部屋に戻る。
途中、無邪気な子供の声が聞こえた気がした。
室内に入ると、いつもと全く変わらない風景が彼を迎えていた。
豪華な天蓋付のベッドに、広い仕事机。仕事机には、書類が山のように積まれていた。
それらの書類を脇に除け、布を広げる。
布は黄ばんでいた。
偽物だとは分かっていたが、もしかしたら予言師について何か書いてあるかもしれない、という淡い期待を抱き、目を凝らして見つめる。
ようやく、上の方に何か書いてあるのか分かった。
<夢 の森>